入社式で虎の巻を教えてしまう、大人気イタリアンのユニークな経営術 

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アル・ケッチァーノ式経営術~なぜ150万円でできたレストランに予約が殺到するのか~[2]

続いて飲食店と食材のお話に移りたい。アル・ケッチァーノでつくっている料理は、実は簡単だ。たとえば冷たいトマトのスパゲッティは、一般的にはトマトを湯むきして、塩とはちみつをかけ、ビネガーをかけてオイルで半日置いて、次の日に冷たいパスタとからめる。でも、はちみつとビネガーをかけるのは、トマトが甘くも酸っぱくもないからだ。2000年当時は農協主体の栽培法と流通に沿ったトマトで、青いときに収穫して、東京に運んでから太田市場で赤くなるのを待ってレストランに入れていた。だからはちみつの甘みとヴィネガーの酸味を使う。でも、地元の畑で甘くて酸っぱいトマトを収穫できるから、アル・ケッチァーノでは塩とオリーブオイルをかけておしまい。それがウケた。素材が良ければ調味料はいらないし料理は簡単になる。

食材が良質なら塩味だけでおいしいけれど、食材が悪くなるとどんどん味付けをしないといけない。また、すべての味付けにおいて基本となる術を使いこなせるようになれば、おいしい料理を簡単につくることができる。「のどごし」のつくり方、フレッシュ感の入れ方、スパイスの使い方、苦味の生かし方、焦げ味を生かす方法、甘みの付け方、油脂分の使い方。それらの調理術をすべて身に付けると、どんな素材でもおいしい料理をつくることができる。でもアル・ケッチァーノは良い素材を探しに行っているから、味付けは素材と塩で勝負すればいいということになる。

また、アル・ケッチァーノは年に何回か、生産者の方々と「生産者の会」を開き、そこでスタッフの近況報告等を行ったりして皆で楽しんでいる。以前は生産者の方々向けの「グリーンシート」もあった。今でも生産者の方はアル・ケッチァーノの料理をただで食べることができる。お付き合いのある生産者の方々には特権を進呈していて、私がプロデュースする東京のお店もすべて無料。生産者の方々はそうした物がなくても人のために一生懸命食材をつくっていたし、毎日畑から離れられないというような状態だった。そういう方々だから、アル・ケッチァーノに食材を卸してくださった方々に、いろいろなお店が無料になるようにした。

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これは男性と女性の最低限の幸福論になるけれども、私の父はホテルをやろうとして人に騙され、それで父の元にいた弟子は全員いなくなった。でも、仕事に誇りを持って夢を語っていると男性は男性らしくいられる。最近の男の子が悪さをしたりするのは自分の仕事や人生に誇りを持てないからだし、社会に夢がないから。だから仕事に誇りを持てるような環境と、夢を持ち、語れるようにするといい。一方、女性に重要なのは安定。収入の安定もありつつ、日々の小さな幸せも必要。それがないと、いらいらして人にあたったりしてしまう。だから、安定と日々の小さな幸せを持つといい。1日1個ケーキを食べるとか、そういうことでもいい。

だから、アル・ケッチァーノにマスコミの方が来たときは生産者の畑に連れていって、誌面に生産者のことを載せてもらうようにした。そうして「食の都をつくりましょう」と、生産者の方とともに夢を語っていった。また、アル・ケッチァーノに卸してもらうことで収入を安定させ、さらには日々の小さな幸せということで、ケーキが残ればケーキを持っていったりしていた。魚をおろしてアラが出れば、アラ汁用に切って生産者の奥さまに差し上げたりしていたわけだ。そうした4つがそろうと次のステージに行くことができる。これは人間に最低限必要な4つの柱になり、そこからどんどん幸福論が飛躍していく。

一方、アル・ケッチァーノ10年目となる2010年には、銀座に「ヤマガタ サンダンデロ」を出店した。そこで常連様を増やして、借金を1年で返している。こちらでは、たとえば春に来たお客さまには、「次の夏にはこれだけの食材があります」ということを紹介していった。それで常に予約を入れて満席にしていった。そして、次にいらしたときは食べたい食材を言っていただいてメニューを組んでいく。だからアル・ケッチァーノでもヤマガタサンダンデロでも、実はお客さまごとに料理はすべて違う。

