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ものづくりを根底から変える?「インダストリー4.0」の正体

投稿日:2016/03/16更新日:2021/10/22

インダストリー4.0 ~第4次産業革命が日本の”ものづくり”を根底から変える~[1]

秋山咲恵氏(以下、敬称略): 本セッションでは「インダストリー4.0 ~第4次産業革命が日本の"ものづくり"を根底から変える~」という、ただごとではないテーマが与えられた。まず、会場の皆さまがどういった感じで本セッションにご興味を持たれたのか伺ってみたい。皆さまのなかで、いわゆるものづくりになんらかの形で携わっている方はどれほどいらっしゃるだろう。…かなり多い。では、「インダストリー4.0とは何か質問されたら答えることができる」という方はどうだろうか(挙手無し)。こんな感じだ(会場笑)。手を挙げる方がいたら本当に訊くつもりだった(笑)。

最近はこの言葉が少しバズっているけれども、実際のところ、インダストリー4.0とはなんなのか。自分たちの仕事にどんな影響があって、今後どう向き合っていけば良いのか。今はまだ曖昧な部分があると思う。そんなテーマで議論するにあたり、今日は国内で最高の方々にお集まりいただいた。まずローランド・ベルガーの遠藤さん。ドイツは2011年にこのコンセプトを打ち出し、13年には日本で言うところの産学官…、より広いかもしれないが、そこでプラットフォームをつくって議論をはじめた。しかも、昨年は2035年まで見据えたロードマップをすでに描いている。そこで、その中身というか、本質はどういったものなのかというお話をまず伺いたい。

遠藤功氏(以下、敬称略): 当初からドイツの産業競争力強化に向けた議論のなかで、「今までの延長線上にない新しいものづくりのプラットフォームと環境が出てくる」と言われていた。そのドライバとなるのは新しいテクノロジーだ。これは単一のテクノロジーでなく、IoT、ロボット、3Dプリンタ、ビッグデータ、そして実用化はまだ先だけれども人口知能等々。そうしたテクノロジーが同時多発的に生まれていて、「それらの組み合わせで今までとまったく違うものづくりが可能になる」と。そのなかでドイツの競争力強化をゼロベースから考えようというのが出発点になる。

そこでドイツらしいのは、ものづくりだけでなく社会のあり方まで視野に入れている点だ。「製造業だけでなくサービス業や流通業、さらに公共を含めて国のあり方も変えるようなプラットフォームおよび環境になり得る」と。それが今後は国や産業のひとつのあり方を示すということで、今はローランド・ベルガーもその具体的構築に絡んでいる。他にもシーメンスさんやSAPやボッシュといった力のある民間企業が入って、具体的な実例を示しながら「こう変えていくんだ」というイニシアティブを取っている。

民間企業に対するインパクトとは何かというと、やはり新しいプラットフォームと環境ができる点になる。ただ、それ自体が競争力になるわけではなく、大事なのはそのうえで何をするか。ただ、具体的にどんなビジネスモデルや戦略でやっていくのかは今後の話になる。今はそこが見えてこないので、インダストリー4.0と言われてもまだぼやっとしているのだと思う。ただ、革新的企業は新しいプラットフォームや環境のうえで従来とまったく異なるビジネスモデルをつくっていくし、事実、その方向で変わらないといけない。製造業の枠も超え、インターネット企業のような動き方で渋滞とまったく違うものづくりをすることもあり得る。そんな風に考えていただけるといいと思う。

インダストリー4.0の実現には企業体質の改善が必要

秋山: 簡潔で本質を突いたご説明だったので共通の認識ができたと思う。続いて島田さん。インダストリー4.0を牽引する企業のひとつであるシーメンスさんは、企業の戦略上、そうしたプラットフォームで何をしようとしているのだろう。

島田太郎氏(以下、敬称略): 私は去年まで1年半ほどドイツに住んでいた。もともと在籍していたソフトウェア企業がシーメンスに買収されたのち、私自身は本社に呼ばれてドイツ色に染められ(笑)、その後日本に戻ってからデジタリゼーションを行っている。で、会社の部署名はデジタルファクトリーに変わった。シーメンスの社長であるジョー・ケーザーは、「事業部名にデジタルという名前を世界で初めて入れたのは自分だ」と言っているけれども、とにかく今は融合を進めようとしている。

ドイツに住んでいたとき最も強烈に感じたのは、彼らが「いかにしてドイツ国内でものづくりをして中国やアメリカに勝つか」を考えていることだった。ただ、ドイツに住んでいると何事もすごく不便。皆、それぞれの仕事はすごく遅い。でも、なにかこう、アウトプットは出ている。一方、日本はというと一人当たりGDPを労働時間で割ると実は先進国最下位。ドイツはその約1.5倍。先進国で最も高い生産性を実現している。

この差はなんなのか。インダストリー4.0の背景には標準化とプラットフォーム化がある。「共通プラットフォームを使うことでもっと簡単に物事を進めることができるようにしよう」ということだ。それによって、たとえば1.5倍という日本との生産性の差をさらに広げて競争力を保とうとしている。トマ・ピケティの本によらなくても、日本では今後人口が減少する流れを考えると、日本でもイノベーションによって個人の時間当たり生産性を高めないかぎりGDP600兆円の実現は難しいと、強く感じる。

