神保謙氏×長島昭久氏×林芳正氏 「新たなパワー・バランスと日本の外交戦略」 

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経済分布、軍事力分布の二側面からパワー・バランスの変化を俯瞰する(神保)

渡部恒雄氏(以下、敬称略):本日は、「新たなパワー・バランスと日本の外交戦略」と掲題していますが、この分野にかかる第一人者の方々が勢ぞろいのパネルとなりました。いままさに起きているエジプトでの動きなど、国際情勢から目の離せない中でありますが、そうした話題も含め、フロアの皆さんとの質疑も交えて率直な議論ができればと思います。

神保謙氏(以下、敬称略):慶應義塾大学の神保です。そもそも、世界の新たなパワー・バランスとは何か?。この際、世界的な富、経済の分布と、それから軍事力の分布という二つの側面から考えたいと思います。仮に中国が7%以上の成長を続け、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、N-11(ネクストイレブン、BRICsに続く経済大国予備軍11カ国の総称。イラン・インドネシア・エジプト・韓国・トルコ・ナイジェリア・パキスタン・バングラデシュ・フィリピン・ベトナム・メキシコのこと)などの新興国が次々と台頭することで、どのような世界が出現するのか。或いは、アメリカと中国の軍事力が拮抗してきた際の世界的な安全保障はどのように保たれるのか。そうした俯瞰的な絵図の中で、日本の役回りがどう変容するかを捉え、そのうえで外交戦略の方向感を定めていくことが重要です。

世界経済の分布についてベンチマークとなるのは、2003年にゴールドマン・サックス証券が出した『BRICsとともに見る2050年への道(Dreaming with BRICs: The Path to 2050)』というレポートです。2050年には中国が世界最大の経済大国になり、アメリカは2040年頃に中国に追いつかれて、まさに「大国の興亡」の中で中国は挑戦国からいよいよ覇権国に変わっていくという内容に、世界は大きな衝撃を受けました。レポート発表当時は、まさかそんな夢のような話が、と冷笑交じりに評価されていましたが、実は今日までの推移をみると、同レポートの推計を上回るペースで新興国は経済成長を遂げてきています。当時、中国が日本の経済成長を上回るのは2016年とされていましたが、実際には昨年2010年に中国はすでに日本を追い抜きました。さらにアメリカの経済を上回るのが2041年とされていましたが、その値もゴールドマン・サックスの修正レポートでは2027年と14年も早期に修正されています。

もちろん、こうした長期的な世界経済の展望というのは、マクロ経済を学ばれた方々には言わずもがな、一つの指標に過ぎず、様々な要因により変動いたします。しかしここで重要なことは、このような推計どおりの世界が出現した際、外交・安全保障にどのような影響が及ぶかを検討しておくということだと思います。

ゴールドマン・サックス自身は、中国の経済が今後減速するとの見通しも出していますが、IMF(国際通貨基金)や世界銀行をはじめとする各機関の予測値を勘案すると、中国は今後20年間にわたり平均で7%前後の経済成長を続けると考えられています。仮に、その通りの成長を続けるとして、BRICsとN-11が一体、どの時点で既存の先進国を抜いていくかを概観すると、中国はフランス、ドイツ、日本の順に追い抜いていき、2027年にアメリカに追いつく、そして、その次にインド、ブラジル、メキシコら新興国が次々と出て、G7(日本、ドイツ、イギリス、アメリカ、フランス、イタリア、カナダ)を抜き去っていく。日米中に絞って、推計値をとってみましょうか。仮に日本が1%、アメリカが2%、中国が7%の実質経済成長を続けるとして、やはり2020年代中頃には中国がアメリカに追いついてきます。大変なスピード感で、世界経済がダイナミックに転換していくのです。そして日本はというと、X軸とほぼ並行の低空飛行のような横ばいの数字を描くと想定されます。

もう一方の、軍事力の分布についても見ていきましょう。多くの国際政治学を専門とする皆さんが、「世界経済は大きく変わるかもしれないけれども、アメリカの軍事力は圧倒的であるのでその優位性は変化しない」と論じています。例えば、核と通常戦力の兵器の威力の違いや装備体系といったもの、全世界に軍事力を展開するパワープロジェクションのノウハウ、或いは統制・指揮等やインテリジェンスの蓄積、さらにR&D(研究開発)まで含め合わせると、仮にどれほどの経済変動があったとしても、そうそう簡単に他国は追随できない、というわけです。

確かに軍事予算の額面は突出しています。アメリカの軍事費・国防費は2010年会計年度で約7000億ドルですから、それだけで日本の国家予算の7〜8割を費やしていることになります。そしてこの額面は、全世界の(アメリカ以外の国の)軍事予算の総和とほぼ同額になります。

ただ、これだけの差があるからアメリカは軍事的に安泰なのかというと、実はそうでもないと私は考えています。最も大きなトレンドとして強調しておきたいのが、昨今、中国が軍事力増強を背景に拒否能力(Denial Capability)を高めてきているという点です。いま、アメリカが朝鮮半島なり、台湾なり、南シナ海なりに何らかの作戦遂行を仕掛けるとして、中国には「我々の承諾なしに勝手に入っていくことは許さない」と、それを拒否する能力を既に保有しています。これは極めて重要なポイントで、例えば2010年に韓国の天安(チョナン)号という船が撃沈されたことを受け、アメリカと韓国が黄海で合同軍事演習を行おうとしましたが、中国の人民解放軍は断固として拒否しました。そこに込められたメッセージは、先にも申し上げたように「我々の承諾なしに朝鮮半島に入っていけるとは思うなよ」という強硬なものであり、その背景には中国の軍事力に対する自信があるわけです。

これらパワー・バランスの変化は、外交的な側面から考えれば、世界的な合意形成のメカニズムが徐々に変化していくということにほかなりません。政治経済の世界では、G20という枠組みが生まれているわけですが、アメリカと同盟国と友好国の間の連携、さらにロシアや中国といった新興国との戦略的な関係を、どのように形成していくのか。そういうことが今後10年、20年の外交政策を考えるわけでは非常に決定的な要素となります。

「安全保障のアーキテクチャ」を築くことが日本の課題(神保)

話の最後に、あと一つだけ、プロボカティブ(挑発的)に申し上げたいことがあります。それは、日中間の軍事力の差異は今後、大きく開き、日本1国のみで対中戦略を練るというのは、ほぼ不可能になっていくだろう、ということです。

