山中伸弥氏×立川敬二氏×鈴木寛氏「科学技術〜人類の夢とイノベーション〜」 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

科学技術立国の礎は戦略的な人材育成から(鈴木)

黒川清氏(以下、敬称略):皆さまようこそいらっしゃいました。本セッションには3人のパネリストをお招きしています。まず、鈴木さんは日本の科学技術政策の推進役として、どういう舵取りをするかに取り組んでいらっしゃいます。立川さんはどちらかというと日本におけるビッグサイエンスのあり方に、トップとして向き合っていらっしゃる方です。立川さんが理事長になってからJAXAは失敗したことはないと。あ、最近は1回ありますが(会場笑)、少なくとも地球から打ち上げているものはすべて成功しています。山中さんはもちろんiPS細胞ですね。フロンティアで大きなパラダイムを転換させようという方です。この御三方に、まずはファーストラウンドとしてそれぞれ6〜7分ずつお話ししていただきましょう。そのあとにもそれぞれ2〜3分ずつ、もう1ラウンドお話しいただいて、そこからは皆さまからのご質問をいただく流れにしたいと思っております。どうぞよろしくお願い致します。それではまず鈴木さんからお願いします。

鈴木寛氏(以下、敬称略):皆さまこんにちは。本日はどうぞよろしくお願い致します。まず私のほうからは最近取り組んでいることと、そして今後に向けて私自身が考えていることなどについてお話しいたします。で、これはもう当たり前となっている前提ですが、人口が減少している日本では今後ますますイノベーションを起こしていく必要性が高まっていきます。これは科学技術に対してもっと投資をしなければいけないという話でもある訳です。ですからその観点で、人の話、学問のイノベーションという話、それから政策のための科学という話…、以上三点についてまず述べさせていただきたいと思います。

本日のテーマは、日本をどのようにして科学技術立国にしていこうかという話にもなると思いますが、そのためには、これを担う研究者や政策面で支える人材がいなければいけない。枠組みだけをつくっても絶対に進まないと思いますので。そこで私がいつも例としてお話ししているのは、日本には世界で通用する人材育成に成功した業界がすでにあるという点です。野球です。WBCでも2回優勝していますよね。私はこのモデルを科学や芸術の分野で適用してしきたいと考えています。今はそれが2回の予算編成を通して、少しずつはじまっているという段階です。

どういうことか。まず高校の野球部員は全国に17万人います。彼らには甲子園があり、その先に大学野球があり、そして優秀なプロ野球の選手になっていく人も出てくる訳ですね。そのようなピラミッド構造をどのようにつくっていくのか。今まではピラミッドがまったく出来ていなかったし、そもそもピラミッドをつくろうという発想で設計されていませんでした。ですから私は現在、200校ぐらいの高校で「科学部を強くするぞ」ということをやっています。野球でPL学園が強いのは体育の授業が良いからではなく、野球部が強いからですよね(会場笑)。ところが日本は、たとえば科学の分野なら「理科の授業をどうするか」という話ばかりになってしまいます。もちろん学校教育の授業における野球や科学の充実も大切です。ただ、それが一番ではないと私は考えているんですね。それで去年の4月から中学校と高校の科学部に、補助金を出しはじめています。

直近5年で数えてみると数学や物理、あるいは生物といった分野の国際科学オリンピックで、日本人は21人がメダルを獲得しています。その前の5年は6〜7人ですから、色々なことがうまくいきつつあるとは言えるでしょう。最近では同オリンピックの予算参加者が5年前の1600人から1万人にまで増えてきました。これが5万人や15万人といったことになると、日本も山中さんみたいな方を毎年輩出するようになるのではないかと。ですから、まず予選参加者5万人を目標にしています。その次は10万人ですが、まずは5万人を達成するために補助金給付などをはじめた次第です。で、今年度の予算が通ればその5万人に向けた歩みが加速するということですね。

それからインカレをやります。また、ドクターになるにしてもポスドクのポストがない。ですから、そこで1000人だったポストを4割増の1385人に増やしました。また、テニュアトラックと言われる、自立した状態で良い雇用を探すポストも増やそうと。そういったラインで、現時点では一応の整備をしてきております。あとはそこにどうやって参入していくかということで、ここを皆さまにもご協力いただければというところです。

それからもうひとつ。これは黒川先生が一番詳しいと思います。日本の学問をとりまく現在の状況を見てみると、結構頑張っているところもあることが分かります。とりわけ自然科学は、相当に頑張っていると思います。たとえば東大の物理はインパクトファクターで見ると世界で2番なんですね。京大の化学は4番で、東北大のマテリアルも3番。山中さんたちもいらっしゃいますし、こちらはぜんぜん負けていません。

その一方で、今日は会場に柳川(範之 東京大学大学院准教授)先生もいらっしゃっていますが、東大社会科学のインパクトファクターは283番と…。ビジネスや経済に関しては、つねづね「それは日本語だから」という話を耳にします。しかし、それにしても185のオーガナイゼーションとインスティテュートがランクインしているのに、経済とビジネスでランクインしている日本の大学の学部および学科はないんです。それぐらい、人文科学および社会科学が国際化していないということなんですね。

自然科学については先ほど申し上げたようにR&Dまではそれなりに頑張っています。しかし、せっかくのそれら研究成果をインテグレートして事業化する、あるいは社会でエンドユーザーに届けるという部分が出来ていません。ですからそれ自体の研究をやらなければいけない。成果をビジネスにしていくプロフェッショナルの教育もしなければいけないと、私は考えています。

研究成果の事業化には複合新領域への注力が不可欠(鈴木)

日本では10年に1度、学問分野の見直しというのを学術振興会がやっているんですね。ただ、放っておいたら今お話ししたような状態をそのまま踏襲した重点方針になるのではないかと私は感じました。ですから「これはいかん」と思いまして…、恐らくあとでバッシングを食らうのだと思いますが(笑)、でもこれは日本のために介入しようということにしています。

そういった議論において、よく「融合領域」という言葉が使われますよね。私もSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)にいましたから分かりますが、そういう領域についても頑張っているところは、もちろん“点”では存在しているんです。慶應や東大の一部ですとか。しかし世の中を見渡してみると、学会全体としてそのような努力が不十分です。ですから、そういったアカデミックコミュニティをきちんとつくって回していかなければといけないのかなと考えています。いわば科学技術イノベーション政策です。生物に詳しい人、宇宙に詳しい人、医療について詳しい人…、それぞれ山ほどいます。しかし医療であれば医療イノベーション推進政策、あるいは医療イノベーションのビジネスモデル構築。そういうことに詳しい人がほとんどいません。

ですから私たちは、たとえば医療では1月7日に内閣府で医療イノベーション推進室というものをつくりましたが、そういう動きをもっと加速させなければいけないと考えています。大切なのは、そういった複合新領域に継続して注力していくことです。で、そこで力を発揮する人たちは「科学が何であるか」とか「iPSってどういうことなのか」というぐらいのことを知っていないといけないでしょう。そうでないと政策のデザインも出来ませんから。

現時点でもそのようなプロジェクトは、単独のものとしてはあるんですよ。しかしそれを安定した仕組みにして、たとえば科学費や研究費としても配分されるようにしないといけない。今年は2000億円だった科学研究費補助金が3割増の2633億円になりました。だいたい一律3割前後増やしていますが、私としてはこちらを活用してそういった新しい分野をつくりたいと思っています。

そして、最後に今年からはじめることとして科学技術イノベーション政策のための政策科学というものを…、まあ言っていても誰もやってくれないので「私たちでやってしまおう」と。そんな訳でプロジェクトを立ちあげました。先ほど申しあげたように国と民間セクターの両方が科学技術投資をしなければいけない訳ですが、その投資理論がないんです。当然のことながら、これは投資です。国としてGDPの1%を使うとなれば、100のお金があったときにどういったポートフォリオでお金を配分していくのかを考える必要があるということですね。

