「“ななつ星”をデザインする -創造と変革のパートナーシップ」質疑応答 

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田久保:では、この辺で会場からの質問を受けよう。

会場A:JR九州が、かつての堅い鉄道組織から現在の「気」が満ち溢れる組織へと変わっていった過程で、内部にどのような変化があったのだろうか。

会場B:25年間抱き続けた唐池会長の思いは並大抵のものでなかったと思うが、たとえば仲間の存在やご自身の使命感など、そこに何かしら背景があったのだろうか。

会場C:お二人のパートナーシップがどのように醸成されていったかをお伺いしたい。たとえば常に話し合っていたり、阿吽の呼吸のようなものがあるのだろうか。

唐池:昔と比べると、私がいることで組織が変わったのかなと思う。というのも、JRが発足して27年と3カ月が経つけれど、私はその間、ほとんど鉄道の仕事をしていない。「ビートル」という高速船の仕事をしたり、食べ物屋で通算7年間トップを務めていたりと、そういう仕事ばかりしていた。特に、レストラン業を7年間やっていたことが大きい。お客さまはレストランに対し、その時の気持ちひとつで、「この店は嫌だ」「この店は気に入った」という気持ちを持たれる。だから、たとえばマーケティングも「腰を落ち着けてじっくりアンケートを」といったものではダメだし、とにかく瞬間瞬間でお客さまの反応を見て変えていく必要がある。しかし、堅い組織ではそれができない。その意味で食べ物屋さんの社長をやらせていただいたのが大きかったと思う。

あと、かなり生意気な部下社員が多いというのもある。これには困っているけれど、たとえば先週まで私がいた社長室には、部下社員が鼻歌を歌いながら入ってきたりしていた(会場笑)。だから僕もたびたび激怒していたけれど、皆、なんとも思わない。今会場に来ている「ななつ星」チームの次長なんて、もう私に楯突くことを生きがいにしている(会場笑)。こんなだらしない組織が私の理想ではない。社長がひとたび何か申せば皆がぴりぴりとして1言も発しない、というのが私の目指す組織だ(会場笑)。

あと、25年間持ち続けた思いの源ということで言うと、僕が極めて寂しがり屋ということがあると思う。だから、寂しい人を見ると元気にしたくなる。食べ物屋のときも大赤字で元気がなかったから、「それならば黒字にして元気に」と考えた。で、黒字化できたら「次は東京へ行こう」と。夢を語ることで元気にしていった。5年前の九州新幹線全線開業で、鉄道事業を手がけるJR九州としては最大のプロジェクトを成し遂げた。だから、たとえば鉄道以外の不動産開発などはまだ残っているけれど、鉄道事業自体では大きなプロジェクトがなくなっていて、次に目指すものがなかった。あとは合理化や効率化だけ。でも、それじゃ寂しい。報道では、「JR九州は鉄道以外の事業でも頑張っている」と言われるけれど、実は鉄道部門の人たちがそのたびに寂しい思いをしていた。だから彼らに夢を持たせたかったし、自分自身も持ちたいと。「それならオリエントエクスプレスぐらいやってもいいじゃないか」と。それが原動力だったと思う。

水戸岡:デザイナーである僕の仕事は、トップの横にいて何かを申すことではない。唐池社長が思っていることにぴたりと寄り添ったデザインをするというか、発注者に対して見事にヒットさせ、さらにはそれをお客さまにもヒットさせることだ。社員ではない以上、ヒットを打たないと僕たちはいつクビになるか分からない。だから、できるだけお客さまにファンやサポーターがついて、お客さまの利益が上がる方向に進まないと続かないし、いつもそれをやってきたつもりだ。以前はデザイナーとして美しいデザインを追求していたけれど、僕は唐池社長と出会って価値観が変わった。「美しいデザインということじゃないんだよね」と。「もちろん使いやすさも大事。けれども、やっぱり人生が楽しいのは笑いと笑顔があるから」という風に、価値観が変わっていった。だから電車も笑いと笑顔が生まれるような空間でないとダメだと思っている。私は今、「笑顔と笑いが生まれるデザイン」をテーマに掲げている。これは一般的なデザイナーからするととぼけた話だけれど、やっぱり人間が幸せになるには笑顔と笑いしかない。