経済成長率と国防費の関係から考えてみましょう。アメリカの軍事費は2010年度の数値でいうとGDP比の約4.9%、中国は公式発表では約1.7%、SIPRI等の統計では2.2%となっています日本の国防費はというと、GDP比の約0.9%です。さて、2011会計年度に関して、アメリカのゲーツ国防長官は7000億ドル規模の軍事予算を仕方なしには認めるでしょうが、向こう5年間でできる限りこの額を減らしていきたいという方針を示しています。中国はどうかというと、軍事費GDP比2.2%ということであれば約1,143億ドル、ただ、公式発表の1.4倍ぐらいの軍事費を使っているという説もあるので、仮にそうだとするとかなりの脅威と捉えなければなりません。また日本は1%の経済成長率で、国防費はずっとGDP比0.9%と仮定すると、まさにX軸の低空飛行のような横ばい状態を続けていくことになります。

そこで日中間の軍事力の差異に話が戻るのですが、2000年代において日本は中国と1対1で対抗し得る能力を保有していると言えたのですが、これから20年後には軍事費が1対7から1対10という差異に開いていく。となると、もはや1国だけでは対抗し得ない、絶望的な状況になっていきます。ただ一方で、注視したい重要なポイントがあって、それは米中間でのトランジション(変遷)は、そう簡単には起きてこないということ。ですから、アメリカの優位性を前提に、戦略を立てることはある程度までは可能なのです。もう1度繰り返しますが、軍事面で日中間のトランディションが急激に起きていくものの、米中間のトランディションが起きるまでにはまだ時間的な余地がある。この中で日本が戦略をどう立てていくべきか。これに掛かっています。

これまでお話ししてきたように、経済、軍事ともに世界的なパワー・バランスに大きな変化が起きており、この先20年の猶予期間中に、現存する秩序に元気のいい新興国をどのようにして巻き込んでいくか、日本はパートナーシップを組む国をアメリカに限らず、東アジアや東南アジアに拡大していくことが大変重要になってきます。そのために、「安全保障のアーキテクチャ」とよく呼んでいるのですけれども、アジア太平洋地域の中で、同盟関係の第1層だけではなく、より問題解決型の安全保障協力を積み上げていく第2層、そしてさらに地域的な信頼醸成を深める第3層を組み合わせていくこと。そして、日本でできることを増やしていくということですね。尖閣諸島問題に象徴されるように、日本一国のアセットでマネージできる範囲は小さいですが、少なくとも中国が手を出してくれば、何らか対応能力を発揮し、さらに背後には多国間の同盟協力というものが控えているということを明示していくことが、今後の外交安全保障政策にとって必須になるのではないか、という問題提起をさせていただきます。

渡部:コンパクトにありがとうございます。続けて長島さん、いかがでしょう。

日中関係を2国間でのみ捉えられる時代は終わった(長島)

長島昭久氏(以下、敬称略):はい。私は民主党所属の衆議院議員ですが、今日は政治家・長島昭久としてお話ししたいと思います。

いま神保さんがおっしゃったように、ハードパワーという面で比較すると状況が変わってきていることは歴然としています。それに加えて我々が見るべきは、中国国家の「意図」というものになるでしょう。

存在感を増す中国という国と、どのように向き合うかということが21世紀における我々にとって大きな命題となることは間違いありません。中国がこれから20年、30年にわたってどのようなビヘイビア(行動)で国際社会と向き合っていこうとしているのか。そしてその中国をどのようにして、私たちにとって好ましい行動をとるように導いていくか。これがおそらく私たち日本の政治家、あるいは戦略家にとっての最大のテーマになるに違いない。こう思っています。

私からお伝えしたいことが幾つかあります。そのうちの一つは、日中関係はいうまでもなく2国間関係ですが、これは2国間だけで見るべきではないということです。ただしその前提として、日本にとって好ましい時代は終わりつつあり、或いは、もうすでに終わった部分もあるという認識を持たなければなりません。

アジアナンバーワンの経済力を誇っていた時代は昨年で終わりました。そして、「日中友好万歳」「日中が友好的であればすべてが丸く収まる」と信じられた時代は、経済力あるいは軍事力で中国が台頭してきたことによって終わりを告げつつあります。したがって、2006年10月に安倍晋三首相(当時)と胡錦濤主席の間で会談が行われ、「戦略的互恵関係」という概念が打ち出されました。わざわざスローガンを変えて、日中関係をもう1度規定し直したわけです。「戦略的互恵関係」という言葉にはある種の美しさがありますが、ただ、実態は戦略的でも互恵的でもないという関係でした。それが昨年、図らずも私ども民主党政権のもとで、露呈してしまったわけです。

なぜ戦略的でないのか。中国のほうは、極めて戦略的にやってきています。COP15(第15回気候変動枠組条約締約国会議)のあった2009年12月あたりから昨年の尖閣事案までの一年間戦術的な間違いを繰り返してきたことは否めませんが、戦略的には60年越しのプランまで立て、着々と実行に移してきているのです。

今から30年前、1982年に当時の中国の最高実力者・?小平の腹心といわれる劉華清という海軍の最高幹部が作った海洋戦略は、実に2040年をゴールにしており、中国はそれに基づき着々と海洋進出してきている。地政学的に言えば、大陸国家というのは大きな海軍は持てないというのが常識なんです。地続きで国境を接する国々との紛争に煩わされ、普通は海にまではなかなか出ていかれない。旧ソ連もそうでした。しかし中国は、14ある国境線のうち、インドを除くほとんどすべてを完全に安定させました。インドとは国境紛争が残っていますけれども、これも極めて安定的に推移してきています。すなわち、国力のほとんどを、西太平洋あるいはインド洋に向け、攻勢的な海洋進出を可能にする環境を30年かけて整えてきたというわけです。そのうえでの南シナ海への進出であり、東シナ海への進出であり、いまや第1列島線という南西諸島から沖縄を含むラインから第2列島線という小笠原諸島、グアム、テニアンのラインまで行動範囲を拡大してきている。

こういう中国にどう対処していくか。日本だけで対峙することは当然のことながら不可能です。したがってアメリカとどういう形で共同プランを立てていくかという話になる。6月28日に日米首脳会談が予定されていますが、そのときに日米共通の戦略を決める、実に6年ぶりのアップデートが行われることになります。それがこれから数カ月間の私どもにとって外交における最大のテーマであります。

先ほど申し上げた「2国間だけで見てはいけない」ということの根拠は2つあります。1つは、まさにこういった大国が勃興している時代背景があるからです。19世紀はじめにヨーロッパの国際秩序であるウィーン体制がつくられましたが、19世紀半ばに崩壊すると、いよいよドイツが勃興してきました。ドイツの前身であるプロイセンが勢いづいてきた初期に、ビスマルクという非常にプルーデント(慎重)な指導者が、軍事力と経済力のバランス、あるいは各国との関係を見事にマネージしました。ビスマルクは1971年にドイツ帝国の初代宰相に就任にして新しい秩序を模索していったわけです。しかしビスマルクが退いた後、ドイツ帝国皇帝のヴィルヘルム2世が軍事力を中心として、その国力を拡大することによって、第一次世界大戦に突入していきました。