今はエスタブリッシュの方々のなかで「ここが良いね」といったコンセンサスがとれたところにお金を突っ込んでいる状況なんです。すると、ある意味ですべて国債購入に使っていくようなことになって(会場笑)、結局は…、まあそういう利回りやリターンになると(笑)。もちろん国債を半分ぐらい買うのは良いかもしれませんし、エスタブリッシュメントが独断と偏見で選んでいく部分があっても良いでしょう。一方で、若い人たちがピア・レビューで選ぶ領域があっても良いのではないかと思う訳です。

たとえば「これからメディカルイノベーションをやろう」となったとき、そのなかでもどんなテーマをやるかが重要なんです。ゲノムをやるのも良いし、再生医療をやるのも良いでしょう。では、その中のテーマの選択と社会資源投資のポートフォリオをどのように考えたら良いか。また、ゲノムをやるのであればそのテーマをどのチームにやってもらうのかという話も重要です。iPSだってこれはもちろん大事だということで我々もやっていますし、それは山中先生を中心にしています。しかし、山中チームだけでお願いするのか、山中チームと繋がる色々なネットワークにもお願いするのか、あるいは山中チームとは別のチームも、みたいな(会場笑)、そんなところにも併せてお願いするのが良いのか。

私はこういった議論自体もサイエンスになる筈だと思っています。成功パターンやシナリオを分析していく研究ということですね。「諸外国がどのようにやっているのかも研究しましょう」と。当然、セクターによって違いも出てきます。JAXAと日立の中央研究所であれば、投資ポリシーだって異なってくる訳です。そのケーススタディや分析、そしてフレームワークの構築みたいなことをやっていく。そしてそういうところをきちんと研究しているPh.D.も継続的に量産していきます。さらには同分野のアカデミックコミュニティをつくって、世界の人たちと情報や意見を交換し、さらにはコラボレーションしていく。そんなところを目指して今は頑張っております。とりあえず私からは以上です。

黒川:どうもありがとうございました。とりあえず鈴木さんには皆も言いたいことがあると思うので、のちほど一気にいきましょう(会場笑)。では次に立川さん、お願い致します。

国の継続投資がビッグサイエンスを実現させる(立川)

立川敬二氏(以下、敬称略):はい。私は現在JAXAにおりますので、宇宙分野から見た科学の夢とイノベーションについてお話をしてみたいと思います。宇宙活動はもともと人類が追いかけてきた夢で、その歴史も約50年になろうとしています。1957年にスプートニクが打ち上げられたのは皆さまのご記憶にも新しいと思いますが、それからまだ50年少しです。ですから、まだイノベーションの段階にあるのかなと思っています。その状況で日本としても宇宙開発に加わったのは先見の明があったかなと。依然として宇宙のことはまだまだ分からないことが多い。現在、宇宙で我々が分かっていることは全体の約4%に過ぎないと言われています。ですからやることはたくさんあります。JAXAにいる人間は皆、そういう意味で将来に向けたイノベーションを起こしていこうという気持ちでいっぱいだと思いますね。とにかく宇宙にはまだまだ夢がたくさんあるということをご理解いただければと思っています。

最近は「はやぶさ」も脚光を浴びました。イトカワという始原天体に行って着陸し、サンプルを採取する。さらにそれを地球まで持って帰ってきたというミッションです。特にミッションのなかで数々のトラブルに見舞われながらも帰還したということで、大変な脚光を浴びました。このプロジェクトもJAXAの考え方で言えば、新しいこと、つまり未知への挑戦になります。ここで日本がうまく考えたなと思うのは、アメリカの後追いをしないでニッチを見つけたということで、私はこれもひとつのイノベーションではないかと思いますね。何故か。アメリカは当時のソ連と競争しながらアポロ計画で月を目指していましたが、まあ…、あれほど大きなロケットを日本でつくるのは無理でした。それなら日本人の背丈で出来ることを考えようということで、始原天体に行った訳です。イトカワは小さいが故に46億年前の状態を維持している惑星で、月とは違います。それならばイトカワまで行ってサンプルを採取してくれば、46億年前に太陽系が誕生した謎が解けるのではないかと考えられていました。そんな風にしてあてどのないものに挑戦をして、結果的にはうまくいった訳です。

ただ、イノベーションは時間がかかります。サンプルリターンの計画を立てたのは1995年なんですね。そして実際にお金がついてプロジェクトが進み、打ち上げたのが2003年。それからまた地球へ戻ってくるまで、ご承知のように7年もかかりました。とにかく大変な時間がかかっている訳です。こういったビッグサイエンスでは仕方がないのかもしれませんが、これほどお金も時間もかかるプロジェクトですから、やはり民間企業では挑戦しづらいのではないかと思います。私自身も民間企業の出身ですが、民間企業がこういったプロジェクトに投資する余裕は恐らくないでしょうね。国だから出来た。ですからこういうものは国が継続してインベントしていく必要があると強く感じています。鈴木さんのお話にもありましたように、日立とJAXAなら投資方針は当然違ってきます。では我々として何に投資をすべきかとなれば、結局のところ、長期的でかつ民間では手掛けることの出来ないような分野になるのかなと考えています。

ここではもうひとつのビッグサイエンスについてもお話をさせてください。はやぶさのプロジェクトも300億円ぐらいかかっていますから、皆さまから見ればかなりのビッグサイエンスになるかもしれません。しかし我々にとってはもっと大きな挑戦がありました。それが宇宙ステーション(ISS)です。1998年に建設がはじまったISSは今年完成する予定ですが、その費用は約20兆円におよびます。これはアメリカとロシアをはじめ日本も参加した15カ国の共同プロジェクトですね。日本もアメリカとロシアに次いで3番目に大きな資本を拠出しています。これは資金のみではなく実験棟の「きぼう」など、技術面などでも非常に大きな貢献をしたということです。これも本当にビッグサイエンスだと思いますね。目的は「あらゆるサイエンスのために研究の場を提供する」ということなんです。生命科学、生体医学、それから物質科学…、あらゆる分野の実験が出来る場をつくろうと、世界が協調してつくったものですね。まさに人類史上初めて、宇宙空間に巨大なステーションを、国際協調しながらつくっていったという点では非常に特徴的な事業であったかなという風に思っています。

そんな風にビッグサイエンスを実現させるためには大変なお金がかかりますから、我々としては今後も国としてやるべきことを見つけ、積極的に取り組んでいきたい。宇宙開発は人類に大きな変革をもたらすと思っているからです。それまでの人類は地球から地球のことを見るだけでした。それが宇宙から地球を見るということに変化していく訳ですから、これはもう発想だってまったく変わる。価値観も変わっていくと思っていますね。とにかく宇宙空間をうまく活用することで、人類の未来に向けて有益な発見を…、それが何かは人によって違うと思いますが、有益なイノベーションを起こすことが出来ると我々は考えています。極端に言えば5億年後には地球だって恐らくだめになりますから、そのときのために第二の地球を見つけておくとか、第二の地球へ行ける方便を考えないといけないのではないかとか、そんな発想だって出来る訳です。

もちろん、もっと身近に考えても宇宙を活用すれば人類の未来に何か役に立てることが出来るのではないかという観点から、今は関連するものすべてがイノベーションになるのであろう宇宙開発を一生懸命やっているというところです。JAXAは文部科学省の下にいますが、宇宙関係の予算は年間1800億円。アメリカの10分の1、そしてヨーロッパの3分の1です。大変苦労はしていますが、そのなかでもニッチを見つけながらうまくやってきたということをご理解いただければと思っています。

