宮崎太陽農園×GRA×和郷園×イオンアグリ創造「成長戦略としての農業」前編 

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「イオンはグローバルGAPに対応、“一筆書き”で運営できる直営大農場を目指している」(藤井)

松本泰幸氏(以下、敬称略):まずは登壇者の皆さまによる現在の取り組みを、自己紹介を兼ねてそれぞれ順番にご紹介いただきたい。

藤井滋生氏(以下、敬称略):我々は今から4年前にアグリカルチャ事業を立ちあげた。それまでは関東カンパニー支社長として経営を行っていたのだが、農業という領域に入るべきだということで社長にもお願いして、新会社を立ちあげた。茨城県牛久市で当時スタートさせた耕作面積2.6haの農場は元々耕作放棄地だったところだ。そこで今までに13haの耕作放棄地を解消したが、まだ20〜30haの遊休地がある。今後も引き続き伐採や開梱を行い、“一筆書き”で運営出来るような大農場にしたい。で、今は全国で12箇所、約200haの直営農場を持つまでになり、これに加えておよそ1000haの契約栽培も広めている。この4年間で合計1200haほどになった訳だ。

また、輸出入を含めた今後のグローバル展開に関して申しあげると、デファクトスタンダードとしてグローバルGAPを採用している。我々の農場はすべてその認証を受けた。グローバルGAPについては細かく説明しないが、環境や健康まで考慮した農業のISOという風に理解していただければと思う。第三者にそれを監査して貰う形だ。

その他の取り組みもいくつかご紹介したい。デリバリーに関して言えば我々は市場を介さず、即コンテナに入れて即配送センターに持っていく。その際に使用しているのは当然ながらリターナブルコンテナだ。それとカットキャベツに関してだが、キャベツの場合はとにかく総取りして畑に捨てるものは出さないというのが基本方針だ。地域の方とも収穫祭や定植祭等、色々な催事を行っており、今はそこに20ほど社会福祉団体にも入っていただいている。

また、基本的には全農場がカメラのネットワークで繋がっている。五十数人の社員全員がスマホを持っていて、誰かが画像をアップすればそれを皆がすぐ閲覧出来る。それによって九州の大分県の山の中で雨が降っていることがどこにいても分かる。それと…、これは産官学の取り組みだが、今は富士通さん、大日本印刷さん、あるいは東京大学さん等と組んでおり、そこで新たな技術を確立しつつ生産性の高い農業を実現したいと考えている。

木内博一氏(以下、敬称略):私は千葉で代々続く農家の長男に生まれた。ただ、私が23年前に就農するまではバブル期だったから、私自身は親に「農業はやらないでくれ」と言われながら育った。実際、農業をやるつもりはまったくなかった。農業をはじめたきっかけは単純だ。たまたま入った学校が農林水産省農業者大学だった。その学校は各県にある技術系の県農大と異なり、農業経営者を育てる唯一の学校だった。そこで初めて農業経営を学んだという訳だ。

で、実はそれでも農業をやるつもりはなく、「とりあえず実家に帰って何年か働いたのち、海外にでも出よう」といったマインドでいた時期があった。それで我が家の経営を手伝っていたのだが、経営の観点で見たとき、「あ、これはちょっと改善の必要があるな」と。まず考えたのは農家で生きる女性の自立だ。農家の嫁に対する昔ながらの封建的慣習に不満を持ち、「農家の女性がしっかり自立出来るような経営とするためにはどうしたら良いか」と考えるようになった。また、流通を改善することによって経営の成長があると考え、今は珍しくないのだが、23年前に契約取引というものをはじめた。

当時は需要と供給の接点がちょうど飽和点に達していて、以降は供給が余るようになる流れのなかにあった。そこで、いわゆるマーケットインの発想から契約取引によって差別化商品をつくっていった。常に変化するマーケットに対応し、柔軟にものをつくっていこうと。それを私は「食材製造業」と呼んでいる。農業は特殊な産業ではなく、シンプルな食材製造業であるという位置づけて23年間取り組んできたと言える。

結果として…、「1次と2次と3次を掛けても足して6次になる」ということで今は6次化産業とよく言われるが、それを日本でも初期の頃から取り組んだ事例として我々がよく紹介されるようになった。当然、つくるところ、加工するところ、そして流通するところ、これらすべてを手掛けている。最近は末端のサービスも常に研究し、そこにあった商品づくりや商品提供のロジスティック実現を目指している。また、海外にも8年ほど前に進出した。現在はタイ、香港、上海、そしてシンガポールに進出している。

