志を実現するために磨くべき7つの知性 

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知性を磨き、使命を知る[1]

58667c96b0de2638524706202d694c79 田坂広志氏

田坂広志氏(以下、敬称略):何年か前にもお招きいただき、あすか会議のことは深く心に残っていた。今回も皆さんの貴重なお時間をいただいてお話をさせていただけること、本当にありがたいご縁だと思う。45分間の一本勝負だ。私はいつも、このような場を一期一会だと思っている。再びお会いする機会はあるかもしれないけれど、どの講演・講義でも皆さんとお目にかかれるのは1回限りだと思ってお話をさせていただくのが私のスタイル。お手元の資料にはメモを取らなくて済むようキーワードをすべて書いてあるし、大切なお話は目から目で伝わるものだと私は考えている。だから皆さん、どうぞ、私との真剣勝負、私の目を見てお付き合いいただければと思う。

今から13年前だったか、1冊の素晴らしい本が世に出た。『吾人の任務―MBAに学び、MBAを創る』(東洋経済新報社)という、堀義人学長が書かれた本だ。私はこの本を拝読したとき、グロービス、そしてあすか会議は、究極的にはたった一つのことをなさろうとしているのだと感じた。皆さんが吾人の任務、今回のテーマに変えて申し上げれば、ご自身の使命をどのように定めるか。そのために、こうやって集まり、学び、交流の場を持たれているのだと思う。

昨晩のパーティーにも出席させていただいたが、皆さんそれぞれに志を定め、志を交わし、山の頂に向かって生涯を賭け登っていらっしゃる。そうした登山の道すがら、互いに、「俺はこの1年間、こんな風に登って来た。頂はまだ遥か遠いけれど、確実に登ってきた」「私も自分の志を決して忘れることなく登り続けている」と。その思いを交わすため、こうして1年に1度集まっておられるのだと思う。素晴らしいと思う。

そんなお話をしたうえで、今日のテーマである「知性を磨く」というお話をさせていただく。先般、『知性を磨く―「スーパージェネラリスト」の時代』(光文社)という本を出した。なぜこの本を書いたか。20世紀の知性を振り返ったとき、世界はその変革を必ずしも素晴らしい形で進めてくることができなかったと私は考えている。堀学長とともにダボス会議などにも出ているけれど、世界最高の頭脳が集まる同会議のような場でも、我々の目の前にある現実を変えることができていないという事実がある。

では、21世紀における我々の知性はどんなものであるべきか。それを自らに問いながら書いたのが『知性を磨く~』という本で、今日はその要点を申し上げたい。本当にこの社会を良きものに変えたいという志・使命感を持って歩むなら、我々は今から申し上げる7つの知性をしっかり身に付けるべきだと私は考えている。

それは、「思想」「ビジョン」「志」「戦略」「戦術」「技術」、そして「人間力」の7つ。これらはすべて知性だ。この7つを聞いて、「自分はこれが得意。でも、これは…」と思う方もいらっしゃると思う。私もそうだ。ただ、この7つの知性を磨かないかぎり、実は目の前にある現実を変えることができないということを今日は申し上げたい。

まずは「戦略」のお話から。日々の仕事や授業を通じて目の前の現実を変えたいと思われている皆さんは、「変革の戦略」をお持ちだろうか。これが最初の問いだ。その答えを一言で申し上げるとどうなるか。戦略という字を見ていただきたい。あえて意訳すると、「戦略」と書いて「戦いを省(はぶ)く」と、私には読める。無駄な戦いはしない。もちろん経営資源が限られているから無用な戦いをしないというのも一つの理由だ。ただ、私はむしろ別の理由を申し上げたい。皆さんが経営者やリーダーとして一つの戦略を立てた瞬間、皆さんの下にいる社員の方々の、かけがえのない人生の時間を使うことになるからだ。それを決して無駄にしたくないという思いをしっかり持っている方が本当のリーダーだと思うし、私はそんなリーダーに付いていきたい。

それに、人生は限られている。100年生きたって一瞬だ。そうしたかけがえのないご自身の時間を使って目の前の現実を変えようとするからこそ、戦いを省いて無用なことはしないわけだ。そして、そんな覚悟を定めると次の問いが生まれる。

