武田薬品長谷川閑史氏×グロービス堀義人氏「日本経済の成長のために企業ができること」 

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「六重苦は解消されつつある。企業は企業で出来ることをまずやらねばならない」(長谷川)

長谷川閑史氏(以下、敬称略):今日は主に武田薬品工業(以下、武田薬品)が今どのようにしてのたうち回り、そして苦しみながら将来展望を開こうとしているかというお話をしようと思っているが、その前に一つ申しあげたい。私は今、産業競争力会議で民間議員を務めている。アベノミクス第3の矢は民間の投資を喚起する成長戦略ということだが、日本企業を取り巻く六重苦は現在少しずつ解消されつつある。まだ残っていると見るか、「これだけ解消して貰った」と見るか、捉え方はさまざまあると思う。ただ、その背景として産業競争力会議で確認されていることがあまり伝わっていないと感じられる部分がある。その点について冒頭で少し強調しておきたい。(01:14)

それは、現在の政策議論とその決定過程において傍観者はいないということだ。産業競争力会議のような場では、ともすれば政府に対して、「これをもっとやってください」といった話が数多く出る。それらがすべて実現すればそれに越したことはない。ただ、全体会で竹中(平蔵氏・慶應義塾大学教授/グローバルセキュリティ研究所所長[以下、肩書略])先生が仰っていた通り、安倍政権が発足して日本の株価は6割上がった。それが個人の消費主導による景気回復に大きく貢献している面もある。(02:19)

電力についても同様だ。今は原発問題があるから電力料金を下げる訳にはいかないが、2017〜2018年頃にはシェールガスが日本に入ってくる可能性も現実になりつつある。アメリカでは1BTU3ドル前後のものが日本では二桁にならざるを得ないだろうが、少なくとも現行より3割ほど安くなるとも言われている。そうした色々な努力をしていただいている訳で、企業は企業で出来ることをまずやらなければいけない。(03:03)

国内の雇用と賃金に責任を持つのは企業であるし、結果的にそれが税収増に繋がっていく。当然、私どものようにグローバル化を比較的進めている企業は国内だけにフォーカスする訳ではない。世界の成長地域に進出し、その国の成長を助け、人々の生活レベル向上に貢献しながら富の分配を勝ち取っていく。そうして持ち帰った富を税金として収めることで、今度は政府が国内第3次産業等の効率化・活性化に繋げていく訳だ。そんな良い循環をつくっていくことも企業の役割だと思う。(03:53)

ここで世界を新興国および先進国という枠組みで見てみると、2000年代初頭に新興国が創出していた経済規模は世界の1/4前後だったとされている。しかし2010年には約4割を新興国が創出するようになり、2020年頃には5割を超えるとの予測もある。それほど新興国の経済成長速度は圧倒的に早い。一方で日米欧に象徴される先進国は昨今色々な問題を抱えており、地域や国によって事情は異なるものの成長力の陰りが指摘されている。(04:57)

二桁成長を続けていた中国の成長率が8%台、そして7%台に下がったことで、今は「低成長だ」と大騒ぎになっているが、あの経済規模で7%以上の成長をすることすら驚異的だ。最新の7〜9月四半期では7.8%の成長率であったと記憶しているが、今後も中国が世界経済の成長をかなり牽引していくだろう。大きく言えば新興国が世界経済の成長を引っ張っていくのは間違いないと思う。(06:03)

当然、その背景には人口増がある。新興国の人口は増え続けている一方、多くの先進国では高齢化が進み、日本をはじめ人口減少に転じる国が出てきた。技術革新と経済成長の関係と同様、人口増と経済成長の関係も表裏一体だ。日本は1955年から1973年までの18年間、名目で二桁台、実質で一桁台後半の成長を続け、一挙に世界第2位の経済大国となった。その高度成長は人口の急速な増加およびテクノロジーの進歩と相まって起きたものだ。そう考えると人口が増え続けている地域や国にも、いずれ同様のテイクオフの時代が来ると考えておかなければいけない。(06:59)

また、2011年に70億を越えた世界の人口は国連の最新統計で2060年代後半から2070年頃、100億になると言われている。で、その増加分約30億のうち8割となる約20億人はアフリカ大陸で増えると言われている。もちろんアフリカにも色々な問題はある。ただ、今はジャスミン革命後に続くさまざまな混乱のなかにあっても、北アフリカではすでに一桁台後半の成長を続ける国が散見される。その流れは必ずサブサハラにも波及するであろうから、そうした地域も注視しておかなければならない。(08:09)