岩佐大輝氏(以下、敬称略):GRAという会社で、宮城県山元町、そしてインドのマハラシュトラ州プネ市というところでイチゴとトマトの先端施設園芸に取り組んでいる。何が先端かというと、たとえば温度やCO2や肥料の管理といったものをすべてコンピューターで行っている点だ。今ここでコンピュータに向かえば、たとえば「肥料の濃度をいつどうするか」といったことも管理出来るという農業だ。

私自身は元々IT企業を20代前半で興していおり、そこで得た知見を農業に生かしたいと考えていた。また、グロービスではMBAも勉強させて貰ったので、マネジメントの力を農業に突っ込んでいきたいとも考え、それらを自身のミッションにしている。社員の多くがグロービスの卒業生および在校生という大変高コスト体質な(会場笑)農業生産法人だ。セグウェイが走り回る農場というのは恐らく世界でGRAぐらいかと思うが、とにかく先端性を追求することで面白いことが出来ないかと考えている。

生駒祐一氏(以下、敬称略):私はIT企業で10年ほどSIをやっていたのだが、岩佐さんと同じくグロービスでMBAも学んでいた。そこで「地域で街づくりに関わりたい」という思いを持ち、当初は伊豆市で観光プロジェクトに携わっていた。そこで「コンサルタントをするか、企業経営を行うか」という選択肢のなかで後者をとったのだが、当時はちょうど宮崎県知事が東国原英夫さんだった時代だ。企業のほうで縁があり、「宮崎県の地場農家とともに大規模農園を運営しないか?」というお話をいただいた。ただ、運営と言っても実際には赤字でぼろぼろだったところの建て直しだったが。

それで現在はどうなったかというと、我々が運営する太陽農園は3haの土地で今シーズンは売上1.5億、単位あたり収入535万を達成している。そして40名の雇用を実現しており、その平均年齢は37歳。新規就農の方々を数多く受け入れているという状態だ。宮崎に入った当初は売上の1.85倍におよぶコストが発生するという赤字状態で、グロービス的に言うとまさに変革のときだった。そこに僕はジョン・コッターの本を持って入り、変革のリーダーシップというものを実践していった。そして多くの方々に助けていただきながら、今シーズン、やっとプラスに着地した。コストはそれほどかかっていない。売上と収穫量が上がったという状態だ。

「一般企業として参入すると農政の補助金は殆ど使えない。また今の6次化制作は“ど素人の垂直統合”でしかない」(岩佐)

松本:アベノミクスにおける3本目の矢では農業が成長戦略として位置づけられており、産業競争力会議でも色々な目標値が出てきた。規制緩和を進めるなかで、10年かけて80%をいわゆる大規模事業者に担わせていこうと。そして、具体的プロセスはまだ見えていないが、「法人経営体を5万法人以上つくる」、「現在1兆円の6次産業化市場を2020年までに10兆円まで広げる」、「現在4500億円ほどの食品輸出を2020年までに1兆円まで高める」といった話も出ている。

成長産業としての農業というのは、つまり儲かる農業という話なのだと思う。そのための目標が目下出てきた訳だ。ただ、農村や農家のありようを変えないまま、今まで続いてきた農業の延長線上でその目標を達成出来るのか。仮にそれが難しいのであれば、何が問題で、どう変わらなければいけないのか。そのあたりに関して皆さんに一言ずついただきたい。

生駒:ビジネスの定石が農業にも当てはまる。単価×量からコストを引いたものが儲けになるが、6次産業化や加工・冷凍といったものは単価をあげる施策であり、オランダ式農業や植物工場といったものは生産性を高めて量を増やす施策だ。一方で僕らはどうかというと、露地でなく施設園芸という分野なのでコストを下げることが重要になる。「ではどこを?」というと、一目瞭然だ。人件費を効率化しなければいけない。

僕らのビジネスでは大きな人件費が発生するので、ある程度大きな規模でやっていくためにもサービスマネジメントという視点を入れている。まさに皆さまがグロービスで学んでいることだが、モチベーションを上げることで生産効率を最大限に高めていくという方法論を採り入れている。そうしたサービスマネジメントの手法や評価形式を導入することで、実際の作業において10の時間がかかっていたものも9や8になっていく。それで2年前に比べると生産性が1.5倍に高まった。