第一次世界大戦直前は、ヨーロッパ内における相互依存関係が最も深まった時期でした。イギリスの経済評論家であるノーマン・エンジェルは、1910年に著した『大いなる幻想(Europe’s Optical Illusion)』の中で、これだけ各国の経済的相互依存が深まれば戦争など起きるはずがない、と言いましたが、第一次世界大戦が勃発したのは、そのたった4年後のことです。ドイツ一国が軍事力を前面に出していくことによって、一番の得意先同士だったドイツ・イギリスが衝突し、世界大戦へと突入するのです。

翻って今の中国がどうかというと、?小平が「韜光養晦(とうこうようかい。能ある鷹は爪を隠すと同意)」ということで非常にプルーデントにやってきた時代が終焉し、尖閣諸島や南シナ海で見せているような、軍事力を背景にした極めてアサーティブ(独断的)な外交を展開するようになってきました。ある中国研究家によれば、今の中国というのは日本の昭和初期の状況に酷似していると言います。また先日、アメリカのゲーツ国防長官は、中国に行った後に日本に来て、慶應義塾大学で講演した際に、「中国はシビリアン・コントロール(文民統制)がほとんど効いていない。軍部のしていることを胡錦濤が掌握し切れていない」と語りました。

これは私たちにとって大変憂慮すべき事態だということを踏まえなければなりません。今の時代背景というのも、ウィーン体制の安定した体制が崩れた後、19世紀後半に新しい秩序を模索して、各国が自己主張を強め、自分たちの領土あるいは主権、国家の意思というものを、前面に押し出してきた時代に酷似しています。そういう時代にあって必要なことは、まずはそれを認識すること。安易に中国に進出を許すと、どんどん譲らざるを得ない。そういう状況が自分たちの周りに、今起こりつつあるということを自覚すべきです。そういう意味では尖閣問題については、我々が大いに反省すべき点があります。

繰り返しになりますが、日本が単独でできることは、あまりありません。日本の国力はこの15年から20年、低下してきています。国力の挽回をこれから15年から20年かけてやっていかなければならない。一方で、忘れてはならないのは、日本の国際社会における印象というのは、実はまだ極めて良いということです。イギリスのBBCが毎年、「国際社会に好ましい影響力を及ぼしている国」という調査を行っていますが、日本はこのところ1位、2位という高位をキープし続けています。残念なのは、我々がその漠然とした好印象に甘んじていること。これをもう少し戦略的に、例えばモンゴルやベトナム、あるいはインドといった国々との連携を緊密化させることに使っていくべきと私は思います。

先ほど神保さんより、新興国との連携が重要になってくるというお話がありましたが、私もまさにそう思います。アメリカとの同盟、あるいは韓国やオーストリアとの準同盟。加えてもう少し戦略的な関係をこれからの成長のカギを握っている国々と、先んじて結び合う。これを私は「遠交近攻」と呼んでいます。遠くの国と交わって、近くの国を攻める。これは実は中国の兵法で出てくるものです。決して近くの中国を攻めるということではありません。むしろ、中国との2国間関係を安定化させるためにも、遠くの国と緊密的な関係を築いていく。中国がその国との関係を築く前に、日本が先んじてその国と戦略的な連携を強めていく。日本がそうした戦略的なアプローチをとれるようになって初めて、中国は受け身に回らざるを得ず、結果として中国との間に「戦略的互恵関係」を築いていけると考えます。私ども次の世代の政治家としては、是非こういう目標に向かって、超党派で、林さんたちと一致協力しながら国力拡大に邁進していきたいと思っています。

渡部:拍手が出ましたね。これは民主党政権を客観視した政治家・長島昭久のポジションへの拍手だと思います。では今度は林さん、よろしくお願いします。

日米中関係を1階に安全保障、2階に経済を置いた2階家になぞらえると・・・(林)

林芳正氏(以下、敬称略):はい。長島さん同様、私も一人の政治家として、野党側の発言とならないように留意します。まず簡単に全体のフレームについて私の考えを述べ、そのあと日米関係、日中関係について気が付いたことをお話しできればと考えています。

私が、非常に難しいけれども、しかしやらなければならないと認識していることの一つが、私が防衛大臣を拝命した際の防衛大学校長、五百旗頭(いおきべ)真先生(現任)が提唱されている「日米同盟と日中協商」の両立です。

五百旗頭先生の含意を私なりにパラフレーズ(咀嚼)してみます。試しに2階建ての家になぞらえて話しますが、その床は日本、アメリカ、中国の3カ国を結んだ三角形になっていると想像してみてください。1階は日米中の安全保障の三角形、2階が日米中の経済の三角形という家です。

1階の三角形は、先ほど神保さんのお話にもあったように、安全保障、勢力均衡、リアリズムですから、日米同盟と中国が勢力を均衡させなければならない。今のバランスを崩してはならない。こういうことだと思います。

中国を語るときに、中国をひとまとめにしてしまいがちですが、日本に自民党と民主党があるように、またアメリカに民主党と共和党があるように、中国にもプレイヤーがいくつかあるんですね。それは中国人民政府と人民解放軍と市民。私は最近、中国の市民を「ネチズン」と呼んでいますが、ネットで世論が形成される。メディアがまだ他の国ほど自由ではないですからネットが強いわけです。そして、この3つが中国のなかでせめぎ合っていると考えたとき、勢力を均衡させないとどういうことが起こるかというと、軍が冒険しようとすることが懸念されます。それを人民政府は押さえられない。こういう構図になるでしょう。人民解放軍が冒険しようとしても、勢力の均衡があれば「そんなことをやっても無駄じゃないか」という自制が利きます。その相似形で1階の三角形は、日米と中国の均衡を保つことが重要です。

では2階をどうすべきかといえば、日米・日中・中米のそれぞれで相互依存関係を築き拡大を図っていく。それが拡大均衡につながります。

家全体として望ましい姿は、1階が徐々に縮小均衡、2階が拡大均衡することです。なぜ家に例えるかというと、1階がグラグラすると2階で拡大に専念できないないからです、2階が拡大均衡していくと全体が重くなって、1階が地中に埋まり縮小のほうに押し込める。こんなイメージです。そういった基本的な手段が必要でしょう。

その中で日米関係を考えると、普天間基地移設問題だけに日米関係のすべてのエネルギーを吸い取られる状況から、どのようにして離れるかということにかかっています。野党の立場からすると、「長島さん、どうしてこんなことになっちゃったの?」と延々と追及することになるんですが、それをやり合っても仕方がないので、今からどうするかを重視していきましょう。少なくとも、前原誠司さんが外務大臣に就かれてからは改善の兆しが見えています。先日、ゲーツ国防長官が来日した際、6月の日米首脳会談を普天間問題の期限にしないという話になりました。これは大きな一歩だったと私は評価しています。

