「最も良質なイノベーションはセレンディピティだ」
茂木健一郎氏(以下、敬称略):今回初めてあすか会議に参加して嬉しかったことがある。それはグロービスで学ぶ方々の多くが、日本の会社に勤めている、ある意味では普通の良識を持った日本人という点だ。(政治家、経営者などが集まる)G1(サミットの)メンバーはどちらかというとアウトサイダーというか、改革派ではあるけれど、日本の“本体”を動かすにあたってはかなり独自の道を行っている。でも、本体のほうにいらっしゃる皆さんのような方々がグロービスで学び、あすか会議で議論している訳だ。ひょっとしたらここが日本の海援隊になるんじゃないかといった嬉しさがある。(02:32)
僕が何故イノベーションを好きなのか。これは脳科学者・科学者の本能で、「今までに見たことがない世界を見たい」と思ってしまうからだ。ネットは世界を大きく変えた。あるいはアインシュタインのE=mc2という1行が、一方では原爆をつくったけれど、一方では原子力発電をつくり、それまでにない世界を拓いた。G1やあすか会議に来るのも、見たことがない世界を見たいという好奇心からだ。(03:30)
ではどうすればイノベーションを起こすことが出来るのか。脳科学者として言うと、イノベーションを起こすものはセレンディピティだ。恐らく例外はない。セレンディピティとは「偶然の幸運」。予め計画されたイノベーションなんて大したイノベーションじゃない。「1年後はこれをやっています」なんて会社でよく書かせたりしているけれど、そんなのはイノベーションじゃない。分からないからイノベーションなんだ。(03:54)
iPhoneとかiPad上のゲーム「Angry Birds」をつくったフィンランドの会社の日本代表と話したことがある。その会社は、それ以前まで何も売れない状態だったという。社員も一時は8人にまで減って、食えないという状態だったそうだ。ただ、そのあとAngry Birdsが大ヒットして今はブイブイ言わせている。あれもひとつのイノベーションだと思うけれど、そんなことは予め事業計画書に書けない。最も良質なイノベーションはセレンディピティだ。(04:38)
森川(亮・LINE代表取締役社長:以下、敬称略)さんも同じ。今、LINEはすごい勢いだ。やっと日本からプラットフォームが出てきた。ただ、森川さんは…、僕が代理で言っていいのか分からないけれど、色々なものをつくっては失敗ばかりしていたという。LINEはつくってから2〜3週間後に「これはいける」と分かったそうだ。(05:00)
もちろん、打席に立ったらバットを振らないといけない。空振りしない人は場外ホームランも打てない。しかし、ともかくもイノベーションは偶然の幸運に依るという認識が必要になる。日本企業には空振りと場外ホームランが混在するような状態をビジョンとして持てないところも多いけれど、まずはそれを確認してください。(05:30)
で、そういったセレンディピティは、‘action’‘awareness’‘acceptance’という“3つのA”で成り立つと僕は思っている。3M Companyのポスト・イットが良い例だ。接着剤を開発していた同社は、あるとき、たまたま接着力の弱い接着剤をつくってしまった。それで、「これは役に立たない」と思ったそうだ。しかし研究者のひとりが教会で賛美歌を歌っていた際、本に挟んでいたしおりが落ちた瞬間に、「あ、あの弱い接着剤を使えばしおりが落ちないように出来る」と気付いた訳だ。(06:22)
ここで大事なのは、まずは‘action’。今の例で言えば接着剤を開発していなければいけなかった。セレンディピティと言っても偶然の幸運が訪れるまで何もせずぼうっとしていれば良い訳じゃない。何かアクションを起こしていないといけない。(06:41)
次が‘awareness’。これが難しい。人間はどうしても、自身がそのときやっている仕事の中心にばかりに注意がいってしまう。優秀な人や真面目な人ほどそうなる。で、その周辺視野で起こっていることになかなか目が届かない。この辺は脳の働かせ方として一番難しい部分かもしれない。‘change blindness’と言って、人間の脳は大きな変化に気付かないことが多い。男性の皆さん、奥さんやガールフレンドとの食事中に恐怖の体験をしたことがありませんか? 女性が「今日の私、何か変わったところない?」って(会場笑)。「あー!」みたいな(会場笑)。(07:32)
宮本武蔵は「五輪書」で「“居付いて”はいけない」と言っている。相手の刀の切っ先に“居付く”と、他の部分が見えなくなる。気付くためには全体を柔らかく見ていなければいけないと。これが難しい。この気付きがセレンディピティ第2の要素だ。(08:12)
「‘action’‘awareness’‘acceptance’のサイクルを回すことが、イノベーションにおける重要ポイント」
そして第3の要素が‘acceptance’。受容すること。これも難しい。破壊的イノベーションという言葉もある通り、たとえばCDが出てきてLPレコードは消えていった。音楽配信が出てきて今度はCDが消えていった。そのたびに抵抗勢力というか、「CDなんて駄目だ」とか、「消費者は物理的にモノ(CD)を持たないと駄目だ」といったことを言う人が出てきた。新しい価値観や社会モデルを受け入れるのは意外と難しい。これはエモーショナルなものだ。そうした今までのやり方や成功体験に拘るという、そのエモーショナルな壁を超えることが難しい訳だ。(09:00)
いずれにせよ、‘action’‘awareness’‘acceptance’という、このサイクルを回すということが、脳科学的に言ってもイノベーションにおける大変重要なポイントだ。(09:14)
次にネットワークのお話をしたい。先ほどまでの話は個別の人間に関する話だったが、脳科学は決してひとりの脳についてだけ考える訳ではない。ご存知かと思うが、スモールワールド・ネットワークというものがある。6人ほど経由すると世界中の誰にでも辿り着くことが出来るというソーシャルなネットワークを人間はつくっている。(09:40)
