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カルチュア・コンビニエンス・クラブ増田宗昭社長「企画という生き方」

投稿日:2013/08/27更新日:2019/04/09

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増田 宗昭氏

増田宗昭氏(以下、敬称略):今日は掲題のままの「企画という生き方」といった難しい話でなく、企画会社としてのカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)がどういうことを考えてきたのかをお話ししたい。そのうえで、作品としてのTSUTAYAやTポイント、あるいは7月1日につくったT-MEDIAホールディングス(以下、TMH)という会社にも触れていく。佐賀県武雄市につくった図書館の話もある。また、よく聞かれる「企画とは何か」というお話もしていきたい。

僕は1951年生まれの62歳。大阪の枚方で生まれた。で、大学は同志社に進んだのだが、当時は大学紛争の影響で授業もあまり開かれておらず、学生時代はバンドに熱中していた。ただ、あるときプロのオーディションをバンドで受けた際、メンバーのひとりがそのとき審査員だった杉田二郎さんに引き抜かれてしまった。それで結局、僕を含めた残りのメンバーは取り残され、挫折してしまったと(会場笑)。

それですぐにギターを捨て、大学とのダブルスクールで洋裁学校に入った。浜野安宏さんという方が当時書いた『ファッション化社会—流動化社会・ファッションビジネス・共感文化』(ビジネス社)という本の影響だ。同書で浜野さんは、「すべての商品はファッション化する」と。デザインの時代が来ると予言していて、僕もそうなると思った。ただ、当時の洋裁学校は花嫁修業の場で女性しかいない。そこにレスリングもやっていて体の大きな僕がひとり入って洋裁を勉強していたという、変な時代だった。

それでプロのデザイナーを志していたのだが、当時は高田賢三さんや三宅一生さんが出てきた頃で、「ちょっと勝てんな」と(笑)。またそこで挫折をしてしまった。そして大学卒業と同時に、鈴屋という会社に入ってサラリーマンになった。

「入社2年目に軽井沢ベルコモンズの開発責任者になった」

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鈴屋で最初に任せて貰った仕事は、かつて軽井沢にあったベルコモンズという商業施設の開発だ。僕は元々青山ベルコモンズのプロジェクトメンバーだったが、その仕事を通して「面白いやつがいる」という話になり、軽井沢で責任者になった。当時の鈴屋はショッピングセンターの企画をしたことがなかったため、「誰がやっても一緒だ」という話になり、それで入社2年目の僕が責任者になるよう言われた訳だ。いずれにせよ、そこで新入社員を3人つけて貰って開発したのが軽井沢ベルコモンズだ。

それが結果として大成功した訳だが、そのときに感じたのは、「出来ないことをやるのが仕事の本質だ」ということだった。当時の僕は宅地建物取引業法、建築基準法、投資採算計画、それから税金等について、一切知らないまま責任者を請け負った。ただ、それでもきちんと軸になる人がいれば、「知らない」ということにはあまり関係なく、物事を進めることは出来るのだと感じた。それが僕の原体験だ。そうした企画の原点があるからこそ、代官山T-SITEも出来たのだと思っている。

次に企画会社としてのCCCについてお話ししたい。皆、「TSUTAYAをやっている会社だ」と言うが、僕らはそんな風に思っていない。「世界一の企画会社を目指す」と言って創業した会社で、グループ売上高は現在およそ2000億円。TSUTAYAもやっているが、全国でおよそ1500におよぶ店舗のうち、僕らが資本を持ってやっているのは100店舗前後しかない。基本的にはTSUTAYAというプラットフォームを企画して、それを売ることでロイヤリティを貰っている。企画を売る会社という位置づけだ。基本的に僕ら自身は事業を行わない。企画のプラットフォームをつくり、それで構成費をいただく。TカードもTMHも同じ。そして創業時から世界一を目指していた。なぜなら世界一でないと生き残ることが出来ないからだ。

ただ、なんでもかんでも企画するのかというと、そうではない。カルチュアインフラ、つまり文化的な生活に必要なインフラということでプラットフォームをつくる。TSUTAYAもTMHも武雄市の図書館も同じ。我々はカルチュアインフラに関わることしかやらない。つまりプラットフォームをつくる企画会社ということになる。