そこに向かってどれだけ計算して手間隙をかけていくか。JR九州は昔から赤字だったから、もう失うものはないという人がたくさんいた。「だから水戸岡さん、思い切りやってください」と言うわけだ。ただ、そこでリーダーが後押してくれないと、私にはできない。僕たちデザイナーにとって大事なのは…、今日は偉そうにお話しをしてしまっているけれども、本当は、名脇役としてどこまで演技できるか。主役、名脇役、小道具、大道具、舞台装置、照明、そして音楽と、あらゆるものが総合的に混ざり合ってひとつ演劇を完成させる。今回もひとつの映画を作るようなプロジェクトだった。それが最初は分からなかったけれども、列車が完成にさしかかる頃、ようやく気付いた。だからずいぶん苦労したし、今考えるともう少し上手に、皆にも苦労をかけないでもっと素晴らしいものができたかもしれないと思う。質問に答えられていないが、そんな気持ちがある。

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田久保:お二人は普段、どのようにコミュニケーションを取っているのだろう。

唐池:哲学というか方向は一致していると、人には言われる。けれどもよく考えてみると、たとえばちょっとした1言から、僕は先生の考えを盗んでいる。水戸岡先生がデザインで大事にしているのは整理整頓だ。以前、「この駅はもうちょっと美しくしよう」「ここはちょっと手直ししよう」なんていう話をしながら、一緒にローカル線の各駅を周ったことがある。そのとき私は、デザイナーである先生はもっと華やかなデザインや装飾目指すのかなと思ったら、違っていた。余計なものをすべて取り去っていく。「デザインというのはこれなんだ」と。新しいものや綺麗なものをことさらプラスするのでなく、まずは不要なものや汚いものを取り除けばいいということだ。それでゴミ箱も次々撤去したし、汚いポスターも剥がしていった。すると、それだけでローカル線の小さな無人駅が見違えるように蘇った。だから、それ以降、さも自分が考え出したかのように、「大事なのは整理整頓なんだ」と言い始めた。そういったことまで考えてみると、どうも先生の一言一言が僕のその後の言動に影響していると感じる。一致しているように思われるけれど、実は私が同じことを言っているだけで、オリジナルは先生になる。

あと、冒頭で言いそびれたことをもう1つだけ。「氣」を集めることが1番大事だと申し上げたが、そのために4つの原則があると、僕は常に言っている。1つ目は、動くこと。特に、空気を動かすことを考えなきゃいけない。森を歩いていると虫が集まってくるのと同じで、空気が動いているところに「氣」が集まる。また、動く際はスピードとキレを大事にする。これはお店も一緒だ。そして2つ目の原則は、明るく大きく元気な声。挨拶や業務上の打ち合わせを、ひそひそして行ってはいけない。低いトーンの暗い声もダメ。明るく大きく元気な声で「氣」が集まる。で、3つ目は隙を見せないこと。とりわけ、お客さまに隙を感じさせない。「この会社は隙だらけだな」と思わせないような、動物が獲物を捕まえるときのような緊張感が「氣」を集める。そして4つ目が貪欲さだ。「あと1つ」「もう1人」と。もう1歩自分を成長させたいという、あるいは野球選手であればもう1cmグラブを伸ばせばボールが捕れるという、その貪欲さが不可欠だ。動きと声と緊張感と貪欲さ。これを習得すれば「氣」を集めることができるし、必ず成功する。

田久保:そろそろ時間となった。では水戸岡さんのほうから、将来のリーダー、あるいはすでにリーダーである800人の方々に、最後のメッセージをいただきたい。

水戸岡:立派なことは言えないけれど、最近読んだ本に書いてあったことをご紹介したい。「過去のことも未来のこともあまり考えず、今生きているその瞬間に全力投球すれば、きっと素晴らしい人生が来るし、過去の反省点も自然と解決する」というものだ。では、今を全力で生きるためにはどうすれば良いか。気力・知力・体力、そして常識・良識・美意識を身に付けないといけない。唐池さんがいつも言っている哲学・歴史学・経済学も必要だろう。たくさんある。それを身に付けた結果として私たちにとって最も大切な、人々が平和になるための豊かなコミュニケーションが生まれるのだと思う。僕たちは、そこに笑顔が生まれるような豊かな対話を実現するために生きている。ぜひ、笑顔と笑いの生まれる人生を皆でつくっていきたい。頑張ってください(会場拍手)。

田久保:今日はありがとうございました。お二人に盛大な拍手を(会場拍手)。

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