で、(ロビン・)ダンバーというイギリスの学者は、「ダンバー数」という理論を唱えている。要するに仲間の数は脳の容量から大体予想できるもので、このダンバー数は人間が持つ脳の大きさからすると、およそ150と言われている。例えば、サルの毛づくろいは人間にとってのおしゃべりと同じ仲間同士のコミュニケーションだ。G1サミットでも我々は温泉に入って毛づくろいをしているようなものだが、そういった仲間の数は脳の容量から大方予想出来るというのがこの理論だ。皆さんには毛づくろい、つまり話をする相手が150人いますか? これは重要。僕も堀さんとときどき会って毛づくろい、つまりは色々な話をする。そのなかで信頼関係が生まれ、堀さんの呼び掛けにも答えたりするようになる。(10:25)
イノベーションは友だちのネットワークから生まれる場合もある。イノベーションというと独創性が必須で、「一人でやるものなのでは?」と考えてしまうが、そんなことはない。シリコンバレーは友だちのネットワーク。スティーブ・ジョブズもすべて自分でやった訳じゃない。ネットワークを通じて色々な情報が行き交う場にイノベーションの種があるし、だからこういう会議が大切になる。皆さんもあすかで互いに毛づくろいをしたと思う。そのネットワークを持ち続けることがイノベーションの大きなポイントだ。(11:14)
そうしたネットワークでも特に重要なのが、‘weak ties’、つまり弱い絆と呼ばれるものだ。会場の方々同士はグラフ理論的にも非常に強い絆で繋がっていると思う。そこで、たとえばもしAKB48のメンバーを直接知る人がこの会場にひとりいたとすると、それは皆さんとAKBのコミュニティが弱い絆で繋がっていることになる。そのひとりが辛うじて繋いでいる状態な訳だ。(11:57)
イノベーションはコニュニティを越えて何らかの情報やノウハウが共有されたときに起こりやすい。強い絆のコミュニティでは情報はだいたい共有されているから、そのなかで新しいことは生まれにくい。ただ、皆さんが当然のように知っていることが、もしかしたら AKBのコミュニティにとっては重要かもしれない。逆にAKBコミュニティで共有されている暗黙知が、実は皆さんのビジネスが飛躍するための大きな手掛かりになるかもしれない。従って、絆を築くことは全般的に大事だが、とりわけ自分が普段いるコミュニティとは違うコミュニティとの弱い絆を築くことが大切になる。(12:50)
これはジョブセキュリティにも関係する。仕事がどこからやって来るかというと、自分が普段密に付き合っている強い絆のコミュニティからでなく、知り合いの知り合いぐらいから来ることが多い。普段付き合っている人は経済状況も自分と似ているじゃないですか。だから自分の調子が悪いときは皆も大抵調子が悪い。でも、隣の隣ぐらいの人はまったく違う経済のなかで動いている。そういう人たちから新しい仕事が…、それは雇用かもしれないし、「この仕事を一緒にやろう」という話しかもしれないが、やって来る訳だ。その意味でもネットワーク、特に弱い絆のメンテナンスが大事になる。(13:48)
そんな訳で、イノベーションにおいて非常に大事な二つの視点をご紹介した。ひとつは脳の使い方としての一人称のあり方、もうひとつがネットワークとの関係だ。ただし、この二つを両立させるのが意外と難しい。優秀な人は意外とネットワークを無視しがちなこともあるし、逆にネットワークの使い方が上手い人は自身の掘り下げが足りなかったりするからだ。自身を掘り下げる人と、ネットワーク志向の人。社会でイノベーションがなかなか起きない理由は、そうした人たちが持つ、ときには相容れない二つの資質が、ひとりの人ないしひとつの組織で共存することが難しいからかもしれない。(14:44)
『Absorptive Capacity』というイノベーションの分野で非常に注目されている論文では、ある会社が他社の新技術やノウハウを受け入れて自分のものとするためには、その会社自体が普段からR&D等を行なっていなければならないとされている。自分で関心を持って掘り下げてもいないものは、実際に見ても理解出来ないからだ。「スティーブ・ジョブズはゼロックスパークで見たGUIをパクってLisaに載せた」と、よく言われる。しかし彼は高校時代から(スティーブ・)ウォズニアックと、無料で長距離電話を掛けることが出来る「ブルー・ボックス」という装置をつくったりしていた。そんな彼だからGUIの重要性を理解出来た訳だ。(15:48)
従ってイノベーションを起こすために皆さんがやるべきことはたった二つ。ひとつは自分の足元を掘り下げて何かのオタクになること。それをやっていなかったら、新しい情報を見たときにその意味が分からない。そしてその一方、こういうところでネットワークを広げること。足元にある宿題を地道にやりながら、こういところで人々と毛づくろいをする。ぜひ、そういったダブルエンジンで進めて欲しい(会場拍手)。(16:24)
「セレンディピティを持つ人やイノベーションを起こす人は、相矛盾するキャラクターがひとりの中に共存している」
堀義人氏(以下、敬称略):もっとお話を聞きたい気持ちもあるが、ここからはいくつか質問をさせていただきたい。まず、セレンディピティをもっと意図的につくることは出来ないだろうか。ただ待つのでなく、「こういうことをやりたいんだ」という強い願望を持って意図的かつ能動的にイノベーションを起こせないかなと思う。(17:10)
茂木:大変面白い議論だ。セレンディピティが今のところ「偶然の幸運」と言われる理由は、そのメカニズムがまだ完全に分かっていないから。だからショートハンドでそう呼んでいるが、実際にはもう少し歩留まりを高める方法があるかもしれない。(17:30)