日米間の安全保障にかかる課題は当然ながら基地問題だけではありません。ミサイル防衛、集団的自衛権、武器輸出三原則、そのほか様々なテーマがあるわけです。普天間基地移設問題は、そうしたテーマの一つである米軍再編の中の一部ですね。そんなふうな入れ子構造で考えて、全体としては前進しているけれど、この問題には少し時間がかかっている、、、というように、日米両国で認識を揃えていくことが重要です。

小渕政権・橋本政権にまで遡れば、大田昌秀沖縄県知事の時代からコツコツと積み上げて、日本の防衛体制が確立しましたが、それから名護市長選が2回分ぐらい経過していますから、4年〜8年という時間軸にして、普天間問題をきちっとサブコミットにしたうえで、ほかのサブコミットを前面に出していく。こういうことで全体の日米同盟が元に戻っていくようにするのが、望ましいマネージメントであろうかと思っています。

日中関係については戦略的互恵関係に尽きるでしょう。長島さんが先程おっしゃったことを要約すると、すなわち昨年は戦術的互損関係だったということであります(会場笑)。これは「互損」ですからお互いに損しているわけです。尖閣諸島問題ではロシアにまで差し込まれるという状況になっていますし、中国にしても、世界中の人々が「WTO(世界貿易機関)にも加盟して中国も随分大人になったと思っていたけど、やっぱり子供だったんだ」という印象を持った。決して良いことはありませんでした。ただいずれにせよ、所詮は「戦術」的なことですから、戦術レベルでこなしていけばいい話で、再び中国漁船が来るようなことが起こったときにどうするのか、対応をしっかりと詰めておいて、同じことを繰り返されないようにする。再発防止策をきちっと施すだけのことと思います。

昨年末から年始にかけて、私は中国と韓国とアメリカを駆け足で訪問してきました。その際、中国の政府関係者は「暗黙の合意」ということを言っていました。その通り中国にまだ暗黙の合意ができているというのなら、その前提で中国は日本の対応を試しているということではないかと思います。漁船が来れば国外退去するということで向こうも騒がないという意味でおそらく言っているんだと思います。その言葉がまだ生きているというであれば、中国側が同じことをやってくれば、日本側もまた同じような反応になる。先程言ったように3つのファクターがありますから、人民政府がそういうふうに思って合意が成立していると考えても、ネチズンは昔と異なる反応をするかもしれない。そういうことを我々がよく頭に入れて、対応しなければならないということです。人民政府が「駄目だ、駄目だ」と言えば言うほど、ネチズンがデモを起こす。人民政府のネチズンに対する影響力が落ちれば落ちるほど、人民解放軍はリスクをとって冒険しようという構図になってきます。このサイクルを逆に回して、ネチズンも一応は人民政府を評価している。評価している人民政府だから、シビリアンコントロールが利くという、中国をこちらのほうのサイクルに回していくために、近くの国である我々とアメリカが、どういう確約をしたらいいかと考えるのが、戦略的互恵関係であると思います。

さて、中国の経済をどう見るかという論点があって、神保さんのお話に出てきたように経済成長率7%が続くと2030年に中国がアメリカに追いつくわけですが、果たしてずっと7%成長が続くのか、そこについて後ほどコメントをお聞きしたいと思います。

というのも、過日、私が中国人民銀行の幹部とお会いした際、「人民元をいつまでフィクス(固定相場制)にしておくんですか」と質問したところ、「オリンピックと万博とプラザ合意」という話を持ち出してくるんですね。日本では東京オリンピックが1964年、大阪万博が1970年、プラザ合意が1985年でした。ですからオリンピックから万博まで6年、そこから15年かけてプラザ合意に至りました。中国は北京オリンピックから上海万博まで2年ですから、だいたい3倍速で成長していると見ていいでしょう。そうすると日本のプラザ合意が万博から15年かかったのが、3分の1ぐらいだとすると中国は5年ですから、2015年には21世紀のプラザ合意に至ることになるわけです。そういう意味では、人民元は、完全なフロート(変動相場制)に近づけられるくらいの経済成長をしているわけですね。となると、経済は7%成長から少し成熟期に入っていくかもしれません。一方で人民元をフロートにすればどうなるかといえば、下がるという人はあまりいないでしょうから上がっていく。するともともとの分母のほうが少し変化した数字になるのではないかと思います。

来年2012年はアメリカ、中国、ロシア、台湾、韓国、フランスでリーダーが変わる年です。中国は選挙ではありませんが、各国で選挙があってリーダーが交代する。こういう年は、通例では外交政策で取りうる幅は狭まります。そんな事情から2012年に近づけば近づくほど外交的な環境が成立しにくくなりますので、外交でいろいろなことをするのであれば、今年のうちにやっておいたほうがいいのではないかと思っています。そういう意味でも、今年は外交において非常に大事な年になるに違いありません。

いよいよ政治家個人の能力が問われる時代へ(渡部)

渡部:ありがとうございました。私は自民党政権で防衛庁長官や防衛大臣を務めた歴代の方々を知っていますが、これだけ理路整然と話せる元長官や元大臣というのは、実はあまりいないんですね、そんなこと言うと怒られちゃいますが(会場笑)。そう考えると大変に感慨深い。確実に世代が変わってきており、政治家の皆さんも勉強されていますから知識の豊富な人たちが出てきているということだと思っています。それなのに、なぜこんなにも政局が、あるいは政府が混迷しているのか、と思われるのではないでしょうか? 逆説的ないい方ですが、今まではきちっとした政治の枠組みができていたから、個人の能力はあまり問われなかった。むしろ、これからそれが問われていくということを、お三方の話を伺いながら改めて感じた次第です。

さて、会場との質疑応答に入る前に、あと少しだけコメントをいただければと思います。お三方が話された内容に絡め、三つほど質問しますので、それぞれ選択して答えてください。

まず一つ目は、神保さんが話された「20年ほどの猶予期間」なのですが、この年数の根拠はどのようなものでしょうか。というのも、私自身も漠然とそのぐらいだとは思っているのです。中国は少子高齢化で20年後にはそれほど軍事費を費やせなくなるだろうが、でも、それまでは恐らく今の勢いで軍事の近代化を進めていくのだろう、と。ですから、その間バランスを崩さないためにどうすればいいのかと考えているわけですが、そのあたりについてお考えをお聞かせください。