「ブロックバスターのパテント切れによる収益減を、企業買収や新興市場進出で埋めてきた」(長谷川)

では私どもが今どのようなことをやろうとしているか。世界の医薬品市場を見てみると、成長の7割以上が新興国で創出されている。世界全体の経済成長ではおよそ6割強が新興国から創出されており、医薬品産業ではそれがやや極端な形で出ている訳だ。日本の医薬品市場は世界のGDP比率とほぼ同じでおよそ8%を占めるが、新興国の比率がどんどん高まっている。従って成長地域に出て行ってマーケットとセールスのプレゼンスを確保し、国民のヘルスケアアクセスやクオリティオブライフ向上に貢献していく。そこで勝ち得た利益を日本に持って帰ってこなければいけない。(09:13)

ただ、残念ながら日本の製薬企業は大きな国内市場に恵まれ、アメリカという巨大市場への進出にもある程度成功し、そこで相当大きな利益を長い間あげていた。それでなかなか新興国に目が行っていなかった訳だ。私どもはそれを解決するためにさまざまな努力を重ね、一つひとつやっていくようなことも多少は試みた。ただ、金と時間がかかり過ぎて効率が大変悪く、結局は買収を戦略として選んだ形になる。(10:19)

それで2008年、バイオテックとして最も成功した会社と言われていたアメリカのミレニアム・ファーマスーティカルズという、がん製品に特化した会社を約9000億円で買収した。それでがん製品の強化を行ったのち、2011年11月にはチューリッヒに本社のあるナイコメッドという、新興国で大きなプレゼンスを持つ会社を買収した。(10:55)

それによって製薬企業で「2010年問題」と言われていた、いわゆるブロックバスタープロダクトのパテント切れによる売上・利益の大幅減を解消する目処をある程度はつけた。売上については落ち込むことなくパテント切れを乗り越えることが出来たと。一方で自社のブロックバスターに関して言うと、粗利益率9割超といった製品がパテント切れになることで、アメリカではわずか数カ月で2000億〜3000億の売上が利益とともにふっとぶという、極端な状況になっている。それを新興国等で置き換えるにしても利益率の格差はいかんとも埋め難い。従って、昨年は営業利益で底を打つような、しかも当初発表していた金額が未達に終わるような状況となってしまった。(11:26)

で、我々はそうした大型買収から何を学んだか。我々は当初から買収した会社の事業モメンタムを減速させないことを最優先して物事を判断していくと決めていた。しかし残念ながら日本本社が本社としてのリーダーシップやガバナンスを実行出来る状況になっていなかった。統率が必ずしも十分に取れないと、結果として感じた。(12:32)

それをどう修正していくか。日本人を叱咤激励したところでなかなか急には変わらない。従って会社のキーファンクションについてはグローバルスタンダードな人材をどこからでも良いので採ってくるということをはじめた。今年5月にはグローバルHRのヘッドを、9月にはCFOを採用した。また、CPO(チーフ・プロキュアメント・オフィサー)やCIO(チーフインフォメーションオフィサー)も年内には外国人が着任する。そうした動きで本社のリーダーシップを確立し、ガバナンスを効かせていこうとしている。(13:09)

また、今は大きな戦略目標として、事業のあらゆる面でグローバルな競争力を持つ会社にするということを掲げている。具体的には、まずは人材に関して先ほど申しあげたようなことを加速させることになる。また、それらのロールモデルを見て、「あんな風になりたい」と考える日本人を出来るだけ後押しし、成長の手助けをしていく。(13:53)

経営の質に関しても同様だ。我々の利益率はノットブロックバスターモデルに変わったことで大幅に低下した。製薬業界における営業利益率の基準は売上の25%前後だが、我々は昨年…、昨年で底を売ったと考えているが、10%を下回ってしまった。それを2015年までになんとかして20%に高め、最低でも年間20%以上のオペレーティングマージンで成長をしていくつもりだ。そして2017年度には、グローバルでは比較的標準コンセプトとなっている、買収によるワンオフのアモチゼーション等を除いたコアアーニングで業界のノームぎりぎりである25%を達成したい。(14:36)

今はそのために全社プロジェクトでトップラインとボトムラインのあいだに存在するあらゆる経費項目の効率化を図っている。地域や部門に一切の聖域を設けず、大改革を実行している段階だ。この辺で一旦終了させていただき、あとはご質問にお答えする形で足りない部分を補いたい。ありがとうございました(会場拍手)。(15:46)

「企業には供給サイドとしての役割と同時に適正な賃金を払うことで需要サイドの刺激に貢献する役割もある」(長谷川)

