メンソレータム派生商品が売れるワケを「ブランド・エクイティ」で考える 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

クリクリ巻き毛にナース帽を被ってつぶらな瞳で微笑む「小さな看護婦さん」のイラスト。メンソレータムのキャラクターは多くの人がすぐに脳裏に描くことができるだろう。そんな少女像のマークを冠した派生商品がどんどん増えていることにお気づきだろうか。リップスティックぐらいしか思いつかなかったら、ドラッグストアの店頭に行ってみるといい。ハンドクリーム、頭皮湿疹治療薬、水虫治療薬まである。CMで露出の多かった、二の腕のつぶつぶざらざらが取れるという「ザラプロ」もメンソレータムブランドだ。

ロートを支えるメンソレータムブランド

1894年に米国で生まれたメンソレータム。日本では近江兄弟社がライセンスを得て製造・販売していたが、「1975年に同社の代わりにロートが商標権を得て、製造販売を始めた」(日経MJ2015年12月25日号)という。そして「商品群が一気に広がったのはロートが製品開発を手がけるようになってから」であり、今では「同ブランドの売上高はロート全体の国内全体の4分の1を占める」(同日経MJ)までに至っている。

デビッド・アーカーの「ブランド・エクイティ論」

ブランド論の大家、デビッド・アーカーが『ブランド・エクイティ戦略』を著したのが1994年のことだ。それまで多くの企業は顧客のブランドに対する「イメージ」を向上させるために、短期的な視点で主に広告コミュニケーションの「コスト」を投じていた。それに対しアーカーは「ブランドとは企業の資産である」と喝破し、顧客のブランドに対する「認識(ブランド価値)」を向上させるため、中長期的視点で「投資」を行う事が全社的な経営課題であるとした。続いて1997年に「ブランド優位の戦略」で、「ブランドアイデンティティシステム」というフレームワークを提唱した。

そのブランド・エクイティと、ブランドアイデンティティシステムによってメンソレータムブランドの価値とその派生商品が売れるワケを検証してみよう。

ブランド・エクイティの要素

ブランド・エクイティは(図1)のように大きく4つの要素で構成されている。「ブランドロイヤルティー」「ブランド認知」「知覚品質」「ブランド連想」である。他に「権利(パテント、商標など)」があるが、それは貸借対照表(B/S)上の領域になるため今回は割愛したい。

ブランドロイヤルティーに関しては、「メンソレータムがないと死ぬ!」という程の切望感があるかどうかは別として、薬箱には常に入っているという家庭は多いだろう。また、冒頭記したように、メンソレータムの認知度は高いが、単に認知しているだけでなくブランドとしてすぐに思い出される「想起集団(Evoked Set)=カテゴリー毎に3つ程度といわれている」に確実に入っているだろう。筆者的には軟膏といえば「メンソレータム」と「オロナイン軟膏」ともう一つは思い浮かばない。

知覚品質とブランド連想は、メンソレータムのWebサイトに非常に分かりやすいテキストが掲載されていた。

「お肌になにかあったら、メンソレータム軟膏。うちではずっとそうだった。子供の頃、塗ってもらうと安心した スースーした香りをかぐと、今でもほっとしてしまう。私がお母さんから受けたやさしさを 今度は子どもたちに。『ほら、もうだいじょうぶだよ』」

薬としての成分がどうこうではなく、「スースーした香りを伴う安心感」が顧客にとっての知覚品質であり、ロングセラー商品として様々な接点で顧客と接触を持っているはずだが、「親に塗ってもらった」というような体験こそが最大のブランド連想となっているのだ。

ブランドアイデンティティシステムで考えるメンソレータム

ブランドアイデンティティシステムを図式化すると図2のようになるが、1回のコラムで全てを説明することは不可能なので、今回は標題に関する点に絞って論じる。

ブランドアイデンティティシステムの中核をなすのは、「コア・アイデンティティ」と「ブランドエッセンス」である。ブランドエッセンスとは、アーカーは『ブランド優位の戦略』で次のように著している。

「コア・アイデンティティは、ブランドの永遠の本質を表す。それは、タマネギの何層もの皮や、チョウセンアザミの葉をむいて後に残っている中心部分である」

チョウセンアザミとはイタリアンの食材でお馴染みのアーティチョークの別名だ。つまり、タマネギにしろアーティチョークにしろ、それを外側から全て剥いていけば最後には何も残らなくなってしまう。しかし、それらがその形を保っていたのは目に見えないが確かに存在している「何か」によってである。全てを取り去って最後に残る目に見えない本質。その中心部分を端的な言葉で示したものを「ブランドエッセンス」という。

メンソレータムの場合、前掲のWebサイトの文章がまさにブランドエッセンスとなっている。つまり、「お肌になにかあったら、メンソレータム軟膏」という部分だ。「ブランドとは顧客に対する”約束”である」と定義する人もいる。また、「ブランドエッセンス」は「ブランドプロミス」の同義語でもある。まさにメンソレータムは顧客に対して「なにかあれば、これを塗っておけば安心です。治ります」ということを約束しているのである。そしてそれがもたらす「安心感」までがメンソレータムのブランドプロミスの範疇だ。非常にしっかりした「コア・アイデンティティ」と「ブランドエッセンス」であるといえるだろう。

顧客への提供価値と派生商品が売れるワケ

ブランドアイデンティティーによってもたらされる顧客への提供価値は図2のように大きく見れば2つ、詳細に見れば4つある。「機能的価値」と「情緒的価値」はよく知られていると思われるが、「自己表現的ベネフィット」は説明が必要だろう。顕著な例として、全てのデジタルデバイスをApple製品で統一するユーザーなどを思い起こすといい。そのブランドを持つことが、自分の自己表現となるような価値だ。蛇足だが、筆者のこだわりブランドはヴィヴィアン・ウエストウッドという英国モード系の服とドクターマーチンのブーツだ。年甲斐もなくロックである。パンクである。

メンソレータムの場合、情緒的価値が高いのは前出の知覚品質とブランドアイデンティティーでも分かると思うが、派生商品が売れるワケはブランドアイデンティティーがしっかりした本体ブランドが4つめの提供価値である「信頼性」を高めているからだ。冒頭に例示したCMで露出の多い「二の腕のつぶつぶざらざらが取れる」という機能的価値を訴求している「ザラプロ」も、わらにもすがるほど悩んでいる人ならともかく、ちょっと気になるぐらいの人なら「本当に効くのかしら?」と思うかもしれない。そこに、小さな看護婦さんマークとメンソレータムブランドが信頼と安心感のエンドーサー(裏付ける者)となって購入の背中を押すのである。図2の「拡張アイデンティティー」の1つである「シンボルとしてのブランド」が効いているのだ。

ブランド論はマーケティングの中でも一種独特の難しさを感じてしまう人も多い。しかし、売れる商品にはワケがあるように、売れ続けているブランドにも幾重にも重なり合った要素が作用している。それを一つずつ紐解いていけば、どのように自社のブランドを育てれば良いかや、どのように活用して良いかが見えてくるはずだ。このテーマに関しては、また別の事例で論じてみたい。

名言

PAGE
TOP