GMO・熊谷氏×小泉進次郎氏×DeNA・南場氏×サイバーエージェント・藤田氏 「起業家が生み出すイノベーションが世界を変える」 

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講演レポート

堀義人氏(以下、敬称略):大いに盛りあがったG1ベンチャーも、いよいよ最後のセッションとなった。この全体会は、政治家の代表、そして起業家の錚々たるメンバーとの議論になる。テーマはイノベーションだ。これからのイノベーションがどうあるべきかを皆で考えていこう。先ほどの教育セッションで、ベネッセの森安(康雄氏:ベネッセホールディングスインキュベーションセンター、EdTechLab部長)さんは、「小学校1年生が大学を卒業して就職する際、彼らの65%以上は、彼らが小学校1年生の時点で世になかった職業に就く」と仰っていた。65%がその十数年の間生まれた新しい職業に就く訳だ。では今後10〜20年後、どういった職種や業種が新たに生まれ、どういったイノベーションが起こり得るのか。小泉さんには、そのために政治家としてどんな努力をすべきかというお考えも伺っていきたい。では早速、藤田さんから。(00:02)

30001 藤田 晋氏

藤田晋氏(以下、敬称略):事前に堀さんからその質問をいただいて、普段その視点で考えたことはなかったのだけれども改めて考えてみた。今、我々の事業を考えるうえでも一番注目しているのは、働き方の変化だ。たとえば本会場にもお越しいただいていると思うが、今はクラウドワークスやランサーズといった会社が日本でもすごく頑張っている。まったく新しいベンチャー企業ということで、今はその業態自体を根付かせるのにすごく苦労している時期だと思う。ただ、10年後はそうした会社が社会的インフラとして大変重要な位置づけになっている可能性が十分あるのではないか。(01:26)

今はどちらかというと求人を探すインフラというか、プロジェクト単位で企業が発注した仕事を見つける形だ。ただ、それがさらに進むと、登録された人々の技術や能力あるいは経験から企業側が選ぶようになる。また、企業と言わずプロジェクト単位で、たとえば「自分は営業部長ができる」「自分はリーダー役をこなせる」といった人々を選び、それでプロジェクトを組成させるようになると思う。そうした働き方を選ぶ人は今後増えていくと思うし、それに伴ってクラウドファンディングも伸びるだろう。我々も今はそれをやっている。先日はそれで3000万を集めた男性化粧品の会社もあった。(02:36)

堀:藤田さんがご活躍している業界ではどうだろう。(03:45)

藤田:我々は、たとえば当初から堀江(貴文氏:SNS株式会社ファウンダー)さんと「サイバークリック」や「クリックインカム(現melma!)」といったサービスをつくり、個人のサイト運営者も収入を得ることができる仕組みづくりに取り組んでいた。Amebaブログ(以下、アメブロ)も、当初からブログでアクセスを集めたら広告収入を一部還元するビジネスモデルだった。今は芸能人や著名人もアメブロをやっていて、一部では広告収益や物販の収入をシェアするモデルもある。当然それは事務所とシェアされるけれど、たとえ事務所に頼らずとも月収1000万を超える著名人も出てきた。堀江さんも超ローテクの有料メルマガで収入をあげているとよく言っているけれど、そうした広告収入等で個人が収入を得ることができる形になると思う。それらに加えてクラウドソーシング等、今は収益機会がいろいろと増えてきた。従って、今は大企業も副業禁止というところが多いけれど、副業を認めない会社は人気がなくなっていくというか、もっと自由に働くことのできる環境を個人が選びはじめるのではないかと思う。(03:54)

30002 南場 智子氏

南場智子氏(以下、敬称略):私はヒューマンなものというか、精神的なものが見直されていくトレンドが一つあると思う。働き方が変化という今のお話がまさにそうだけれど、たとえばアメリカにはオフィスを持たず、世界中のベスト・アンド・ブライテストを集めてチームを組成する会社もある。当然、そうした方向性はどんどん進んでいくと思う。ただ、それでオフィスがないぶんコストが安くなるかと思いきや、顔を合わせないが故に社員が大変不安になるそうだ。それでカメラクルーを雇い、世界中に散らばる従業員の仕事ぶりをすべてビデオに納めて皆で共有しているという。あるいは「あなたの知らないところでミーティングはやっていません」と言うため、すべての会話を透明にするような仕組みを急ぎ構築したりと、逆に随分コストがかかるそうだ。(06:03)