「TSUTAYA第1号店はちょうど30年前、32坪から始まった」

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TSUTAYAに関して言うと、第1号店の出店は1983年。ちょうど30年前、それまでお世話になった鈴屋を退職する際に退職金として200万円をいただいたのだが、その半分を家族に渡し、残りの半分ではじめた。あとは全額借入だ。当時は32歳。最近は何千坪という店舗もあるが1号店は32坪だった。100万円しかなかったからだ。ただ、30年前から本もレコードもビデオも扱っており、今と同じ業態だった。

TSUTAYAの本質は何か。レンタル屋とはよく言われるし、最近では本屋あるいはカフェと言われることもあり、分類出来ない新しいビジネスモデルだと思う。ただ、僕は創業時からライフスタイルを選ぶ場にしたいと思っていた。だから1号店出店にあたって銀行に提出した借金申込書の1ページには、「1980年代における新しいライフスタイル情報の提供拠点をつくりたい」と書いた。

では生活提案とは何か。(アブラハム・)マズローの言う「5段階欲求階層説」の一番上、つまり「自己実現欲求」に対応したビジネスモデルだ。釈迦に説法だが、マズローは「豊かになるにつれて人間の欲求はより高次にシフトしていく。そして最後に自己実現欲求と出会う」と言っている。たとえば無人島に漂着した人間は、まずはお腹が減っているから食べ物を探し、鳥や魚を獲る。これを「生存欲求」というそうだ。そしてお腹が満たされることがわかると安全を求めるようになる。サソリや蛇に襲われるのを嫌がり、木の上に家をつくる。これが「安全欲求」だ。

で、お腹が満たされて安全も確保出来たら次は寂しくなって、村を見つけようとして島を探検するそうだ。これを「社会的欲求」という。そうして村を見つけたら、次は村人のなかに飛び込んでいく。そして料理が上手い人は料理人になり、喧嘩の強い人は警察官になり、リーダーシップのある人は村長になる。それぞれの役割を見つける訳だ。これを「差別化欲求」というそうだ。そして、ある人がたとえば村長として10年ほど過ごしたのち、「自分はこんな無人島で村長をしていて良いのか」と思いはじめる。これが「自己実現欲求」。自分が自分らしく生きたいという根源的欲求だが、腹が減っているときはそういうことに気付かないという。

戦後の日本も同じだ。食べるものがなかったら日清食品さんが「チキンラーメン」をつくり、安全を求めて積水ハウスさんがプレハブ住宅をつくった。そしてお腹も満たされて家も出来たら、今度は「人に良く思われたい」ということでファッションビジネスが出てきた。これが、僕が青春を過ごした時代。ただ、皆がファッション化してしまうと差別化出来ない。それでアルマーニやエルメス、あるいは…、僕はよく知らないのだがボッテガ・ヴェネタ等、高いものが出てくる。けれども、マセラッティに乗って、アルマーニを着て、エルメスの鞄を持っても、それでも「何か足りないな」と。そんなときに行くのが…、TSUTAYAです(会場笑)。

だってそうでしょ?IT長者になって、外車を買い、ヒルズに住んで、「それで幸せになのか?」と考えても、やはり何か足りない。何が足りないのかと言えば、「自分が自分らしく生きる」という、その一点だ。ただ、自分らしさなんて誰も分からない。ファッションでもそうだ。自らデザインして仕立てた服を着る人なんてほとんどいない。洋服は洋服屋さんで、眼鏡は眼鏡屋で選んでいる。

「TSUTAYAでは単に良い音楽や映画を扱うのではなく、ライフスタイルのイメージがあるものを扱おうと思った」

それなら、本来はライフスタイルも選ぶことが出来るようにならなければいけない。それを目指したのが30年前につくったTSUTAYAだ。単に良い音楽や良い映画を扱おうと思っていた訳ではない。ライフスタイルのイメージがあるものを扱おうと考えた。たとえば30年前ならユーミン。ユーミンの歌詞とメロディはライフスタイルのイメージを持っている。桑田さんが作っているサザンオールスターズのイメージも、ある種、男の生き方だと思う。Mr.Childrenの歌詞なんて生き方そのものだろう。そういう音楽を扱って、そのなかでお客さんが自分らしさを探していく訳だ。