実際、‘action’‘awareness’‘acceptance’のサイクルはイノベーションと関係なくルーティンで行える。たとえばグーグルではメインの仕事を7〜8割として、残り2〜3割の時間はそれと関係のないことをやるように言っている訳だ。そんな風にして、よりアクション可能なものとしてインストールすることは可能かもしれない。実際、多くのイノベーターはそれをそれぞれの方法論で実行している。(18:14)
堀:スティーブ・ジョブズは相当強い願望を持ち、「こういうイノベーションを起こしたい」と、四六時中考えていたように感じる。だからこそ色々なものからヒントを得て、それらを組み合わせ、新しいコンセプトをつくっていったのだと思う。(18:46)
茂木:人間の脳は前頭葉支配だ。前頭葉にあるDLPFC(Dorsolateral prefrontal cortex)で脳のリソース管理をしている。ここが集中出来る人は特定のタスクに自分の全リソースを注ぎ込むことが出来る。これは鍛えることも可能だ。つまりノイズが存在する環境下でもひとつのタスクに集中出来る能力。学力の高い子には家族のいる居間で勉強している子が多いといった話をお聞きになったことはあると思うが、これはそういう理屈だ。「静かな環境でないと集中出来ない」というのは、前頭葉の機能という面で考えると少し足りない。(19:40)
これは単なる物理的ノイズの話じゃない。新しいことをやろうとする人はソーシャルな摩擦も色々と経験する。そのとき、堀さんがおっしゃるように「自分がやりたいことにコミットする」というのは、やはり前頭葉の働きだ。ご指摘は重要だと思う。(20:03)
堀:強い意図や願望がイノベーションの鍵だと私は思う。山中(伸弥・京都大学iPS細胞研究所所長/教授)さんも同じで、大変強い願望を持っている。同様に、セレンディピティに加えて、たとえば脳の使い方や発想法等、「何か別のものが必要になるのでは?」とも感じるが、この点はどうだろう。(20:28)
茂木:強い願望を持つようなマインドセットの人と、ちゃらんぽらんというか、取り散らかすような人が、コミュニティのなかで分かれているようにも感じる。たとえば「タイプA」と言われる、極端に真面目な人がいる。で、そういう人とちゃらんぽらんな人というのは、普通は違う人だ。ただ、大きなセレンディピティを持つ人やイノベーションを起こす人は、どうもそうした相矛盾するキャラクターがひとりの人の中に共存していると感じる。堀さん自身はどう?(21:17)
堀:僕は自分がハチャメチャだと思っている。ハチャメチャが大好きで、「イノベーションの和訳はハチャメチャだ」と勝手に言っている。で、そのヒントはスティーブ・ジョブズの言うところの“Think Different”ではないかなとも思う。皆と同じ発想をせず、違うことを考えると。彼は強い願望を持っていて、負けず嫌いだった。で、それと同時にフォントをデザインしたり、色々なものを組み合わせるアーティスティックなセンスもあった。その鍵は‘Think Different’ではないかと。(22:06)
茂木:本当にそうだ。‘Think Different’というのは、一度はアップルを追い出されたジョブズが同社へ復帰した直後につくったコマーシャル。あれを僕もときどき学生たち見せている。ひとつの文化遺産だと思っているから。アインシュタインやピカソやバックミンスター・フラーが登場してくるし、そのなかで掲げられている言葉も良い。‘The Misfits’だとか、‘The Crazy Ones’だとか、‘The round pegs in the square holes’だとか。これは「四角い箱にわざわざ丸いのを入れようとするやつ」みたいな感じです。ああいったパーセプションが大事だ。(22:55)
最近、DaiGoというフォークを曲げたりする人と本をつくっているけれど、彼、実はハッカーなんです。で…、こういうこと言っていいのかな(会場笑)、森川さんはもう帰ったよね?(会場笑) LINEのメッセージは既読かどうかが相手に通知されるけど、あいつはそれを嫌がって、ハックして未読のままにしているの。居場所もモロッコかどこかにして(会場笑)。実はDaiGoってすごくものを考える人間だ。メンタリストというポジショニングもある種のイノベーションだと思う。堀さんが言った通り、たとえば「LINEの仕様はこうだ」と言われると、それを前提に動くのが普通の人さ。でもイノベーターはそこで‘Think Different’。DaiGoみたいに。そこは大きなポイントだ。(24:23)
堀:ベンチャー企業を数多く見ているが、成功の鍵は真逆をやること。大企業や競合の逆を張ることで新たなセグメントがつくられる。‘Think Different’の発想で考えるとかなり面白い。たとえばある大学は経営学を20〜30年間教えているが、講師はすべてアカデミックな教授だ。そこでグロービスでは社会人が教える大学とした。複数科目をパッケージで教える前者に対し、グロービスは1科目から教えたりと、とにかく真逆をやることで異なるセグメント、ひいてはイノベーションが生まれる可能性はあると思う。(25:13)
山中さんも同様だ。どんな細胞からも万能細胞が出来るなんて以前は誰も考えておらず、特定の細胞をいかにして万能細胞にするかばかりが研究されていたという。そこで彼は、「そんなことをやっていても仕方がない。誰も考えなかったことをやろう」と考えた。それではじめたのがiPS細胞の研究だ。もし普通の感覚で人々と同じことをしていたらノーベル賞もなかったと思う。そう考えると‘Think Different’は重要だ。少しハチャメチャなくらいに考えながら、人々とはまったく違うことを、強い意図を持って考え続ける。そしてアクションを起こしながら自分の能力を高めていったとき、ふとやって来るのがセレンディピティだと思う。(26:07)