これ、人間の性だと思う。世の中が便利になって、どこでもすべてができるようになるという状態から、今度は繋がりや温もりというものの大切さがクローズアップされてくるのではないか。今は大変便利になって、たとえば私のような人間は移動の際もゲームは見るわ、ニュースは見るわ。しかも、そこでは能動的に求めるニュースしか入ってこないから、電車内でぼうっと中吊りを見るなんていうこともなくなった。テレビも同じだ。昔はザッピングをしていたけれども今は2週間分をすべて録画して、そのなかで自分が観たいものだけをピンポイントで観る。スポーツ番組はコマーシャルが多くて厄介だから30分遅れで録画したほうを観はじめ、コマーシャルをどんどん飛ばすと最後はだいたい試合終了時点でリアルタイムに追いつくと(会場笑)。とにかく、そんな風に時間を効率的に使いたい私にとって極めて便利なパラダイスになった。しかし、それと同時に、なんというか…、すごく肩が凝る世の中になってきた。(07:23)

人間のオーガニックな感覚と乖離したスピード感ができてきた訳だ。そのスピード感とどのように折り合いをつけていくのか。そのあたりがビジネスとして注目されていくと思う。思えばジムだってそうだ。昔は皆、農作業や狩りで体を使っていたのに。今の人間のあり方を猿が見たらきっと笑うと思う。すごく便利になって、電車や車やタクシーで移動して、それで大事な休日にジムへ行って体を使う訳だ。そういう、便利になっていくが故に満たされない人間としての根本を満たすような、そんなサービスが事業化され、そこに高い価値がつくのではないかなと思う。(08:40)

堀:ビジネスモデルとなると、どういった形になるだろう。(09:41)

南場:今ね、考えながら喋っていたのでまったく(会場笑)。ただ、私は1990年代にインターネットが台頭してきたとき、多くの人と同様、胸が高鳴るようなものすごい高揚感を得た。どういうことかというと、「パワーシフト」。たとえば不動産購入や病気の治療は、その当事者である私や私の家族にとって、重要な意思決定事項だ。しかしどうしても病気の情報であればドクター、不動産情報であれば不動産屋さんのほうが圧倒的に多くの情報を持っている。その非対称性をひっくり返すというか、解決するということで当時はパワーシフトという言葉が使われ、インターネットがすごく期待されていた。(09:44)

それからもう20年が経った。ではどこまで進んだのかというと、私も不動産を購入して家を建てる、あるいは家族が病気になって治療するということがあった。そのための情報収集も大変効率的になった。ただ、ドクターと向き合ったとき、やはり命を人質にとられているようで、「いえ、この治療じゃなくてこちらのほうを」とはなかなか言えない。不動産についても、不動産屋さんほど情報を集めることができている訳ではない。本当に大事な意思決定の段階で、それをサポートするところまでまだ来ていない。それが一つの大きなビジネスチャンスとして残っていると、私は考えている。(10:44)

どうだろう…、1990年代に私が思い描いたビジョンからすると、道2合目ぐらいなのかなと思う。残りの80%はビジネスチャンスだ。私としてはそうした、いわゆるサイエンスの進歩をいち早く消費者に伝えていきたい。そして消費者の健康で賢い消費活動を能動的にサポートするような、そんな事業を考えていきたいと思う。(11:29)

30003 熊谷 正寿氏

熊谷正寿氏(以下、敬称略):インターネットの事業をはじめて約20年が経ったが、最近、未来についてひとつの気付きがあった。アップルが「iWatch」というものを出すらしい。そのプロモーションビデオで紹介されていた操作方法を見ながら、「これ、どっかで見たことあるぞ?」と思った。以前、近未来を舞台にしたトム・クルーズ主演の映画で見た場面だった。それで思った。今はグーグルをはじめいろいろな企業が、たとえばシリコンバレーで新しい試みをしている。それは子供の頃に観た映画のイメージが起業家のなかにあって、彼らはそれを実現しているのではないかと気付いたときがある。人は想像できる範囲でしか物事を実現できないから、その意味では当たり前だけれど、とにかく、「あ、起業家は皆、子供の頃に観た映画とかが原体験になっているんだな」と。『スター・ウォーズ』や『スター・トレック』や『2001年宇宙の旅』で観たイメージを実現しようとしているのだと感じた。(12:03)

僕は1995年にプロバイダ事業を、1997〜1998年にサーバーやドメインの事業をスタートさせた。それで今はいろいろな仕事をしているが、ベースとしてはWEBのインフラ事業をやらせていただいている。顧客件数は数百万になった。何故、1997〜1998年当時に事業の軸足をWEBのインフラに移そうと思ったのか。きっとプロバイダ事業は人口の上限で競争が激しくなって、それ以上は増えない。だから永遠に増え続けるであろうインターネット上の情報を増やす側の仕事にしようと思ったのがきっかけだ。(13:39)