映画ではどうか。例えば同じように「恋愛」をテーマにしたとしても『プリティー・ウーマン』や『ティファニーで朝食を』を観た人は、「女性とたくさん付き合いたいな」と思うかもしれないし、『危険な情事』を観た人は、「今付き合っている相手と早く別れなきゃ」なんて思ったり(笑)。そうした選択肢を提供出来るのが、ライフスタイルを選ぶ場だと思う。映画や音楽や本はそんな風にして人の生き方に影響を与える。そこで「自分らしく生きたい」と無意識に考えている人に影響を与えるビジネスが、今の時代では大事だと思ってTSUTAYAをはじめた。

そういうことで、マスコミにはいつも「レンタル最大手」と言われてきたが、渋谷ハチ公前にもCD、DVDや本を売るお店も出し、六本木では本とカフェと複合した。郊外には売り場面積だけで2300坪という本屋も出しているし、同3000坪におよぶ文化的複合施設と言える店舗も出した。特に最近話題となったのは代官山の蔦屋書店だ。こちらの建物は、建築界のオスカー賞とも言われる国際的建築賞「ワールド・アーキテクチャー・フェスティバル」で、商業施設部門の世界一に輝いた。また、今年の冬には函館で1万坪の敷地に3000坪近い売り場面積の店舗もつくる。

「TSUTAYA1社のDVDレンタル数は7億5000万枚。全映画産業と比較しても5倍近い取引を1社で生み出している」

その結果としてどうなっているか。本屋さんの売上推移をみると、国内はすべて右肩下がり。本屋は儲からないということだ。ただ、TSUTAYAだけは右肩上がり。売上は昔から一位だった。マスコミの方々はなかなかそれを書いてくれないが(笑)。

一方、映画ではハリウッドとの交渉により、アカデミー賞映画をTSUTAYAだけでレンタル出来るというようなプロモーションもしている。カルチュアインフラという視点で現在の日本映画産業を見てみると、年間でおよそ1億7000万人が3000サイトの映画館に足を運んでいる。これに対してTSUTAYA1社のDVDレンタル数は同7億5000万枚。全映画産業と比較しても5倍近いトランザクションを、僕ら1社で生み出している。100万円の資金と30年間の頑張りだけで、日本にこのような映画のインフラをつくった訳だ。

また、現在は「音楽配信が云々」とよく言われるが、そちらとの比較ではどうか。iTunesの有料ダウンロード楽曲数は全世界で年間7億〜8億曲、国内で同6000万〜7000万曲だと思う。しかし皆さんのスマホに入っている楽曲は、実際にはTSUTAYAで借りたものが多いと思う。理由は安いから。その数は約21億曲。iTunesの30倍ほどだ。これほど巨大な有料の音楽インフラを、著作権料をきちんと支払ったうえでやっている。

そんな風に、音楽や映画からライフスタイルを選んで貰うということを、そしてそのためのカルチュアインフラをつくるということを、我々は企画会社として行なってきた。日本一の本屋や映画館を目指している訳ではない。人々に自己実現をして貰うため、「ライフスタイルを選ぶことの出来る場をつくる」をひたすらつくり続けてきた。その結果として日本一の本屋、あるいは巨大な映画インフラになっただけのことだ。

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「企画屋として、既存のポイントカードは企業の自己満足ではないか、と考えた」

では次に、ビッグデータのお話をしたい。Tポイントをはじめてから今年でちょうど10年になるが、TSUTAYAをやっていただけならばTカードは生まれていなかったと思う。TSUTAYAのレンタル会員数が大変増えたとき、僕らは企画会社として「会員証とは言っているけれども、本当の会員証とは言えないんじゃないか?」と考えたことがある。というのも、僕ですら自分がTSUTAYAの会員だなんて思ってはいなかったからだ。TSUTAYAでレンタル出来るカードは持っているが、会員とは思っていない。「それなのに企業がお客さまのことを偉そうに会員だなんて言うのはおかしいのでは?」と思った。