無用な戦いをしないためにどうするか。時代や社会の変化を追い風にする。皆さんがいらっしゃる業界や市場や産業に、今どんな風が吹いて、どんな変化が起きようとしているのか。その変化を追い風に、目の前の現実を変えるようにしなければいけない。逆風のなかを進んでみても物事は変わらない。

一つの例を挙げたい。デジタル革命の真っ盛りであった頃、フィルム会社の方が私のところにいらした。それで、「今後はすべてのカメラがデジタルになるかもしれませんが、なんとしてもフィルムを使っていただきたい。どうしたらよいでしょう」とのご質問だった。その業界にいて「なんとかしたい」というお気持ちになるのは分かるが、やはり大きな流れはデジタル革命だ。それなら、フィルムを使ってもらうという方向ではたいした戦略を立てようがない。

今、世の中にどんな変化の波が起きて、どんな風が吹いているか、皆さんはしっかり見ておられるだろうか。それを考えると戦略以前の話として、世の中がどちらを向いているか、しっかり見つめる「ビジョン」という知性が必要になる。また、そうした変化を見つめるためにはビジョンのさらに奥にある「思想」という知性も不可欠だ。

歴史のなかで生まれたさまざまな思想を学んでみると、とりわけ未来をしっかり教えてくれる思想があることに気付く。私も何年か前、それについて本を書いた。弁証法に関する本だ。「ヘーゲルの弁証法」というと単なる教養だと思われていることが多いけれど、これは本当に役立つ。たった一つの法則を学ぶだけで役に立つ。

今から申し上げる法則を皆さんの業界に当てはめてみて欲しい。ヘーゲルは「事物の螺旋的発展の法則」ということを言っている。「あらゆる物事の発展は螺旋階段を登るようにして起きる」というものだ。螺旋階段を登るところを想像してみて欲しい。横から見ると上に登っていることが分かる。進歩・発展していくように見えるわけだ。けれども上から見ていると、ぐるっと回って元の場所へ戻ってくるように見える。古く懐かしいものが復活してくるように見える。でも、螺旋階段だから必ず1段登っている。

これは単なる哲学ではない。インターネットの世界は螺旋的発展事例の宝庫だ。たとえば、インターネット上のオークションもしくは逆オークションというビジネスモデル。これ、マーケットが「市場(いちば)」と呼ばれていた時代はどこにでもあった。せりと指値だから。それが、世界が一物一価だった時代を経て再び戻ってきた。ただし、一段発展している。昔は数百人相手にしかできなかったせりや指値が、今は数百万人を相手にして行えるようになった。

Eメールも同じだ。メール登場前、私たちは電話を使っていた。で、そのさらに前はというと、Eメールではないけれども文章を使ってコミュニケーションをする文化が一般的だった。電話が普及する前は、「おふくろに手紙を書いたよ」なんていう時代があったわけだ。それが、今はぐるっと回って元に戻ってきた。何千通でもメールを送ることができるし、地球の裏側とも一瞬でコミュニケーションが行えるようになった。ただ、古く懐かしい、文章を使ったコミュニケーションの文化自体は戻ってきている。

eラーニングもそうだ。昔の日本には寺子屋があり、そこで一人ひとりの生活事情や興味や能力に合わせて学ぶことができていた。それが工業社会になると、すべての子どもが集団教育のなかで、「はい、教科書の23ページを開いて」なんて言われながら同じペースで学ぶ時代になった。でも、それがぐるっと回り、eラーニングとなって戻ってきた。能力と興味と生活の都合に合わせて学べる時代が今は世界中で広がっている。しかも、今は地球の裏側の、もしくはハーバードの講義だって聞くことができる。ここでも1段上がっていると言える。

そうした変化について皆さんはどう思われているだろう。古く懐かしいものが一段上がった状態で復活してくることを、皆さんはご自身の業界で戦略のなかにしっかり組み込む必要がある。時代の流れをその観点から読み取るだけで、いろいろなアイディアが出てくるのではないか。古く懐かしいものを1段発展させ、さらに進歩させて復活させたとき、皆さんはマーケットでイノベーターになっていくのだと思う。