大学の研究は自然相手のじゃんけん、でも、それがイノベーションには大切(山中)

黒川:ありがとうございました。では次に山中さん。従来、ES細胞(胚性幹細胞)に関してはブッシュ大統領が人の受精卵を使うことに反対していたことなどもあり、テクニカルあるいはエシカルなバリアがありましたね。山中さんの研究はそれを初めて超える成果を挙げました。そういう意味でも世界的な評価を受けつつ、色々な賞を総なめにしています。一昨年はガードナー国際賞とアルバート・ラスカー基礎医学研究賞を両方受賞と。「あとはノーベル賞だけ」とも言われていて、さらに大きな期待がかかっていると思いますが、さて、、

山中伸弥氏(以下、敬称略):昨日のセッションで、武田薬品工業の長谷川(閑史)社長が講演されていまして、そのなかで「新薬開発で成功する4つのポイント」というお話をされておりました。一つ目が、革新的な新薬の6割以上がバイオテックあるいはアカデミアで開発されたものということ。アカデミアというのは大学がメインだと思うのですが、そのことをまず挙げておられました。そして2番目がダイバーシティ。人によって得意不得意がある。国であればアメリカ人は新薬のターゲットを見つけるのがうまく、日本人はそれを薬として完成させるのがうまいと。ですからそれに逆らわず、組み合わせてやっても良いといったことを仰っていました。三つ目はあまり組織を肥大させず100〜150人ぐらいのチームに全権を任してしまうのが良いという点です。そして4つ目なのですが、今、思い出そうとして思い出せないんです(会場笑)。気持ち悪くて仕方がないので、あとでどなたか覚えておられたら4つ目を教えていただきたいのですが…。

そこで、最初に言われたアカデミアの力についてですが、どうしてアカデミアで新薬の種が数多く生まれるのかについてご説明をさせてください。やはり大学というところには、一見すると無駄と言いますか、何の役に立つのかすぐに分からないような研究をしている人間がたくさんいます。ところがブレークスルーの多くは、そのように役に立つかどうか分からないような、あるいは研究者が自分の興味のためだけにやっているような研究から生まれていきます。それが大学における研究の可能性であるという風に私は感じています。私たちは非常にラッキーなことにiPS細胞という技術に出会いました。しかしこの研究がどのようにしてはじまったかというと、実は決して、最初からiPS細胞をつくろうと思ってはじめた研究ではなかったんですね。

思い起こすと18年前のアメリカ留学中にスタートとしているのですが、きっかけは、当時一緒に働いていた研究員である女性との、のちほどご紹介するような会話でした。当時の僕は、ある遺伝子、iPS細胞とも幹細胞ともまったく関係なく、動脈硬化に関係していているだろうと思っていた遺伝子の機能を調べようとしていました。そこで、その機能を調べるために遺伝子改変マウスという技術を使っていたんです。これは体のなかで特定の遺伝子だけを強く働かせるようにしたマウスですね。そういう技術が二十数年前に確立されていたんです。その技術を使って対象となる遺伝子の働きを強めた遺伝子改変マウスを作製しました。そうしていたら、ある日のある朝、そのマウスを世話してくれていた女性が血相を変えて僕のところに来たんです。もちろん英語だった訳ですが大阪弁に翻訳して(会場笑)、次のように言いました。「伸弥、伸弥、あんたのねずみ、妊娠しとる」。

僕は「それがどうしたんや。そら、ねずみも妊娠するやろ」って。「せやけど、オスやん」と、そんな会話になりまして(会場笑)。それがiPS細胞研究のはじまりなんです。結局、そのマウスは何だったのか。僕も見に行きましたが、たしかにオスなのですがお腹が妊娠しているとしか思えないほどぱんぱんに腫れている訳です。ですから、まさか妊娠はしていないだろうということで、可愛そうなのですが一匹二匹を犠牲にしてお腹を開けました。そうして出てきたのは赤ちゃんではなく、もうぱんぱんに腫れあがった肝臓だったんです。肝臓が癌になっていたんですね。ですから「どうしてこんな癌になるのか」ということを調べていくうち、幹細胞にとって非常に重要となる遺伝子に出会った。そこから生まれてきたのがiPS細胞でした。

そんな風に、決して最初からiPS細胞をつくろうとしてはじめた研究ではないんです。「どうしてこんなワケの分からない癌が出来るのか」という、本当に自分の興味を満足させるためにはじめた研究を進めた末、出来たのがiPS細胞だったという訳です。アカデミアで行われている研究には同じようなものが非常に多いと私は思います。「そのマウスに発生した癌と同じ癌が人間に出来る筈はない。それなのにどうしてそんな研究をするのか」というご批判はもちろんあると思います。しかし、大学はそれを許してくれます。

ある意味ですが、大学の研究は自然を相手にじゃんけんをするようなものなんです。これは勝つか負けるか分かりません。ところが何十人もじゃんけんをしていると、なかには5回連続で勝つ人間が出てきます。すると「なんかあいつすごいな」ということになる。大抵はその次で負けますが(会場笑)。ただ、もっと続けていると分からなくなります。つまり10回連続で勝つ人間が出てくるんですね。これはもう大学内で噂になってきます。さらに続けていくと、もしかしたら15回連続で勝ったりする。するとどうなるか。マスコミがその話を嗅ぎつけて、「なんかすごいのが某大学にいる」となります。そして日本全国あるいは世界すべてでそういったことをしていると、20回連続で勝つ人間が出てくるんですね。ここまで来ると勝った人間も勘違いをはじめて、「どうすればじゃんけんに勝つか」という著作を書きだしたりするという(会場笑)。

ただ、いずれにせよ研究とはそのようなもので、誰が勝つか負けるかなんて予想出来ないと僕は思っているんです。それでも勝負をさせる。それが日本であれば文科省の仕事であって、それをさせないと誰もイノベーションを起こせないのではないかと。もちろん研究者は目をつぶってじゃんけんをしているのはありません。一生懸命考えます。「今までの統計上、本当はこうに違いない」とか、とにかく必死になって考え続けて、なんとか勝率を5割から5割5分にしようとします。もし5割5分に出来たら、その次は6割を目指します。10割なんて絶対になりません。少しではあっても着実に勝率をあげようと思って頑張っている訳です。そういった努力の末に勝率を少しでも高めた人を集める大学が、ものすごいイノベーションを生み出すし、そのような人材を集めた国が大きなイノベーションを生み出していくのではないかと、私は考えています。

勝率を高めるためにはオールジャパンの発想が要る(山中)

そこで僕は提案をしたいと思っています。目をつぶってやると5割となる勝率を5割5分とか6割にするような努力を、日本はこれまでは個人に任せてきました。これはスポーツでもまったく同じことが言えるのではないかと思っています。いみじくも鈴木副大臣が先ほど野球を例にとられていました。僕はスポーツ界もこれまでは、個人の努力に頼ってきた部分がかなりあると思っています。今日の朝に行われたスポーツのセッションでは、「国家をあげて選手を育てている中国に対抗する必要があるか」といった議論もありました。そのなかで「そこまで国として取り組まなくても良いのではないか」と。「そういうことをしなくても、ものすごい才能を持った選手が現れて金メダルを獲ってくれるのではないか」とうい意見はありました。僕のなかではそのお話が科学とオーバーラップしまして、「いえ、そんなに甘くないです」と思いました。今はもう個人の力だけで金メダルを獲ることが出来るような時代ではないんです。いくら才能を持っていても、国がきちんとサポートする必要が必ずあると思っています。最高のトレーニング環境を与え、最良の栄養メニューを提供し、そして怪我をした場合は最高のスポーツ医学できちんと早く治す。そういうことをしない限り、もう金メダルはあり得ないのではないかと。

