なぜ、組織の中でイノベーションを起こすのは難しいのか? 

味の素 水澤氏が語る イノベーションを創出し続ける組織作りの要諦 1
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本記事は、2016年2月18日に行われた人材育成担当者様向けセミナー「味の素 水澤氏が語る イノベーションを創出し続ける組織作りの要諦」の内容を書き起こしたものです(全4回)

井上陽介氏(以下、敬称略)
: 本日は、まず私のほうから10分ほどイノベーションに関する問題の整理ということでお話をさせていただきつつ、そのあと水澤様のご紹介をさせていただきたい。水澤さんには昨年、グロービスが東京で開催した別のカンファレンスにもご登壇いただいた。で、そのときのお話が大変好評であったため、「ぜひ関西でも」ということで今回もお時間をいただいた次第だ。

グロービスのクライアントはおよそ1200社。私どもは、それらの企業様から多様な要望をいただいて人財育成プログラム等を開発・ご提供しているが、ここ3年ほどはイノベーションに関するご要望が増えてきた。2つご紹介すると、まずは「大胆に変わってイノベーションを起こさないと先がないのは分かっているのに、社内で出てくる企画はどれも現状の延長線上にあるものばかり」という声。あるいは、「今までのビジネスモデルに合わせた働き方しか知らないんだ」と。「だからイノベーションを起こすことのできる社員がいない」という声もいただいている。そうした声も踏まえてどのように人材を育成すべきかという問題意識を持って、イノベーションを起こすためのプログラム等を開発・ご提供させていただいている。

では、そもそも私たちはイノベーションをどう捉えるべきなのか。2011年、人材に関するリサーチで有名な米DDI社が世界でおよそ1万5000人のビジネルリーダーにアンケートを行ったところ、「リーダーに必要とされながら最も欠けている要素」として最も多くの票を集めたのは、「クリエイティビティとイノベーションを育てるスキル」だった。私どものクライアントには日本企業が多いが、そうした企業様に伺ってみても同様にイノベーション関連で大きな問題意識をお持ちだ。つまり、イノベーションは世界的なテーマなのだと思う。それほど難しく、かつ重要なテーマだと言える。

その背景は何か。大きなインパクトを及ぼしているのはテクノロジーだ。10年ほど前に出たドラッカーの『プロフェッショナルの条件』(ダイヤモンド社)という本を読まれた方は多いかもしれない。そのなかでドラッカーは、「ECが生んだ心理的な地理によって距離は消えた。もはや世界には1つの経済・市場しかない。競争はもはやローカルたり得ないんだ」と。「境界はなく、あらゆる企業がグローバル化しなければならない」という言葉を残している。

テクノロジーの進化によって、徐々に国という単位を超えたビジネスが行われるようになる。その変化が我々の根底に影響を及ぼしているのだ。デジタルテクノロジーの発展などによって、今はさまざまな境界線が崩壊する時代になってきた。そこで従来のやり方や発想をしていてはイノベーションを起こせないようになってきている。そうした背景が根底にあるからこそ、日本企業の皆様からも世界のリーダーからも、「どのようにイノベーションを起こせばいいのか」という議論や悩みが出ているのだと思う。

それともう1つ。戦略論で著名なロンドン・ビジネス・スクールのゲイリー・ハメル教授が3年ほど前、『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』で語っていたことに私は衝撃を受けた。それは、「日本企業は並外れた職業倫理や熱心で継続的な改善によって世界の頂点に立ってきたが、それが新しい時代に適用しなくなっている。硬直したヒエラルキーや中央集権化、あるいは過剰管理といったものが競争力を脅かすものになってきた」と。「産業が大量生産や効率化を求めた時代ならそれは有利に働いたのだろうが、時代が変わってきている」という表現をしていた。

恐らく、皆様の会社でも従来のマネジメント手法について、たとえば「もっと柔軟な働き方にできないか」とか、「より少量多品種の生産体制に変えていかなければいけない」といった議論は起きていると思う。私はこのハメル教授のメッセージを読んだ3年前、なんというか、ある種の腹立たしさも感じた。ハメル教授は日本企業に対して、「時代から取り残されている」という厳しい指摘をしていたわけだ。

では、我々はどんな視点を持たなければいけないのか。そこでイノベーションの全体像を押さえる必要がある。1つはよく知られる「プロセス・イノベーション」だ。トヨタ生産方式のようにプロセスを磨き込んでいく。これは日本人の強みが生かされる領域だと思う。プロセス・イノベーションとともに、新たなプロダクトやサービスをつくりだす「プロダクト・イノベーション」も相まって、日本企業はかつてグローバルに勝ってきた。

