『日本人のための宗教原論』 

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あの「MBAシリーズ」のプロデューサーにしてグロービス経営大学院の人気講師・嶋田毅が創造と変革の志士たちに送る読書ガイド。今回は宗教に関する解説書を紹介し、日本ではあまり話題になることのない“宗教”への見識の重要性を説きます。

人間の行動の最後の拠り所となるものは何だろうか。日本人にはややピンと来ない部分もあるが、世界の多くの人々にとって、それは宗教である。「宗教音痴」の日本人にとって格好のテキストを紹介する。

行動を規定する規範は、法律、文化、そして宗教

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"私が宗教というものに対して最初に関心を抱いたのは、大学の教養学部のときだった。社会学という授業で折原浩・助教授(当時)のクラスをとったのだが、そのときに題材となった論文が、マクス・ヴェーバー(当時の表記はマクス・ウェーバー)の「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」であった。禁欲的なカルヴィニズムが資本主義の土壌となった――という逆説的な結論のインパクトもさることながら、「宗教は、ものすごく人間の行動様式を左右するんだ!」と感じたことを覚えている。

さて、改めて人間の行動様式を考えてみよう。我々はどのような規範に沿って、日々、活動しているだろうか。

第一に法律がある。これは国が定めたものであり、これを犯すと国によっては処罰を受けることになる。ただし、一般に法律は“Do’s(やっていいこと)”ではなく“Dont's(やってはいけないこと)”を示すものであり、その意味で個人の内発的な動機を覚醒するものではない。また、多くの善良な市民は、日々の生活の中でそれほど法律を意識してはいないはずである。

第二の規範として、狭義の意味での文化がある。これは、行動を強制するものではないが、それに従うことがそのコミュニティにおける快適な生活につながるという意味で、緩い強制力を持つ。企業文化もこの範疇に含まれる。なお、そのコミュニティが持つ文化は通常、“Dont's”のみならず“Do’s”をも暗示することが多く、ときに人の動機付けとなるため、国や組織の生産性にも大きな影響を与える(それゆえに企業文化が大いに注目されている)。

そして第三の規範が宗教だ。宗教は文化(特に国や民族の文化)の一部もしくは土台と考えられ、また文化と峻別することは難しいのだが、その影響力の大きさゆえに、ここでは別個に扱う。
多くの宗教において、神の意思は絶対であり、それに従うことが来世における幸福につながる。逆にそれに従わなければ、来世での幸福はありえない。その畏怖の心は、人々の行動に強く影響を与える。ポイントは、宗教は、非常に大きな、時には想像を絶する内発的動機付けにつながるという点だ。歴史を振り返ってみても、宗教改革以降のキリスト教徒の地球的活動に、それが端的に現れている。"

グローバル化に対応するには宗教への理解が必須

"しばしば忘れがちだが、日本と最も関係の深い国であるアメリカは、日本人の感性ではなかなか理解しにくいくらいの宗教国家である。大統領選ともなれば、深南部の聖書地帯の票をどれくらい取り込めるかが話題になる。妊娠中絶や進化論の取り扱いに関するニュースが伝わってくることも多い。もともとイギリスから渡ったピューリタンが作った国である、という背景がそこにある。個人レベルから国レベルのさまざまな意思決定において、キリスト教プロテスタントのメンタリティが顔を覗かせるのだ。
ジェームズ・C・コリンズは「ビジョナリー・カンパニー 2 - 飛躍の法則」で“第五水準のリーダーシップ”を提唱したが、私は、そのメンタリティには、プロテスタンティズムの精神が強く影を落としているのではないかと考えている。宗教は、リーダーシップにも影響を与えると思われる。

では、もう1つの大国である中国はどうだろうか? あるいは、近年何かと話題のイスラム諸国はどうだろうか?これについては本書、そして姉妹書である「日本人のためのイスラム原論」に譲ろう。

間違いなく言えるのは、これからの多文化時代における人々の行動原理を理解する上で、宗教を理解することは必須であるということだ。本書は、キリスト教、イスラム教を軸としながら、主要な宗教の要諦をコンパクトに描き出しており、宗教のアウトラインを知る上で格好のテキストである。おそらく、いままで知らなかった事実を次々と発見できるはずである。

本書の著者である小室直樹氏は、経済学から法律、社会学、宗教と、その碩学ぶりと筆力は他の追随を許さない。非常に癖のある文体であるが、独特のリズムを持っており、読んでいるうちに癖になるから不思議である。皆さんにも、宗教の持つ力を理解していただきながら、“小室節”に触れていただきたい。"

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