科学も同じです。これまではかなりの部分を個人の努力に頼ってきました。日本人は頑張ってきましたよ。日本人のほとんどは1000万円サイエンティストです。年間予算1000万円ぐらいで研究しているんですね。僕もずっとそうでした。それでも結構、アメリカの1億円サイエンティストと対抗してきたんです。ただ、もう限界に来ています。何故か。今は少しでも勝率を上げるためにどうすれば良いかということを、アメリカなどは個人でなく組織として考えているからです。

僕はこちらに来る直前までサンフランシスコにいました。カリフォルニア大学サンフランシスコ校という医学分野に特化した、日本で言えば東京医科歯科大学のような大学に行っていたんです。その大学にはハーバードやジョンズ・ホプキンスに並ぶぐらいの、少なくとも全米ベスト5に入る医学部があるんですね。そこに幹細胞の研究を行う新しい研究所が出来ました。僕はそのオープニングでキーノートレクチャーを頼まれていたんです。その研究棟というのがですね、まあ、びっくりしました。

実は僕たちも去年、京都大学に文科省から数十億の支援を受けましてiPS細胞研究所という新しい建物をつくりました。その研究所は勝率をあげるような工夫が施されています。どういう工夫かというと研究室の壁を取っ払った。日本にはめったにないオープンラボです。現在、約20人の主任研究者がいまして、彼らは壁のないスペースですぐディスカッションが出来る。まあ悪口もすぐ聞こえてしまうのですが(笑)。しかしどうしても階層が分かれていますから、僕は横の壁だけではなくて縦の壁も取り除くという工夫を施しました。4階と5階のあいだにらせん階段をつくって上下の壁を取り外したんです。そんな訳でして、僕としてはこれを結構自慢していたんです。

ところがそのサンフランシスコに出来た新しい研究所を見て、「これはもう完全に負けた」と思いました。どうなっているかというと、4階建なのですがなんと表現すれば良いのか、縦の構造が互い違いになっているんです。互い違いに中二階、二階、中三階、三階となっていて、その真ん中が本当に上から下まで階段になっていた。1階から4階までが段々になっているのですが、すべて繋がったオープンラボになっているんです。この発想は僕にもまったくなくて、上下のらせん階段にするのが精一杯の工夫でした。「ああ、これは参ったな」と。

ではその資金がどこら出たのか。カリフォルニア州はそんなにお金もないだろうと(会場笑)。実は、その建物の名前は‘The Ray and Dagmar Dolby Regeneration Medicine Building’と言うんです。オーディオのレイ・ドルビーさんとその奥様であるダグマーさんお二人の寄付で出来た建物だったんです。山の裾野に張りつくようにして建てられた、蛇のような曲線フォルムを描いた素晴らしい研究所です。ゴールデンゲートブリッジが一望出来る最高のロケーションですし。100億円ぐらいの寄付で出来ています。そういうものがサンフランシスコだけでなくスタンフォードにもハーバードにもあります。そんな風に、建物ひとつとっても違う。人についても同じです。研究者だけではなく知財の専門家などもたくさんいます。人材も寄付でカバー出来ているという状況なんですね。

それは、勝率を少しでもあげようという努力をチームとして、あるいは国家としてやっているということなんです。ですからやはり日本も何とかしていく必要があると思っています。研究者の勝率を5割から5割5分に、さらには6割にあげていくことを、もう個人ではなくてもっと大きいレベルでやらない限り、もうどんどん差が開いていってしまいます。そのことを今回は強く感じました。

そのためにどうすべきか。G1の精神は「批判よりも提案」ですから、僕からはやはり寄付の仕組みを変えてみるという提案をしたいと考えています。これは皆さまも以前から言われていることだと思います。日本ですべての寄付税制をただちに変えるのは恐らく難しいと思います。それなら科学技術特区のような格好にする。科学技術あるいはアカデミアに寄付するときだけ、特区として税金をかけない。具体的には税金をかけないというのでなく、寄付した分を税額からぜんぶ控除しまうなどの考え方です。こちらの会場には政治家の方もたくさんいらしています。世耕弘成(参議院議員)先生にも来ていただきました。同級生である世耕君には本当に助けて貰っているのですが、なんとか、さらなる政治判断をお願いしたいと思っています。ですから寄付税制を特区から変えていってはどうかというのが、今回、アメリカに行って強く感じたことです。

黒川:ありがとうございました。ではさらに続けて、御三方に一言ずつコメントをお願いしてみましょう。私も投げたいことは色々あるのですが、まずはパネリストの御三方からお願いします。

内向き、退路を断てない気質をどう変えていくか、、(黒川)

鈴木:まず寄附税制についてですが、今年、変わります。法案が通ればということになりますが、これまで所得から控除される寄付税制はあったのですが、税額から控除される仕組みがなかった。これが可能になります。寄付した分の50%は税額から控除されるといった税制が、今国会にかかっているんですね。たとえばiPS振興のNPO法人ですとか山中さんを支援する財団などをつくっていただいたとして、そこに1000万円を寄付すれば500万円が所得から控除されると。まあ、400万が所得税で、100万は地方税から出る。こういうことにはなりました。ただし、これは次のポイントになりますが、アメリカは大金持ちがものすごく多いんですよね。日本も税金の問題をクリアしていきますが、それだけのお金を持っている人がいるのかという問題が次は起こっていくんですね。まあ、そこはコメントになりますが。

立川:そういったエンジェル税制のお話は企業も適用対象なのでしょうか。企業に対しても考えていただきたいと思うんですね。私は民間企業でも社長をしておりましたが、やはり寄付金は全額が課税対象になります。それで会社としてもなかなか寄付する気にならないということになってしまう。アメリカなどではそういった研究開発投資への寄付が、いわゆる所得控除の対象になりますよね。もっと言えば税金は免除という仕組みがあります。そういうことをやってくれないと企業も投資をしないのではないかなと。

鈴木:国立大学法人への寄付であれば企業も損金算入できます。ただ、そういった部分を含めた税金の話はかなり進んでいますが、一方で、今は企業の方が進めていく余力がないというのが実情でもあります。しかしその一方、海外の大学にはものすごく寄付をしている日本企業もあるんですよね。そういった企業は日本でも寄付をしていますが、その量が増えていない。そこは逆に言えば、受け皿の大学側が改善すべき問題でもあるんです。もっと魅力的な大学になっていただけるようになればと。ですから、その部分になると少し議論のステージが変わっていくと思うんです。

黒川:せっかくですからここでお話を振る前に、もう若干大きな視点で全体像の議論をするためにも少しコメントをさせてください。まず、アメリカの政策的な部分が比較対照として挙げられることはよくありますが、そもそもアメリカの大学には引力があるということですね。研究でもなんでも。彼らはアメリカ人に限らず世界中からやる気のある人材に「いらっしゃい」と言っています。MITの教授なんてアメリカ生まれは半分以下です。そういう人たちが集まる場所をつくっているのです。「日本のアカデミアはそれを前提にしていますか?」と。グローバル時代、そこに日本の大学の一番の問題がある訳です。

たとえば最近は韓国が元気だと皆が言います。しかし韓国では海外の大学に留学している人が今はだいたい7〜8万人。人口で考えると、日本ならおよそ20万いても良い筈ですよね。で、7〜8万人のうち2万人ぐらいがアメリカで勉強しています。アメリカの大学は人を惹きつける力が非常に強いのです。とてもオープンだし、頑張ればいくらでも上にいけますから。でも、2000年時点でアメリカに登録されている日本留学生の数は4万人ですよ。今はもう3万人も下回っているのかな? 韓国ほど行っているのであれば、アメリカ1国に日本人留学生が6万人いたっておかしくない。そういう状況です。