また、たとえば同じ小松菜でも3つの生産者を確保していった。港についても同じ。庄内の港のほか、仙台の魚屋さんも使っている。庄内では冬に海が荒れると船が出なくなるからだ。1つの食材で3つの生産者を持てば大抵は大丈夫。野球やサッカーでもミスが3つ続いたら大量失点をするけれども、2つまでならどうにかリカバリできる。

後輩に尊敬されると給料が上がるetc. ユニークなスタッフ育成術

スタッフの育て方もご紹介したい。うちのスタッフは北海道出身から沖縄出身まで幅広い。アル・ケッチァーノがある鶴岡には25人いて、売上の42%が人件費だから儲かってはいない状態だ。普通は30%で押さえなくてはいけないのだけれども、42%。そこで彼らがのちのち日本中へ旅立つことができるよう、さまざまなことを教えている。人間は成長過程のなかで、当初は生命維持という段階から、最終的には社会的な役割を担う段階にまで成長していく。また、そうした段階ごとに存在する壁を1日で超えるスタッフもいれば、3年かけて超えるスタッフもいる。

で、給料のほうは13万8000円ではじまって、パスタを覚えるとそれに4万円がプラスされる。肉料理も魚料理も、覚えればそれぞれ2万円プラスだ。それで22万円前後までは皆が給料を上げる。で、さらにその後、その先輩のことを尊敬している下の子が現れると、いきなり6万円上がる。だから、たとえば34歳で22万円の人もいれば21歳で22万円の人もいる。あくまでプロの世界だから実力次第。「今どの階段にいるか」によって給料は変わる。で、ボーナスに関して言うと、計200万を出すのなら、20人のスタッフに10万ずつ渡すよりデキる子5人に40万ずつあげたほうがいい。だからボーナスは0円か40万円かどちらか。デキる子だけが収入を得る、プロ野球のような環境だ。

繁盛店のつくり方というのもお話しておきたい。100人が住む街にイタリアンが10店舗あったら、お客様は10人ずつしかこない。そこで、「この街にお店を出してよ」と言われたら、私ならイタリアンでなくそば屋さんをやる。それで100人のうちの10%の方に食べたいと思ってもらえたら、戦わずにして勝つことになるからだ。「福ケッチァーノ」というお店を郡山ではじめたときがそうだった。周囲を市場調査したらイタリアンのお店がたくさんあったから、こちらのお店はフレンチにした。

また、看板メニューを持つと「あの料理を食べにいこう」となる。だから、まずはその食材を徹底的に好きになり、良いところも悪いところもすべて知ること。それで食材を愛することができたら、つくるほうも提供しやすく、お客さまからも愛されるという相思相愛の看板メニューが生まれる。「これがうちの看板メニューです」といったことを言うお店は多いけれども、すごく高いケースが多い。それでは看板メニューにならない。料理は芸術だけれども芸術品になってはいけない。1食にかけることのできる値段があるからだ。最近はそういう芸術品を出すお店が多く、たとえば東京で星付きのお店に行くとすぐに6万円ぐらい飛んでいったりする。飾っておく美術品なら高くてもいいけれども、料理を芸術品に仕上げてはいけない。

そこでアル・ケッチァーノの例を紹介したい。藤沢カブという在来作物があり、これは焼畑で育つ。その焼畑風景を料理にしたいと思ってつくったのが「藤沢カブと山伏ポークの焼畑風」だ。杉の切り株を豚で、黒土をトリュフで、それぞれ表現した。それが看板料理になり、今は毎年秋、観光バスで仙台や福島から数多くのお客さまがやってくる。この料理を食べる仙台三越のツアーもある。まず藤沢カブの焼畑を見学して、そのあとこの料理を食べるというツアーだ。こういうメニューを1つつくれば、それだけで多くのお客さんがやってくる。

