当たり前を実現する!トヨタの10年先を見据えた人材育成 

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※本記事は、2015年11月5日に行われたセミナー「トヨタ自動車のグローバル人材育成~トヨタの人づくりの強さの本質を知る」の内容を書き起こしたものです(全3回)

トヨタの10年先を見据えた更なる課題・挑戦

それでは最後に、今後も持続的成長を続けていくための、人材育成における課題・挑戦についてご説明したい。まずは問題意識に関して。ここまでご説明した各種取り組みを進めてもなお職場のダイバーシティはどんどん進展していて、コミュニケーションもはすます難しくなってきているという背景が1つある。

2点目は、品質問題を体感・経験していない若手が増えている点だ。それで「また危機感が薄れつつあるのでは?」という問題意識もある。自省の念を込めて申しあげると、大変残念ながら、昨今は「トヨタ社員は生意気だ。人の話を聞かない」といった声を耳にする機会も増えてきた。こんな風に言うと口はばったいが、我々は「応援していただけるトヨタ」を目指しているのに、それと程遠い状況になってしまっている。

そして3点目はコミュニケーションツールの違い等、若手と上司のギャップ。こちらも残念ながら埋まらない状況にある。ただ、これは若手だけが原因ではなくて、たとえば自分より年上の部下が増えてきたといったことも影響しているように思う。

そうした状況のなか、社長の豊田(章男氏:同社代表取締役社長)は「2014年度は将来の成長に向けた踊り場である」という風に位置づけた。そこで我々も人事の立場で人材育成の有難味について今一度立ち止まり、あるべき姿を模索したうえで人材育成体系の再構築を行った。見直しの方向性として強く考えたのは主に3点。1つ目は人間力の醸成だ。人格者を育てようという話ではない。ただ、「トヨタは果たして世間の皆さまに応援していただける会社になっているのか」と。可能であればトヨタパーソンとして、「まあ、あいつが言うのなら助けてやるか」という風に少しでも思っていただけるようにしたいというのが1つ目の思いになる。

2点目は社内アドバイザーの完全内製化になる。「教え/教えられる風土」の象徴として、全社的に優秀人材をアドバイザーとして人選する。そのうえでグロービス様をはじめとした専門家の皆様から、教え方、動機づけ、あるいはファシリテーションを学ばせていただく。それに自身が今まで培ってきた経験・知識を踏まえ、研修で受講者に叩き込んでいく。受講者はそれを職場に持ち帰って実践する。そのなかで「教え/教えられる風土」の再強化を図りたい。で、3つ目は極力OJT型を目指すという点だ。研修では座学が増えてしまうが、加えて頭と体を極力動かす実践型も目指した。

また、従来の人材育成体系は実務担当者向けと管理者向けで一部分断されていたが、新しい体系では新入社員から部長クラスまで1本の筋を通した。その上には新任役員研修というものもあるが、とにかく若手については新入社員時から、人間力を含めて徹底的に鍛えていくということにしている。

そして管理職に関しては、ポスト長のみならず管理職相当に昇格した全員を対象にして、組織全体で育成を図る体制を目指した。さらに、幹部候補向け選抜研修でしか実施していなかった有識者の講話等も資格別教育に織り込み、全体の底上げを計っている。そこで上位資格者が学んだことを今度はアドバイザーとして下位資格者に教える仕組みとして、学びの実践と「教え/教えられる文化」の浸透を図った。

具体的な研修内容を3つご紹介したい。1つ目は新入社員を対象とした「1年基礎固め徹底プログラム」。ここでは、素直さ、謙虚さ、感謝の心、思いやり、そしてチャレンジ精神といった素養・人間力の向上を目指す。また、問題解決能力やトヨタウェイといった仕事の仕方と価値観、さらには基本的ビジネススキルの習得を目指して、文字通り1年かけて鍛えていく。

これは今年4月にスタートしたばかり。次で触れる「教育の5本柱」を軸として、今は毎週月曜日にテストを行って、前週学んだことの復習を行っている。また、それに販売店実習、工場実習、部門・分野の専門実習等々を加え、人事と各職場と関係会社様が一体となって育成を図っている。

なお、「教育の5本柱」は新入社員研修だけでなくすべての研修で軸に据え、ブレない取り組みを目指している。まず、1つ目の「お客様第一」に関して言うと、お客様の声を直接伺っていくほか、新入社員の販売店実習では販売だけでなくサービス分野も学ぶ。また、2点目の「もっといいクルマ」では、車会社の人間として基本的な運転技能の習得や運転の怖さを学ぶ講座に参加する。一方ではカートにトライしたり有名他社様の車の乗り比べをしたりして、車の楽しさを体感するプログラムも設けた。

3点目の「いい町・いい社会」の関連で申しあげると、あらゆる層でボランティアを義務付けている。その具体的なメニューは弊社の専門部署と協力しながら提供しているところだ。また、4点目の「トヨタの歴史」に関して申しあげると、創業時の苦難を描いたTBS様の『LEADERS リーダーズ』というドラマを題材にさせていただいている。そこで創業者とその周囲…、従って「リーダー」でなく「リーダーズ」という複数形になるのだけれども、そこに思いを寄せるといったことにも取り組ませている。

いずれにせよ、この「1年基礎固め徹底プログラム」では毎週の小テストに加え、節目ごとに中間試験と修了試験を行っている。また、TOEICも全員A級、具体的には730点以上を目指して取り組ませている。ただ、英語に関して申しあげると、もともと主任職昇格は600点以上という要件を1990年代終わりに設けていた。それで3年ほど前から指導職昇格も600点以上という風にして、今は実質、1年目で全員600点以上を目指している。「鉄は熱いうちに打て」ではないが、やはりその効果は上がってきていると思う。

