ベネッセコーポレーション社長・森本昌義氏―グローバル人材の条件は 「野心」「好奇心」「教養」 

寄稿・人を育てる
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企業の将来を担う人材をどう育てるか。「人を育てる」第2回は、ソニーで"社内随一の国際派"で知られた森本昌義・ベネッセコーポレーション社長兼COO に、グローバル人材について聞いた。(「週刊ダイヤモンド」2006年2月18日号に掲載、聞き手はグロービス経営大学院大学教授・研究科長の田崎正巳)

グローバル化は 異文化理解から始まる

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田崎:21世紀に入り、日本企業のグローバル化が急速に進み始めました。アンケートをとると、いちばんの経営課題は「グローバル人材が足りないこと」と答える経営者の方が一番多いんだそうです。森本さんにとって、ビジネスにおいてグローバルで活躍できるのはどういう人材なのでしょうか。

森本:単に海外での勤務の経験がある人がグローバル人材かというと、それは違う。「まったく考え方の違う人々とも折り合いをつけられる人」ということなんでしょうね。

たとえば、日本人は世界でいちばん「謝る」民族なんです。すぐに「すみません」「ごめんなさい」と言う。ところが、私はソニー時代にブラジルの現地法人にいましたが、スペイン語圏の人というのはまったく謝らない。スペイン語にはごめんなさいに相当する「ロシエント」という言葉があるのですが、一生に一、二回しか言わない。犯罪を犯しても言わないのです。

ビジネスのグローバル化というのは、「謝る」というわれわれにとってはある意味当たり前のコミュニケーション方法が、当たり前でない人たちと仕事をしなきゃいかんということなんです。グローバル人材とは、異なる文化や言語の人びとのあいだでは、コミュニケーションが可能になるということ自体が「まれ」なんだ、ということが分かっている人のことなんでしょう。

業の深さと欲の強さが 野心の土台となる

田崎:そうした人材は、教育によって育てられるものですか。

森本:外国に留学させて苦労させたり、コミュニケーションのセンスを身につけさせることが大事だと思いますが、育てられるかどうかというのは…。

田崎:ちなみに、森本さんがいらっしゃった頃のソニーの海外人材のうち、グローバル人材と言える人はどのくらいでしたか。

森本:海外経験者のうち、三分の一ぐらいでしたかね。全員が全員、グローバル人材ではありませんでした。それはやはり「なりたい、なろう」という気がない人が多いんです。できない理由を探したり、苦労を避けて通ろうとしたりね。

一つ言えるのは、海外に出しても、社内の仕事だけさせていたのでは、そういう人材は育たないということです。たとえば技術者であれば、海外に行って現地の購買担当をやらせるんです。すると、現地の企業とやり取りするなかで、コミュニケーションのセンスを身につける人が出てきます。

あと、ベネッセで中国に派遣している社員がいるのですが、私は彼に「一週間のうち、一日半は会社をさぼっていいから中国の大学へ行け」と言ったんです。そうしたら見事にグローバル人材に育ちつつあります。背中を押してあげて良かったなあと思いましたね。

田崎:コミュニケーションのセンス以外には、どんなことが求められますか。よくビジネスパーソンには「志」が必要という話がありますが、グローバル人材に必要な「志」とは何でしょうか。

森本:「志」とは、英語でいえば「Will(意志)」というより、世の中で何がしたいかという「Vision(目指すもの)」「Ambition (野心)」じゃないですか。

たとえば、クルマの性能はエンジンで決まりますよね。こういう言い方をするとちょっと聞こえが悪いかもしれませんが、ビジネスの世界では業が深かったり、欲が強くないといけないんじゃないかと思います。

田崎:たとえば出世欲でしょうか。

森本:それも含めてね。自分の実現したいことがあって会社に入る人とそうでない人とは、最初から区別したほうがいいような気がします。

ラテン系の国では個人のやる気というのをすごく重視するんです。ブラジルにはこんなジョークがあります。砂漠の中をロバが歩いていた。ロバというのは、愚者の象徴ですね。そのロバが、お腹が空いてふらふらと倒れそうになっていると、左側からおいしそうな小麦の匂いが、右からは冷たそうな水の匂いが漂ってきた。ロバはどっちに行こうか考えているうちに飢え死にしてしまった、と。

田崎:欲がないと、自分はどっちが欲しいのかも分からなくてフラフラしてしまうと。

森本:そうです。私は、最近の日本人にはこの傾向が強いのではないかと思うのです。子どもにあれしてはいけない、これしてはいけないと、何でも止めてしまい過ぎる。もう少し自分のしたいことに気づくように、小さい頃から背中を押してやるべきだと。

思えば、私自身、父が小学校出のたたき上げの商売人だったので、小さい頃から「人と同じことはするな、自分の欲を持て」と教えられていましたね。父は、私がソニーの元会長の盛田昭夫さんの下で使われていたのが、最後まで気にくわなかったようです。

田崎:若いビジネスパーソンが自分にしたいことに気づいて、チャンスをつかむためには、どうすればといのでしょうか。

森本:好奇心を持つということですね。私なんか、この年でもまだ好奇心の塊ですよ。女性が電車の中で化粧しているのを嫌う人、多いでしょ?でも私は彼女たちを見るのが大好きですよ。電車の中で使える化粧台作ったら売れるんじゃないのとか、いろいろ考えます。

好奇心があれば、いろんなチャンスはつかめるんですよ。ソニー前CEOの出井伸之さんもやはり好奇心がすごくて、欧州の現地法人にいた時に、盛田さんや元社長の岩間和夫さんにしょっちゅう論文を書いては出していましたね。行動することも大事だけれど、「おれがあの経営者だったら何をするかな」と考えること、そういう感受性がすごく大事だと思います。

田崎:コミュニケーションのセンス、野心や好奇心は大事ですね。

ビジネス以外の教養を 広く深く持てるか

森本:グローバル人材の条件で付け加えたいのが広い一般教養です。海外に行くと、日本人はよく「ボアリング(つまらない)」とよく言われます。日本人ビジネスパーソンに、歴史や古典文学、芸術といった、ビジネス以外の分野の知識が少なく、会話が続かないからです。欧米の場合では、会食時にビジネスと政治の話題は御法度ですからね。

私は、かつて英国のソニーを訪問したときに知り合ったマネジャーと、ジュリアス・シーザーの『ガリア戦記』の話で盛り上がったことがありました。私は彼に「『ガリア戦記』を知っている日本人を初めて会った」と言われ、大変仲良くなりました。

ベネッセは先日、東京大学教養学部に寄付講座を作ったのですが、その時に「学生に読ませたい本」というのを集めたら、やっぱり古典文学が多かった。そういう文学には、業や欲のことはたくさん書いてありますからね。若いビジネスパーソンには古典をもっと読んで、いい意味で業や欲を養ってもらわないと、ダメですね。

(文:グロービス経営大学院大学研究員・川上慎市郎、写真:村田和聡)

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