それなら、そのカードをもっと価値あるものに出来ないかと思った。そう思いながら財布の中身について見てみると、とにかくポイントカードがたくさん入っている。顧客の囲い込むために色々な会社がクレジットカードを出していた訳だ。しかしそれはエコでないし、そもそも囲い込まれたいと考えるお客さまはいない。「これは企業の単なる自己満足じゃないか」と、企画屋としておかしいと感じた。

たとえば僕はゴルフが好きで、日中は忙しいから夜も開いている恵比寿のゴルフクラブにしょっちゅう行っている。それで未使用のクラブばかり増えるのだが(笑)、とにかくゴルフ用品を買うたびにポイントカードのことを聞かれる。で、いつも持っていない。だからある日、カードを持って行ったうえで「そこへ僕のを貼っておいて」とお願いした(会場笑)。それ以降、「増田さん、ポイントカード」と言われたら、「あ、あれです」で済ませている(会場笑)。要するに「すべてのカードを常に持ち歩く訳ではないのだから不便だ」と。それならTSUTAYAのカード1枚でレンタルも出来て、クレジットカードとしても使えて、どこへ出してもポイントが貯まるような魔法のカードが出来ないかと思った。

で、当時はTSUTAYAのカードが1800万枚ほど発行されていたので、お客さまに「どこでポイントが貯まったら嬉しいですか?」ということを聞いてみた。するとガソリンスタンドという声があったので、ENEOS(を展開している現JX日鉱日石エネルギー)さんへ行って、「TSUTAYA会員はもうすぐ2000万になります」と。「ENEOSカードを懸命に広げていらっしゃいますが、TSUTAYAのお客さまに“ポイントをあげる”と言ってくださるだけで2000万人がお客さんになりますよ」とお話しした。そうしたら、「本当か?」と。で、「本当です」と言った瞬間、当時の渡(文明)社長が「OK」と(笑)。それではじまったのがTカードだ。面談自体は1回で決まった。

「現在、Tポイントが貯まる企業とお店は100社6万店。お客さまにとって『こういう風に貯まったら嬉しいな』ということを実現していった」

どこでも貯まることがメリットならば店舗数が多いところと組むべきだし、お客さまとすればポイントをたくさん貯めたい筈なので、単価の大きな商品を念頭に置く必要がある。そう考えると僕はガソリンが一番だと思ったので、まずはそこからはじめた。で、レンタルと本とCD/DVD販売はほぼ一位なので、次は世界一のDPEチェーンであるカメラのキタムラさんへ行った。エンタテインメントで1番になっているすべての分野にTカードでネットワークしようと思ったからだ。

そして次は世界一のテーブルレストランチェーンであるガスト(すかいらーく)さん、そしてドトールコーヒーさんへと広げていった。セブン-イレブン・ジャパンさんにも行ったが、当時は「nanaco」の準備中で忙しく、お話が出来なかった。それでローソンさんと組んだのだが、「これは面白い」ということで三菱(商事の完全子会社であるロイヤリティマーケティング)さんの「Ponta」が出来て…、「うーん、残念」みたいな(会場笑)。そのあと、オートバックスさんやドラッグストア各社さんにもご参加いただいた。

今は食品スーパーさんにも力を入れている。大規模なコンビニやスーパーのチェーンも重要だが、地域ごとで見ると家の近所にある食品スーパーさんは欠かせない。それで、ヤオマサさん、レッドキャベツさん、あるいはマルエツさんとも組んだ。そんな風に広げた結果、現在、Tポイントが貯まる企業とお店は100社6万店になった。お客さまにとっての価値を念頭に置いて、「こういう風に貯まったら嬉しいな」ということを実現していった

現在はお客さまの数が4500万人。去年は3978万人だった。これは発行枚数でカウントしている訳ではない。発行枚数は10年間で1億3000万枚に達したが、人口を超えているなんて嘘臭いでしょ?(会場笑) だから2枚持っている人は一人に名寄せをしたうえで、アクティブなお客さまだけを集計した。アクティブユニークなお客さまが4500万人ということだ。それが1年間で526万人も増えたことになる。