15〜16年経った今もその気持ちはまったく変わっていないどころか、うちの営業数字を見てみると、情報が増えるスピードは年々加速している。単価が下がっているから件数ほど売上の伸びは目覚しくはないけれど、情報量が増える兆しは確実に出ている。信じられないと思うが、今、私どものグループに登録されるドメイン数は1日8000件にのぼる。ドメイン数に対して20〜30%のサーバーが必ずクロスセルされるから、1日に500〜1000件ほどのWEBサイトが増えていることになる。これはものすごいことだ。それが年々加速している状況にある。(14:26)

今、インターネット人口は約70億という世界人口に対して20数億だと思う。ただ、今後は発展途上国あるいはアジア・アフリカ諸国において、10億人単位でその人口が増えていくだろう。また、それでインターネットに繋がった人が今の環境に留まっているかというと、そうではない。恐らく電気が繋がるものすべてにネットが通じるだろうし、さらにはペットや植物にもネットが通じる時代が来るのではないかと思う。そうなると、まずインターネットに繋がっている人が20数億人から30〜40億人。で、さらに70億人という人口を超えて電気が繋がっているものすべてに繋がるとなると、数百億件ということも近い将来は起こりえるのだろうと考えている。(15:23)

加えて、今は個人がWEBサイトを見る等の1to1コミュニケーションだけれども、今後はもっと横の繋がりが出てきてコミュニケーションの数は指数関数的に増えていくと思う。そんな環境から生み出されるイノベーションにはすごいものがあると思う。今、僕達の考え得るイノベーションは1対1のインターネットという繋がりのなかで起きている。けれども将来は電気が繋がっているものすべて、あるいは私達の体も含めて命の繋がっているものすべてとネットが通じる。そのなかで、それこそワンちゃんの小屋や鳥小屋あるいは農場といったさまざまなところで、そこに関わるベンチャーがイノベーションを起こしていく未来が来るのではないか。(16:42)

堀:本セッションに登壇いただいている起業家の皆様はネット系の方々だが、他セッションで議論されてきた教育やメディアあるいはeコマースといった分野でも変化は起こっていく。今後はロボットの活躍や無人化といった話も進むだろうし、iPS細胞に代表されるようにバイオの世界でもイノベーションが次々起きるだろう。甘利明大臣が全体会でおっしゃった通り、農業のIT化もある。あらゆる面で劇的変化が起こると思う。その担い手が起業家だ。今はシリコンバレーが世界の中心というような形になっている。しかし、今後は日本のプレイヤーが10〜20年後をしっかり見据えたうえで、起業家としてがんがんイノベーションを起こしていく必要がある。そうすれば、マンガボックスのように日本の強みを生かすことのできる分野も増えてくると思う。(17:59)

そこで小泉さんに伺っていきたい。僕も政府の委員会にいくつか参加させていただいているが、その度、お見かけするのが小泉さんだ。まさに司令塔の中枢にいらっしゃる。そんな小泉さんに、10〜20年後、日本がベンチャーで世界に冠たるものになっていくために「政府はこうあるべきだ」というお考えをお聞きしたい。(18:57)

30004 小泉 進次郎氏

小泉進次郎氏(以下、敬称略):10年後のことが分かる訳はないけれど、分からないからこそ国の力や規制をもっと緩くしなければいけないと思う。これは、アメリカと日本で国の成り立ちを比較するとすごく分かりやすい。アメリカは中央政府の力をどうやって弱めるかということで成り立ってきた国だ。しかし日本の場合は明治維新以来、どのように国の力を集約して中央集権でやっていくかということで成り立ってきた。そうした環境下で、やはりまだまだお上頼みのような状況が続いている。常に国の動きを見て、政治家や行政には文句を言うけれども最後は政治頼みだったりする。それをいろいろな分野で変えていかなければいけないと思っている。(19:22)

たとえば、「日本のマチュピチュ」と呼ばれている竹田城。あそこは観光地として人気が急上昇していて、今は「子供たちも来るし、危ないから安全柵をつくろう」という話になっている。何故、そんなものをつくっちゃうのか。リスクがあることを分かって行くんだから。そこで転ばないよう手を差し伸べる必要が本当にあるところと、そうでないところを分けないといけない。リスクの中身にもよるけれど、日本はもっとリスクテイクできる社会にする必要があると僕は思う。身の周りにあるリスクをどんどんなくすという発想から、そうしたリスクをどう乗り越えるかという発想に変えなければいけない。竹田城で安全柵をつくってしまったらそれまで守ってきた景色等が失われる訳で、そのトレードオフをどう考えるのか。そういう議論が何故大きくならないのかと思う。(20:12)

