現代にも通じる織田信長の発想法――合理は徹底してこそ価値を生む 

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来る1月23日より「信長協奏曲」という映画が封切りになります。年始には「信長燃ゆ」という新春ドラマも放映されていました。こうしたことからも、織田信長が、戦国時代のみならず日本の歴史の中でも稀代のヒーローであり、多くの人間の関心を引き付けていることがわかります。「好きな歴史上の人物」といったアンケートでトップに立つことも少なくありません。信長や周辺の人々については1回では語りきれないので、また別の機会に異なる角度から取り上げてみたいと思いますが、今回は信長の一貫した合理的思考に着目します。

信長の合理的思考に関するエピソードは数々ありますが、最も如実にそれを表しているのは宗教への対応でしょう。よく知られているように、信長は一向宗の反乱に非常に厳しい態度で臨みました。宿敵である朝倉・浅井に味方した比叡山の焼き討ちの話も有名です。今に比べれば圧倒的に多くの人々が迷信を信じていた時代に、仏教徒をここまで厳しく弾圧した人間は他にはいません。

その一方で、当時迫害されがちだった伴天連(キリスト教徒)については、その布教を認めています。これは西洋の文化や品々を紹介してくれるという実利に着目したものです。自分の天下布武に邪魔であれば、日本に長年根付いた一向宗徒ですら弾圧する一方、役に立つと見れば異教徒を優遇するなどは、当時としては常識外れです。現代人から見ても冷酷に見えますが、信長本人の目標達成のためには極めて合理的な行動だったのです。

楽市楽座も産業振興の立場から見て非常に合理的な発想です。実は信長に先立って楽市楽座を行った大名も存在したのですが、信長ほど徹底的にこれを行った武将はいませんでした。また、その陰で行った施策として見逃せないのが伊勢平定後の関(関所)の撤廃です。関の存在は、人々の自由な移動を妨げるだけではなく、物価高ももたらしていました。また、多くの武士が関の通行料を収入源としていました。悪く言えば兵力の無駄遣いが行われていたわけです。

信長はこれに目をつけました。関を撤廃することは、通商を促すだけではなく、そこからの上がりで生活をしていた武士の仕事を奪うことになります。信長は彼らを家来として召し抱えることで仕事を与え、自らの戦力強化を図ったのです。まさに一石二鳥的な施策だったと言えるでしょう。

信長が天下統一の一歩手前まで行った1570年代、戦国大名の経済力は織田家が突出していました。楽市楽座や関の廃止に加え、堺の港を押さえたことで、信長は多大な富を手にしました。当時は米の石高が領国の富の指標でしたが、信長はそれだけにとらわれず、経済全体を俯瞰した施策を打ったのです。そしてそうした富はさらに多くの武士も引き付けることになりました。

出自などをあまり気にせず、使える人間を徹底的に登用したのも信長の合理的発想の一環と言えるでしょう。その代表格は言うまでもなく豊臣(羽柴)秀吉です。信長の家臣としての秀吉の功績は語りつくせないほどですが、彼を際立たせたのは、抜群の情報収集力とアイデアを出す力です。

例えば、日本の合戦の中でも名高い長篠の合戦では、馬防柵と鉄砲の活用がその勝因とされていますが(よく話に出てくる三段撃ちは後世の創作との説が強くなっているようです)、もともと騎馬部隊の強い敵に対して馬防柵でその戦力を無力化するというのは秀吉が発案した戦術とされています。それを信長が長篠の合戦で武田軍に対しても活用したわけです。

もう1つエピソードを紹介しましょう。信長というと冷酷というイメージも強いのですが、意外にも、家臣の武士に切腹を命じたという記録はほとんどありません。農民がちょっとでも盗みを働けば極刑に処す一方で、武士についてはせいぜい追放という処罰ですましていたのです。これは、武士が貴重なリソースであり、また何かの折に召し抱える可能性があることを見越してのものと考えられます。

実は、特に初期の織田軍の武士はそれほど強くなかったというのが定説です。個々人として強くないからこそ槍を長くしたり、鉄砲をいち早く用いたり、諜報活動に力を入れたのです(諜報活動に力を入れていた証としては、桶狭間の戦いにおいて最大の褒美を与えたのが、今川義元に一番槍をつけた服部小平太でも首を取った毛利新助でもなく、その居場所を知らせた簗田政綱だったということからもわかります)。武士を大事にし、せいぜい追放で済ませたのも、自軍の武士の力は決して強くないことを理解した上での合理的行動だったのです。

他にも信長の合理性を示すエピソードは多々あるのですが、語り始めるときりがありませんので、今回はこのくらいにします。

さて、このように合理的発想の権化で、それゆえに当時の人間から見れば破天荒で、何をしでかすか分からないと思われたのが織田信長という人物だったのです。「天下布武」という目標を明確に定め、それに向かって既成概念にとらわれず、ひたすら合理的に物事を進める姿は、昨今のシリコンバレーのIT起業家に通じるものを感じます。


今回の学びは以下のようになるでしょう。

・既成概念にとらわれずに合理的思考を推し進めると、しばしばイノベーションやブレークスルーが生まれる
・何事も一貫性をもって徹底的に突き詰めることで初めてライバルに対するアドバンテージが生まれる。中途半端では歴史に残るような仕事はできない
・良いアイデアがあったらどんどん盗む。それが目標達成を早める

 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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