日本の人口に対しては35%、20代に限ると69%に達する。特に「Ponta」がはじまってからは色々な人に比較していただき、意思決定が早まってたことで会員数は急増した。1カ月のトランザクションがおよそ1億8000万件。レコメンデーションを行うためのデータベース(以下、DB)が、1カ月に1億8000万件蓄積されている訳だ。Tカードを機器に通した売上で言うと、去年は2兆8000億円に達した。

「Tカードの本質はパスポート」

僕ら企画会社の視点は、とにかく「1枚であれば便利だ」という単純なものだ。もっと言えば、Tカードの本質はパスポート。日本、中国、あるいはドイツへ、それぞれ行くときにしか使えないパスポートというのは不便だ。たとえば僕らがお手伝いをしているアルペンさんとゼビオさんのカードを比較してみると、実は後者のほうが支持は高い。ただ、“T”がつくと変わる。何故ならENEOSでもTSUTAYAでもファミリーマートでもポイントがつくからだ。しかもアルペンさんにはなんの負担もない。すべてのコストをアライアンス企業が負担する仕組みになっている。そういった流れのなかでカードは一枚に収れんされるのではないかと考えている。

カードの本質がパスポートなら、ポイントの本質は擬似通貨だ。だとすると、日本でしか使えない円よりもどこでも使えるドルのほうが良い。お客さんからすればシンプルな話だ。「ガストポイントとガストTポイントのどちらが欲しいですか?」というアンケートで前者と答えた方は6.5%しかいなかった。当然だ。前者はいつ使うか分からないから。ポイントを出している側は一生懸命だし、「皆がお金を払って出している」と思っているが、お客さんからすると「そんなものを貰っても仕方がない」という訳だ。

お客さんも喜ぶし、コストも下がるし、便利にもなると。それがTカードの本質だ。今後は6000万人ぐらいにまで増えたらいいなと思っている。とにかく、それぞれでしか使えないパスポートを共通化したというのが共通Tカードの考え方だ。今は皆、自社のカードはお止めになって、Tカードのプラットフォームに入って下さっている。

日本の人口に対するTカードの会員クラスタを見てみると、たとえばキタムラさんで出していただいているTカードはカメラが好きな年配の方々で占められる。また、食品スーパーさんで見てみると60〜70代の方々がほとんどだ。ただ、実際にはTSUTAYAのお客さんも食品スーパーには行っている。食品スーパーさんで発行するTカードは、TSUTAYAのカードを持っていない人に出したものなので、会員に高齢者の方が多いように見えるという訳だ。そんな風にして、今は老若男女が持つカードになった。若い人だけならば3000万人前後が限界だと思うが、お年寄りも持つカードになったので、人口の半分ほどとなる6000万ぐらいにはすぐ届くのではないか、と期待している。

「沖縄県民の52.8%がTカードを持っている」

そう思っていたら、沖縄県ではすでに人口の52.8%にまで増えた。人口の多い東京や神奈川でも5割近くにまで上がっている。全体で見たときに35%で、それで20代が69%だから、全体で50%なら20代では恐らく95%を超えると思う。

ところが、これでもエリアを開拓している担当者には「増田社長、そんなのはもう古いですよ」と言われる。実は町々と村々で見るともっとすごい。神奈川県の寒川町ではなんと71.3%。70%というのをイメージしてみると、もう赤ちゃん以外は全員入っているのではないかと(笑)。そんなポテンシャルをTカードは持っている。

次に、創業5年目で中期経営計画をつくった際、僕らがまとめたお話も少しご紹介したい。これも企画のひとつだと思うが、そのときに「僕らがどうありたいのか」を一冊の本にした。で、そのなかに「感性データベース構築1000万人」と書いている。感性や顧客情報の管理業をやりたいということだ。情報社会では情報がどこででも蓄積され、シェアされ、集計される。従って、「そんな社会になれば人間の仕事は企画だけになるのでは?」と考えたことが企画に特化した会社を目指した背景でもある。

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「僕らはデータベース・マーケティング企業を目指している」