堀義人氏(以下、敬称略):新政権になってから日本経済の雰囲気が明るくなったと感じる。さまざまな政策が矢継ぎ早に実行され、円高や法人税といった六重苦も解決されてきた。雇用問題に関しても議論していらっしゃるとのことだし、原発再稼動に関しても党の方向性は明確であると。経済界としてすごく安心して見ていられる。(16:45)

ただ、少子化問題や財政問題といった簡単ではない課題も日本は抱えているし、今は消費税増税も控えている。政府はやるべきことをしっかりやっていると私自身は考えているが、そうした課題解決のために企業側は何をすべきだろう。本業に集中して最大限の利益を出す以外で日本経済のために何が出来るとお考えだろうか。(17:36)

長谷川:先ほど申しあげた通り、‘There is no bystander.’が成長戦略会議におけるコンセンサスだ。企業にはサービスや製品を提供するという供給サイドとしての役割と同時に、適正な賃金を支払うことで需要サイドの刺激に貢献する役割もある。今は政権が…、労使間に介入しているといった見方まであるようだが、とにかくそれほど必死に出来ることをやっている。企業側も「前向きに協力して欲しい」という部分は真摯に受け止め、出来るところから対応し、Win-Winの信頼関係を築く必要がある。親子関係でも同じで、足りないことをあげつらえばきりがない。しかしこれだけの改革を短期間でやって貰ったことに敬意を表し、このモメンタムをほんの少しでもスローダウンさせることのないよう企業としても出来ることはすべてやる必要があると思う。(18:12)

堀:賃上げに関してはもっと積極的にやるべきだとお考えだろうか。(19:37)

長谷川:具体的には個別企業に任せざるを得ない。ただ、ほとんどの企業では労使交渉で賃上げを行うことになっているから、組合が要求しないものを会社から出す訳にもいかない。従って組合にも遠慮せず要求を出して貰ったうえで、個別の企業が状況に応じてどこまで真摯に対応していくかという話だと思う。(19:54)

堀:海外へ投資していく一方、国内で考えるべきことはほかにあるだろうか。(20:31)

長谷川:設備投資について言えば、今回の成長戦略実行国会で一括償却のインセンティブ等が議論されており、恐らく通過するものと期待している。少なくとも今利益を出している企業はそうしたものを活用することで大きな意義も出てくるだろう。製造業では30〜40年、今まで色々と修繕や補充をしながらも、やはり将来の展望が開けないためにそのまま使ってきた工場等がある。そこに思い切って投資していけば省エネ効果だけで3〜4割、場合によって5割を実現出来る工場もある。その具体事例を私ども経済同友会(以下、同友会)のメンバー企業からも聞いている。そうしたことを前向きにお考えいただき、相乗効果を生み出す投資の思い切った実行ということを進めていただくことが極めて重要だと思う。(20:54)

堀:当然ながら、株主利益の最大化というか、企業として経済合理性ある範囲内でやっていくというお話だと思う。(22:07)

長谷川:もう一つ。報道によると日本企業の内部留保は現在、総額で250兆〜270兆にのぼると言われている。そうした状況ならば、やはりこの機会を活用して国内の設備投資に充てるという考え方もある。海外への投資についても同様だ。金利は恐らく0.5前後だから、安定的な格付けを受けていれば5年や7年の資金を0.5〜0.6%で、しかも円で調達出来る。そうした機会が近いうちになくなってしまう可能性はある訳で、今こそチャンスだと。政府も海外での買収について特別外為(外国為替資金特別会計)を使った新たな融資制度も考えている。それらを活用したうえで、将来の成長に向けた投資についてお考えいただく良い時期だと思う。(22:22)

堀:長谷川さんは産業競争力会議のメンバーでもある。現政権はすごくプロビジネスだと思うが、企業がやるべきことをやることで、企業側の要望も政府のほうで積極的に聞いていただけるようになるのではないかと思う。長谷川さんは財界代表としてどのようなことを訴え、実行していきたいとお考えだろうか。(23:29)

長谷川:同友会でも多くの提言を行っており、先般も国会開催にあたって「こういうことに留意していただきたい」という意見書を出した。で、そうしたことをすべて挙げるときりがないものの、ぜひお願いしたいのは省庁の壁や岩盤規制を崩すということだ。その点で財界も一致団結して提言し、政府へのインパクトを強める必要がある。(24:13)

たとえば、どこまで実効性ある形で実現出来るかはまだはっきり見えていないが、産業競争力会議が提言した日本版NIH(日本医療研究開発機構)というコンセプト。これは、文科省、経産省、そして厚労省の予算を集約し、基礎研究から応用研究へのブリッジングを国家戦略として優先順位をつけて進めるという画期的試みだ。(25:01)