松本:既存の農家さんもサービスマネジメントの手法を導入すれば十分儲かると。

生駒:難しいところだ。僕らがグロービスで学んだのは現在価値できちんと儲けるということだった。単純収支、20年計算で3700万儲かったものでもNPV(賞味現在価値)やIRR(内部収益率)という視点になるとどうか。たとえばIRR1.43%前後というのが植物工場だ。しかし補助金を受けて行政とともに行う大規模施設園芸では単年度黒字になると「成功事例ですね」と言われる。それはぜんぜん違うし、儲かっていることにはならない。「その辺を変えていかなければ」という危機感がある。

そうした取り組みのひとつが、まさに6次化にある。通常、生産されたものは卸を通して小売に出て、そこから飲食に出る訳だが、その過程で皆さんが払う金額はどうなるか。たとえば生産者が100円で出したものは小売の段階で198〜248円になる。皆さんはそれだけの価値をトマトに感じている訳だ。また、飲食店の原価率は3〜4割。つまり皆さんは僕らが100円でつくったものに500〜600円の価値を感じていることになる。ここにビジネスチャンスがあると思う。

松本:現状ではマーケティングにもかなり難があるという話かと思う。ちなみに生駒さんが示した収支の話は、3700万円というのは累計の利益であり時間の概念がないということだ。ここに時間の概念を入れましょうというのがIRRとNPVになる。

岩佐:今の延長線上で農業に成長があるかという問いに対しては、「ない」と断言出来ると思う。設立数年目のGRAは怒涛の勢いで農場をつくり、今はマスコミでもとりあげられている。ただ、「では皆さんが我々に出資出来ますか?」というと、出来ない。農地法によって、農場で何十日以上作業に従事する認定農業者以外には出資出来ないためだ。松本さんが農場へ頻繁に足を運んでいらっしゃるのにはその辺のコンプライアンスもあると思う。だから富が廻らない。民間資本が入ってこない状態だ。

農業生産法人ではなく一般企業の参入という方法もあるが、この方法を使うと農水省系の補助金がほとんど使えなくなる。日本の農業エコノミクスを見てみると、そのほとんどが施設の半分を補助金でつくり、それでやっとペイするようなモデルでなんとか成り立っている。その補助金が使えない訳だ。こうした仕組みに問題があると思う。

それと6次化にも問題はある。農業生産法人を主語にした6次化に答えはないと、はっきり言えると思う。たとえばイチゴをつくっている農業生産法人がイチゴジャムやイチゴジュースをつくると、その途端に競争相手は大手企業になる。今の6次化政策は農業の成長というより農家の保護を見据えたものになるのではないか。ど素人の垂直統合と言っても過言ではないと思う。

松本:最近は6次化ファンドといった言葉も新聞紙上でよく見るが、意外と動いていない。「あれは木内さんのためにつくられた制度ではないか」と農業界では言われていて(会場笑)、使える人がなかなかいないし、実際のところ使いにくい。6次化そのものは農業を成長させるうえでエンジンのひとつになり得る気もするが。

「確かに法律上は150日以上の農業従事が必要。だが企業参入もやり方次第で可能性はある」(木内)

規制に関するご指摘も重要だ。登壇者の皆さまを見てみると、藤井さんのところで主体が線引されると感じる。藤井さんのところは補助金に頼らない企業参入型の農業で、他の御三方は農家としての顔がある。株式会社にしても農事組合法人にしても、「法人組織だけれども農家ですよ」と。規制に関して細かくご説明すると…、現在は緩和の動きもあるが、出資者・構成員の過半数が農業を150日以上やらなければいけないという話がある。役員の過半数が60日以上農作業に従事しなければいけないというのもあって、それで(私は)焼けている訳だが(笑)。

木内:いくつかのご指摘についてはその通りだが、実はやり方の問題という面もあると思う。農地法等、農業に対する各種規制や考え方について言えば、歴史的な経緯もあって保守的な考え方になっているのはたしかだ。過去には色々な企業が参入し、それで儲からないから放棄するといった事例がたくさんあった。

ただ、たとえば私がやっている株式会社和郷は元々平成8年、有限会社和郷という農業生産法人として設立したものだ。もちろん、その際に認定農業者の資格は取得している。ただ、そこから一つひとつきちんとやっていった。で、今この法人は何をやっているかというと、極端な例で言えば産業廃棄物および一般廃棄物処分業の資格も持っている。また、再生利用登録という、処分業者のなかでもかなり取得が難しい許認可まで持っている。そして我々は食品リサイクルをやっているのだが、これらは信用と実績で一つひとつ積みあげていった結果だ。その結果として今は…、これはグレーゾーンだが、法律上は農業従事を150日以上やらなければいけないということもあるし、もちろん毎朝本社に顔は出しているものの、現在はそれだけで従事者として認められているのが実情だ。農作業は一切していない。今、個人経営から農業法人経営に変わってきている伝統的農家にはそういうところが多い。