グランドキャニオンに柵のない場所は多い。でも落ちたら死ぬ。それを分かって行く訳でしょ?日本社会をどう変えていくかを議論するうえで、「民間の世界で何が売れるのか」、「10年後の働き方はどうなるか」、「10年後に伸びる産業は?」といったことが分かっていたら、この20年間の停滞はなかったと思う。分からないからこそできる限り民間の発想が生かされるような環境整備を、国がしないといけないと思う。(21:27)

そのために残された時間はあと7年だと僕は思っている。僕が心配なのは2020年のオリンピックとパラリンピック後だ。日本人はお祭りが大好きだけれど、お祭りが終わったとの独特の寂しさ(会場笑)、…分かりますでしょ?皆でバーベキューを楽しんだあとの、あの道具を洗っているときの「楽しかったけど、これ、大変なんだよな」という、あの感覚。2025年には団塊世代が皆、75歳以上になっているし、人口減少だって急減という言葉のほうがぴったり来るようになっている。とにかく、今分かっている課題がすべて、もう無視できないようなフェーズに入るのがオリンピックとパラリンピックのあとだと思う。それらの課題をどう解決するかということで、僕を含めたここにいる世代であらゆる分野で頑張らなければいけないと思う。(22:02)

ただ、僕は意外に悲観していない。今まで避け続けてきた課題に関して、もう避けることができない状況に我々の世代が直面するというのはチャンスだ。いずれ日本の歴史に残る。それらの課題を解決して、次の世代に「あのときの日本人は頑張ったな」と思ってもらえるように頑張らなければいけないのが今の時代だと認識したい。そのためにもできる限り民間に任せて、北海道から沖縄まで、日本全国で新しいものが生まれてくるような環境をつくるのが国の役割だと思う。「これが成長産業だ」、「この分野が伸びる」と言うのは国じゃない。そういう発想で政治は変わるべきだと思う。(23:12)

30005 堀 義人

堀:分科会のセッションで、栗城(史多氏:株式会社たお代表取締役、登山家)さんは「ベンチャーもアドベンチャーも一緒だ」と仰っていた。僕らベンチャー企業家も、「未知の世界に行ってみたい」という気持ちに突き動かされてリスクをとっていく訳だ。特にITの世界は変化が大変激しく、留まっているのは基本的に衰退しているのと一緒だと思う。そこで壇上の皆様にもう一つ質問したいのだが、今はどのようなイノベーションを起こそうとしておられるだろう。グローバルの新たなフロンティアに向けて、「今はこれをやっている」ということが何かあればお伺いしたい。(24:13)

熊谷:何をやっているかと言えば、まあ、すべてにおいてある意味でイノベーションを目指しているし、すべてにおいて淡々と進めている。僕は「商い(あきない)はあきない」という言い方をしている。駄洒落ではなくて、「商売は飽きないこと。飽きたら駄目だよ」と、いつも言っている。で、足元の事業に関して言えば、とにかく、「他産業あるいはインターネット事業を手がけている他社と同じことをしていたらイノベーションも起きないし、お客様にも見放されてしまう」と、社内でいつも言っている。「だから、ありとあらゆる面で違うことをやろう」と。併せて、スピードが一番大事ということも強く言っている。あらゆる点でスピードが大切。そのためのイノベーションを経営にプログラムしましょうということで、小さなことから大きなことまで、常にスピードを上げる努力をしている。それが結果としていろいろな改善や足元のイノベーションに結びついて、今の我々があるのだと思う。現実的な経営の話になってしまうが、そんなところだ。(25:06)

小泉:壇上にいる役得で御三方に一つ伺ってみたい。イノベーションという言葉を日本語にするとしたらどうなるのだろう。僕は今、甘利大臣の下、内閣府の政務官としてイノベーションの議論にいろいろと関わっている。そこでよく「イノベーションを日本語にどう訳すか」という話になるのだけれど、今、そこで一番多い意見は「技術革新」だ。しかし、これからはものづくりや技術以外に、新しい発想でサービスを生み出していかなければいけない。そのためにも、誰もが「イノベーションとは何か」を正確に認識する必要があると思っている。イノベーションを生み出すのはスティーブ・ジョブスや本田宗一郎あるいは松下幸之助といった一部の人だけでなく、「誰でも気付けば生み出すことができるんだ」といった発想を浸透させたい。それで甘利大臣や山本(一太氏:内閣府特命担当)大臣に、「イノベーションの日本語訳を公募してはどうでしょうか」と申しあげたことがある。今のところ僕のなかで一番しっくり来ているのは「創意工夫」だ。ただ、創意工夫だけでなく、創意工夫で新しい価値を生み出すことがイノベーションだと思っているのだが、御三方にその辺をお聞きしたいと思っていた。(26:33)