それで、今度はJRの方に「ディズニーランドみたいな各所巡りのマップを、食材でつくってもらえませんか?」とお願いしたら、つくってくれた。庄内各所の食材とレストランを案内するマップだ。農林水産業は、最後は「食べる」というところに集約する。だから、「農林水産業を盛り上げよう」「おいしい野菜をつくろう」と言ってみても、最後のところでレストランがおいしいものを出さないと意味がない。その意味でも自分の仕事に誇りを持つべきだと思う。

入社後、スタッフに伝えていること

一方、世の中にあるレストランの動向を見ていると、次に何が流行るか分かる。たとえばフランス料理が流行ったらワインブームになった。ハーブが流行ったらガーデニングブームになった。また、フランス料理が流行ればフランスのブランドが流行る。フランス料理が流行っていたときにユーミンが流行ったのは、その当時のユーミンのリズムがフランス調だったから。フランス料理が流行っていた頃のアルバムを聞くと、フランスのポップスに似ている。また、最近は北欧家具や北欧雑貨が流行っているのは、北欧に世界No.1のレストラン「noma」があったから。だからレストランで何が流行るかを見ていると、次に何が来るのか分かる。「飲食店で働く人はそういうことまで考えて自分の仕事に誇りをもちなさい」と、私はお店でも言っている。

また、スタッフには入社式でこういうことも言っている。今、就職先として最も人気がないのは飲食業だという。だから、単に飲食店をやるのでなく、「農林水産業を支える」「農林水産業の次のことを日本のためにやっていく」といった思いを持つこと。「そうすれば素晴らしい仕事になるよ」と。そのうえで、飲食業がどんな仕事であって、どのように成り立っているかを教えていく。これは人に尽くす仕事だ。だから「自分たちの宿命は何か」と。「周囲の評価があなたの人格になる。だから変な格好もしないこと。足も引き摺って歩かないように」といった話までしている。

また、アル・ケッチァーノの各店舗が持つ意味も教えて、入社式の時点で行きたい店を聞く。たとえば地元には「地ぱんgood ~TOTSZEN terroir~」というパンのお店もあるので。ちなみに、飲食店をやっている方にはパン屋さんも持つことをお勧めしたい。たとえば飲食店でフォアグラのテリーヌを出したとき、残った切れ端を「フォアグラテリーヌのコッペパン」としたら売れる。和牛のメニューを出したときも肉片が出るから、それを串刺しにして焼いて、コッペパンに挟んで「米沢牛のコッペパン」とすると、あっという間に売り切れる。パン屋さんではフォアグラや米沢牛等を使わないが、レストランと一緒の経営ならそれを使うことが出来て付加価値がつく。

あと、大事なポイントとして、私は生産者の方が年収400万円を実現できるようにしていきたいと思っている。大卒の初任給よりも稼いでもらうことが目標だ。だからプロデュース店に庄内の食材を送っている。ちなみにプロデュース店は店名を変えているのもポイント。「アル・ケッチァーノ銀座店」といった名前にしない。アル・ケッチァーノの料理を銀座で完璧につくるのは不可能だからだ。つくる人も空気も水も違うから、同じ材料でも同じ料理をつくるのは不可能。だから同じ店名は付けない。

あと、来年11月にはアル・ケッチァーノの新店舗をオープンする。たぶんそこに私たちも移転する。そこで518種におよぶ日本中の在来作物を自家採種で育て、究極の野菜料理をつくりたい。F1種でなく自家採種の野菜だけでつくるレストラン。日本で昔から育てられていた野菜を使って、本当の和食を、2020年のオリンピックで世界から来た人々に紹介するという意味合いもある。面白いことに、そういう活動をしていたらインドの活動家であるヴァンダナ・シヴァさんとも仲良くなった。自分が行動を起こしてくと、そういう方々ともお友達になることができる。