二つ目は、安全保障と社会保障のバランスをどう取っていくか、ということを伺いたい。長島さんがお話の中でビスマルクに触れられましたけれども、ビスマルクは今の社会保障制度の礎を築いた人ですよね。兵隊を強くして国を強くするために国家が中心になって社会保障を高める。長島さんのご記憶にあるかはわからないですが、昔、衆議院議員を選挙に立候補すると決断された長島さんに対して私は、「安全保障だけで国はもたないし、政治家としての幅も狭くなる。社会保障に取り組まれると良いのではないか」と申し上げたことを覚えています。英語にすると、これはどちらもセキュリティなんですよね。ナショナルセキュリティとソーシャルセキュリティ。ただ、現実問題としては同じ財布の国家予算を食い合うことになる。この配分をどうバランスさせていくかについて、皆さんのお考えはいかがでしょうか。

三つ目は、林さんがおっしゃった「ネチズン」についてです。例えばエジプトやチュニジアの政情不安には、フェイスブックというソーシャルネットワークが大きな影響力を発揮しています。こうしたものは飛び火しますので、中国の専門家に聞くと、既に中国ではインターネットで「ムバラク」だとか「エジプト」だとかいったキーワードで検索しても情報が入って来ないのだそうです。そのぐらい中国も気にしているということです。こういうネチズン的な要素が、いったい今後はプラスに働くのか、マイナスに働くのか。また国としてどう戦略的に使っていくのか。そのあたりを伺えればと思います。

中国と向き合う安全保障戦略を、我々は正面から考えてきたのか(神保)

神保:「猶予期間20年」という話はかなり挑発的な形で示しましたけれども、中国の台頭がこれだけのペースで進んでいくというお話を年配の方が集まる研究会などですると、「中国は近く失速する、そんな時代が来るわけがない」といった反応があまりに多いんですね。私としても中国の経済に様々な問題のあることは承知していますが、でも我々はこの20年間、「中国はいつか失速する」と言い続けてきたわけです。私があえてここで挑発的な問題提起をしたのは、台頭した中国と向き合う安全保障戦略を、我々は果たしてどこまで正面から考えてきただろうか、という疑問があるからです。

もちろん推計値にはいろいろあって、中国がこのままの形で7%成長し続けていくという推計自体も根拠が問われてしかるべきでしょう。しかし考えてみると、フロート制というか、金融が自由化されたような状況で人民元が切り上がると、直接的な形としてそれは中国が購買できるものが増えるということに繋がってくるので、場合によっては私が出した推計値よりも上にブレる可能性さえあるということを、やはり準備していかないといけないのではないかと思っているところです。

猶予期間について注視したいのは、これからどういう国際秩序を作っていくかということに関して、中国国内でも議論が割れているということ。中国はずっとキャッチアップしてきたわけです。「坂の上の雲」を見ながら、彼らもここまで辿り着いた。そこに協調の兆しがあって、1つは、中国自身も心地よい形で、国際関係をつくりたいであろうこと。もう1つは、中国が成長できたのは自由で開かれた社会が先行して中国の目の前にあったからですよね。あの独自の成長モデルと、経済市場に介入する国家主導の体制を維持出来た最大の原因は、自由な市場が先行したからだと私は思います。アジアの権威主義がエジプトなどとは異なるということかもしれませんが、彼らの成長はいま秩序を支えている体制なしにはあり得ない。このパラレルの関係を中国が仮に深く認識したとすれば、そこに折り合える節があり、できるだけそういう中国を取り込んで「シェイプ」といいますが、形勢していかなければならないと思っています。

それから一言だけ。林さんは「まさに戦略的互恵関係に尽きる」と言われましたが、私は実はこの言葉に不満を持っています。確かに、安倍政権から福田政権にかけて、日中国交正常化、日中平和友好協力宣言という1970年代の時代を振り返ることから脱却し、ついに日本と中国がウィンウィンの関係を作っていこうとした2000年代半ばの転換というのは大変重要だったと思います。しかし世界から見れば、日本と中国は GDPの2位3位、アジア1位2位の国であって、この両国が協力して地域の秩序やさらに地域を越えた秩序をについて語り合うことがあってもいいじゃないかと私は思うわけです。

例えば今、日中・メコンという枠組みはあるのです。「メコン・コンジェスチョン」と呼んでいますが、複雑な形態で世界銀行やアメリカや韓国が資金を投入して、ミャンマーやカンボジアやラオスやベトナムの開発をしようというところを、なんとかして日中で調整することができれば、それはウィンウィンの関係になる。中央アジアでもそうですね。カザフスタンやウズベキスタンの開発で、日本と中国が別々に資金を入れているわけですけれども、なぜ日中・中央アジアという枠組みができないのか。また例えばシーレーン(海上交通路)に関しても、日本と中国が対立する文脈で、パワー・バランスをなんとかして整えなければならないという議論になりますけれども、同時に日本と中国は中東への原油依存率をさらに増やしているわけで、これは日中双方の利益に関わる話なんです。したがって、「日中が戦略的互恵関係を結ぶ」というのは、確かにその通りなんですけれども、それをさらに超えた戦略関係を築いて地域秩序、グローバルな秩序に向かっていく。そういう方向性をつくることが最大の目標と私は思っていまして、そこに至る国際環境を、やはりこの20年間でつくっていかなければならない。そんなふうに考えています。

経済成長を牽引しながら安全保障と社会保障のバランスを担保する(長島)

長島:安全保障と社会保障のバランスというお題をいただきましたが、その前に今の中国の話について少しだけ。幾度か話に出てきているように、確かに中国1国のパワーの増大だけに目を奪われて対中戦略を考えると、それは「お手上げだ」とか「遮二無二なって軍拡競争をやっていかなければ」とか、そういう非常に極端な話になってしまうんですね。ただそこに外交の出番があって、中国がこれだけ海洋にパワーを集中させることができるのは、やはりロシアとの関係がある程度安定している、インドとの関係が安定している、中央アジアとの関係が安定している、こういうことが大きいはずなんです。ですから、私たちはロシアとの関係、インドとの関係、中央アジアとの関係をより緊密化させることによって、きわめて率直にいえば、中国が必ずしも後背地を気にせずに海洋への進出を図ることができなくなるような、そういう国際環境をつくって(シェイプして)いく。そういう努力が一方では必要です。つまり外交の要因で中国の動きを少し鈍らせる、歯止めをかける、そういうことも戦略外交の大きな目標の1つにしていくべきでしょう。

ご質問の防衛費と社会保障費が食い合う関係だという件ですが、まったくその通りではあります。ただ、じゃあ防衛費をどれくらい増やしていったらいいんだ、となりますが、何兆円も必要というわけではないのです。今回の米英計画大綱の見直しの過程で防衛費の因数分解をしましたが、そこで分かったことはあと数千億円を上乗せするだけでも変化する周辺の軍事環境に十分対応できることがわかりました。