しかし、イノベーションにはもう1段上がある。それが、ここ数年でよく言われるようになった「ビジネスモデル・イノベーション」だ。プロダクトだけでなくビジネスモデル自体をつくり、変革していくことが求められるようになってきた。ソニーが強かった市場でアップルが起こしたのは典型的なビジネスモデル・イノベーションだった。iPodやiPhoneのようなデバイスと、それらをサポートするiTunesのようなサービスを組み合わせ、新たなビジネスモデルをつくっていったわけだ。一方で、日本企業はそうした変化にうまく適応できなかった。

また、ゲイリー・ハメルはさらに1段上のイノベーションがあるとしている。それはマネジメント、そして経営のあり方を革新すること。こうしたイノベーションの難易度は上の次元に行けば行くほど高くなるというのが彼の解釈になる。では、日本企業はどうかというと、プロダクトとプロセスのイノベーションは得意だけれども、その上のビジネスモデルとマネジメントのイノベーションが不得意という問題提起をしたい。皆様の会社はどうだろうか。どのレイヤーでイノベーションを起こすことができているのかを考えるのも、頭の整理になるのではないかと思う。

では、マネジメント・イノベーションとは何か。シンプルに言うと働く方法を新しくすることだ。環境変化のスピードが速くなった現在、どの産業でもイノベーションを起こすのは難しくなってきた。その背景には幅広いプレイヤーを巻き込む必要性が出てきたという変化がある。だからこそ、組織はよりオープンでなければならないし、より多様な仲間の知恵を活用しなければいけない。スピード、オープンネス、そしてダイバーシティがマネジメント・イノベーションを起こすヒントになることを、まずはお話しさせていただきたい。

水澤さんも研究所での変革をスタートさせながら多様な知恵を活用し、かつ1人1人の意識を外に向けてオープンにするといった取り組みを進めてこられたと思う。ぜひ、今日はそのあたりも詳しく伺ってみたい。

最後に、再びゲイリー・ハメルの言葉を紹介したい。それは、「富の最大化というお題目は、働く人の心を揺さぶり動かすだけの力を持たず、熱意を十分に引き出すことはできない」と。従って、「新時代のマネジメントは、世の中から重要で高尚だと認められる目標を立て、その達成を目指さなければいけない」と言うわけだ。これは「志」という話ではないかと思う。

スピードやオープンネスやダイバーシティを生かすためには、そのための軸となる「志」を描く必要がある。その根底で社員1人1人の熱意やモチベーション、あるいは「思い」をうまく引き出さないといけない。この点は味の素さんも同様ではないか。「マイイノベーション」ということで、1人1人にイノベーションとは何かを考えてもらいながら、組織全体のイノベーションにつなげていったという、ユニークでかつ本質的な取り組みだと思う。
 

スピーカー

京都大学農学部修士課程修了後、1977年味の素㈱入社。中央研究所に配属。本社開発企画室、味の素冷凍食品㈱取締役やブラジル味の素副社長を経て2010年から味の素㈱食品研究所長(常務執行役員)に就任。同研究所の改革に着手、推進を行う。ライン活動のみならず横串のプロジェクトチームの編成/運営や社外との連携活動を推進しイノベーティブな製品が次々と生まれる活気ある組織に発展させた。2015年から味の素㈱食品事業本部技術顧問に就任。

モデレーター

大学卒業後、消費財メーカーに入社し、海外部門にて中国工場のオペレーション管理、国内部門にて営業・マーケティングに携わる。グロービス入社後はグロービス・コーポレート・エデュケーション(GCE)部門にて、様々な業種の企業に対してコンサルティング及び研修プログラム提供を行う。グロービス名古屋オフィスの立ち上げではリーダーとして、グロービス・マネジメント・スクール名古屋校の新規立ち上げ等を推進。その後GCE部門ディレクターを経て、現在GCE部門マネジング・ディレクターを務める。また、創造(ベンチャー、新規事業)領域の研究・開発グループの責任者として、講師育成やコンテンツ開発等にも取り組む。自身もグロービス経営大学院や企業研修において「リーダーシップ」「クリエイティビティ」「イノベーション」等のプログラムの講師や、大手企業での新規事業立案を目的にしたコンサルティングセッションを講師としてファシリテーションを行う。学習院大学法学部卒業。フランスINSEAD:IEP(International Executive Programme)、スイスIMD:HPL(High Performance Leadership)修了。

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