あと、補助金というのは地域によって格差がある。千葉県は農業において最も優秀な県だから補助金の額が最も少ない。従って主体の線引きをうると私も藤井さん側になると(会場笑)。我々も実際にはほとんど貰っておらず、自己資金で経営している。

松本:藤井さんと木内さんのあいだに実線があって、木内さんと岩佐さん・生駒さんのあいだに点線があるようなイメージか。ただ、制度金融や無利息融資のような制度もあるので、そういう意味ではメリットもあるのかなと思う。

藤井:私は大変たくさんのお金を親会社から借りている(会場笑)。私はイオン幹部として親会社の肩書も持っているので。で、今回うちのグループはTOBで揉めているが、8月か9月にダイエーさんが連結決算に入る。すると(連結売上高が)6兆円を超える。ただ、それでもグローバル10には入らない。うちの社長が「2010年には」と言っていたが、10年遅れぐらいになるかと思う。グローバル10のグループは売上高7〜8兆円台だ。ウォルマートは40兆円という国家予算のようなとんでもない額になる。

で、そのウォルマートも中国で農業をはじめようとしているが、農業に参入したグローバル10、もしくは我々を入れたグローバル15で言うと、本格的に農業へ参入したのはうちがはじめてだと思う。国内でもセブンファームやローソンファーム、それから外食のワタミさん等、色々な企業が農業をなさっているが、本当に利益を生むところまでいったのはうちだけではないか。

では何故3年間でここまで出来たかというと、ロジックは簡単だ。まだ本当のレボリューションやクリエーションを起こしている訳ではないが、とにかく僕らは「クリエイト出来ないと駄目だろう。イノベート出来ないと駄目だろう」ということでアグリ創造という社名にした。何百社とあるイオングループのなかで、社名に創造という言葉を入っているのは農業部門だけだ。これには私の思いが入っている。

そのうえで「今までの延長線上に成長はあるのか?」というお話に戻ると、皆さんが言われた通り、まったくないと思っている。我々が何故利益を出しているのかというと…、直営農場の話であって委託農場は真っ赤だが、たとえば従来は85〜90時間であったキャベツ栽培の労働時間を今は60時間を下回るぐらいにまで短縮しているためだ。

ではどうやって短縮するのか。やはり定置管理等、我々が小売業で培ってきた作業マニュアル等が生きている。無駄な動きは無くさなければいけないと全員が分かっているし、そもそもそうした教育を受けた人間が社内募集で100人位集まった訳だ。ではその成長戦略が何であったかというと、やはり「我々は大規模化・機械化でやっていくんだ」という考え方になる。また、適地適作で進めていくとともに、加工を含めたバーティカルな商品の運び方をしようと。当然、バリューチェーンを繋いで品質を管理しながら、安全まで担保しながらやっていくという戦略もあった。

そのように進めていけば必ず儲かるということでスタートさせた結果、当時は単位当たり35万だった損益分岐点も25万ぐらいにまで下がっている。そのうえで、たとえばイオンの「マイセレクトデリ」やキムチの元となる品目はすべてアグリ創造から供給している。たった1品目のキムチ向けで年間およそ6000トンの白菜を、千切り向けでは同8000トンのキャベツを入れている状態だ。

これだけつくるのも大変だなという思いでやっているが、とにかく採算性を高めるためには今のところPDCAしかないと考えている。まだ段階としてはファーストステージであり、これから本当のイノベーションやレボリューションを興していきたいということで色々と手を打っている。世界でも動きたいと思っているし、メイド・バイ・ジャパンでも良い。今はメイド・イン・ジャパンで頑張っているが、それをある一定の法則で確立出来たら今度は海外の人々と手を組むのもひとつの手だ。国内で組むのも良いし、とにかくあらゆる組み合わせを考えながらやっていきたい。

「小売りとの専売契約は固いが、市況が変われば“市場から調達したほうが儲かる”と判断される可能性も残る」(生駒)