茂木:山中さんはその意味でも素晴らしい業績を挙げられた。科学ではブルーオーシャンこそ成功への道だという事例は、歴史上何度も繰り返されている。(ピーター・)ミッチェルという人がいる。ATP合成という、生物のエネルギー源をつくる分子の生成メカニズムに関し、当時の学会で唱えられていた主流とまったく異なる化学浸透圧説を唱えていた人だ。彼はどの大学にも所属しておらず、自分の農場を改装して研究所にしていた。学会何千人対ミッチェルひとりという状態だったけれど、結局、ミッチェルのほうが正しかった訳だ。(26:49)
堀:イノベーションという言葉がある一方、クリエイションという言葉もある。この二つは脳科学的にどう違うのだろう。(27:14)
茂木:本当は同じだけれど、クリエイションというのは極めて危険な言葉。僕はイノベーションという言葉のほうが、なんとなく好きだ。クリエイションというのはヨーロッパの、なんというか、「神が七日間で世界を創った」といったイメージが強過ぎる。あたかも自分ひとりでゼロから創りあげるようなコノテーションだ。それは脳で実際に起きていることとまったく違う。実際にはネットワークを通じ、脳がハブとなって色々な情報が入って来ている。そこでドットとドットが結ばれて何かが生まれている。(28:00)
そういうイメージでいたほうが、何より楽しい。「創造的になれ」と言われると、苦しい感じがしない? 「ぜんぶ自分でやらなくちゃいけないの?」と。でも「ドットとドットを結べ」と言われたら、「あ、適当にやってればいいんだ」みたいな(会場笑)。ネットワークのなかで皆と喋りながら。そちらのほうが歩留まりは良いと思う。(28:19)
堀:実はグロービスで「創造と変革」という言葉を使っていて(会場笑)。で、この英訳として創造の部分は‘Creation’にした。ただ、「ゼロからの創造という風にイメージする人がいる」というのは、実は以前から色々な人に指摘されていたことだ。ただ、変革を‘Change’とすると‘Innovation’と‘Change’になって、どうもピンと来ない。それで大胆にも、韻を踏みつつ‘Creation and Innovation’と言っている。(29:25)
茂木:いいんじゃないでしょうか(会場笑)。俺、修正は早いから(会場笑)。(29:34)
「世の中のマジョリティと異なるネットワークに繋がっていることが、‘Think Different’や‘Think Uniquely’になる」
堀:(笑)創造はゼロからの組み合わせで、変革や革新は既存のものを変えていくこと。その二つをやらないと社会は良くならないとと思って「創造と変革」という言葉を使っている。ただ、実は創造も変革も根本では同じという思いもある。違いと言えば、ベンチャーがやるようなゼロからの創造か、大企業がやるような今あるものを基に違うものをつくる再創造か、だ。再創造では既存の資源を調達する一方、既存のものを破壊もしていく。古いメンタリティや既得権益の打破をはじめとしたさまざまな意識改革も必要になので簡単ではないと思うが、僕は創造も変革も考えるプロセスは一緒だと思う。まずは‘Think Different’がある。(32:02)
ただ、‘Think Different’でも駄目だという思いがある。「違うものを」と言っても、「そもそも違うことは良いことなのか?」という問いがあるからだ。僕は天邪鬼だからまったく違うことを考えるが、違う=良いと考えている訳ではない。究極的に良いモノや発想に従って進めるのが一番正しいと思う。‘Think Different’はあくまでも発想法。その結果として行き着くのは、もしかしたら「同じものが一番良かった」という答えかもしれない。そこで僕がよく使うのは、‘Think Uniquely’。ユニークな考えをしていくことが良いと思うのですが、茂木さんはどう思いますか。(32:54)
茂木:本当にそう思う。世の中のマジョリティと異なるネットワークに繋がっていることが、‘Think Different’や‘Think Uniquely’になるのだと思う。ジョブズの場合はカリグラフィだった。当時、コンピュータサイエンスをやっている人でカリグラフィをやっている人なんていなかった。結局、ゼロから生み出されているような印象を受けるときも、実はそう見えるだけで、我々が見ているものとまったく異なるネットワークから出てきているという話だと思う。(33:36)
その意味では、自分がどういったクラスタと繋がっているのかを常にチェックするのがひとつのアナリシスになると思う。僕は子どもの頃、蝶の研究をしていた。今もすごく詳しい。で、蝶のクラスタなんて今のところほとんど意味がないけれど、これからも意味がないままかどうかは分からない。「ツマグロヒョウモンはカバマダラの擬態」とか言われても皆さん興味ないと思いますが、どうでもいいオタク知識のクラスタが20〜30年後、あるいはそれ以降、必要になるかも知れない。例えば「ゆるキャラ」は今、ビジネスになっているので皆が知っていますが、もともとそういうオタクな「ゆるキャラクラスタ」があったんですよね。だから自分が繋がっているクラスタが、世間のメインパートと比較してどんなポジションにあるかを客観的に考える。それで自分が起こすことの出来るユニークなイノベーションの観点も意外と見えてくるのかなと感じる。(34:47)
堀: ‘Think Different’と‘Think Uniquely’の定義を僕なりに考えてみると、前者は「あるものに対して違うものをつくる」、後者は「固有の自分らしさを出す」という話になると思う。また、クリエイティビティはそもそも自分のなかにある固有のものをさらけ出すことだとも思う。人間は生まれながらにしてクリエイティブでユニークな存在だから、それをさらけ出す。その発想法として、今まで学んできた方法論と真逆に考えてみる。それによって自分のユニークさも強みも出せるではないかというのが僕の仮説だ。(35:38)
では自分固有のものを出す方法は何かというと、自分を知ること。だからグロービスでは自分の使命、あるいは「自分は何故生まれて来たのか」といったことを考えさせている。「自分の強み弱みや好き嫌いを含めて考えていきましょう」と。それを出すことがユニークネスの発揮であり、クリエイティブではないかと思うが、脳科学的にどうだろう。(35:56)
