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MBO成功のカギはキャッシュフローの創出力

投稿日:2016/02/19更新日:2021/10/20

さて、「M&A成功の秘訣」最終回は、私の本業であるMBO(Management Byu-Out)についての話です。

■MBOとは?

MBOとは、マネジメント・バイ・アウト(Management Buy-Out、経営陣買収)の略です。会社の経営陣が(金融投資家と共同して)自社の株式を譲り受けたり、あるいは会社の事業部門のトップが当該事業部門の営業譲渡を受けたりすることで、オーナー経営者として独立する行為のことです。

また、経営陣ではなく、従業員が株式を譲り受けるような場合をEBO(Employee Buy-Out)といい、経営陣と従業員が共同で株式を譲り受ける場合をMEBO(Management Employee Buy-Out)と言います。

MBOの目的は、

(1)企業グループ内のリストラクチャリング
(2)上場会社を非公開化することによる機動的な事業戦略
(3)オーナー経営者から経営陣への会社売却

などが挙げられます。

MBOのメリットをステークホルダーごとに挙げましょう。

<経営者>
(1)短期的な結果を求める株主の圧力から解放され、長期的な経営計画を立てられるなど、経営の自由度が増します
(2)非上場化により被買収リスクを回避できます
(3)役員と従業員の一体感(士気)が高まります

<売り手>
(1)対象事業に対する投資資金の回収が可能となります
(2)親会社の場合は、ノンコアビジネスの売却資金により、コアビジネスに投資できます

<外部資金提供者(ファンド)>
(1)簿外負債のリスクが小さい(既存の会社内部の経営陣が経営責任を引き続き負うため、その性質上リスクが少ない)

次にデメリットです。

(1)買収価格が過大となるリスクがあります。(内部の経営者が買収に参加するため、買収価格の妥当性が問われる)
(2)非上場化の場合、信用リスク低下により、中長期的資金調達が難しくなります
(3)MBOの資金にファンドを入れた場合、3~5年でIPOやM&Aによる売却が必要です
(4)親会社の傘下から独立した場合、会社業績がそのまま自分の報酬、失業リスク繋がることになります

MBOスキーム

ここでは株式譲渡方式で説明します。

(1)まず買収目的会社(SPC)を設立
(2)この買収目的会社にプライベート・エクイティ・ファンド及びマネジメントが出資
(3)買収目的会社が金融機関から融資(シニアローン)を受ける
(4)買収目的会社で調達した資金で株主より株式譲渡
(5)買収目的会社と対象会社を合併
(6)買収後のキャッシュフローで借入金返済を行う

さらにスキームを詳細に見てみましょう。

通常、MBOは

(1)銀行が融資するシニアローン
(2)経営陣やファンドが出資するエクイティ
(3)シニアローンよりリスクが高く、エクイティより低いメザニン

の3つの資金によって実行されます。

例えば、企業価値がEBITDAの8倍といった発行体を例に取ります。MBOは基本的にはレバレッジを効かすので、営業キャッシュフロー(CF)がそれなりに潤沢でなければなりません。MBOを検討する際に、まずシニアローンの検討をするわけですが、銀行の融資金額の銀行側の与信のひとつの指標であるDSCR(Debt Service Coverage  Ratio、当期のCF÷当期の借入金返済額)は、3年平均で1~1.25倍が目安となります。

(注)DSCRとは、デットサービスカバレッジレシオの略称。デットサービスカバレッジレシオとは、元利金返済カバー率のこと。債務返済能力を示す指標の一つ。X倍で示す。

DSCR = 元利金返済前キャッシュフロー ÷ 元利金返済額
元利金返済額 = 前期末有利子負債 − 当期末有利子負債 + 支払利息・割引料(−期限前弁済額)

ただし、レバレッジをかけ過ぎても業績がうまく伸びない場合、その後のフィナンシャルコントロールが効かなくなるため、シニアローンとエクイティのアロケーションには注意が必要です。
結果として銀行団の融資額が、仮にEBITDAの4倍までの融資となると、残りをエクイティで拠出しなくてはなりません。その額が巨額な場合、資金が集まらない場合や、IRRが低くなる可能性があります。

その場合、メザニン(優先株や劣後債)を活用し、レバレッジを効かせ資金調達することで小資本でのMBOが可能となります。

MBOの留意点

MBOを行う上で、いくつかの留意点があります。

(1)利益相反の回避
自社の経営状況を熟知する上場会社の経営者が、自ら当該会社の買い手に回ることから、その買収価格の設定をどのようにするかにおいて、必然的に利益相反が発生します。また、上場会社の投資家に対する情報開示のあり方についても、そもそも経営者との間に情報格差があることから、適切な情報開示が必要です。

(2)少数株主排除
上場会社の場合、経営者側が自社を株式公開買付けにより買収しますが、必ずしもすべての株主が売却に応じるわけではありません。その場合に、会社には少数株主が残ることとなりますが、少数株主に対して強圧的でなく、合理的で、経済的利益の確保される取り扱いが必要です。

(3)MBO完了後の事業会社の債務負担
通常MBOが、シニアローン調達により行われることが多く、すなわち、買収目的会社が、経営者側(買い手)の手持ち資金によるエクイティ出資だけでなく、同時に金融機関からの買収資金の借入れを行い、買収成立後、その対象会社と買収目的会社が合併することにより買収目的会社の負債を対象会社に引き継がせることが行われます。結果として、対象会社である事業会社が多額の債務を有することとなるため、既存の債権者との関係や企業経営(格付け)への影響も配慮される必要があります。

■最後に自分の経験から

もちろんMBOは財務だけでなく、事業の競争優位性が必要であることは言うまでもありません。外部環境変化に耐えうるだけのブランド力、シェア、製品などです。上場を目指す発行体は、やはりある程度の知名度、シェアを作っていかなければなりません。しかも、それを最後はPLベースに反映させなければならないのです。

MBOの巧拙は、マネジメントの質も大事ですが、究極的には、どのくらいのCF創出力があるかを見るために、事業特性を徹底的に調べ上げるということなのだと思います。そういった意味では「戦う前から既に勝負は決まっている」のかもしれません。

昨年の3月から「IPOへの道」「M&A成功の秘訣」と一年に渡り、ご高覧いただき、まことにありがとうございました。少しでも皆様の一助になればと思います。

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