若い子が内向きとはよく言われますが、そもそも親だって内向き。これまで留学していた世代だって、会社の命令とか、「それが出世するかな」と思って行っただけの話です。自分から退路を断って行った人なんてほとんどいない。で、今はどうか。21世紀以降日本でノーベル賞を獲った人は10人いますが、そのうち3人は向こうでずっとキャリアを積んだ人です。根岸(英一 パデュー大学特別教授)さんなんて一度帰ってきてから「やっぱりやめた」と言ってまた向こうへ行ってしまった。企業だって同じです。たとえばバイオ。ノバルティスにしてもメルクにしてもGSK(グラクソ・スミスクライン)にしても、日本に研究所などをつくって色々模索したけれどすべて引き揚げてしまいました。彼らが帰るときに言っていましたが、やはり日本は「違っている」ということを評価しない。山中さんなんてその分野で最初から外れていますよ(会場笑)。で、外れている人には「こんちきしょう」と言うのがある訳ですね。昨日お話ししていた冨山和彦さんも“挫折力”と仰っていますね。私はいつも若い子に「あなたの挫折の経験ってなんなの?」と訊いています。挫折するとか退路を断ち切ったような人があまりいない。でもこれは“こんちきしょう”がないとなかなか出来ないと思います。そういった部分は山中さんはどうお感じですか?ずっと外れていた訳ですが(会場笑)。

山中:(笑)僕は外れていましたから本当にご指摘の通りです。海外に飛び出して帰ってきた僕からすると、たしかに、今の学生たちがほとんど外国へ行かないことに対して「何故だろう」と思うときはあります。ただ、黒川先生はお見えになっていなかったかもしれませんが、昨日のセッションで田中(良和 グリー代表取締役社長)さんが仰っていたことも分かりました。「今の30代前半より下の世代は“ジャパンアズNo.1”といったような時代をそもそも体験していないし、成功体験もない。物心がついたときにはすでに日本がだめになっていたから、そこで「ジャパンアズNo.1だった」と言われても何のことか分からないと。僕も「本当にそうだなあ」と思いながら聞いていました。僕らの時代も景気は悪かったから、卒業してドクターになっても、当時はポスドク制度もほとんどありませんでしたし。ですからアメリカやイギリスに行って良い論文を書き、そして日本に戻ってくるというひとつの成功パターンがありました。僕も結局はそれがあったから行けたんだと思うんですね。

でも、今は「アメリカに行ったら帰ってくることが出来ない」という状況もあるのではないかなと思います。ポストがない。実際、向こうで良い仕事をしてもなかなか帰ってくることが出来ない先輩をたくさん見ているんですよね。そういった現状を考えると、あまり「海外へ行け。行かないのは情けない」と言っても詮無いことなのかなと。ですから海外へ行く若い人たちがきちんと帰ってくることが出来るような仕組みをつくってあげる必要はあるのかなという風には感じています。そんなことを昨日の晩は考えていていたのですが。

黒川:ただ、南部(陽一郎 シカゴ大学名誉教授)さん、根岸さん、あるいは下村(脩 ボストン大学名誉教授)さんが、日本に帰ってくることが出来ないから悔しい思いをしたということでもない訳ですよね。山中さんもアメリカへ行ってはじめて「なんか違うな」と思いませんでしたか? 日本にいるというのはひとつの選択です。しかし、日本人は日本に帰って仕事をするしかバリューがないような世の中になっているのかということですよ。そうではないのに、すべてのことが日本のなかにおける話になってしまっている。自分たちのマインドセットが非常に「内向き」になっているのではないかなと。イチローだってそうでしょ? イチローがメジャーで活躍し続けることで我々が勇気を貰っているのか、それとも帰ってこないことを気に入らないと思っているのか、どちらでしょうかと。私は前者ではないかと思います。日本にいるのが日本人ならば、世界で活躍する日本人がいても良いと。ノーベル賞を貰った人は日本の国籍ではなくてはいけないのか、それとも半分までは日本人の血が入っていれば良いのか…、そういうことなのではないのかなと私は考えています。

山中:僕としては、ともかくどんな形でも成功体験をさせてあげたいという気持ちがあるんですよね。

黒川:たしかにそれは大事ですね。

山中:そういうモデルケースをいかに見せるかというのが本当に大切になるというか、今はそれが少し減ってきているのではないのかという気がしています。

自然科学はエビデンスベースなのに、人材の話になると仮説ばかりが飛び交う(鈴木)

黒川:…ということで、鈴木さんが言っていることも良いのですが、私から見ると、もう少し大きく、やはり若いときから外に向けていきたいと。小中学校であれば一カ月のサマースクールや高校生なら1年間のホームステイをしようとかね。今の日本ではそれさえも減ってきています。ただ、大学を変えるのもまた難しい。大学側が変化に抵抗しますから。ですから私は去年、学生に向かって「休学のすすめ」ということを言い出しました。すると「あ、そうだな」と言って向こうへ行く人が結構いました。ガーナへ行ったりモスクワいったり…。そういうフレームも入れたうえでの日本の科学技術政策について考えていくのはどうでしょうか。

鈴木:結局、日本でも、自然科学のほうはエビデンスに基づいた議論をしっかりとしているのに対して、人材の話などになると言説や仮説ばかりが飛び交うんですよね。そこをもう少しひとつひとつ、深く検証しながら、言いっ放しでなく政策に反映していきたいなと。

また、たしかにマクロで言えば留学生が4万人から3万人ぐらいに減ったというのは事実ですが、黒川先生の周りも僕の周りも…、少なくとも「すずかんゼミ」の周辺はまったく内向きになっていません。どんどん外に出ています。最近、「すずかんゼミ」からスタンフォードのバイオロジーに行った子がいたんですね。それで、「どうも日本人が内向きになっているらしいから『それなら何をしようか』という議論を皆でしよう」という場に、「俺が航空費をもつから一旦戻って来い」と、その留学生を連れてきました。そこでいかにスタンフォードが面白いかという話をさせたんです。去年の夏と冬で2回やりました。そうしたら、東大、早稲田、京都、九大で2000人ぐらい集まりましたよ。で、おそらく再来年の応募には2000人ぐらいが応募します。そうしたら3万人が3万1000人ぐらいにはなるかもしれない。実際、黒川先生もそういったことをすでに色々とやっていますよね。それなら黒川先生周辺から出るかもしれません。

…とか、そういったミクロ論とは別のところで、仕組みとしておかしいところもありますよ。ですからそれはひとつひとつ整理をしていきましょうというお話になります。

それともうひとつ。帰って来るポストがないという話についてですが、日本貿易会会長で三井物産の槍田松瑩会長が、商社は4年生の10月までは募集活動をしないという英断をなされました。「むしろ留学経験と海外経験を評価する」と言っているんですね。これは大きなインパクトです。これまでは「2年生や3年生が留学すると就職に支障がある」という言説が飛び交っていて、そのことを皆が信じていた。それで国内にいた学生のあいだには、むしろ商社を目指すのであれば留学したほうが良いというトレンドも出てきています。ですから色々とマインドの問題はあるでしょう。ただ、それを生み出している仕組み、あるいはその弊害を打破する対策などについて、きちんと論点をマッピングしながらベストプラクティスを広げていく議論をしましょうということなんです。