茂木:賛成です。特に芸術や文学の世界では、自分の劣等感や大失敗をポジティブなほうに上手く変える人がブレークするケースは多い。いわゆるポジティブシンキングというのがあるでしょ? 「これを世の中に提案してきます」みたいな。それ自体もすごく良いことだけれど、それが自身の深い劣等感、挫折感、あるいは違和感みたいなものに根差していると、さらに素晴らしいと思う。(36:52)
堀:僕は経営者なので戦略を考えるが、実は戦略というもの自体は最終的には他社にも真似出来る。だから「それでは意味がない」ということで他社が真似出来ないものを突き詰めていくと、最終的には人間になる。人間のユニークさを出していく。そうなると、‘Think Different’という発想法とともに、自分自身に還ることも大切になってくると感じる。自分のユニークさを経営にぶつけ、それを生かしていく。そこでそのユニークさを一緒に考え、共鳴・共感してくれる仲間を集めていくことでユニークな組織が出来あがっていくのだと思う。(37:52)
茂木:そう思う。そういった自分のユニークネスをどのように表現出来るかが魅力的なリーダーの条件でもある。堀さんを含めて、カリスマ的なリーダーというのは自分のユニークさを掘り下げた人が多い。たとえばマイケル・ジャクソン。彼はエレファントマンのモデルとなった実在人物の生涯と骨格標本に大変な関心を抱いていた。彼は生前、「どんどん肌が白くなっている」とか色々言われていたけれど、亡くなった今は「偉大なポップアーティストだった」と皆が認識している。案外、ユニークなカリスマ性というのは見られることの喜びや悲しみを突き詰め、掘り下げるユニークさによって生まれるのではないか。皆さんもカリスマ的リーダーを目指すのなら、自分の人生において痛かったところを掘り下げることも大切になると思う。(39:24)
堀:恐らく自分にしか演じることの出来ないリーダーシップがある。僕に孫(正義・ソフトバンク代表取締役社長)さんやジョブズみたいなことは出来ない。だから自分らしいリーダーシップを発揮しようとする訳だが、それは自分をさらけ出すことだ。ただ、さらけ出すだけなら子どもでも出来るから、その辺はTPOをわきまえつつコミュニケーションをとっていく。で、それは堀義人の堀義人的リーダーシップだ。リーダーシップのあり方は自分のキャラクターから抜けられない。従って、そのキャラを伸ばしていくのが一番大事になると思う。そのうえで、コミュニケーションの方法論を駆使しながら多くの人が共感・共鳴するような形にする必要があるのではないかと思う。(40:24)
茂木:その通りだ。皆さんにお薦めしたいのは自分の馬鹿さ加減をさらけ出すこと。人が人に魅力を感じるのは、「この人、すげえデキる人なのに、馬鹿だ」という面が見えたときだ(会場笑)。デキる人である堀さんに馬鹿なところがあると、それが魅力になる。ただ、その逆は駄目。本当は何もないのに自分を賢く見せようとしても周囲の人には見抜かれる。だから馬鹿な自分をさらけ出しても大丈夫なほど実力を付け、そのうえで馬鹿さ加減を隠さない。これはもう最強。そういうさらけ出し方を研究して欲しい。(41:42)
堀:組織やチームでイノベーションを起こす方法論も伺いたい。ネットワークは縁のある人たちだけでつくらず、もっと意図的に広げていくべきだだろうか。(42:33)
茂木:意図的につくるべきだと僕は思う。先ほど申しあげた通り、自分が今いるのはどういったクラスタかを冷静に分析してみて欲しい。そのうえで、「ひょっとしたらこっちのクラスタにもっと接すると、自分がやりたいことに必要なものが得られるんじゃないか」といったことを、ロジカルなオペレーションとしてやったほうが良いと思う。(43:34)
「メンバーが次々と相互に喋るようなグループが最も高いパフォーマンスを発揮する」
茂木:MITのCenter for Collective Intelligenceという研究組織で興味深い研究成果がある。それによると、グループのパフォーマンスと最も相関が高いのはそのグループの平均能力でもなければ、ひとりの飛び抜けた人が持つ能力でもないそうだ。では何が最も高い相関を示すかというと、ソーシャル・センシティビティ。メンバー同士がどれほど互いの気持ちを汲み取っているかだ。たとえば会議でどれだけの‘tongue taking’があるか。つまり話者交代があるか。ひとりだけが喋り続けるのでなく、メンバーが次々と相互に喋るようなグループが結果として最も高いパフォーマンスを発揮するという。(44:01)
堀:どうすればそういったグループをつくることが出来るとお考えだろうか。僕としては、まずは「こっちに進もう」というビジョンが仲間と共有されている必要があると思う。それとミッション。「この組織はなんのためにあるの?」というベースが合っていなければならない。あと、価値観も共通させるべきだろう。価値観は経営理念になる。(44:38)
ただし、能力、性別、年齢、国籍、あるいは文化的背景といったものは、ばらばらが一番良いと思う。つまりダイバーシティ。営業能力が高い人や研究開発が得意な人等々、まったく異なる能力や背景を内包するグループのほうが発想も多様になる。桃太郎が10人いても鬼退治は出来ない。猿や雉や犬がいるからこそ勝てる訳で。(45:24)
そんな風にして、グロービスではまず、ビジョン、ミッション、そして価値観の摺り合わせに大変なエネルギーを使う。そもそも重要なのは誰をバスに乗せるか。そこが合っている人を入れて、あとは内部で徹底的に育成し、そのうえでこのあすか会議のような共通体験を重ねながら強い組織にしていく。「創造と変革の志士を〜」といった教育理念と合致する人々に能力を開発して貰い、人的ネットワークと志を育成して貰いたいと思っている。とにかくベースの部分が共通していれば、あとはどんな人でもOKだ。(46:37)
