ベンチャー投資の新潮流「6テック」って何? 

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テクノベート元年 2016年のインターネット潮流(総論編)[1]

今野穣: 本題へ入る前に、なぜ私たちがベンチャー投資をしているのか、そしてベンチャーに投資すべきだと考えているかをお話ししたい。まず、2015年12月末時点の世界時価総額ランキングを見ると、トップ10社の半数がインターネット関連企業だ。アップル、グーグル、フェイスブック、そしてアマゾンが、メガベンチャーの4強(マイクロソフトを含めると5強)。「世界のインターネットすべてがこの4強に収束するのでは?」とすら言われる。1位のアップルはおよそ70兆円。現時点(2016年2月)ではグーグルのほうが上かもしれないが。

次にベンチャーと言われる企業の世界トップ10を見てみると、世界時価総額ランキング上位50社のなかでは10社。アメリカ7社、中国2社、韓国1社で、残念ながら日本企業は入っていない。人口比や国土比はあるにせよ、ランクインしている企業はすべてグローバル企業だからフラットで考えてもそこに日本企業が入っていないという現実は認識しておくべき。では、日本のトップ10はどうか。もう、悲しい。自動車、金融、通信、物流等々、古い会社しか入っていない。かろうじて元ベンチャーと言えそうなKDDIとソフトバンクが入っているけれども、こちらも本質的には通信キャリアというインフラ事業。また、50位以内にヤフーがランクインしたものの、こちらも米国Yahoo!のブランチからスタートした企業だ。そう考えると50位以内にもほぼ入っていない。

なので、今はベンチャーを支援する意味があるとかないとか言っている場合ではない。世界と米国の経済を引っ張っているのはすでに新しい産業なのに、日本はいまだ伝統的な企業に依存している。もちろん国家によって発展の歴史は違うから一概には言えないけれど、50位以内にベンチャーが1社も入っていないのはすごく残念だ。ましてや日本は今後、人口が減少していく。テクノロジーを活用して生産性をさらに高めないと、現在のGDP第3位という立場もどんどん落ちていくと思う。

今日はそんな背景も踏まえ、テクノベート元年となる今年の投資潮流をお話ししたい。これは、あくまでも「我々は今こういう考え方でこういうところに投資すべきだと考えている」という投資潮流の話であって、技術的潮流の話ではない。その点だけご留意いただければと思う。ちなみに今日の話は私が昨年末にTech Crunchへ寄稿した記事を元に詳細展開するので、興味があれば後ほどその記事もお読みいただきたい。そのうえで結論から申しあげると、「6テック」と「素人革命」という2つのキーワードとともに、新しい投資潮流が生まれると考えている。

「6テック」と「素人革命」が新しい投資潮流になるワケ

背景を申しあげると、まず、これまでITの世界ではPCにはじまり、インターネットやエンターテインメントのコンテンツ、あるいは検索周辺でさまざまなプレイヤーが生まれてきた。で、今もアプリでスマートニュースやメルカリのようなベンチャーは生まれているけれど、端的に言うと、既存IT領域では、何か大きな技術的変化や環境変化が起きない限りプレイヤーがほぼ出揃ってきたと思う。たとえば、エンターテインメントなら直近はLINEとサイバーエージェントが覇権を争っている。DeNAやグリーはすでにライフスタイルのほうへ振っているように見える。で、それ以外で強いところと言えば、「M3(エムスリー)」「スタートトゥデイ(ZOZOTOWN運営)」「価格.com」あるいは「クックパッド」といったカテゴリーキラー。従って、今後はオンライン完結では、それほど多く新しいメガプレイヤーも出てこないのかな、と。その代わり、インターネットとリアルな社会をシームレスにつなぐサービス、あるいは日常生活におけるインターネットの領域に、投資または事業機会が移るという時代背景がある。

そこで6テックというキーワードが出てくる。1つ目は「Edu Tech」。教育とテクノロジーの掛け合わせだ。そして2つ目はヘルスケアと掛け合わせた「Health Tech」で、3つ目は「Fin Tech」と言われる金融との掛け合わせ。で、4つ目が「Auto Tech」「Car Tech」ということで車、5つ目が「Home Tech」ということで家との掛け合わせになる。そして最後は「Frontier Tech」だ。宇宙やドローンといった新しい領域でサービスができるかどうか。我々はこの6領域がメインストリームになると考えている。そこで、今日は総論ということで各領域についてさわりの部分をお話ししたい。