従って僕らはDBマーケティング企業を目指している。お客さまのちょっとした幸せや、企業の効率的経営を支援するようなDBやITをつくりたい。たとえばTSUTAYAでは創業の頃から全商品のレンタル状況を時間単位で管理して、何かの作品がすべてレンタル中になったらそれを追加をするよう指示を出すプログラムを、100億近くかけて構築した。だからこそTSUTAYAには他社よりも少しだけ多くの商品がある。「いつもレンタル中じゃないか!」というお客様の不満を緩和するシステムを作ったわけです。

7月1日に設立したTMHの話をしたい。これは、僕らが構築したDBや会員の皆さまの基盤を、スマホを通じて自己実現の“お手伝いプラットフォーム”に繋げていこうというものだ。たとえば今はほとんどの人が目覚まし時計にスマホを使っていると思う。ニュースもスマホで読んでいるだろう。そこで、「生きるうえで必要なナビゲーションはすべてスマホがやるようになるのでは?」という仮説を基に、「そのバックエンドに我々のDBをつけたら面白いことが出来るのでは?」と。それが「T-MEDIA」という試みだ。色々なプラットフォームに僕らのDBをくっつけていきたい。

僕らのグループにアイ・エム・ジェイという会社がある。現在はCCCの100%小会社だが、日本最大のWeb構築会社で、技術者は800人ほどいる。で、彼らとクライアント、そして我々のDBをどんどん繋げて、「世の中をもっと面白くしよう」と今は考えている。TSUTAYAはライフスタイルを選んで貰うという割と受動的なサービスだが、TMHではもっとアグレッシブにレコメンデーションしていきたい。

「『カンブリア宮殿』出演がきっかけで武雄市長と出会った」

図書館の話にも少し触れていこう。以前、『カンブリア宮殿』というテレビ番組に出演したことがある。代官山T-SITEが失敗しないようにと…、それまでテレビには絶対に出なかったのだが、初めて出た。背に腹は変えられないと(会場笑)。すると、それを観た佐賀県武雄市の樋渡啓祐市長が代官山の蔦屋書店にいらして、「これをぜひ武雄につくって欲しい」とおっしゃる。だから「人口5万人なんていうところでは出来ない」と申しあげたのだが、「いや、もう決めたんだ」と。いきなり市議会も通さず記者会見を開いた(会場笑)。樋渡市長のお話はぜひ聞いてみて欲しい。いかにベンチャースピリットを持った、変わった方であるかが分かると思う(会場笑)。

で、武雄にあった既存の図書館を全て見直して、現在のような形にした。年中無休で夜も開いている。朝も早くから開いていて、コーヒーを飲むことも出来るし、雑誌も購入出来る。また、本の分類はすべて生活分類だ。図書館法の分類ではなくて、代官山 蔦屋書店でやっているような身近な分類。人口5万人という地域で、近所は山だらけ。隣には高校がある。高校生は自習室でスターバックスのコーヒーを飲みながら勉強出来る。Wi-Fiも完備しているし、20万冊の本はすべて無料だ。映画や音楽もたくさんあり、当然、Tポイントも使える。

結果として、僕らがお手伝いをする前は1日800人前後だった来館者が、なんと4600人に増えた。「人口5万人の市でこんなに来て大丈夫か? 犬や猫までカウントしているのか?」(会場笑)というほど来るようになった。代官山 蔦屋書店を知る方々も、この図書館に来ると、皆、「代官山よりもすごい」と言う。それはそうだ。20万冊が無料で、しかもそれらが代官山 蔦屋書店と同じ分類で並んでいる。料理やら旅行やら、もうすさまじい量だ。その結果として、武雄市でTカードを持っている人は41%から一気に49%へ上がった。このままいくと沖縄や寒川町も追い抜く勢いだ。

今は行政の方があちこちから毎日見学にいらしていて、「うちでもやってくれ」「見に来てくれ」と、行列をつくっている状態だ。僕らがやるとコストが下がるというのもある。すべてセルフPOSだし(最新のレンタル屋で見慣れた仕組みが取り入れられ、さながら)本のレンタル屋だ。要するに「(ステレオタイプなレンタル屋もないし、)図書館なんてものはない」と。名前は図書館だが、(使われている仕組みの側面で見れば、さながら)本のレンタル屋だ。