もちろんそこには情報の非対称性の問題もあるかもしれませんから、メディアを通じた応援も必要でしょう。そもそも内向きという問題にはモンスターマザーなんていうのも絡んできて、「そんな外に出て行ったら大変だよ」とか言い出す(笑)。それは多くの母親たちに世の中に関する正しい情報が伝わっていないからです。ではそこをどうしたら良いのか。そんなことも考えます。

それを総合的に議論するべきなんです。社会は生き物ですから。医療はまさにそうですよね。生活習慣を変え、薬を変え、ときには手術もする。トータルでコーディネートしていくのが医療です。基本的な社会病理の分析だってそれと同様に、もっと総合的にきちんと行うべきだと私は考えています。政策についても同様です。ところが、人文科学や社会科学がそのレベルに達していない。ですから、その議論を行うコミュニティが必要ではないかと。G1はまさしくそれにあたるコミュニティだと思いますが、年に1回しかないのが残念です。ですから私は「G1の分科会だけでもいいから継続的にフォローアップをしませんか?」と提案したい。東京で、あるいはネット上で、たとえば3カ月ごとにきちんとフォローアップするようなことが出来ると、これは社会科学や人文科学、あるいは政策議論の力強いコミュニティになり得るのではないかと思い、期待しています。そういうことを皆でやっていきたいですね。政府もそういった枠組みを応援させていただきます。G1もそういった枠組みとして民間から立ちあがったコミュニティであると思っていますので。

黒川:たしかに色々と検討することはありますが、実はそれをしていると時間がかかってしまって間に合わなくなるのではないかという懸念もある訳ですね。

そこで、たとえば宇宙のビッグサイエンスについても私は20年前から言っていたのですが、ベトナムでもマレーシアでもどこにでも、宇宙関連のビッグサイエンスに参加したいと思っている人は必ずいますよね。それならば、そういう人たちに対してオープンにする。あるいは協働の形にしつつ、たとえばH-IIAロケットに参加国の国旗を貼る。そして打ち上げたらそのことをプレスにリリースしなさいという話を私はよくしていました。戦略として日本がそういう人たちに対してオープンでいるということを発信するのが重要なのです。科学がボーダレスのエンティティであれば、出来るときにそういったことを戦略として具体化するほうが良いと私はだいぶ主張していました。なかなか学者をはじめ各方面の人たちが「うん」と言いませんでしたが。ただ、立川さんにはぜひそういった話をどんどん進めて欲しいと思います。ビッグサイエンスでは基本的にアジアの若い人たちを20〜30%、入れてしまう。そういった話にしたほうが、国費を投資する領域として中長期的にも国家安全保障の基盤になると思いますから。

立川:もちろんそういう方向になると思います。実際、宇宙科学研究所(ISAS)はそういうことでやっていましたし。近々では共同研究以外にあまりやっていないのですが、たとえばISSであれば日本の権限が結構ありますから、これをオープンにしようというのも実際に今、やっています。今は各国の希望を聞いている段階ですから、これから具体的に進むという形になりますね。

黒川:ぜひお願いします。すべてのビッグサイエンスでそんな風になれば良いなと思っています。そういう意味では山中さんのビッグサイエンスについても色々とお話は聞いていましたが、たとえばアメリカでもボスの言うことは聞かないで自分なりにやっていたというお話も聞きました。また、聞いたところでは山中さんご自身は現在、7時になると家に帰ってしまうと。すると若い人たちに対してプレッシャーがかからないから。そういったところは「なかなかよく考えているなあ」と思ったのですが、その辺はいかがですか?

山中:僕の下はもう自由にやっています。日本ではボスが残っているかぎり部下もずっと残らざるを得ないというのがありますよね。ボスが帰った5分後には全員が帰るという(笑)。ですから僕はさっさと帰ることにしています。最近は土日も行かないですね。行きたいのですが、行かない。昔は土曜日にセミナーをしたりしていましたが、それも止めました。結局、そうしたほうが頑張る子は頑張るんですよ。サボる子はサボってしまいますが。ですからこれはひとつの実験でもあります。自分としては楽ですね(笑)。

人材育成推進をプリンシプルとして政策に盛り込むべき(黒川)

黒川:ちなみに鈴木さんもSFCのような比較的出る杭が揃っているところで授業を持っていらっしゃいますよね。僕も、この春、1期だけ講義を持ちましたが、そういう学生をエンカレッジするのが大切だと思っています。鈴木さんは24時間、いつでも学生の悩み相談を受けたりするというようなお話も伺ったことがあります。そういう意味で鈴木さんもすごくパッションのある方だなと思います。

で、そういうところから考えてみると科学技術もある意味では教育のツールですから、人を育てるという側面のプリンシプリルを政策にぜひ入れて欲しいと思います。また、「世界のなかでの誰なのか」ということはやはりすごく大事になると思う訳ですよね。皆がヘテロジェナイティとかダイバーシティと言いますが、女性を活用することさえもかなりヘジテイトしている日本社会で「何がダイバーシティだ」という気もしています。ですから、そういった点にも十分配慮した政策を議論していただきたいと。もちろん、常に条件をつけながらです。「これは公費なのだから、こういったことは絶対にするなよ」とか、そのぐらいのことは個別にしていただけると良いと思います。

さて、そんな前置きをしておきつつ、今度は皆さんからの質問をいただきながら進めていきたいと思います。どうぞ挙手をお願い致します。

会場(柳川範之氏 東京大学大学院准教授):先ほど名前のあがりました東大の柳川です。言い訳ではないのですが、先ほどの「内向きまたは外向き」といった部分を含めて、実は東京大学出身で世界的に活躍している経済学者はたくさんいるということもお話ししておきたいと思いました。日本人で東京大学「出身」の経済学者と定義すれば、インパクトファクターのランキングも少し上がる筈です。昨年にノーベル賞候補となった清滝(信宏)先生もプリンストン大学とは言っていますが東京大学出身の経済学者ですので。そういう意味で言うと、実は日本の経済学会はまったく内向きではないんです。むしろ外に行っている人を戻すものがない。給料のことですね。あちらのほうがずっと良いので東京大学のお給料では来てくれないんです。そういう部分にも問題はあると思っています。

ともあれ、僕が挙手したのは、そこが一番言いたいわけではなく、最大のところは、科学技術分野における人材開発の科学的な評価、きちんとした検証、そしてマネジメントというのが非常に重要だと考えているということです。私の記憶がたしかであれば昨日のセッションで長谷川社長が仰っていた4番目のポイントはリスクテイクのマインドセットとリスクアセスメントだったと思いますが、これもたしかに重要ですよね。そこで私は思うのですが、こちらの会場にいらっしゃる皆さまはまさにそういった分野におけるマネジメントのプロでいらっしゃいます。ですから、私は寄付も大事だと思いますが、やはり高い能力を持った民間の方にマネジメント評価をしていただくようなアプローチも同様に欠かせなくなってくると考えております。投資として入っていただき、ある意味ではなかで一緒に仕事をして貰うと。こういう仕組みがもっと増えても良いのではないかなと思います。そういった考え方は投資という視点で見ると短期的になると思われがちかもしれません。しかし皆さまと色々なお話をするかぎり、短期的なベネフィットだけを求める方々だけではまったくないと思いますので。

黒川:ご提案ということですね。ありがとうございます。ほかにはいかがでしょう。ご質問のある方はいらっしゃいますか?