一方、教える側の管理職対象研修としては、こちらもグロービス様のご指導・サポートをいただきつつ「基幹職能力向上プログラム」、通称幹プロという研修を設けた。私どもとしては、こうした人材育成を徹底的に行うことで、世間様で言うところの課長級、つまり基幹職3級まではしっかり昇格させたい。ただ、2級以上はポスト管理・定員数管理を行っているので、正直言って門戸は広くない。従って、40歳前後で基幹職3級に昇格したのち65歳まで、20年以上同じような立場で働く人も増えてきた。そうしたことに向き合い強い心もまた人間力だと思う。そのうえで、さらには人材育成をしっかり行っていくということも習得してもらうのがこの研修の大きな目的になる。

また、研修に参加する際は受講者自身と職場上司で「何を学び、鍛えてもらうのか」を明確にしてもらう。さらには座学だけでなくOJT型を強く意識しているので、たとえば「評価者訓練」というものも実施している。これは受講者同士で評価・フィードバックを行うというものだ。それをiPadでビデオに撮って振り返ってもらう。自分の癖というのは、指摘されただけではなかなか分からない。けれども録画したものを自分で見ると多くの受講者がショックを受ける。たとえば話をするとき無意識に肩肘をついていたり、「えー」や「うー」が多かったり、部下の話を聞くとき何気なく腕組みをしていたり、等々。それをiPadで見て、ショックや気づきを得て帰ってもらう。

それから、上位資格者によるゼミ形式の読書会にもチャレンジしている。これも鎌田(英治氏:グロービス経営大学院Chief Leadership Officer/グロービス・コーポレート・エデュケーション マネジング・ディレクター)先生にご指導いただきながら行っているところだ。そこで、『幸之助論―「経営の神様」松下幸之助の物語』(ダイヤモンド社、ジョン P.コッター)であるとか、あるいは『武士道』『学問のすゝめ』『君子論』といった古典を含めてさまざまなジャンルの書籍を読み込んでいく。そのなかで、今さらながらではあるけれども多少なりとも教養を身に付け、人間力の醸成に貢献したい。また、社会貢献活動も義務付けている。

最後に「選抜研修」もご紹介したい。こちらはTMCの日本人向け研修で、将来の役員候補となる次長/課長クラスを対象としたものだ。40代前半から後半で総勢20~30名が参加する。選抜研修ということであれば今までも年次ごとに優秀者を集めて行ってはいた。ただ、今はそうした選抜者の人々に「将来の役員候補となりますか?」と、かなり強く問うている。そのうえで、ただの優秀者というだけであれば、「今まで通り頑張ってください。わざわざ時間を割いて研修に出てもらう必要はありません」と。言い方はともかく、まずはそのようにして受講者を絞った。

また、以前はトヨタの将来像を紙に起こして発表するといったこともやっていたが、どうしても“あさって”の話なったり、逆に実行を迫るとニッチな話になって何をやっているんだか分からなくなったりしていた。だから、そういうことも一切止めた。

そのうえで、たとえば特徴的なプログラムとして会長・社長・副社長の業務秘書をやらせている。3~4ヶ月間、会長・社長・副社長の決済や会議の場、あるいは夜の外食や土日のイベント等々にすべて、可能な限り張り付かせる。それで、いかにしてトップが会社や部下を優先させて物事を考え、実際にそれを実践しているかを学ばせる。あるいは、どういったロジックとともに、十分な情報がない状況下でも難しい意思決定を行っているのかといったことを間近で学んでもらう。そのなかで将来の幹部候補として覚悟を醸成してもらっている。

従って、同研修の開講式では必ず、「そういう厳しい訓練になるし、なおかつ、その訓練を乗り越えた人は将来の役員候補として見られるので、さらに厳しい試練が待っている」というお話をする。「だから、そういう道を選ばないという人は後ほど自分に教えてくれ」といったことを私の上司は言っている。それで実際に言ってくる人はもちろんいないけれども、とにかく、そういう姿勢で臨んでいる。

一方、海外事業体のローカル人材向けの選抜研修はどうか。ここは役員輩出となるとなかなか難しいということで、K1クラス、つまり役員の1歩手前となる候補者を選抜している。従って、今はそこで日本人と外国人を分けているけれども、そこはまた一緒にやりたいなと考えているところだ。

こちらの研修もグロービス様の指導・サポートをいただいている。で、たとえばドラマ『LEADERS リーダーズ』は英語Ver.もあるので、そうしたものを視聴してトヨタの原点について語り合ってもらったりしている。また、トヨタ流の仕事の仕方についても、たとえば「資料はA3用紙1枚で云々」といったことが、いかに経済合理性というか、トヨタウェイに基づいた型なのかといったことを学んでいく。あるいは…、これは多少アイスブレイクの感も否めないが、「トヨタ流問題解決=TBP(トヨタ・ビジネス・プラクティス)」は守破離の概念をかなり意識しているので、その型を学んでいく。改善を重ねてブレイクスルーを起こすのがTBPの概念だと思うが、それに通じていると考えられる日本舞踊等のカリキュラムを採り入れたりしながら育成を図っているところだ。

私からのご説明は以上になる。早歩きで分かりにくい説明だったのでご迷惑をおかけしたと思うが、フォローしていただけたらと思う。改めまして、本日このような場をいただきまして誠にありがとうございました(会場拍手)。

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