「守破離の『離』は時間が経てば常に『守』となる」

では最後に、僕の考える「守破離」のお話をしたい。企画というのは守破離の「離」だと考えている。ソニーの盛田昭夫さんは、「レコードだ」「ステレオだ」と言って家で音楽を楽しむことばかり考えていたなかで、「歩きながら音楽を楽しむことが出来ないか」と考えた。そこで生まれたのがウォークマンだ。家で音楽を聴くことだけ考えていたらウォークマンは生まれなかった。これを守破離と言う。で、守破離の「離」は時間が経てば常に「守」となる。皆がウォークマンを持てばそれが定番になるからだ。そこでスティーブ・ジョブズが「これをデジタル化出来ないか」と考え、iPodが生まれた。

スティーブ・ジョブズが偉かったのは、さらにその先を考えたことだ。iPodのデバイス自体は大変小さい。携帯電話屋さんがそのことに気が付いて、そのデバイスを携帯電話に入れたら自分たちはすぐ潰されると考えた。だから「自分でやるんだ」と言って、それで生まれたのがiPhoneだ。iPhoneもやがて定番になるし、本来であれば次にスマートTV等をやりたかったのだろうが、残念ながら彼は亡くなってしまった。

では僕にとっての守破離は何か。一昔前、街の本屋さんに対して郊外型書店が大きくなっていったのは、「本をもっと売ろう」という流れだった。しかし、僕はそんなことを考えておらず、とにかくライフスタイルを選ぶ場がつくりたかった。人が本を買う理由はなんだろうと考えて、TSUTAYAをつくった訳だ。そうしてTSUTAYAが定番となり、今では2000坪の店舗や代官山 蔦屋書店もつくった。ただ、もっと面白いのは図書館ではないかと思う。これほど自己実現が出来る場はないし、しかも安い。TSUTAYAの本質というのは、実は図書館だということを考えている。

守破離というのはお客さんが決めるものだ。なぜなら、普通の書店よりTSUTAYAの方がいいし、それより代官山 蔦屋書店がいい。さらに言うと武雄の図書館を知る人々は皆、「武雄市図書館のほうが絶対に良い」と言う。そんな風に守破離の「離」は常に「守」となり、それが「破」となり、「離」が生まれる。そしてさらにその「離」が再び「守」になる。そういうことを考えるのが企画会社の使命だと僕は思っているし、そんな考え方が皆さまの参考になればとも思う(会場拍手)。

会場:増田さんご本人は日本の文化をどのように捉えているだろうか。国際化を考えたとき、日本文化が世界のなかでどのように戦っていくべきかという点も含めてご意見をお伺いしたい。

会場:企画を生むためのメンバーはどのように決めているのだろうか。たとえば異質なメンバーを集める等、プロジェクトの仕掛けがあれば教えていただきたい。

会場:「ライフスタイルを選んで貰う」、「事業でなく企画を売る」といったお考えが、ビジネスとして成り立つと感じたきっかけが何かあればお伺いしたい。

会場:企画を生み出す過程には社長のトップダウンと社員からのボトムアップ両方があると思うが、社員とのコミュニケーションはどのように図っているのだろうか。

増田:社員とのコミュニケーションは僕にとっても永遠の課題だ。組織が小さいときは直接行えるが、今は3500人もいる。一人ひとりとコミュニケーションをはかることは出来ないから、どうしたものかと。企画とは情報と情報の組み合わせだ。たとえば昨日も偉い人と飲んで良い話をたくさん聞いた。それを知っている僕としては企画の現場でもシェアしたいから、ブログに書いてみたり、議事録に残してみたりと、とにかくシェアすることを意識する。ただ、この辺が一番難しくて、僕も本当に悩んでいる。

「僕はなるべく現場に出るし、社員にも『あまり会社にいるな』と言っている。とにかく企画のためには情報が一番大事だ」

結局、答えはないのだと思う。大事なのは執念みたいなもので、魔法はないのではないか。「とにかく皆で情報をシェアするんだ」と、僕自身が執念を持って思い続けていれば日々改善されていくと思う。何らかのルールで皆が情報をシェア出来るようになり、それで良い企画が生まれるということはないのではないか。