日本の防衛費はいま4兆7000億円ぐらいですけれども、5兆円ちょっとくらいを確保することができれば、軍事的に台頭してきた中国に対抗することができる。これはもちろんアメリカとの協力関係を前提とした議論です。ただ、そういうことから考えると、社会保障とシェアを食い合うということは現象としてはあり得るんですけれども、一方で、経済成長戦略によって経済のパイそのものを拡大していくことで、必要な社会保障経費を捻出することも考えていくべきです。

例えば韓国で李明博大統領が就任した際には、「韓国747(747公約とも呼ばれる)」というスローガンを打ち出しましたよね。経済成長率7%、1人当たりGDP(国民総生産)4万ドル、そして世界第7位を目指すというものです。このぐらい明確な目標に向かって野心的に経済成長を求めていく。

日本が3%の経済成長率を10年間続ければ、GDPは670兆円ぐらいで、つまり700兆円近くまでいくわけです。そのうえで本当の意味での付加価値税というものを導入して、例えば10%にすれば70兆の税収がそこから上がるわけですよね。いま消費税5%で12兆5000億円ぐらいですか。1%が2.5兆円です。これはおかしいですよね。GDP500兆円で1%だったら、5兆円になるはずです。どこかに消えているわけですよ。だからそこを本当の意味での付加価値税にして、GDP700兆円で10%の付加価値税にするなら、70兆円の税収が上がる。そうしたら法人税も、もしかしたら所得税も下げることができる。その中で予算をもう1度見直すことが可能なので、私はそれほど防衛費と社会保障費が食い合うというのは、深刻な問題にはならないと思っています。

報道の自由が規制される国ほどネチズンの暴走は喚起される(林)

林:長島さんがおっしゃったGDPと消費税の関係を捕捉すると、消費税というのは最終的な消費の段階でかかるので、GDPのうち消費はだいたい4割ですから、それに消費税5%をかけると、だいたいGDPの1%の半分ぐらいが税収になる。こういうことですね。付加価値税は全額の段階でかけます。政府の支出や公共事業など、全部にかけると倍になるんですが、そこは相殺されてしまうので、どこかに消えているということではないと思うんです。

いずれにしても、社会保障と防衛費の関係で言うと、社会保障は消費税で賄うということに尽きると思います。少なくとも我が党はそうですし、与謝野馨さんが入って民主党の政策をつくるということになれば民主党の政策もそうなってほしいと思っています。

年金・医療・介護は消費税で賄うということで、消費税5%への増税時、平成11年の予算政策時にうたっています。その際はだいたい社会保障費10兆円、消費税10兆円で見合っていましたが、その後、消費税5%のままで、社会保障費が20兆円ぐらいまで増えているので、平成22年度で9兆円ぐらいの赤字となっております。ただ、消費税を社会保障目的税として、年金も含めてその中で賄う。逆に言うとそれ以外の税収でそれ以外の歳出を賄うということです。増大する社会保障のプレッシャーが、なんとかして防衛費などほかの歳出に食い込まないようにしようというのが、基本的な考え方としてあるんじゃないかと思います。

防衛費については、長島さんがおっしゃったように数千億円の増額でいろいろなことができます。ただ、お金を増やしたらすぐにいろいろなことが実現するかというと、そういうことではないのは踏まえておかなければなりません。例えば昔、ソ連が空から日本を攻めてくることを想定し、北海道に陸上自衛隊をたくさん置いて戦車を装備したんですが、これを西南の海の守りにシフトしていこうということが、今度の防衛大綱にも盛り込まれるかと思います。しかし陸上自衛隊で戦車に乗っていた人に、「君、明日から転勤になるから、飛行機に乗ってくれ」と言っても、「明日から海に潜ってくれ」と言ってもできないんですね。かなり時間がかかるし、装備の入れ替えも5年10年のスパンで切り換えていくわけですから、予算の大枠の問題と別にそういう問題も考えないといけません。

私が冒頭、武器輸出三原則について触れたのは、これが実は経費節減の意味でも非常に大きな意味を持っているからです。いま日本の防衛産業は、設備投資の最初の段階、試作品のコストから製造まで全てが価格に乗っていて、国内で製造したものは防衛省が買わないといけない。この武器輸出三原則を撤廃して佐藤栄作総理以前の状態に戻せば、いろいろなところと共同開発もできるようになるし、製造したものを海外に出すなど活用できます。諸外国では普通にやっていることが可能になるので、戦略的にいろんなところと提携できるという本来の意味に加えて、そういったプラス要素があります。これは日本の防衛産業を守る意味でも、待ったなしの状況です。実は昨年12月に武器輸出三原則を緩和できそうだという、もの凄く惜しいところまでいったんですが、最後に社民党の抵抗で駄目になりました。

それからネチズンの話ですが、まさにエジプトとチュニジアでフェイスブックを発端に革命が起きている・・・、これは、日本やアメリカのように我々からすると鬱陶しいぐらいにメディアが自由な国と(会場笑)、そうではない国とで、かなり意味合いが違うのではないかと思います。いずれにせよ、様々な選択肢の中の一つとしてネットが存在しているので、ネットの功罪の罪の部分の暴走はあまりないような気がします。ただ、メディアに閉鎖な国ではネットからしか情報が入らない。あとは国策メディアみたいなものしかないんですね。だからネットがリアルな世界に大きな影響を及ぼしやすい。功罪の罪の部分が増幅しやすいということはあるでしょう。そういう国では、普通のメディアにもう少し自由に報道させるということが取ってしかるべき措置だと思います。

あとは、ネットのほうが言葉の壁がある意味では少ないという側面はあるでしょうね。例えば中国人であってもネットでは英語を使ってやり取りをし、そこでリアルタイムに反応が返ってくるので、時間の壁、国籍の壁が薄いということはあるかと思います。何にせよ、中国を考える場合、これからはネチズンが重要なファクターになるはずです。

日中、日米の軸に囚われず、多面的に世界のパワー・バランスを捉えていく(長島)

渡部:ありがとうございました。では会場からもご質問をお取りしていきましょう。

会場:日米中の三カ国を中心にいろいろなお話がありましたが、本当にそれだけでいいのかと思うところもあります。例えばアメリカのNIC(the National Intelligence Council、国家情報会議)策定の2025年のシナリオを見ても、あえて極端なものを含めています。オバマ大統領に報告されたそのシナリオの1つは、実は中国とロシアがエネルギー安全保障において中央アジアが不安定になってはいけないからということで上海協力機構(中華人民共和国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタンの6カ国による多国間協力組織)を軍事機構化する、というような。これは確かに極端なシナリオですけれども、我々が中国と付き合っていくうえでは、中国がどことどんな組み方をするのか、先ほどのメコンの例だけではなく、もっと極端な方向も考えておかないと危ないのではないかという気がします。中国の側から見たとき、日米以外にどことどう組むかというのが非常に重要な関心事と思いますが、そこをどうご覧になっているのか。これが1点目です。