このほか、今国会で議論される国家公務員制度改革の問題もある。また、私としてはやはり地方分権についても考えるべきだと思う。これについては財界3団体が一致して何度も提言している。今回の臨時国会では無理だと思うが、来年の通常国会等ではそうしたことも訴える必要があると考えている。(25:33)

「利益を出しても4割は法人税として納める。ならばその分を研究開発に投資しようと冗談混じりに言っている」(長谷川)

堀:岩盤規制や公務員制度の改革、地方分権、そして日本版NIH等、さまざまな改革について同友会で提言していただけるとのことだ。僕らも精一杯後押ししたい。私は同友会の「ベンチャー創造委員会」で委員長を拝命しており、長谷川代表からも日頃から行動するよう言われている。こうした動きを官邸や産業競争力会議のなかにもなんとか入れて、ベンチャーで成長していく機運も生み出していきたい。(26:05)

会場:日本版NHの予算は本場アメリカに比べると桁違いに少ない。実効性についてどれほど期待してよろしいものなのだろうか。(27:20)

長谷川:今はすべて寄せ集めても3500億円前後にしかならず、今国会で決まろうとしているのも1350億前後。アメリカでは2兆5000億から3兆、イギリスでもおよそ3000億強が投じられていて、1350億はいかにも小さいと感じると思う。ただ、省庁間の縦割りという、言われて久しい課題をぶち破るような制度がまったく出来ていなかった流れのなか、今回のコンセプトが出来た。その意味ではシンボリックな出来事であり極めて重要だ。安倍総理も菅官房長官も日本版NIHには強い思い入れがあり、確固たるリーダーシップで実現に尽力していただいた。必ずや、小さく産んで大きく育てる形で実体あるものになると期待している。我々もそれについては提言をしたし、全面的に協力をしていくつもりだ。ぜひ皆さんにも支援をしていただけたらと思う。(27:32)

会場:成長のためには企業制度改革も重要だと思う。その意味では…、同友会は積極的に支持してくださっているが、もう一つの経済団体が必ずしも積極的に指示していない、いわゆる独立取締役の話がある。色々な考えがあると思うし、独立取締役を入れたらすべてが上手くいく訳でもないと私も思う。ただ、世界のトレンドを見る限り、やはり避けて通れない施策ではないか。これは現在起きている色々な銀行の問題等にも通じる話だと思うが、代表幹事はどうお考えだろう。(29:20)

長谷川:私どもは個別の企業としてはそれをすでに実行しているので、当然、必要だと思うし、実際にやってみてその効用も実感している。財界団体によって立場や意見が異なる部分はある。ただ、たとえば経団連さんも全面的法制化についてはご意見も色々あるようだが、たとえば証券取引所等がそうしたガイドラインをつくることについてまで反対しておられる訳ではないと理解している。(30:04)

実際、世の中の流れから言っても避けて通れないと思うし、出来るだけ早くそうしたことを是認する流れになっていくのが望ましい。我々もその意見表明を続けていきたい。ちなみに先般、同友会では「社外取締役になっても良い」という会員の方に登録していただくシステムが出来た。一方、社外取締役を探しておられる企業には、「こういったバックグランドや資格あるいはキャリアの方が良い」といったことを同友会事務局に提出していただく。で、そのご要望に合う方を4〜5名、我々事務局で選定のうえ、その方には要望のあった企業へ登記していただく。そんなやり方も考えている。(30:38)

それともう一つ。私はいつも申しあげるのだが、そうした制度改革の際はもう少しフレキシブルに激変緩和措置を施す必要があると思う。こうした議論は哲学論争あるいは「いや、そんなこと言ったってそれだけの資金がないから」といった話になりがちだ。ただ、実行するのであればたとえば5年をかける。で、その間は猶予期間ないし経過措置期間といった形にすれば、それでも出来ない理由はなかなかないと思う。政府にそうした工夫をしていただければ抵抗もより少なくなるのではないか。(31:34)

会場:武田薬品の戦略に関して、今日はグローバル人材や経営の質向上に関するお話を伺ったが、中長期的なお話もお聞かせいただきたい。研究開発についてはどのようにお考えだろうか。(32:27)