あと、外部とのオープンネットワークも重要だと思う。ここでも世界と繋がるダイバーシティが必要だ。内部と外部のあいだにあるバウンダリーを出来る限り下げて、ほぼ自由に出入り出来るようにする。ソーシャルメディアを使った仕事中の発信もすべてOK。それが仕事の一環でもあると。そうすると情報を知恵も入ってくる。そういった外部とのつながりも含めた生態系を強くしていきたい、というのが僕の考え。(47:36)
茂木:僕は、「誰もがユニークで、かつ伝えるべきメッセージを持っている」と信じている。皆さん自身のなかに大変ユニークな経験等があるんだ。それをどうやったら引き出せるかにすごく関心があるし、最近ではそれが自分の命題だと思っている。(48:18)
沖縄で僕がよく行く、おにぎりをつくるお店というのがある。で、そこの奥さんはカリスマ的な方で旦那はいつも大人しい。ただ、実はその旦那は20年間、サンタバーバラかどこかでシェフをやっていたらしい。驚いた。皆、何か面白い経験は持っているんだなと。でも日本社会では、「大学に行って会社に入りました」みたいなパーセプションを通して、人間同士が抱くイメージの帯域が狭くなってしまっている。(49:12)
でも、本来は色々な人がいる訳だ。例えば仕事では公務員だけどプライベートではロックンローラーだとか。そういう人間の‘hidden dimension’、隠れた一面をどのように引き出すかが、日本社会の創造と変革のためにも必要だと感じる。脳科学者として言うと、社会において特定の人たちだけがユニークで、あとの人たちが沈黙の羊ということは有り得ない。皆、変な面を持っている筈だ。あすか会議のような集まりが持つ重要な意味はその辺にもあるのかなと感じる。個性というか、一人ひとりのなかにあるユニークネスが自然に流れ出すきっかけになればいいなと思っている。(49:54)
堀:皆、変というのがいいですね。僕は、自分としては最も普通だと思っているけれども、皆には変人と見られることがあって(会場笑)。(50:06)
茂木:堀さん、本当の変人はほぼ例外なく自分が普通だと思っているんですよ。逆に「私、変なんです」と言う人は、‘Wanna-be's’。あまり変でもないのに変であると見せたい人だ。(50:23)
堀:世の中でも色々と変なことは起きる。でも、どちらが変でどちらが普通かなんて結局のところ分からないし、「まあ、自分が良いと思うことをやればそれが普通だ」と、勝手に思うことにしている。変わっている部分もある程度は認識しないと社会からバッシングされることもあるので(会場笑)、上手くやりたいとは思うが。(50:23)
ではQ&Aに移ろう。先ほどからツイッターでも質問を募っていたが、会場の方からもツイッターで質問が来ている。まずは「自分の馬鹿さ加減を伝えるポイントは? 恥ずかしさをなかなか克服出来ない人もいるが」との質問だ。(51:07)
「自分の駄目なところをユーモアの種にできる男は他人に対しても包容力を発揮する」
茂木:(会場を見渡して)どなたですか? …あ、あちらの方ですね(会場笑)。十分大丈夫そうだ(会場拍手)。ポイントは無防備になること。あと、ユーモアを持って伝えることが大切かもしれない。自分の駄目なところについてユーモア交じりに語ることが出来る男は他人に対しても包容力を発揮出来る。これ、女性から見てもポイントが高い。ファンダメンタルズの悪い、モテなそうな要素がある男性ほどぜひ(会場笑)、そういう訓練をしてください。(52:12)
堀:グロービスの中に「ユーモアで鍛えるリーダーシップ」というコースをつくったりして(笑)。では次の質問。(ツイッターを見て)会場からかどうか分からないが、「アメリカに比べて日本でイノベーションが少ないと言われる理由は何だとお考えだろうか」とある。これ、「日本はどうすれば良くなるのか」という論点で話してみてはいかがだろう。(52:38)
茂木:あ、こちらも会場にいらっしゃいますね。堀さんはどう思います?(52:44)
堀:え、僕から?(会場笑) …油断していた(笑)。僕はグロービスがイノベーションの源泉になると思っているけれど、とにかく他人の目を気にせず、正しいと思うことを自由闊達に皆が実行することだと思う。グロービスでも「常識をぶち破れ」とよく言っている。常識や固定観念をすべて取り払い、何が正しいのかを自分の頭で考えて行動すること。そこでユニークなもの出していくことが出来たら世の中は変わると思う。ただ、そこでどうも社会同調的な圧力に負けてしまう人は多い。(53:34)
でも、そこは気にしない。圧力については、「それはそういうものだ」と考えて、それでも自分は自分らしく、ユニークさを爆発させて人々に伝えていく。もちろん、伝える際には明確なロジックも乗せていくが、大切なのはそこで可能な限り似たもの同士がくっついていくことだ。そうすると話が早い。グロービスの在校生・卒業生は、恐らく会社でも相当変わっていると思われているのではないか。ただ、僕らからするとまっとうな人たちだ。とにかく、今言ったことをやっていけば日本は良くなっていくと思う。逆に言えば、アメリカではそれをやっている人々の数が多いだけだと思う。(54:29)
茂木:僕は時代の潮目が変化していくのを読み取ることに長けていると、自分でなんとなく思っているが、この2〜3年間、原発事故があり、民主党の失政があり、色々なことがあった。ただ、そのうえで「日本の現状がまずい」ということを言っているフェーズはなんとなく終わったと、個人的には思っている。日本の現状を良くするためのアクションを、もっとアファーマティブに、そして実務的にインプリメントしていく時代に今はなっていると。その意味でも堀さんに大賛成だ。(55:23)