そしてその裏返しになるアメリカの動きですが、最近起きている保守派のティーパーティー運動など見るにつけ、下手をすると欧米間の相互不干渉を提唱したモンロー主義になってしまって、あまり面倒くさいことに口を出したくないというように内向きにふれる可能性もある。そういうことが起こったときに日本はどう対応していくのか。日米同盟を軸にしていくという基本シナリオはおっしゃる通りだと思いますけれども、それに対してあまり頼りがいがなくなることが起こり得るのか、起こり得ないのか。これが2点目です。

神保:中国は1960年代にソ連と決別して、1969年にはダマンスキー島をめぐって対立するという形で、歴史的には同盟関係や安全保障協力に対して極めて後ろ向きだったわけですね。1982年の中国共産党第12回全国代表大会のキーワードも「独立自尊外交」、1990年代に入ってからも、アジア太平洋諸国との安全保障協力に対して後ろ向きの姿勢だったと思います。

ところが、2000年代に入ってからの安全保障協力は、まさに世界的なアウトリーチへと一変しました。わずか20余年前の1980年代には、北朝鮮とは友好条約を結んでいたものの、それ以外で実質的な安全保障協力関係はほぼゼロだったんですね。それが今や世界的に様々な軍事演習をやったり、地域協力を行ったり、さらにPKO活動までしている。日本はいまハイチに人員派遣をしていますが人数は40人程度。それに対して中国は2千数百人ですから、世界的なアウトリーチの規模という点でも、まったく変わってきました。

今のところ中国は自らを信じ、かつ自らの国際関係を良くするための外交戦略を常に前提に置いているわけですけれども、今後、よりアグレッシブな関係性を構築していく可能性は、もちろん充分にあり得ます。例えばエネルギー政策において、「ミャンマーからの陸のルートを保たなければならない」とか、あるいは原子力ルネッサンスで、原発がどんどん作られたりときのウランの供給であったり生成、濃縮という話をどこでやるのかといときに、ロシアのアンガルスクなど様々な地域であったり、アフリカであったり、そういったところとの協力関係を、同盟とは言いえないまでもかなりレベルの高い安全保障協力として形成させていくということが考えられるでしょう。

したがって2030年の中国と諸国の関係性というのは、こうした線がより具体的にフォーマルな形で育った姿になると想定できる。そこで大事なことは我々が持っているアセットです。アメリカとか韓国、オーストラリアといった国々との関係と果してどこまで協調的に付き合っていくことができるのか。その準備をすべきでないかと思います。

長島:私もそのことを考え、先程から日中、日米だけの軸ではないという話をしようと心掛けています。

最近、ロシアの政治家と話をする機会がありましたが、対中不信感が急速に深まっているなと感じました。今の中国の最新鋭戦闘機もそうだし、潜水艦、駆逐艦、これらの最新装備はほとんどがロシア製です。ところが中国は、それらをリバースエンジニアリングで技術取得して、今度は国産でつくってくる。ロシアからすれば、あまりに安易に支援しすぎたな、売りすぎたなということを今更ながらに非常に気にしています。

たしかに数年前から「上海協力機構」を中心に、中国はロシアと共に新しい軸をユーラシアにつくろうと、そういう戦略的な意図をもって外交攻勢に出てきたと思いますけれども、そこはインドを含めて必ずしもうまくいく保証はないという気がします。我が国としては、そういうところに楔を打ち込んでいく外交が必要だと思います。

それからアメリカについては最近、キッシンジャーの『外交』という本を改めて読んでいます。どうも冷戦が終わった後、キッシンジャーが目指していたのは、先程も言ったウィーン体制の再現をしようということのようです。ウィーン体制でカギを握ったのはイギリスです。イギリスは明らかに「オフショアバランス」を志向しましたね。つまり大陸のパワーポリティックスにあまりかかわり合わないけれども、距離をおきながらバランスをとっていく。

アメリカで勃興するティーパーティーの話がありましたけれども、たしかにいまアメリカは、アフガンもやりすぎたし、イラクもやりすぎた。もうコリゴリだという、ベトナムに負けた直後のような雰囲気になっていることは間違いありません。著名な国際政治学者のジョン・ミアシャイマーやスティーヴ・ウォルトらリアリストと呼ばれている人たちは、数年前から盛んにオフショアバランスを唱えています。アメリカの国力をあまり疲弊させないで、少し引いた形で国際環境をマネージしていこうという考え方に変わってきています。

そこで一番カギを握っているのは、日本だと思います。それは、“アンカー”という言い方をしますけれども、アメリカをアジア太平洋、もっといえば西太平洋にきちっとエンゲージさせ続けることができるのは、経済的にも政治の安定性からいってもこの日本だからです。韓国やオーストラリアもいますけれども、地政学的な観点からいっても不安定な極東情勢にあって要に位置する日本ではないか、と。

そこで日本がこれだけ中国からのプレッシャー、ロシアからのプレッシャー、北朝鮮からのプレッシャーを受けて、今度の大綱で社民党の福島瑞穂さんが言っているような方向で、アメリカを追い出した上に軍事的に何の手だても講じないというようなことになれば、もうアメリカも「勝手にやってくれと」ということになっていたでしょう。しかしここで、実は民主党政権が踏ん張りました。新たな防衛計画大綱できちっと日本独自の取り組みというものを見せて、「これだけ日本はやる気があるから、アメリカもしっかりアジアにエンゲージし続けてくださいね」というメッセージをアメリカに送る。そういう基本はつくりましたので、これから6月に向けて、それを1つずつ具体化していく努力をしていけば、そう簡単にアメリカが退いてしまうことにはならないでしょう。そうやって日本で責任を持って、アメリカをエンゲージさせることが必要だと思っています。

林:中国にはいまだ中華思想があり、自国が世界の中心だという意識がどこかにはあると思います。そういう中国が段々と経済的に力を持ってきて、昔でいうと南北問題みたいなことかもしれませんが、リベラルデモクラシーとステートキャピタリズムのようものが競合する存在となり、我々のほうが持っているリベラルデモクラシーにチャレンジしてくることはあり得るでしょう。

したがって、我々のほうがまずG20などで活路を切り拓いていって、やはりこちらのほうがいいんだということを示す。我々は共産主義にもイデオロギーとして勝ったし、ステートキャピタリズムからもう1段階上がって、卒業するとこちらに来られるんだということを、身を持って示すのが非常に大事ではないか。そのためにはアメリカと日本が頑張らないといけないと思います。そして中国に対しては、自身の都合で先進国になったり、途上国になったりすることは、もうやめてもらうよう対処すべきことは、きちっと対処していかなければなりません。