会場(浅尾慶一郎氏 衆議院議員):衆議院議員です。コメント的な質問になりますが、黒川先生が言われた日本人留学生の減少という問題については事実としてそうだと思います。しかし私はそれ以上に…、大学の国際競争においてオープンにしているアメリカ勢が圧倒的に強いということを考えると、日本の大学に海外の人材を呼び込むことで多少なりとも日本の大学も競争力を高めていけるのではないかとも感じました。しかしながら、このときに色々なネックも生まれますよね。たとえば英語圏ではない訳ですから、学部以降は英語で授業をやるといったことになるとどのような問題が起き得るものなのか。そういった課題のご指摘を含めまして、競争力を高めるためにも外国の人材を呼び込もうという考え方について何か良い知恵があればご教授いただきたいと思いました。

山中:私たちの研究所でも外国の方は頑張っていますが、今のところ19人いる主任研究者のうち外国の方はひとりだけです。セミナー等は英語で行っているのですが、僕が感じているのは「サイエンスの課題だけでもなくなってくるかな」という点です。サイエンスのことだけを語るのであれば英語でも良いのですが、生活全般に関する問題と言いますか、とにかくサイエンス以外でも悩む学生さんが本当にたくさんいるんです。これはアメリカでも同じだと思います。学生さんはさまざまなことで悩みます。先ほどサンフランシスコの新しい研究所についてお話をしましたが、その建物を見たアメリカ人研究者のひとりは、「縦にもオープンな空間というのは素晴らしいけれども、オープンな空間の一番上から飛び降りる人間が出ないか」と真剣に心配していました。それぐらい研究でも何でも、色々な悩みが出てくるんです。ですから僕の研究所では、個人面談を受ける側も日本人という形にしてフォローしています。まだ十分に英語を喋れない学生さんも多く、コミュニケーションをネイティブでない英語でするには若干の壁を感じていますので。

あとは外国の方についてですが、ポスドクのレベルであればいますし、彼らに聞くと研究所での日本語はなんとかなるそうです。しかし、外国人に優しい筈である京都であっても、普段の生活は非常に辛いと言いますね。英語は京都であっても理解されないからです。どこへ行っても英語が通じないとなると、普段の生活で外国人は相当なストレスと感じているんですね。ですから、たとえばWPI(World Premier International)のような世界トップレベル研究拠点の構想がある京大でも、なかなか壁は高いという状態です。

グローバルに考えれば科学技術の未来は明るい(山中)

会場(水野弘道氏 コラーキャピタルパートナー):投資ファンドのパートナーをしております。本セッションの明るいタイトルに引かれて参加したのですが、なんというか…、やや空気が重いように感じられまして(会場笑)。出来ればひとつ、山中先生と立川さんのほうからそれぞれの分野で夢になるようなお話をお伺いしたいと思っておりました。「これから20〜30年後にはこんなことが出来るかもしれない」といったものがあればぜひお聞かせ願えると嬉しいです。

立川:はい。宇宙にはまだまだ夢があります。我々は100年先の夢も持っていますが、20〜30年先ということでお話しするとなると、やはり日本でやろうとしているのは有人ロケットの自立的な打ち上げがありますね。どこに行くかというのはただいま模索しているところです。月も良いし、火星も良いし、あるいは始原天体も良いのですが、恐らくは30年ぐらいかかるだろうということで、今は夢を追いかけております。

ただその前に、もう少しだけ宇宙活動を地球上からうまく行えないかということを考えながら、現在はかなり目先のアイデアを出し合っているという状態ですね。そのひとつが宇宙で動くものをすべて無人化させるという技術の確立です。というのも、現在は測位衛星をうまく活用すれば宇宙空間のものでも3センチぐらいの誤差で動かすことが出来るということも分かってきていますので。ですから日本の人口が減少していることもありますし、もう少し無人化の動きを進めたい。もちろんこれも色々なイノベーションを必要としますが。

山中:グローバルに考えれば科学技術の未来は非常に明るいです。iPS細胞ひとつとっても同様です。世界の人々を苦しめてきた難病、たとえば筋がどんどん萎縮していくような難病に対しても、iPS細胞を使った技術で新しい薬が出来るという、もうその一歩手前まで来ています。今日は僕がセッションの雰囲気を暗くしてしまったのですが(笑)、そのうちのどれだけが日本で出来るだろうと。「iPS細胞の研究に関する未来については、その多くを僕たちの研究所が担っている」と考えながら一生懸命頑張っているところであります。科学技術はグローバルにどんどん進歩しています。今は治らない病気が治るようになる。新しい薬が出来る。これは間違いないことですし、本当にすごいことなんです。そこに日本としてどれだけコントリビューション出来るか。

だからこそ僕はシステムを少し変えていきたいと思っているんですよね。「グローバルに進んでいるのならアメリカで出来ればそれでいいじゃないか」という考え方はあるかもしれません。でも、そうなってしまったら「日本人の誇りってなんだろう」ということになってしまいますので。僕だってアメリカに行って研究すれば良いじゃないかいうことになります。でも、したくない。日本で研究をして、日本で薬をつくりたいと本当に思っているんです。だからこそ、色々と「こういうことが出来ないんだ」と悩んでいたりすることも(笑)、色々と提案しているということもご理解いただければと思います。

立川:「日本もなかなかよくやっている」というお話で少し追加させてください。宇宙の例で言えば、この数年間で日本が世界一になったり、世界で初めて成し遂げたという事例は結構あるんですよね。「はやぶさ」でイオンエンジンをあれだけ長時間動かしたのは世界で初めてですし、もちろんサンプルリターンも世界初です。光衛星通信をやったのも日本が初めてです。さらに言えばISSの「きぼう」という実験棟は、規格通りつくった結果として最も静かな実験室となりました。そして「イカロス」と言う実証機では、広げた帆に太陽の光を受けて宇宙空間を進むというソーラーセイルの技術を世界ではじめて実証しています。そんな具合にたくさんありますから、なかなか先の夢は大きいと思います。

黒川:恐らく水野さんはロンドンにいらっしゃるからだと思いますが、日本の良いところに関する売り込みがなかなか見えてこないんですよね。僕は「はやぶさ」について、「Cabinet」にも「Nature」にも「Science」にもメールして伝えました。これはアポロ11号以来の画期的な成功なんですよ。あんなに遠くまで行ってサンプルを採ってきて、ぐちゃぐちゃしながらも(会場笑)、きちんと帰ってきたんだから。ただ、世の中がそのことについてエキサイトしはじめたのは大気圏で燃えちゃったぐらいからですし、盛り上がっていたのはもう日本語圏内だけでした。そういうところに戦略性が欲しいんですよね。たとえば海外に日本をどんな風に見せようかといった部分ひとつとっても戦略性が乏しい。外の人はなかなか分かってくれませんから、そんな部分のメンタリティも大事になると私は思っています。

今度、山中さんはトロント大学とも一緒に仕事をするのですが、「そのプラットフォームを使って若い人をどんどん海外に行かせよう」と言っています。1年でも2年でもいい。海外へ行くと急に見方が変わって、皆がそれぞれやろうという気持ちになるんです。ですから副大臣にぜひお願いしたいのは、たとえば毎年200人ぐらい国費で海外に5年ぐらいPhD取得にいかせてしまいましょうと。それで落ちこぼれる学生も少しぐらい出てくる分にはどうでもいいのですが、5年もすれば彼らだって猛烈に変わってくると思いますよ。

科学技術分野における「伝えるプロフェッショナル」の拡充を(鈴木)

鈴木:それは来年やります。200人でやります。さらに来年からは560人、だいたい28歳ぐらいから33歳ぐらいまで…、まさに18年前の山中さんみたいな人に、国が直接、海外で研究を行う機会を提供します。しかも「テーマはなんでも良いです」と。これまでは特定のテーマで特定の研究室に行かせるということをしていました。でも、新しい試みではテーマではなく人に着目して、その560人に世界のどこでも自分で選んで貰います。そして年間1000万あるいは1500万円をさし上げて「どうぞ自由にやってください」ということをはじめます。今は、まさに色々とご提案をいただいては進めている段階というところですね。