僕が最近思うのは、即座のディカップリングということだ。イノベーションを阻害している要因があったとして、たとえばその打破を政治家や道州制の導入に期待していても、もう遅い。「今でしょ!?」(会場笑)。今、皆さんがそれぞれの現場でディカップルするべきだと思う。色々な会議に参加したり、グロービスで勉強したりと。今はiPhoneひとつあればなんでも出来る。僕は今、iPhoneでものすごい量の論文や文献を読んでいる。これひとつで自由を獲得出来る訳さ。(56:04)
今はLINEを経営ツールとして使用している経営者も増えているという。企業のトップがLINEで直接、瞬く間に出資などの経営判断を実行に移している訳だ。だから皆さんもこういうところで経営者をナンパして、LINEのアドレスをゲットしたうえで直接案件を持ち込んだらいい。日本社会でイノベーションを阻害していると言われている要因の多くは、実はローカルな自分の周りですぐに変えることが出来る気がする。制度が悪いと言っていても仕方がないんだ。今日もここの700人くらい集まっているんでしょ。それだけの人がローカルな場で、それぞれ自分の新しいやり方を実行に移したら…、社会はそういうところから変わるかもしれない。(57:00)
堀:(ツイッターを見て)質問を続けよう。「劣等感や挫折感をさらけ出すことに脳は抵抗しないか?」というご質問も来た。(57:12)
茂木:怖いと思うし、エモーショナルなバリアは出てしまうと思う。でも、隠そうとするとコミュニケーションも上手くいかなくなるし、自身のリアリティも見えなくなる。だから出来ていないことや駄目なことは言ってしまったほうがいい。そのうえで努力をするとか、他者と補い合うことを考えるほうが良いと思う。堀さんはどう思います?(58:09)
堀:僕は脳科学者じゃないからこの質問に答えていいか、と思いますが、嫌がるかどうかというのは、「脳ではなくて意識の問題では?」という気持ちがある。まあ、それは結局すべてが脳の働きという話になるとは思うが。(58:39)
茂木:劣等感や嫌な記憶を抑圧しようとすると、それは必ず復讐するんだ。無意識の欲動は抑えきれない。だから、PTSD(心的外傷後ストレス障害)等を乗り越える方法としてプロロングドエクスポージャーというカウンセリングが存在する。過去の嫌な経験を抑圧するのではなく思い出し、それが自分の人生においてどんな意味を持っていたのかを整理する。それによって過去のネガティブな経験から自由になる訳だ。だから、そういったものは棚卸をして白日の下に晒してしまうことをお薦めする。(59:32)
堀:「劣等感や挫折感は自分を伸ばしてくれるチャンスだ」と思ってしまうというのもある。失敗はあくまでも成功へのプロセスであると。そういう発想の転換で、脳に対してポジティブな働きかけをしていくことは可能だろうか。(59:54)
茂木:可能だと思う。それともうひとつ。脳には感情を司るアミダラという中枢があって、ここがマイナスとプラスを簡単にフリップフロップする。嫌いだった人を好きになってしまうこと、あるでしょ? 嫌いという時点ですでに無関心ではない訳だ。(1:00:20)
だからマイナスの経験をした人は、実はちょっとした出会いや気付き、あるいは発想の転換でそれをプラスのエネルギーに変えることも出来る。『奇跡のリンゴ』という映画のモデルであり無農薬・無肥料で林檎をつくった木村秋則さんという人は、かつて大変苦しい人生を送ってきた。でも彼に今会ってみると、もう「顔のなかに太陽があるんじゃないか?」というほど明るい。だから苦しい経験をしている人は、「今はそのぶんのエネルギーの貯蓄をしているんだ」ぐらいに思ったほうがいい。(01:00:55)
堀:会場からも直接質問を募っていこう。いくつか続けて受けたい。(01:01:37)
会場:恐らく今会場にいる人々は今日のお話に大変共感してるし、「会社に戻ったらやってやるぞ」と思っているかもしれない。ただ、組織に戻って一番困るのは、周囲がそれに乗ってくれないことだ。それこそチャレンジだと思うが、「チャレンジの際はこういうことを気をつけると良い」といったヒントがあればお聞きしたい。(01:02:30)
会場:「あ、閃いた」というような気付きを得るためにはどのようなトレーニングをすれば良いのだろう。脳科学的に何かあればぜひお聞きしたい。(01:03:15)
茂木:最初の質問について言えば、人はどんなときに態度やビヘイビアを変えるのか、冷静に考える必要があると思う。ヒントになるのは人間の欲望だ。動かしたい思う人々の欲望を叶えるために一番良い方法だと悟らせるのが最も効果的だと思う。既得権益を持つ人に「既得権益は良くない」と真正面から攻撃しても効果的ではない。むしろそういった人たち自身が「こちらのほうへ行くと得をする」と思うようになる働きかけをしたとき、初めて変わっていくと思う。(01:04:21)
だから、まずは楽しそうにすること。グロービスはまさに楽しそうな雰囲気じゃない? これが良いんですよ。「なんだかあそこは楽しそうだ。得をしそうだな」といった雰囲気を発信することが、実は社会変革に向けた一番の近道だと思う。(01:04:57)
あと、気付きを得るためのヒントかどうかは分からないけれど、歩行禅という言葉がある。歩き慣れた道を歩いていると、脳のなかのデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)という接続性がメンテナンスモードに入る。特定のタスクをやるのではなく、ぼうっと歩くことで坐禅をしているような状態になるそうです。その際、脳のなかで未処理だった情報の整理が進むとともに、点と点が結びつくケースが、どうもあるようだ。仕事に集中したあと、リラックスしているときに閃きが生まれることは多い。つまりDMNが活動する状態だ。だからリラックスしている状態を上手く使うことがポイントだと思う。(01:05:40)
会場:イノベーションのトレンドは変わってきているのだろうか。現在はオープンネットワークといった環境で、情報量も大変増えている。ただ、脳や人間自体はあまり変わっていないというか、そちらは不変かもしれないと感じる。(01:06:10)