長谷川:今は製薬産業全体が技術革新・進歩の壁にぶつかっていると状態だと言える。現在、市場に出ている製品の9割弱はいわゆる低分子化合物のテクノロジーから生まれたものだ。しかし、それではいわゆるアンメット・メディカルニーズという、満たされていない医療ニーズに応える革新的なものが出来なくなってきた。今はそれに代わるものとして、高分子化合物、バイオロジクス、抗体、あるいは治療用ワクチン等、色々な技術が研究されている。ただ、それが低分子化合物を置き換えるほど力強くロバストしているかというと、必ずしもそうなっていない。さわさりながら、テクノロジーは常にS字カーブで伸張するものだ。今はプラットフォームのところにあると思うが、誰かがどこかでブレークスルーをすれば…、iPSは一つの例だと思うが、必ずまた新しいステージに入ると思う。(32:52)

問題はそれをどのように実現するかだが、二つのやり方がある。今、業界ではオープンイノベーションがトレンドになっている。10年ほど前までは研究開発費の8〜9割を社内に投資していたが、今はどこでイノベーションが発生するか分からないということで、外部との共同リサーチに対する投資が増えてきた。で、もう一つはR&D効率が落ちたなかにあって、売上に締めるそのR&D費比率をどうするかという議論だ。産業全体の平均では10%台後半前後だと思うが、私どもは売上の20%以上を廻していた。これは経営者としての信念のような問題でもあるが、R&Dの成功確率をある程度考えながら投資を続けるということでもあり、投資家に許していただければそうした数字になるということだ。ただ、そうした判断がどんな結果になるのかはまだ分からない。従って、結局は経営者が信じるものに関して経営陣を納得させ、それで引っ張っていくしかないと。私はよく…、半分冗談だが、「日本では利益を上げても4割を法人税として納める訳で、それしか残らないなら出来るだけ研究開発に投資しよう」と言っている。その一方で効率性の追求は徹底的にやっていくという形になる。(33:52)

堀:日本経済成長のために企業に何が出来るかということを、竹中(平蔵)さんにも聞いてみたかった。経済学者として、あるいは産業競争力会議のメンバーとして、「こういうことを期待したい」というお考えが何かあればお聞きしてみたい。(35:38)

竹中:私に経営を語る資格はないし、日本の経営者は出来ることをすべてやっていると思う。ただ、資本の論理と経営者の居心地とのあいだに、なにかこう…、微妙なズレがあるのではないかと感じる。たとえば合併がもっと進んで企業の数が少なくなっても良い業界はあるが、それが進まない。資本の論理から考えると起こるべきことが、恐らく経営者の居心地という問題があってなかなか起こらない。それは社外あるいは独立取締役の問題にも繋がると思う。で、そのほかについて言えば日本の経営者は見事にやっておられると思う。メディアは「キャッシュを貯めてばかりで投資していない」という批判をするが、デフレの状況下で現金という資産に投資していたのだ。だからこそマクロの環境を変えることが重要であり、企業側で変えるとしたら、やはり資本の論理がどこかで少しつっかえるような部分になるのではないかと感じている。(36:01)

堀:私は最近、日本のさまざまな課題について議論するテレビ番組をはじめたが、その番組で「日本の成長戦略」について議論する回があった。そこにご登壇した西村康稔内閣府副大臣は企業に二つのことを望んでいると仰っていた。一つは意思決定がスピードを早めること。そしてもう一つは「アニマルスピリットをもっと発揮して欲しい」とのことだった。この点について長谷川さんはどうお考えだろう。(37:09)

長谷川:今のような厳しい時代にあって、意思決定のスピードは必ず業績に反映される。それが遅い企業は相対的に業績を落とし、外部からのガバナンスが効くような形のなかで少しずつ淘汰されていくという話になる。それが資本の論理だ。恐らく産業競争力強化法案では、採算性の低いビジネスユニットにおいて複数企業からカーブアウトされた部門を一緒にしたうえで、その赤字について親会社のほうで費用として計上していくような施策も議論されている。そんな風にして政府は色々と考えているし、ともかくも効率性の低いビジネスユニットや企業はサステイナブルではないことを経営者はもう分かっている。従って、そうした部分ついてきちんとした将来展望と戦略を立て取り組んでいくことが、より厳しく求められる時代になっていると認識する必要がある。(37:37)

堀:賃上げや内部留保の活用を含めた設備投資を行いながら、政府には規制改革等の改革をしっかりやっていただくというお話だったと思う。ガバナンスを含めて僕ら自身が改革を行い、アニマルスピリットを発揮しながら素早い意思決定のなかで企業を成長させていく。それが日本経済に対する最大の貢献だと思う。本セッションで交わされた議論を踏まえつつ、ぜひ今後もやるべきことをしっかりやっていきましょう。長谷川さん、今日は本当にありがとうございました(会場拍手)。(39:01)

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