Edu Techをリードする企業とポイント

まずはEdu Tech。基本的にこの領域は大手が強く、スタートアップはあまり大きくならないかもしれないという気がしている。ユーザーからの信頼やブランディングが大事になるし、規模の経済も効いてくるので。ただ、そのなかでも日米の事例をいくつか示すと、まずは「受験サプリ」。これはリクルートの社内ベンチャーだ。今、最も勢いのあるサービスだと思う。なぜこれほど強いのか。彼らは新しいマーケットをつくっている。山口(文洋氏:株式会社リクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長)さんがおっしゃる通り、毎月数万円を払って塾に通える学生というのは全学生の1/3もいない。そこで、受験サプリはそれ以外の2/3をターゲットにして質の高い教育を受けることができるマーケットをつくりだした。もちろん月額980円という低価格も強さにつながっている。

また、これが最も大きな要素だと思うけれども、彼らは模試(アセスメント)のマーケットを破壊している。アセスメント受験市場を無料もしくは低価格で破壊することよって、教育業では後発にもかかわらず勝ちそうな状況をつくった。既存プレイヤーにとっても最も大きな金の成る木だった市場をこじ開け、そこから、「教育全体のライフタイムバリューを取っていこう」と。これは“大人”でないとできないというか、ベンチャーの資本力ではなかなか難しい。ただ、いずれにせよ現状ではそれが勝因になっていると思う。

もう1つの事例は我々の投資先でもある、最近M&Aとなったエンジニア向けオンライン教育の「Tech Academy」。彼らもインターネットを活用しながら時代に合ったサービスをつくりあげ、英語教育に続く新しいマーケットへ参入している。最近はエンジニア向けの教育ベンチャーが複数立ちあがっていて、海外でも「General Assembly」という会社が比較的大きく成長している状況だ。

アメリカのベンチャーもあと2つほど紹介したい。1つ目は「Teachers Pay Teachers」。これは先生同士で教え方を共有できるようなコミュニティだ。そこで、ほかにも宿題管理やビデオコースのシステムを提供したりすることで成長している。現在の登録者数は350万人ほどだったか。もう1つがオンライン動画学習サイトの「lynda.com(リンダドットコム)」。LinkedInが1500億円で買収した会社になる。実はこれ、リンダさんという田舎のおば様が、自分の得意な手芸コンテンツをビデオで集めたところからスタートしている。それが今ではビジネス向けにも展開されていて、およそ400万人が月額20ドルを払うサービスにまでに成長した。

こうした事例を踏まえると、教育ベンチャーには3つのポイントがあると考えている。1つ目は、大手が強いという意味では、ベンチャーとして新しいマーケットをつくること。2つ目は、リクルートが買収した「Quipper(クイッパー)」のように、なくてはならないファンクションで入り込むこと。今、Quipperは世界でおよそ300万人に、学校側の宿題管理ツールのような形で使われている。こういったものはスイッチングコストが極めて高く、しかも宿題は毎日管理するから1度入り込むとほとんどのユーザーが使い続けてくれる。そんな風に、何らかの機能としてしっかり入ることができるか否かも重要なポイントになる。

そして3つ目のポイントは、授業の内容だけでなく、コミュニティのような軸をずらした付加価値が大事になっているように見えること。グロービスについても言えるかもしれない。教育ベンチャーや教育業でうまくいっているところは、何気にバリューを少しずらしている側面があるかなと思っている。とにかく、教育コンテンツで直球勝負をしていない。特にヘルスケアと教育は人間の怠惰に挑戦する面もあるし、そうした入り方が比較的重要だと思う。

Health Techをリードする企業とポイント

続いてはHealth Tech。先に立ちあがっている教育と比べ、ヘルスケアはこれからのステージと言える。だから、僕らの投資機会もEdu Techより多いかもしれない。ちなみに、今世界で最も成功しているであろうヘルスケアベンチャーはアメリカの「Noom(ヌーム)」だと思う。オンラインで健康管理サービスを提供している。日本にも同様のサービスはいくつかあるが、うまくいっているという意味ではここかと思う。で、先ほどの続きになるけれども、Noomで最もウケているサービスはコミュニティだそうだ。たとえば痩せようとしている人たち同士の相談コミュニティ。記録やログの採取はその前提として必要なサービスであって、一番大事なのはコミュニティだという。同様に、グロービスのリアルな事業における本質的価値の1つもコミュニティにあるのかな、と思っている。だからテクノロジーでいろいろと置き換えを進める際も、その良さを失わないで欲しいなというのが、僕が傍から見ていて感じることだ。