松本:色々なキーワードが出てきた。現在の延長線上では成長はないといった声もあった一方、木内さんからはやり方次第というお話もあった。また、どう変えていくかという部分では、大規模化、機械化、見える化、システム化、あるいはIT化といったお話も出ている。大規模化や機械化には資本が必要になるし、システム化やIT化にはお金とともに技術の分かる人材も不可欠だろう。その意味では企業が優位性を発揮出来そうなエリアもなんとなく見えるが、企業参入は今後増えていくだろうか。

藤井:リスクテイクするか否かがポイントになると思う。リスクテイクしないやり方もある。農業生産法人に資本を少しだけ入れて、そこに「〜ファーム」という風に企業名を付ける方法だ。ただ、そういう形にしている企業の多くは全量買取りが出来ていないし、すべて買っているところも社員は今のところ送り込んでいない。なかなか難しいのかなと思う。それなりの設備をつくっていらっしゃる企業さんもあるが、私としてはその多くがモデルハウスのようなものだと思う。本当に日本の農業を変えることが出来るのかというと、どうだろう…。CSR的な形でスタートしているだけだ。1000億を抱えて一気に勧めようという体制ではない。むしろ米企業のほうが本気で狙っていると感じる。

松本:リスクマネーについてはどうだろう。岩佐さんからは「出資が出来ない」というお話もあった。その辺の制約は企業参入におけるネックになるのだろうか。

岩佐:当然、スタートアップには大変なお金がかかる。施設園芸であれば億単位のお金が必要になる。ただ、たとえば携帯電話やPCは型落ちや他の競合プロダクト登場によってまったく売れなくなる可能性もあるが、農作物は市場に持っていけば必ず売れる。そこが農業の面白いところでもあり、そうした微妙なリスクバランスとともに、たとえばIRRで5%を切るのが当たり前というぐらいのものもぎりぎり成立している状態だ。企業参入に関して言えば、そうした投資のリターンが既存事業よりも良いかどうかが1点のポイントになると思う。

ただ、「既存事業には未来がない」ということで成長産業を探した結果、農業へ参入するパターンもある。人の胃袋も今度は増えていくということで、「じゃあ農業をはじめようかな」と。苦肉の選択で農業に入る企業さんも意外といらっしゃるのではないか。

松本:後者は上手くいくだろうか。

岩佐:ほとんどの場合、失敗に陥る。理由はいくつもあるが、そういう会社は大抵高コスト体質だ。農業従事者の平均所得は300万ぐらいだが、それを大きく上回る給与水準になっている。そうした企業であれば農業に参入しても競争力を持つことは出来ない。器からつくり直すぐらいの形で新規参入しないと上手くいかないのではないか。

松本:自社の新規事業として農業周辺をお考えになっている方は会場にも多いと思う。今も親会社から一事業部門として出ておられる生駒さんとしては、親会社における農業部門はどのような位置づけにあるとお考えだろう。稼ぎが期待されていて、たとえば「今後は宮崎以外でもやっていこう」という感じなのだろうか。

生駒:宮崎以外で農業はやらないというが企業としての方針だ。いずれにせよ企業の農業参入におけるポイントは三つあると思う。一点目は、企業にはIRRや収益といった指標で非常に厳しい視線が注がれるものの、農業は大変時間のかかるビジネスであるという点だ。その辺を理解して貰うのが難しい。そして二つ目だが、業界としてイノベーションを起こしていこうということであれば、種や苗を売っていくという考え方もある。最近では重油に水を組み合わせて効率を高め、重油代を削減するという方法も流行っている。ただ、いずれにせよ参入障壁がかなり高いという点と、あまり効果が出ていないという点がネックとなっていて、事業としての成立が難しい状態だ。

むしろ今は小売さんとの契約が手っ取り早い思う。たとえばうちの圃場は上位6社ぐらいがおよそ10%ずつ持っている。そのひとつがオイシックスさんであり、統廃合を行って全国にポートフォリオを持つヨークベニマルさんやラルズさんだ。そうした企業とは2年におよぶ実績がある。彼らは安定供給を望んでいて、我々が予測の契約量を出すと、「ではこのぐらいの圃場をうちのために確保してください」という話になる。

また、「土地を集めてくれ」という要望もあって、「うちの専用のファームをつくってくれ」という話はローカルでも来ている。そこで企業とコラボレートする方法もあると思う。ただ、藤井さんが指摘された通り、そこで市況という観点も出てくる。高いときは「皆が見ているし、怖いから農園をつくろう」となるが、安くなれば市場から調達したほうが企業は儲かる。従ってその辺も考慮しつつ、いかに信頼関係を築くかが鍵になると思う。

※後編は2013年10月25日に掲載の予定。

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