あと、最後はスタッフに渡しているマル秘の図をご紹介したい。うちのスタッフは全員、ほぼ2年でイタリア料理の基本をマスターする。そのために入社式で私がつくったマル秘の図を渡し、イタリア料理がどんな全体の体系になっているかを教える。たとえばパスタは、簡単に言うとアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノにアサリが入るとボンゴレ・ビアンコになり、そこにプチトマトが入るとボンゴレ・ナポリになるだけ。数多くのパスタを覚えたりしなくても、大元のところで基本のつくり方を覚えたら、あとはそれを広げていくだけ。ただ、料理界はこういうものを出さない。それを覚えたスタッフがすぐにいなくなるからだ。

でも、フレンチの技法についても同じだけれど、うちは入社式でそれをすべて渡して部屋に貼ってもらう。で、マスターしたものにはマーカーで線をひかせる。すると、今はフランス料理を何%覚えていて、人間としてどこにいるかが分かる。人間としての階段の位置と、料理人としてのパーセンテージが分かる。だから何年後にフランス料理をマスターできるかかといったことが分かる。それで、すぐ覚えるようになる。

また、それに併せて「右脳を5回使ったら左脳も1回使いなさいね」といった話もしている。腕立て伏せと腹筋を100回連続でやるのは無理でも、交互に各10回やっていけば100回できてしまう。それと同じで、難しい勉強で左脳を3回使ったら、1度料理写真の本を置いて、右脳を1回動かしていく。そうするとレベルが高くなる。また、必ず左手でもの食べるようにして、右手でペンを持ちなさいということも教えている。それで、たとえばそばを食べながら味を分析して、その内容を書くことができる。

あと、人が辞めないコツというのもある。自分の話を聞いてくれる人と、自分が悪いことをしたらそれを言ってくれる先輩と、自分のことを見守ってくれる人の3人をつくると、精神的に安定する。だからそういう友だちを持つように言っている。そうして「人生を楽しむために向上心を持ち、料理を趣味にするように」といったことを教えている。

あと、6次産品は名前の付け方も大事。うちは「あるけっ茶」という商品を出した。1度聞いたら忘れない名前だと思う。店舗の名前でも同じことが言えるけれども、「あかさたなはまやらわ」のどれかではじめて、「おこそとの」のどれかで終わるといい。で、中間に破擦音を入れるとさらに忘れなくなる。だから、ワシントンとかサンフランシスコとか、あるいはキャサリンハムネットといった名前は忘れられない。ちなみに、「あるけっ茶」は「世界緑茶コンテスト2015」最高金賞を受賞し、「世界の7品」に選ばれた。

また、6次産品をつくるときは時代の要請も考えないといけない。たとえば、今は苺を1年中食べることができるから苺ジャムをつくっても売れない。漬物も同じだ。生野菜を1年中食べることができるから。だから、「漬物を使って洋風イタリアンにするにはどうしたらいいか」という風に考えていくことでヒット商品が生まれていく。

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人を好きになると答えは3秒で決まるから、3秒で答えが出ないことは悪いことだと思っている。だから、「奥田さん、これやってよ」と言われたら3秒で答えを決める。そのためには人を好きになること。家族が騙されたのを見たし、父には「人を信用しちゃだめだぞ」と言われていたけれども、自分は人を好きでいたいと思う。1年で2回ほどは黒い悪魔がやってきて騙されるけれども(会場笑)、それでも人を好きになっていると、愛されるようなる。そして、愛されると勇気が湧いてくる。だから、もし自分がいなくなったとしても、次世代が何かをしてくれるだろうと考えることができる。

自分が何をしようとしているかというと、「料理界のドラえもん」。何か言われたとき、4次元ポケットからいろいろなものを出せるような。その道具を出すことでのび太君はしっぺ返しをくらったりするけれども、ドラえもんはのび太君を愛しているから必ず助ける。そんな風になりたいと自分を向上させている。以上、アル・ケッチァーノのお話でした。ありがとうございます(会場拍手)。

→アル・ケッチァーノ式経営術~なぜ150万円でできたレストランに予約が殺到するのか~[3]は10/29公開予定

※開催日:2015年9月3日

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