当然、全社員に向けて話をするときもあるし、幹部を集めて合宿をするときもある。徹底した情報共有を目指してはいる。ただ、企画のヒントは現場で日々起こっているちょっとした出来事のなかにある場合が多い。だから僕はなるべく現場に出るし、社員にも「あまり会社にいるな」と言っている。とにかく企画のためには情報が一番大事だということを、組織としてどれほど徹底出来るかが答えになるような気がする。

それとライフスタイルに関する僕個人の考え方だが、現在の日本は3番目のステージに来ていると、僕はいつも言っている。モノがないときは食べるものや着るものに価値があった。戦後の日本がまさにそれだ。しかしその後、色々な人が会社を興し、工場をつくったおかげで、モノが溢れる時代になった。そうすると顧客価値は何にシフトするか。リンゴが一個しかなければそれ自体に価値がある訳だが、高級なリンゴや安いリンゴ等、たくさん出てきたら林檎自体には価値がなくなる。そして林檎を選ぶことの出来る場に価値がシフトする。これがプラットフォームの時代だ。楽天もイオンもファミリーマートもTSUTAYAも、すべてプラットフォームと言える。

では、3番目のステージである今はどんな時代か。プラットフォームが溢れている。ファミリーマートの向かいにセブン-イレブンがあリ、その隣にナチュラルローソンがあり、もう「どれに行ったらいいの?」と。どこも一緒で、要はプラットフォームの価値が相対的に低下している。ではそこで何が価値になるかと言えば、プラットフォームを突き抜ける提案力だ。先ほど「ライフスタイルを選ぶ」と僕は言ったが、それは「プラットフォームにそうしたライフスタイルの提案性がないと駄目」だという逆説でもある。

「これから大切なのは生活の奥行き。遊び人の時代になる」

けれども高度成長期、僕を含めて皆が何をやっていたかというと、大企業の歯車になって働いていた。だからいざライフスタイルを提案しろと言われても、出来ない。カーライフにしろ旅行にしろ、良いものを勧めることが出来ない。ライフスタイルと言っている割にライフスタイルを知らない訳だ。従って、これから大事になるのはそうした生活の奥行きというか…、まあ、言ってみれば遊び人の時代になるという話だ(会場笑)。そこで我々は経営戦略として、「ライフスタイル総合研究所」というものも設立した。そこでミュージックライフやカーライフといった各分野で専門的に遊んだ人を集め、ライフスタイルを徹底的に研究している。

それとメンバーの選び方に関してだが、会社創業でも何らかのプロジェクトでも、つくるときは3人いれば良いと思う。必要なのは、つくる人、売る人、勘定する人。ベンチャーではそれをひとりでやるし、少し大きくなると嫁さんに財務を見て貰ったり、口の上手い人間に営業を任せたりする訳だ。つまり権限移譲をしていく。従ってメンバーを選ぶときは、そのプロジェクトでつくろうとしていることをつくることが出来る人、それを売ることが出来る人、そしてそれを勘定をする人を集めるのが基本だと思う。

そして「いける」と思った瞬間だが、僕自身がTSUTAYAや代官山T-SITEでそう感じた瞬間は、お客さまの笑顔を見たときだ。枚方の1号店でオープン初日、開店の朝7時に一番乗りで入って来たのは子どもさんだった。で、その子がお店に入った瞬間、パっと嬉しそうな顔になったのを今でも覚えている。そのときに「この店は絶対にいける」と思った。代官山も同じだ。皆にさんざん「潰れるぞ」と言われながらオープンした店だが、一人目のお客さまが楽しそうにしているのを見た瞬間、「いける」と。武雄の図書館でも子どもたちがオープンと同時にわっと入ってきて、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら走り回っているのを見て、「ああ、この図書館は地元に根付くな」と思った。

結局、答えはお客さんが握っている訳だ。僕らがお客さんをどうこう出来る訳ではない。僕らはお客さんのためにどうしたら良いのかという視点で企画すべきだと思っている。以上。代官山T-SITE、ぜひよろしくお願い致します(会場拍手)。

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