「イノベーションの本質は人間が『新しいものを見たい』ということだと思う」
茂木:堀さんどうです?(会場笑) いいじゃん、お願いしますよ(会場笑)。(01:06:19)
堀:(笑)難しい質問だが、常識を否定しながら新しい発想を生むというイノベーションの基本的な方法論は変わっていないと思う。僕はデカルトが好きなので方法序説的にすべてを否定していく。で、「我思う、ゆえに我あり」というところに行き着いたうえで、そこから改めてまっさら姿勢で考えていく。(01:06:55)
ただ、イノベーションの対象は変わってきた。万有引力の法則に今頃気が付いてもイノベーションにはならない訳だ。そうした対象物の変化を経て、今はITやライフサイエンスのイノベーションが大きな社会的インパクトを持つようになったのだと思う。そこの個別方法論は、実験プロセスを経て今は確立してきたのではないか。(01:07:28)
茂木:ご質問の意図はすごく理解出来る。実際のところ、イノベーションには流行がある。何故ならネオフィリア(新しいもの好きな傾向)だから。新しいものが欲しい訳だ。たとえば今はビッグデータというのがイノベーションにおける一大キーワードになっている。そういう話自体は過去にも何度かあったが、今はコンピュテーションパワーの増大や成功事例の出現もあって大きなトレンドになった。イノベーションの本質は「人間が新しいものを見たい」ということだと思うから、その意味では堀さんが仰った通り、変わっていないと思う。ただ、たとえば今はプロデューサー巻きというのが流行っているそうだが、そういうファッションのトレンドと同じで、ファッションリーダーがやっているときは格好良いけれども皆が真似ると廃れる。だから新しいものを見たいという欲望に根ざしている以上、イノベーションにも流行があって当然だと思う。(01:08:53)
堀:「イノベーションにトレンドがあってはいけない」とも思う。僕はベンチャーキャピタルをやっているのでイノベーションにまつわるバズワードはいつも耳にするし、そこで起業家にもすごい勢いでお金が積み上がっていく。ただ、それはバブルだ。メディアを含めた多くの人々がわっと騒ぐことでトレンドは出来るけれども、本来であればイノベーションの種はその逆にあると感じる。(01:09:23)
茂木:堀さんのポジションとしては、そのように考えるほうがクレバーだと思う。一方、脳科学者としての僕の立場から言うとバブルというのは恐らく社会全体が学習するプロセスだと思う。かつてオランダではチューリップの球根ひとつが家1軒と同じ値段になってしまうバブルもあった。それは「品種改良で色々なチューリップが出来る」と社会が気付いたとき、熱狂的な学習が起こったということだ。ただ、その学習がどこかで終わったとき、バブルもさっと消える。(0110:07)
たとえば急に中国語を勉強しはじめるようなことが皆さんにもあるじゃないですか。だからバブルというのは学習理論の立場から言うと悪いことじゃない。その学習プロセスにおいて、よりクレバーなポジショニングはある。ただ、『東洋経済』あたりで「ビッグデータって何?」なんていう特集があると皆が読んじゃうでしょ? 社会全体がそうやって学習をしているんだよね。(01:10:35)
堀:では最後に一問だけ質問を募ろう。(01:10:38)
会場:「コンプレックスをポジティブに捉えて乗り越える」とのお話だったが、私は行動するということを大切な価値観として持っていたにも関わらず、チャレンジしない34年間だった(会場笑)。それをどうやってポジティブに捉えたら良いのだろう。(01:11:06)
堀:質問にお答えいただきつつ、最後に会場へのメッセージもいただこう。(01:11:13)
茂木:あすか会議にいらしている時点で行動していると思うし、ひょっとしたら行動ということの目標値が普通より高いのかもしれない。けれども、パブリックの前で今のようなことを言えるような人はすでにひとつ、問題解決に近づいているんだ。(01:11:36)
それともうひとつ。ポーカーでロイヤルストレートフラッシュが出来たときにハンドを公開するでしょ? 脳のなかでもロイヤルストレートフラッシュみたいなことが起きますが、その時に必要な5枚のカードのうち、3〜4枚は揃っているということがよくある。でも、脳は非線形だから5枚揃うまではロイヤルストレートフラッシュになることに、本人が気付かない。(01:12:04)
要するにあと1インチの努力かもしれないんだ。皆さん、グロービスで勉強したりしていても、何かこう、「あまり変わらないな」と感じることはあると思う。ただ、脳は非線形だからあと1〜2歩あるいは3歩進んだとき、一気に進むことがあることを覚えておいて欲しい。いつかそのときが来ると信じて、地道な努力をしていただきたいというのが、ご質問をされた方と皆さまへのメッセージだ。(01:12:35)
堀:ありがとうございます。では最後に一言、もしほかに何かあれば。(01:13:08)
茂木:先ほども申しあげたけれど、日本の現状が悪いと言っている段階はもう終わったと、個人的には感じている。ただただ、やるべきことやっていくしかないんじゃないか。そのなかでこのコミュニティはすごく大きな役割を果たすことが出来ると思うから、(堀氏を指して)ぜひこの変人の元に(会場笑)これからも集結していきたい。(01:13:41)
堀:「仲間がいる」というのは大事だ。それで出来ないことも出来るようになる。そのためにも個の強さをつくっていこう。そして専門性とプロデュースする力も養っていきながら、イノベーティブな発想を組み合わせる。あとはネットワークだ。同じような考え方を持つ人たちと行動しながら考えていく。そしてさらに多くの人を巻き込むことだと思う。謙虚な姿勢を持ち、オープンな環境で情報や発想あるいはアドバイスが入ってくるようにして、軌道修正しながらどんどん進めていこう。(会場拍手)(01:13:42)
茂木:いいですね、いいですね。(01:14:28)