それからアメリカのティーパーティー運動がどうなるのかということは、断片的な情報しかないのでよくわからないところがあります。この1月に議会が始まったばかりで、いろいろ聞いてみてもなかなかよくわからないんですね。ただおそらくは、「選挙のときに言っていた通りだとちょっとまずいかな」とか、気づき始めている程度でしょう。かつての民主党がそうだというつもりはありませんが(会場笑)、そういうことがいまから起こっていく。

ティーパーティー系の人が共和党のなかでどうなっていくのかということを慎重にウォッチして、長島さんが先程言われたようにエンゲージするほうに我々も持っていく努力をする。保守系の共和党ですから自由貿易でエンゲージする方向に引っ張っていく必要もありそうです。下手をするとグローバル・コップも嫌だし、自由貿易も嫌だという方向にいく懸念もあるので、そこは非常に大事なことではないかと思います。

アメリカの人と話していると、共和党のなかの中道に近い人たちが減っているのがちょっと気にかかる、という声は、最近よく耳にします。ただアメリカはよくしたもので、右寄りの人だけの共和党になると大統領選で勝てないんですね。結局、右寄りの人を従えつつ、なるべく中道に近い人が大統領候補にならないと、大統領選に勝てないという力学が働きますので、いずれそういう人は必要だという認識が共和党内にはある。ティーパーティーをこちらのほうに持ってくること、それからその力学を使って中道に近い共和党を維持するということを、我々は努力すべきだと思います。

会場:我々経済人への期待があればお聞かせください。安全保障は中長期の戦略によって形作られるものと思いますし、お話を伺い、こうした考え方で進めていただけるのであればと安心しました。一方で我々としては、その基盤となる経済能力を高めていく努力は当然しますけれども、それ以外に、今、為すべき期待があれば仰っていただければと思います。

林:そうですね。やはり経済成長に邁進いただきたいというのが基本ですが、そのうえで、今日のこのセッションでしたような話をオピニオンリーダーとして広めていただければと思います。

北朝鮮が何かの実験をしたからといって、ようやく安全保障政策が少し進む、というような現状は健全とは思えません。ですから、まずその必要性について多くの方に認識いただきたいのです。ただ、ずっと幸せな期間が長かったものですから、ちょっと言い過ぎかもしれませんが、映画の『マトリックス』のような状況になっているんですね。誰もが仮想現実であるところの幸せな世界に生きていて、でも実際には、そのほんの外側にとんでもない世界が広がっている、というような。例えば、PKO(国際連合平和維持活動)派遣でカンボジアに行った方が亡くなった際には大きな騒ぎとなりましたが、それと米軍がアフガンに入って行って出る死者の数とを比べるとどうか。もちろん、そうならないようにするのが外交であり、安全保障の前提ですが、私が申し上げたいのは、世界では厳しい現実が日々、起きているということ。それを完全な無関係のものではなく、自分たちが関わらざるを得なくなる可能性のあるものとして捉えるという意味で、オピニオンリーダーになっていただきたいと思っています。

長島:逆に政治の側からすれば、なるべく経済の足を引っ張らないようにしなければならないと常々思っています。もし何か一つ挙げるとすれば、リスクを恐れないでいただきたい、ということですね。これは政治のほうにも責任があります。例えば資源開発において、我々はインフラシステムの輸出を推進していますが、ここで得た権益を日本は最終的に守ってくれるのか。アメリカの強みというのは、そこにありますよね。最後は(自国の企業や人を)助けてくれる。地中海に空母が浮かんでいるから、中東や北アフリカで安心してプロジェクトを進められる、というところは厳然とあると思います。

ですから我々はこれから、邦人の救出も含め、海外にある日本の権益をいかに確保し、また守っていくかということを、もっとしっかりと議論しなければならない。これまではなるべく世界に対し、軍事的に関わらないようにすることが国際社会の平和を保つ術だったわけです。しかしこれからは、そうはいかない。企業にもどんどん世界に出て行っていただかなければならない。そうやって世界に出て行って得られる日本の権益というものを、国家が責任を持って保護する。そういうリスク管理の体制を互いに協力して作っていかれたらと思います。

神保:やはり経済成長の重要性をまず感じます。ここ数年は私も安全保障政策について考える機会が多かったのですが、常々、下りのエスカレーターを逆向きに登っているような感じがしていました。しかも、その下りのペースがどんどん速くなっていると。何か底が抜けそうなのを、どうやって止めるか、ということがアジェンダになっていて、どうにか収めるたびに、やった!と拍手する。でもそうなってしまうのは我々の低成長の問題と非常に深く関わっていると思うんです。ですから、エスカレーターがゆっくりでもいいから上に向かっていって、そして余裕を持って外交安全保障政策ができるという体制が、やはり国家として一番望ましいと思っています。

二つ目は、日本の政治家にもっと外交の機会を与えてほしいという気がします。例えば中国には中央政治局の常務委員が9人いて、行く先のほとんどすべての国々で首脳系の扱いを受け、外交を展開しているんですね。例えばアフリカだけで何十日もレベルで、胡錦濤主席が行き、温家宝常務委員が行き、ほかの様々な常務委員も行って、そこで契約を取ってくるわけです。一方で、前原誠司外務大臣が「経済外交」を打ち出して、「インフラ輸出をやりたい。食糧安全保障をやりたい」と宣言しても、前原さんが実際に海外に行かれる日数というのは、限られるわけですよね。また先日は、北澤俊美防衛大臣がベトナムで開かれたADMM(ASEAN国防相会議)という国際会議で、「尖閣問題があった後だから、しっかりと日本の立場を主張してきたい」と言っていたら、なんと本会議に出られなかった。その最大の理由というのが、「予算委員会初日には全閣僚が出なければならないから」と。日本としては是が非でも立場を主張して、諸外国からの支持を得たいですよね。ところが日本の制度自体が、その機会を奪っているわけです。最近は民主国家、とりわけ議会制民主主義を厳格に取っている国家が、非民主国家に対して不利になっているという印象を拭えません。外交でも、経済、例えばインフラ輸出なんかでも、ですね。ですから、それを阻む制度から打開して、オールジャパンの環境というものを整えていく。そのためには、国民的な支援をしていくということが大事だと思います。

渡部:いよいよ時間いっぱいとなりました。最後の私からは、利益と利益、というキーワードをお出ししたいと思います。企業活動は経済的な利益の源泉です。経済利益を含む国の利益を守れるかどうかは外交安全保障政策にかかっている。。経済人の方には、この利益(経済利益)と利益(国益)が合致するように投票行動し、政治家を選び、育てていただきたいと思います。ということで、パネリストの皆さんに拍手をお願いします。

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