南場:該当する日本語というと難しいが、ご指摘は私も強く感じている。たとえばビデオカメラの世界はかつて日本のお家芸ということで強いプレイヤーがたくさんいたが、一時は右肩下がりになっていた。最近V時回復をはじめたけれど、それを担っているのは「GoPro」のようなアクションカメラ的製品だ。これはどういうことか。かつて非常に強かった日本のメーカーは、画素数をはじめとした極めて技術的な領域で革新を起こそうとしていた。それに対して、単にカメラをどこかに装着し、撮影した映像をYouTubeにアップすることに特化したような製品がつくられた訳だ。それで、えらいシェアを伸ばしている。同じことはカーナビにも言える。iPhoneや各種インターネットサービスと呼応した製品・サービスに、我が国のカーナビーカーは苦戦を強いられている。車も同じだ。「このままだとトヨタもグーグルにやられちゃいますよ」と。(28:07)

今シェアを伸ばしているのは、基本的にはそういったアイデアとEMS(ElectronicsManufacturingService)の組み合わせで生まれたものだ。たとえば台湾のEMSとネット上のアプリやサービスを、アイデア一つで組み合わせる。そういうものが、真剣にストイックに技術を極めている日本のメーカーをまくっている。そこでイノベーションの捉え方が技術革新とだけ言われていくのなら、技術革新ばかりを追い続ける日本の製造業は今後もしばらくまくられ続けると思う。そこで「創意工夫」と言えばいいのか…、とにかくイノベーションを起こすのであれば技術に拘っていたら駄目で、要は「ちょっとした工夫」「ちょっとした発想」。すでにあるものを賢く使い、ユーザーに寄り添うことだと思う。そのためには、今まで競争の軸であったテクノロジーの指標から思い切って離れてみるという発想も必要なのだと思う。(29:27)

それと現在目指しているイノベーションに関しては…、今我々が取り組んでいる新規事業の話は一切できないけれど(会場笑)、私としては組織のイノベーションを起こしてみたいと思う。これは守安(功氏:株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役社長兼CEO)にも十分に相談したいところだ。たとえば先ほど藤田さんが仰っていた通り、これからは働き方が変わる。また、私自身もこの立場でアントレプレナーシップの大切さや起業の促進ということを社会的にもずっと言っているし、実際、我が社は起業家精神が大変旺盛な若者を採用している。私はDeNAというチームが大好きだ。ただ、我が社をざくろだとすると、それを裏返し、アントレプレナーシップの粒々がもっと外に出ることでDeNAが発展し、同時に社会でイノベーションを起こしていくような組織のあり方がないものかなと思う。すごく難しいが。(30:45)

たとえば本会場には飯尾(慶介氏:株式会社みんなのウェディング代表取締役社長)さんもいらしている。みんなのウェディングは当社事業からMBOしてもらって、それで大成功したものだ。DeNA内部にいたらここまで来なかった。同様に出たり入ったりしながら、あるいは会社のなかでも同じように、成功できる組織の形があるかもしれない。特定の解がある訳ではないし、なかで頑張っている人と外に行った人のバランスも考えなければいけないのでとても難しいとは思う。ただ、一つの組織にかちっと属したまま成功を目指し続けるという、今までの組織とは異なるイノベーションの形を、組織体として実現したい。(31:51)

藤田:イノベーションの意味が創意工夫であれば、すごく平和でいいなと思う。ただ、僕は感覚として、「何かを新しく生み出すことによって、何かがいらなくなるもの」がイノベーションだと理解している。後半の「何かがいらなくなる」という言葉がセットになって初めてイノベーションと言えるのだと思う。その意味で言うと、何かをいらなくするような事業を行おうとすれば、やはり日本社会では既得権益の強烈な抵抗を受ける。だからこそ、小泉さんが冒頭にお話ししていた「もっと国の力を弱めて、規制緩和を進めたい」というお話も非常に大変なのだと思う。(32:40)

我々の会社は創業してから15〜16年間、極力既得権益がなく、まだ誰もやっていないような新しい分野で事業を進めてきた。ブログのようなサービスにしてもインターネット広告にしても、イノベーションというより、まったくのゼロから新しい需要を創出するということでやっていこうと。集まってくる人材に関しても同じことが言える。既得権益を一緒に持ってきそうな年配の人を会社に入れるのでなく、僕より年下を中心に、新しい産業を新しい力で起こしていくという形でやってきた。ただ、今まではそれでなんとかやってきたけれど、次の成長について考えるとやはり既存分野に参入していかないと規模のうえでも限界が来ると感じている。(33:28)