また、Health Tech領域では、‘Deregulation Deal’ということで規制緩和に伴って生まれる事業機会がある。たとえばメドレーという会社がはじめた「CLINICS(クリニクス)」は、大変シンプルなオンライン遠隔医療サービス。予約から診療、会計、薬の処方まで、インターネットで一気通関したサービスを提供する。これ、技術的には何ら変わったこともないけれども、規制緩和という流れのなかで出てくるであろう大きなサービスおよび事業機会だと思う。一方、技術的に面白いところでは「D Free(デフリー)」という排便予測のサービス。腹部につけたデバイスが超音波で腸内の動きを分析して、「あと○分後に排便が出ます」と知らせてくれる。主にシニア向けで介護施設等に入れていくと聞いている。あとはご存知の通り、DeNAもやっているDNA検査等々のサービス。テクノロジードリブンという意味では、そうしたサービスが出てきた。

いずれにせよ、ヘルスケア関連、特にNoomのようなサービスにとっては、なかなか続かないという点が課題になる。従って、Noomでいうところのコミュニティのように、ヘルスケア自体に付加された何らかのサービスが重要になると思う。また、今はまだ目立ったサービスが出てきていないけれども、もしかしたらBtoB系のサプライチェーンというか、医療機関のなかで求められるITソリューションの機会も多いと思っている。

Fin Techをリードする企業とポイント

そして3つ目のFin Tech。これはもう立ち上がっている。6テックのなかで最も立ちあがりが早い領域だと思う。理由はシンプルだ。まず、金融業は以前からデジタル化が進んでいるためITに乗りやすい。学習履歴や健康管理データを取ることからはじめなければいけないヘルスケアや教育と異なり、金融は現時点でオンラインバンキング等が立ちあがっていて、情報がすでにデジタルだ。たとえばそのデータで機械学習を行えば、現時点で新しい付加価値を生み出すことができるのではないか。さらに、大手金融機関の参入やオープンイノベーションが極めて早いという特徴もある。そのなかでお金がどんどん入ってきていることもあって、立ちあがりが早い。

たとえば、アメリカの「Wealthfront」や、我々が出資している「お金のデザイン」という会社。いくつかの質問に答えると、ロボットが世界中の投資信託からユーザーの志向に合わせて最適な組み合わせを提示してくれるサービスだ。元々、投資信託はポートフォリオを組んだ安定運用的な金融商品であり、かつ世界中に数千本の商品が分散して存在する。日本人が寝かせている膨大な預金資産というマーケットに対して、似たような商品が世界中に分散していることとロボットが分かりやすくアドバイスすることの相性の良さに目を付けた。また、今までの証券会社窓口は自分たちが扱っている投資信託しか提供できなかったこともあった。そこをロボットアドバイザーというソリューションで置き換えていくサービスになる。

もう1つ、個人的に面白いと思ったのはドイツ「Kreditech(クレディテック)」というドイツの会社のサービスで、これはビッグデータを用いてローン審査を行うというもの。ソーシャルグラフを使って審査をするのだという。SNSで、誰とつながっていて、どんな発信をしていて、どういったセグメントの友人が何人いるのか、と。それらの情報を基準にしながら、場合によっては35秒で審査を終わらせたりするという。審査の通過率は15%。その代わり返済率は93%以上のことで、金融業としては成立していると思う。

そんな風に、今後はたとえばソーシャルグラフのビッグデータ化が進むことで金融の審査基準もどんどん変わっていくと思う。日本でも、たとえば学生向けローンで新しい審査方法を使えばかなり大きな市場になるのではないか。今までは「若い」「年収や資産がない」といったことだけで審査されていた。しかし、そこでビッグデータを使えば「この学生がどれぐらい伸びるか」なんていうことも恐らく分かってくる。そこでライフタイムバリューをぐるっと回せるようなモデルをつくることができたら面白いと思う。そうしたテック化によって新しい機会が生まれてきている。