螺旋的発展の例をもう一つ挙げたい。インターネットが復活させた古く懐かしいもののなかに、ボランタリー経済がある。これは世の中を根本から変えていくものだ。ボランタリー経済とは、善意や好意で価値あるものを相手に提供する経済。これに対し、貨幣経済はお金の獲得を目的とした経済活動だ。ただ、ボランタリー経済は、実は人類の歴史のなかで最も古い経済と言える。

貨幣経済の前には物々交換経済があった。で、そのさらに前は、コミュニティのなかでお互いが善意や好意から、「余ったからあげるよ」「魚が獲れたからあげるよ」「木の実が採れたからあげるよ」というボランタリー経済があった。文化人類学で言うところの「贈与の経済」が一般的だったわけだ。

それが今インターネット革命によって再び、大変な影響力をもって一気に復活してきた。ネットの世界にはボランタリー経済が山ほどある。Q&Aサイトを見てもお金は取られないし、世界中の人々が無償でLinux開発に参加したりしている。ネット革命の結果として、そうしたボランタリー経済が世界中の資本主義またはビジネスモデルのなかに続々組み込まれてきた。そのことをどれほど理解してビジネスモデルを立てることができているのかという問いも、投げかけておきたい。

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インターネット以外にもいろいろある。たとえばリサイクル。私が子どもの頃は資源がなくリサイクルが当たり前だった。でも、そのあと大量消費と大量生産、そして大量廃棄という時代がやってきた。それで地球環境問題が起こったので、今はリサイクルが当たり前になっているわけだ。当然、1段も2段も上がっている。デジタルデモクラシーもそうだ。今はクラウドガバメントなんていう言葉もあるけれど、直接民主主義的なものが再び、これもまた数段進歩した形で復活してきた。

このように、螺旋的発展の法則一つが、今目の前にあるビジネスで現実的に役立つ知恵を与えてくれている。皆さんもそれをご自身のビジネスに当てはめて考えてみて欲しい。「自分の仕事、事業、業界、そして産業は、これからどのように螺旋的発展をしていくのか」と。これが、思想が大切だという一つの理由になる。

それともう一つ、思想について大切なことを挙げたい。これも『複雑系の知―二十一世紀に求められる七つの知』(講談社)という本に書いた。皆さんは複雑系という思想をどれほどしっかり掴んでいるだろうか。遺伝的アルゴリズムや人工生命といった難しいことを覚える必要はない。大切なのは根本的な本質を掴むことだけだ。

複雑系の思想がなぜ重要か。分かりやすく言うと、「企業や市場や社会といったシステムがどんどん複雑になると、なぜか生き物のようになっていく」ということだ。生命的システムに変わっていく。言葉を変えれば創発と呼ばれることが起きる。自己組織化が起きて、さらには生態系が形成されるわけだ。そうした、あたかも生命的世界のようなことが次々起こりはじめる。本当はそこにもいろいろな理由があるけれども、時間の関係があるので今日のところはその結論だけ掴んでいただければと思う。

そして、その生命的システムが持つ特徴のなかで、我々がビジネスを見るうえで最も大切にしなければいけないものが「バタフライ効果」だと言える。これは、巨大なシステムの片隅で生まれたほんの小さなゆらぎが、そのシステム全体をがらりと変えてしまうこと。今の世の中はそうした性質がどんどん強まっている。

その例として、言うまでもなくリーマンショックがある。アメリカ経済の片隅で起きた住宅産業のローン破綻が、世界中を経済的破綻に巻き込んだ。これは悪い例だ。もちろん良い例もある。ご存知の通り、スティーブ・ジョブズという天才と呼ぶべき、けれどもたった一人の人間が、世界をどれほど変えたか。あるいはグーグルのセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ。かつてスタンフォード大学の片隅で、「我々はこの検索エンジンで世界の全情報をオーガナイズする」と彼らは言った。それを傍で聞いていたら、私だって誇大妄想だと思ったかもしれない。でも、彼らは見事に世界を変えた。

会場にお集まりの誰もが、今まさにそれを問われている。今は素晴らしい時代だ。見事な志と使命感を持つ皆さまが今申し上げた7つの知性をしっかり身に付けたら、たった一人でも、たった数人でも、一つのベンチャーとしても、あるいは一つの社会起業組織としても、世界を変えられる時代だと思う。

※開催日:2015年7月4日~5日

→ 知性を磨き、使命を知る[2]は7/13公開予定

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