先ほどは「いかに起業家がリスクを取るか」というお話もあったけれど、既得権益の大きさを大中小のように分けるとすると、大というだけで大変なリスクだと思う。医療や農業に関して言えば、もうそこに参入するだけでリスクと捉えてもいいほど既得権益が強い領域だ。従って、できるだけそうした権益が緩やかなところを狙っていく。そのなかでイノベーションと言えるような新しく魅力的なサービスを生み出し、もっと便利な世の中にしていきたいと思う。(34:30)

堀:藤田さんから見ると、小泉さんは既得権益をぶっ壊してくれる立場にいらっしゃると思う。そこで、「これを壊して欲しい」といったものは何かあるだろうか。(35:06)

藤田:はたから見ていて思うのだけれど、郵政一つ変えるのに解散までしなければいけなくて、やっとの思いでそれを変えてもまた元に戻ってしまうと(会場笑)。政治というのは本当に変えられないんだなと思う。新しい産業と新しい会社でのびのびやってきた僕からすると、気が遠くなる大変なことをやっていらっしゃる。先ほど「すぐお上に陳情するような会社が日本には多い」というご指摘もあったけれど、やはりベンチャー企業はそうあるべきではないと思う。あるとすれば、「変な規制をつくらないでいただければ」という程度だ。むしろ、ベンチャー企業や起業家が応援してもらえるような社会をつくってくださったら、そのほうがよっぽどプラスだと思う。細かい規制の話をしてもきりがないし、とにかく応援していただければそれだけで嬉しい。(35:27)

小泉:つまり「邪魔するな」と(会場笑)。(36:20)

藤田:それはもちろんだけれども(笑)。(36:22)

堀:「邪魔するな」以上のことだと思う。(36:25)

小泉:実は昨日、「日本マイクロソフトの働き方が新しい」ということで、総務大臣政務官と本社オフィスへ視察に行ってきた。すると、オフィスではデスクが固定されておらず、机には引き出しもない。どの机を使うかは、出社したその日の気分で決めたらいいという訳だ。もちろん一部には固定の席もあるけれど、他は自由。だから一日の仕事が終わったら机をすべて綺麗にして、次の日は誰が座るか分からないような状況になる。プリンタも100人に1台。元々プリントアウトしなくても仕事が回るからそうした働き方になるのだけれど、「あ、すごいな、こんなに変わってきたのか」と思った。ただ、そう思いながら最後に気付いたのだけれど、経済産業省がそのオフィスに「(日経)ニューオフィス賞」というものを授与している。少しがっかりした。ニューオフィスでもなんでもないところがニューオフィスということで賞をあげている(会場笑)。役所なんてニューオフィスから一番離れた、最も古いタイプの働き方をしているところだ。ベンチャー企業には、そうした表彰の話が来たらぜひ蹴って欲しい(会場笑)。(36:27)

30006

質疑応答レポート

堀:会場の皆様にもご質問やご意見を募っていきたい。(38:10)

会場(高島宏平氏:オイシックス株式会社 代表取締役社長):イノベーションは思いつくまでと思いついたことを実行する段階の二つに分かれると思うが、後者について伺いたい。組織が大きくなるに従い、発想した通りに実行するのが難しくなると感じている。モチベーションを高める報酬制度の改定やオペレーションの簡素化等、実行力を高めるために有効とお感じになっていることがあれば教えていただきたい。(38:28)

会場(為末大氏:一般社団法人アスリートソサエティ 代表理事):10年後や20年後、人間の幸福感が変わっていることはあるとお考えだろうか。「こんな風に変わっているのでは?」というお考えがもしあれば、教えていただきたい。(39:16)

会場(猪塚武氏:A2A Pte. Ltd. Managing Director):「危機感」に関して一つお話ししたい。日本人だけの日本語によるイノベーションは厳しいと、心から思う。今はイノベーションや起業というものが世界中でテーマになっていて、これまで競争のプレイヤーとして入っていなかった新興国の人々がイノベーションを起こすようになるまであと10年といった状態だ。今の議論だとそこに勝てないと感じる。たとえば、皆さんにとって大事な人々のなかに月収1万円の人はいるのだろうか。そういう人々を幸せにしようというところからイノベーションは起こると思う。ただ、そういう人々を家族に持つメンバーを入れると英語でなければ厳しいと思うので、ぜひ、そういうことを考えていただきたい。(39:38)

会場(岡島悦子氏:株式会社プロノバ 代表取締役社長):イノベーションを起こし続けるのは大変難しいと思うし、そのためには組織にゆらぎのようなものが必要になるのかなと思っている。次々と新しいものを生み出している御三方が、たとえば「異能な人」や「少し居心地が悪いな」と感じるような人達を組織に入れていく努力をもしなさっていたら、その辺について教えていただきたい。(40:46)