実際、私も文部科学省に来て改めて痛感したのですが、日本の現状は本当にすごいですよ。「これほどの人材が、どうして外に伝わっていないんだ」と思うことがよくあります。僕はいつもノーベル賞関連のリストを表彰式の一週間ほど前に貰うのですが、見てみると本当にすごいですよね。サイテーションのインパクトファクターなら各分野で世界No.1になっている方がたくさんいます。つまり山中先生級の研究者というのは、実は日本でそれぞれの分野を合計すると10〜20人いるんです。それが外に伝わっていない。そこにはメンタリティの問題というのもありますが、それと同時に「伝えるプロフェッショナル」の層が薄いという現実もあると思っています。先ほどから申しあげているように、自然科学はいいんです。とにかくそれを伝える人材を、社会科学や人文科学が輩出しなければいけない。どうやったら成果や魅力をうまく伝えることが出来るのか。ジャーナリズムにおいても専門のプロフェッショナルがいないし、いたとしても層がうすい。そういう意味でも日本の人材育成がもう少しバランス良くならなければいけないなと思っています。

あと、国費ベースで見ると日本は国内の大学に対してアメリカの6分の1しかお金を投入していません。もっと言えば、民間企業はアメリカの12分の1しか資金を出していないんです。これは結局のところ、民間企業にすらその良さが伝わっていないということなんですよね。で、これに対しては3月に経済界の主要20社前後と、旧7帝大プラス早稲田、慶應、東工大、つくば、一橋の12大学でコミュニティをつくる予定です。そこでもっと日頃から話をしようと。大学も悩んでいているし、民間企業に言いたいことがたくさんあります。そしてその一方で、民間企業では影で「日本の大学はだめだよね」と言ってアメリカの大学に寄付を出しているところもありました。そういうことをお互い止めて「とにかく言ってください」と。それで変わっていくところもたくさんあります。先ほど山中さんのお話にも出てきたWPI、あるいはグローバルCOEプログラムなどは個々には素晴らしいですよね。英語で授業をしたり研究をしたり…、外国人が入っていく拠点も出来ています。そしてそこに予算もついてきている。ただ、それがなかなか広がらない。あるいは社会の応援を得ることが出来ない。しかしそこの伝え方や評価をきちんとやっていけば、日本における自然科学のポテンシャルも花開くと私は思っています。

会場(林芳正 参議院議員):参議院議員です。現在は色々と素晴らしい研究もあって成果も出ているということがよく分かりました。で、アメリカであればそれがたとえばドルビー研究所のような寄付になって…、どこかでお金儲けというか売上となって還元される。そのアプローチについては鈴木さんも一生懸命やっておられますし、税金を使う政策としてはかなり良くなっているという印象があります。そこは素直に評価したい。しかし、税金の限界というのはあります。どこかで国に還元されなければいけませんから。そこで先ほど黒川先生が仰っていた通り、「世界中のどこでも良いではないか」とするのであれば、やはり民間のお金をいかに活用していくかがポイントになりますよね。ですからそこについてはやはり誰かがリスクをとってビジネスにするなり何なり、色々なやり方が出てくると思います。ただ、そこで技術もビジネスも分かっているというようなところが日本はどうも弱いなと、私としても昔から思っていました。その部分について改めておさらいの意味でどうすれば良いか、皆さまにご意見というかコメントをいただければと思っております。

黒川:ありがとうございます。それと関連しますが、私が安倍内閣の教育改革をはじめとした色々な場面でひとつのプログラムとしたものに、「アジア青年の家」というものがあります。これは15〜16才のアジアと日本の学生さん合計75人に沖縄で3週間、合宿をさせるというものです。そこには立命館アジア太平洋大学(APU)などの学生も20人ぐらい、チューターのような役割を担って入っていきます。これがすごく効くというか、3年経って今でも皆がフェイスブックで繋がっていて「こんなに素晴らしい経験はなかった。また日本に行きたい」という声がたくさん出ます。もちろん向こうにも行きたいという声もたくさんある。

そのときの経験があって、「次は大学の学部でもやってみようか」ということになりました。現在の「トップ30」というのは、安倍内閣でやった「アジア青年の家」の背景と同じものなんです。学部生のときに1年間交換留学させるという話ですね。連携している大学へ「1年間、行っておいでよ」とする一方で、その1年間は向こうからも来て貰う。で、教授たちには下手でも良いから英語で講義をして貰うんです。そこで、「あの偉い先生がこの程度の英語力か」と思えば学生も安心して喋りだしますよ(会場笑)。そこが一番大事な訳です。第二の開国とか第三の開国と言うのも良いのですが、これまでのエスタブリッシュメントが外向きのマインドセットになっていなかった。これは常に社会現象の根幹になっていたものです。

アメリカの大学は良いと言ったって、たとえばハーバードなら100年前にチャールズ・エリオット学長が苦労しながら採り入れたシステムのうえに成り立っている訳です。で、彼が書いた当時の回顧録を読んでみると、一番苦労したのは教授を説得することだったと言います。それはそうですよね。若い人は白紙であって、偉い人は常に過去の人だから。ですから日本を本当に開国させるのであれば、高校時代に1カ月のホームステイをさせるのでも良いし、大学で1年の留学をさせるのでも良い。大学院に行ったら…、これはもう世界に繋がっているのは当たり前だと。そんな話にしていかないといけない。山中さんのような出る杭の可能性をいかに増やしていくかということです。へんてこりんな人たちが繋がり合ってクロスポリネーションを起こし、さらにぶつかり合う機会をいかに増やしていくかが、若いうちはすごく大事なんだと思います。

そういうことをビッグサイエンスにおけるツールとして使っていくか。山中さんのようなフロンティアのサイエンスで、そのような次の世代を育てるためのツールとして使っていくか。そこを基本的にやっていくのが鈴木さんなりの政府の役割であり、民間も「文句を言う前にやってみろよ」という感じでしょうね。これはイノベーションのセッションでも出ていた話です。やはり実体験をさせないといけない。頭でっかちにさせず、若いときから実体験をさせていく。たとえば大相撲も今は荒れていますが、お相撲さんの7%は外国人ですよね。で、それが幕内になると30%以上になり、三役は50%になり、横綱100%になる訳ですから(会場笑)。それが気に入らなくて、ああいう騒動になるのかもしれないけれど、やはり大学もある程度オープンにしなくては、と思います。

鈴木:林さんからもご評価いただいてありがたいですし、留学生の話についても…、私は黒川さんから言われたことをほぼやっていて(笑)、送り出しと受け入れを7000人ずつはじめています。ただ、今のうちに申しあげておきたいことがあるんですね。それは今の日本における政治状況を考えると、私自身もいつ代わるか分からないということです(会場笑)。1年半で4回目ですから。だからこそ、私がいなくなってもそういうことがきちんと継続されることが大事になると思っています。

また、私が頑張って出来ることというのは、同分野の予算を1.3倍にするとか1.5倍にするという程度なんですね。しかし現在、科学のイノベーションに向けてやらなければいけないことを真剣に考えてみると、これを3倍とか5倍、あるいは10倍にするといった政策が不可欠だと私としては思っています。そうなると、もう私だけの竹やりだけでは無理なんです。従ってそういうことを常に考えて、そして試行錯誤しながらも実践していくコミュニティをつくることが重要な本当にポイントになると最後に申しあげておきたいです。もちろん私としてはこのG1がその有力な場にもなっていくと思っていますので、ぜひ皆さん、ご一緒にやりましょう。今日はありがとうございました。

黒川:本当にありがとうございました。皆さま、最後に大きな拍手をお願い致します(会場拍手)。

名言

PAGE
TOP