また、今まで粗っぽくセグメンテーションしていた領域にテクノロジーをかませることにで、One-to-Oneで顧客1人ひとりに合ったサービスを提供する流れもある。そのために、とにかくデータを取ろうという会社も出てきた。たとえば昨年上場したメタップスという会社の「SPIKE(スパイク)」という決済サービス。決済手数料0円でECサイトを出店できる。これはもう、とにかく購買データという狙いがあるので、直近では無料でばら撒いている。あるいは、「freee」や「マネーフォワード」といった中小事業者向けの無料会計システムもある。ただ大事なのは、集めたデータをどのように解析・活用し、どのようなフィードバックをすることによって、誰からどのようにマネタイズするのかという点だ。

Car Techをリードする企業とポイント

続いてはCar Tech。こちらは相当に大きな市場だけれども、恐らく中長期戦になる。安心・安全の要素が絡むし規制もあるので、そう簡単にはいかないと思う。ストリームは恐らく2つ。1つは自動運転だ。現在はDeNAさんもかなりのお金を投下してロボットタクシーまたは自動運転サービスを実現しようとしている。それで、たとえば本を読みながら運転席にとりあえず座るとか、前を走る車との車間を自動で制御するような世界が、2020年までに来るか否かといった状態になる。

それともう1つは車載データの解析などの分野。すでに小さなベンチャーが出している、あるデバイスを用いた事例がある。車にそれをセットすると、運転状況のデータを採ることができる。では、そのデータでどんなビジネスをするかというと、損害保険会社と組んで、ブレーキの踏み具合のような運転状況データを元に保険料をより適切にしていく。それで、今は例に挙げたベンチャー企業もすでに損害保険会社から出資を受けている。車に関しては、そうした領域も大きなマーケットとしてあり得ると思う。

Home Techをリードする企業とポイント

続いてHome Tech。ここはスマートホームという形で大手も取り組んでいる。「HEMS:Home Energy Management System」のような仕組みで、たとえば家全体の空調を制御する時代が来るというわけだ。ただ、これは5~6年前から言われ続けていて、今もトータルパッケージがなかなか出ておらず個別ファンクションで挑戦しているベンチャーが多い。たとえばアメリカのNest。数年前グーグルに3000億で買われた。彼らにできるのは温度管理だけで、本当に3000億の価値があるのかどうかは微妙だけれども、グーグルとしては何か意図あるのかなと思う。一方、日本では「Qrio(キュリオ)」。スマートフォンで鍵を開けることのできる「キュリオスマートロック」というシステムを、ソニーと、あるVCのジョイントベンチャーでつくった。今後どう展開するのかは分からないが、家の一部をスマート化したという意味では1つの事例だ。

また、我々の投資先でもあるイタンジという会社は、ユーザー向けというより業者向けに面白いサービスを提供している。不動産の流通マーケットは膨大で、かつ細分化されている。そのような関与者が多くやり取りが煩雑なマーケットにおいて、彼らは物件確認のオペレーションをすべて自動で電話回答できるようなシステムを提供している。大家、管理会社、仲介会社、ネットメディア、そしてユーザーという風に、不動産業界のバリューチェーンは極めて長い。それをインターネットで変える時代がすぐそこまで来ているのだと思う。

Frontier Techをリードする企業とポイント

で、最後のFrontier Techはドローンと宇宙。ドローンに関してはアマゾンが実証実験をしているし、中国のDJIやフランスのパロットといった企業もハードの研究を相当進めている。ただ、ボトルネックはバッテリーやモーターにあるようだ。20分程度しか飛ばなかったりするので、飛行時間を延ばそうとすればバッテリーが大きくなるし、機体も大きくなる。物流で荷物を運ぶのならさらに大きくなるし、雨天ではモーターがあるので使えないようなケースもある。従って、規制の話とは別に、災害支援等をリアルタイムで行えるのかという問題がある。ただ、ドローンという技術の大きな流れは不可逆だ。問題も少しずつ改善され、市場が生まれていくと思う。

宇宙に関してもいろいろな方々が取り組んでいる。堀江貴文さんしかり、イーロン・マスクしかり。以前、「デブリを除去するベンチャーをつくりたい」ということで私のところへ来た方もいる。デブリと言われる宇宙のゴミが新しい衛星を飛ばすときに危険だという。「ですから、ロケットは試作品で1基20億かかるけれども、どうですか?」と。資金規模が大き過ぎるので投資はできなかったが、そういう会社も出てきた。中長期戦になるのでVCが投資する領域かどうかは分からないけれども。

※本記事は、グロービス社内で行われた勉強会の内容を書き起こしたものです(全3回)

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