会場(平将明氏:自由民主党副幹事長/情報調査局長、衆議院議員):藤田さんがおっしゃるように、働き方を変えていかないとベンチャーはなかなか生まれてこないと思う。そこで今何ができるかと考えてみると、やはり副業・兼業を認めてあげることだと思う。ただ、大企業は就業規則があってほぼ駄目だ。そこで(経済同友会のベンチャー創造委員会委員長である)堀さんには、ぜひ経済同友会でそうした働きかけをしていただければと思う。経団連のほうは難しいので世耕(弘成氏:内閣官房副長官)さんにお願いして、賃金上昇に言及されたときと同様に総理から副業・兼業に関して言及していただけるようにしたい。それで新しい企業を次々生み出し、新陳代謝を進めるようにするというのが今できることではないか。(41:11)

会場(樹林伸氏・作家):出版社を例にとると、たとえば結果を出した編集者が編集長となり、そして役員になっていく。で、役員になれば「営業が云々」ということでいろいろとお付き合いも出てくる。けれども、編集者としての能力と営業マンや経営者としての能力はまったく関係がない。出世することで仕事の内容そのものが、才能の向き不向きに関係なく変わっていくような日本の組織を変えていかないと、世界では通用しないのではないか。そうした組織のあり方についてどうお考えだろう。(42:09)

会場(漆紫穂子氏:学校法人 品川女子学院 校長):(自身が校長を務める品川女子学院を)女性起業家が数多く輩出されるような学校にしたいと思っている。そのために、「中高生が今のうちにやったほうが良いこと」、あるいは「今やってはいけないこと」として思い浮かぶものが何かあれば、ぜひ教えていただきたい。(43:01)

会場(紺野俊介氏:株式会社アイレップ 代表取締役社長CEO):企業の成長過程で内部に生まれた既得権益にはどのように対応していくべきか。また、将来は自分たちがそのときの起業家にとって新たな既得権益者になっている可能性もあると思うので、その点についても考えをお聞かせいただきたい。(43:16)

30007

熊谷:まず小泉さんのご質問について申しあげると、私は「創造的破壊」だと思う。現場感で申しあげると、「創意工夫」よりは激しい。僕は以前から、ビジネスの和訳は「仕事」でなく「戦(いくさ)」と言っている。ビジネスは「戦」、そしてイノベーションは「創造的破壊」というのが僕の現場感から来る考えだ。(43:38)

ではいくつかの質問にお答えしたい。まず、恐らく人間にとって幸福のあり方はこの先もずっと変わらないと思う。物事を達成したときの喜び、相手の笑顔を見たときの喜びというものは変わらないだろう。ただ、幸福に向けて割くことのできる時間は変わってくる。イノベーションが続いて面倒な物事がすべてITに置き換えられたら、自分たちがもっと幸せを感じるために時間を使うことができるようになるだろう。その意味で、イノベーションによって人はもっと幸せになることができると僕は信じている。(44:04)

それと「組織にゆらぎを起こす人々」について申しあげると、僕も周囲にはいろいろなタイプの方にいていただくようにしている。歴史を紐解いていくと、戦に勝った側にはやはり、猿飛佐助や服部半蔵ではないけれど、他の人々と少し違う人材がいた。大きくなればなるほど、そういう人材を周囲に置くことで組織が強くなると思う。(44:48)

南場:イノベーションの実行力について申しあげると、規模が大きくなるに従って現場に大幅に権限委譲することが、実行力を担保する重要な要素だと思う。そのためには、まずはそれができるような人材の採用からはじまると思うが。とにかく「これを達成しよう」と思っていざ実行してみると、企画段階ではまったく分からなかった新しい情報が次々と入ってくる。その都度トップにまで情報を上げ、そこで判断してからまた指示を降ろしているようでは実行力も著しく落ちる。ユーザーや競合あるいはテクノロジーといったことについては、現場で直接物事に触っている人間がその場で判断できるようにする。それが唯一、成功の方程式だと思う。(45:34)

あと、能力に応じた組織のあり方について申しあげると、エンジニアに関しても同じことが言える。非常に優秀なつくり手が昇進してマネージャーとなり、何人ものエンジニアをマネージしなければいけなくなるケースもある訳だ。しかし、たとえばユーザーが驚くような素晴らしいものをつくる能力と、10人の組織をマネージするスキルはまったく違う。従って、そこは本人の意向やスキルに応じて選択肢を設ける必要があると私も思う。また、マネジメントのキャリアが絶対に偉いというような、日本企業にありがちな概念もすごく邪魔臭い。たとえばグーグルには社長よりも給料をもらっているようなすごいエンジニアがいる訳だから。(46:39)