では、シーメンスが何をしようとしているのか。インダストリー4.0の話で難しいのは、そのなかにすごくぶっ飛んだアイディアが散りばめられている点だ。IoT、3Dプリンティング、AI等々、実際にすぐ使えるか分からない技術も多い。ただ、シーメンスはそうした状況でも今すぐやらなければいけないことがあると考えていて、それが工場内の体質改善だ。インダストリー4.0の根本は人より早く世の中にない製品を出すこと。

しかも、いわゆるマスカスタマイゼーション、…私は“おもてなし製品”と呼んでいるが(笑)、気の利いたものを多品種で安くつくる。それをやろうとすると製造業の体質もフレキシブルかつ筋肉質に変えないといけない。これは単に何かのテクノロジーで可能になることではなく、根本的な変化が必要だ。それをドイツが着々と進めているのを見て、私は恐ろしい思いをしながら日本に帰ってきた。

秋山: 今までは大量生産か多品種少量生産のどちらかでものづくりのスタイルや方法論が確立されてきた面がある。これに対してマスカスタマイゼーションは「1品大量生産」と訳されることが多い。これは、たとえばBMWのシャーシとメルセデスの外装とレカロのシートという車をネットで注文したら、各パーツがそれぞれの工場から集結して組み立てられ、お客様に届くといった仕組みだ。これは恐ろしい。ひとつの工場内で最適化するだけでは絶対実現しないことを、ドイツは今やろうとしている。そうしたインパクトあるコンセプトに対し、日本は国としてどんな対応を考えているのだろう。産業政策を管轄する省庁のトップである菅原さんには、まずその辺を伺いたい。
 

インダストリー4.0は、今までの産業構造の延長線上にはない

菅原郁郎氏(以下、敬称略): 安倍政権ではこれまで3つの成長戦略を打ち出してきた。そこに私は経済再生本部事務局という立場でも関わってきたけれど、成長戦略の基本は「本来、日本の産業や企業には力がある筈だ」という考え方。とりわけ、ものづくりという前提があった。ただ、デフレマインドをはじめとしたいろいろな環境で、企業の創意工夫や起業家精神が発揮できていなかった。だから「そこを解放しよう」と。六重苦と言われた多くの苦難から解放さえすれば、日本企業はもう1度飛躍するに違いないという確信のもと、3つの成長戦略を打ち出してきた。

日本の産業に対する自信や信頼ゆえの成長戦略だから、当然、その中身は規制改革や法人税率引き下げ、あるいは今まで閉じていた官製市場の解放や企業が活動しやすくなる環境整備が中心になる。また、併せて企業経営者の方々にはコーポレート・ガバナンスとスチュワードシップという形で、「しっかりしろ」と、ある意味で叱咤激励をして意識改革も迫る。そうすれば必ず動くとの確信を持って我々は政策を進めていた。ただ、一方ではAIやIoTやビッグデータといったものが3年ほど前から出てきていたわけだ。もちろん我々もその辺は気をつけてやっていたけれども、そこで気づきはじめたことがある。それは、「どうも、今まで続いてきた日本の産業や産業構造の延長線上に、答えはないのかもしれない」ということだった。

特に、2年半ほど前だったか、前職の産業政策局長時代に愕然としたというか、目から鱗の思いをしたのがAIの話だ。経産省は1990年代、600億円ほどかけて第5世代コンピュータ、今で言う人口知脳を産総研が中心となって試み、失敗している。これは各種条件設定をどれほど効率的に行うかというものだったけれども、最近の人口知脳はそれを自分で考える。ディープラーニングで脳のようなニューロンメカニズムを自ら実現してしまう。そうして自分で物事を考える領域に入り、その実例として画像認識や動画認識ができるというところまで来た。この話を聞いた瞬間、それがIoTやビッグデータとともに私のなかで化学変化を起こした(笑)。

それで、「もしかすると日本が得意な自動車や電機あるいは機械産業の延長線上に答えはないのかもしれない」と考えるようになった。また、それは紅葉のように少しずつ黄から赤へ変わる変化でなく、ある日突然起きる可能性があるのではないかと思いはじめた。それで、「産業政策を司る立場として相当真面目にインダストリー4.0やIoTやAIといった世の中の変化に対応する体制を整えないといけないのでは?」と。その意味では我々の政策も少しずつ、誤りながらも進化してきたつもりだ。

たとえば、去年までは「ロボット協議会」という会議で政策を立てる話になっていた。ただ、そこでいろいろ議論しても、どうもロボットというと単なるオートファクトリー化のような話に重きが置かれてしまう。人の代替という概念から脱しきれない。でも、AIやIoTやビッグデータというのは工場の話に収まらない。サプライチェーンにおける縦の列や横の列からも新たなサービスが生まれることまで考えると、「もうロボットという言葉ではダメだな」と。それで今年春に決めた成長戦略では、ロボット協議会を内包する形で「IoT推進コンソーシアム」という名前にした。そこでもう1度、ものづくりの現場からサプライチェーンも超えて、国民生活まで視野に入れたプロジェクトにしなければいけないという話になっている。今はそんな風にしてインダストリー4.0に日本政府としてしっかり取り組むというところまで、3年少しかけてやっと到達した状態だ。

秋山: 「今までの延長線上に答えがないのでは?」というトップのご認識は大変強烈で、緊張感がある。

→インダストリー4.0 [2]はこちら

https://globis.jp/article/4142

※2015年11月3日開催

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