30008

藤田:イノベーションの閃きと実行力に関して言うと、今は会場に見当たらないけれど、たとえば堀江さんは前者だ。次から次に、思いついては口にする。僕はそこで「やってから言えや」と常々思っていた(笑)。組んでいたときも一生懸命やりきっていたのは僕(会場笑)。そのあいだに堀江さんは次のことを思いついていてわーわー言ってくるから、「くっそー…」なんて思っていた。彼とはじめた「7gogo」というサービスは非常に有望だと思うが・・・、やりきっているのは僕だ(会場笑)。「なにかこう、ラインみたいなものをやりたい」と、堀江さんがシャバに出てきて(会場笑)最初に言っていたことだ。そこで僕は「『comm』も失敗しているし止めようよ」なんて言っていた。ただ、やりきるのに一生懸命だと、今度はそういう熱意や推進力や閃きは失われていく。だから僕は堀江さんと比較的相性が良いと思うし、その意味では閃きとやりきる部分は分けたほうが良いのかなと。閃くだけの人と(会場笑)、やりきる人で。逆に堀江さんがいなかったら僕は前に進んでいなかったと思う。(47:33)

あと、僕も能力に応じた組織のあり方について一つ。記者や編集者の多くは局長や役員に昇格することを嫌がると思う。「デスクにすらなりたくない」と。テレビ局のプロデューサーも同じ。それで考えてみると…、少し話が逸れてしまうけれど、政府が今掲げている「2020年までに女性管理職を30%に」という目標は、少しピントがずれているように感じる。我々の会社には全従業員3000人の3割にあたるおよそ1000人が女性で、その管理職比率は15%。全国平均の10%より高く、欧米平均の4割より大分低いという状態だ。ただ、差別も区別もまったくなくて、女性はいきいきと働いている。管理職になろうという気は感じられないのだけれど、それでも本当に、たぶん女性管理職の割合が高い会社にいる女性よりもいきいきしていると思う。従って、今後は中間管理職がいらなくなる時代になっていく訳だし、「上を目指せ。管理職を目指せ。管理職比率を上げろ」という指針はもう時代遅れではないかなと。もっと現場でクリエイティビティや技術を発揮できるような社会にしていくべきではないかと思う。(48:56)

小泉:藤田さんが今おっしゃったことも一つ分かる気はする。ただ、政府が掲げている目標は、人口が急減する今後の日本で、どうやってより多くのプレイヤーに活躍してもらう社会をつくるかを考えるうえで、一つのメッセージになると思う。「“非”適材適所の人がそうしたポストに就くというリスクも踏まえつつ、それでも社会を変えていかなければいけない」と。従って、その過程でもし失敗があれば変えるときもあるだろうし、「とにかく変わるということに本気なんだ」という考えの表れだと思う。(50:26)

藤田:それならば、逆に楽天がやった英語化のように、強引な、もう時限措置の義務化といった形にするほうが良いと思う。普通にやっている限り、女性が管理職を目指していくような社内には、うちの会社を見ているかぎりは思えないので。(51:02)

小泉:そうであれば、たとえば国家戦略特区のような発想でなく、一気に全国展開させていく発想も必要だと思う。ただ、藤田さんが先ほど言ったように、残念ながら日本では物事ひとつを変える際に必要とされる政治的エネルギー、あるいはその際のリスクが大変なものになる。それならば、「まずは特例でもいいから切り拓いてみよう」ということではじめたのが国家戦略特区だ。これ、僕としては、将来は少し踏み込んで一国二制度のような発想に広げても良いと思う。「この地域で」と、手を挙げたら相当なところまで認めるということも一つの選択肢としてあるのかなと。そうすれば、自己責任が強く求められる厳しい環境であってもやってみようという人々が出てくると思う。まあ、先ほどの藤田さんの言葉を借りるとすると、政治がより必要なくなるということも一つのイノベーションかもしれない。(51:14)

堀:未来にはさまざまなフロンティアが広がっている。今日は、「イノベーションとは創造的破壊、あるいは何かを新しく生み出すことで何かをいらなくするもの」であるといったお話をはじめ、「スピードを持って商いを飽きずに続けていく」、「今後は人間味あるものが戻ってくる」等、いろいろなお話が出た。また、「政府はそれを邪魔しない」と。同時に、それらを変える勢いを皆でつけることが大事だと思う。いずれにせよ、イノベーションを起こしてさらなる成長を遂げていくのは、僕ら起業家の役割だ。起業家ががんがんに稼いで、がんがん成長して、多くの職を生み出し、そして世界に出て行こう。ということで、本セッションを締めたい。パネリストに盛大な拍手をお願いします。ありがとうございました(会場拍手)。(52:24)

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