穐田誉輝氏×アレン・マイナー氏×仮屋薗聡一氏「日本から強いベンチャー企業は生まれるか」 

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各務茂夫氏(以下、敬称略):本会場にお集まりいただいた皆さまはすべての方がビジネスのアントレプレナーではないかもしれません。ただ、ほとんどの方は、本質的に、アントレプレナーではないかなと私は思います。アメリカではポリティカルアントレプレナーシップという言葉がある種のリーダー像を指す言葉として使われるときがあります。ですから、「従来のものを超えて何か新しいことをやっている」すべての皆さまに、今日はアントレプレナーとしてご参加いただいているのではないかと思います。

本セッションでは「アントレプレナーとは何ぞや」という議論だけをするのではなく、アントレプレナーシップをさらに醸成させていくためにどうしたら良いかについて議論していきたいと思います。こちらにお集まりのパネリストの方々はアントレプレナーの顔をお持ちであると同時に、インベスターの顔、さらにはベンチャーを支援するという顔もお持ちだと思います。私は現在大学教員ですが、一応ベンチャーキャピタルのファンド監査役もやっていますし、会社をつくったこともあります。そのように立ち位置はそれぞれ違いますが、我が国でアントレプレナーシップの活動をさらに大きくしていくにはどうしたら良いか。そんな議論が出来たらと思っております。

今日はなるべく皆さまとインタラクティブに議論していきたいと思っております。まずは30分ぐらい、各パネリストに問題意識や課題の提起を行っていただきましょう。各自7〜8分、自由にお話しいただければと思います。私も本日はモデレーターですが、大学の立場から違った視点をご提案するという意味でパネリストのような形でもお話をさせていただきつつ、ディスカッションを進めていければと思っています。それでは穐田さん、お願いします。

穐田誉輝氏(以下、敬称略):皆さまこんにちは。フロアには面識のある方もいらっしゃいますが、まず簡単に自己紹介をさせてください。私は大学を出たあと、ジャフコというベンチャーキャピタルの会社に就職しました。そこから自動車流通系のベンチャー企業に転職し、その会社が上場した1999年、30歳のときに自分でベンチャーキャピタルの会社を創業しました。インターネットの会社に投資をするベンチャーキャピタルです。このときのファンドは規模は35億円でした。2000年に、カカクコムという会社をファンドで買収しました。その後カカクコムは2003年にマザーズに上場し、2005年には東証一部に上場しています。

その上場した翌年となる2006年には社長を引退しまして、現在は相談役をやっています。ですから上場会社の社長としては3〜4年ぐらいですね。その前は上場までの準備期間…、まあ、当時は年商1億もない会社でしたから、実質的には創業直後から一部上場までを経営者として手がけていきました。

もうひとつ。クックパッドという会社には2004年から…、付き合いは1999年からですが、個人で出資をしています。今は株主兼非常勤取締役ということで関わっています。こちらは2009年にマザーズで上場しています。だいたい10年のあいだに関与した企業3社が上場している形になります。個人投資家として、ベンチャーキャピタル代表として、そして上場企業の経営者として、そして個人投資家として仕事をしてきたのがこの10年ぐらいです。簡単な自己紹介でした。

仮屋薗聡一氏(以下、敬称略):グロービス・キャピタル・パートナーズの仮屋薗聡一です。グロービスでベンチャーキャピタル立ち上げに関わった96年から15年を経て、現在までに400億円ぐらいのファンド運用に携わっております。私のなかではその15年で、3回ぐらいパラダイムの変遷があったかなと思っています。アントレプレナーのタイプというパラダイムの転換です。このあたりに触れながら、起業家を支える立場のベンチャーキャピタルが特に現在の日本で直面している課題についてお話をしていきたいと思っています。それは、とりもなおさず、起業家の方々に対するサポートサービスそのものの課題でもあります。そして、問題提起だけではなく、ソリューションまで踏み込んだ議論も出来ればと考えています。

アレン・マイナー氏(以下、敬称略):サンブリッジのアレン・マイナーと申します。日本との関わりは学生の頃からありました。ビジネスでは1987年、日本オラクル立ちあげのために本社から送られて関わりました。珍しいことに子会社上場というのが許されて、89年に日本で無事公開出来たのですが、ちょうどバブルのピークのときでとんでもない株価がつきました。そのチャンスを使って最終的にはサンブリッジという形で会社をたちあげました。日本におけるインターネットの本格的な進展になんらかの形で関わりたいと思っていたので。これまでベンチャーキャピタルおよび技術・営業両面での支援事業ということで、ここ10年間、日米で60を超える投資を会社としてやっています。あと、「こいつは面白いからうまくいくかどうか分からないけれども応援したい」といったエンジェルインベストメントも行っています。

私が日本国内で「このアントレプレナーがすごい」と一番強く思ったのはマクロミル代表の杉本哲哉さん。アメリカですとセールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフですね。会社が出来て間もないうちに日本法人を共同事業でつくりました。私はよく日米の比較論みたいなことをよく頼まれるのですが、今日も少しそんな観点で日本におけるアントレプレナーシップの課題についてお話し出来たらと思います。

各務:ありがとうございます。私も簡単に自己紹介をさせてください。皆さまにはあまりご縁がないかもしれませんが、2004年に施行された国立大学法人法に基づいて大学改革が行われました。これは簡単に言うと、大学個別にバランスシートとインカム・ステートメントをつけて、文部科学省にかわって学長がその経営をやるというものです。経営を自由に行える代わりに、国からの補助金を毎年減らす。それが1点ですね。

もう一点の変化は、それまでの大学では研究者が発明した知的財産は研究者個人のものでした。しかし法人化後は、特許法35条の職務発明が適用され、研究者の発明が基本的に大学のものになりました。企業と同じで、これをどのようにライセンスするかという課題が出てきました。どのようにベンチャーを立ち上げて最終的に事業にするかという話が大学の本務になったわけです。これは国立大学法人法の第22条に定められています。「大学は社会に貢献しよう」ということに変わりました。そんなことから私自身は2004年、今のポジションについて、大学発ベンチャーの支援ということをやっております。

さて、ただいま御三方からお話をいただきましたが、最初に仮屋薗さん。先ほど「パラダイムが3回あった」というお話でしたが、そのあたりから議論を深めていきたいと思います。

日本のアントレプレナーシップは質的な進化を遂げている(仮屋薗)

仮屋薗:私の経験では1995年ぐらいから現在に至る約15年で3回の変化があったと思っています。90年代半ばから後半にかけては「第三次ベンチャーブーム」と言われていましたよね。今となっては懐かしい言葉です。成長市場が何であったかを思い出すと、人材や飲食のチェーン展開。サービスビジネスです。当時の起業家タイプは、なんというか…、“野生派の起業家”といったところでした。営業力や人材統率力を持っていて、ビジョンを提示して伝えていく力。そんな力を持った野性派の起業家が多くて、60年代前後生まれの方々が中心。少しアウトサイダー的アントレプレナーが多かったように思います。

90年代後半になってネットバブルがはじまります。ここでは大企業から、いわゆる高学歴の方々がスピンオフしていました。かつIT系が大変に多かった。更地のインターネット関連分野で起業し、スピーディーなファーストムーバーが勝っていった。ロジカルにかつスピーディーに開拓していった時代で、そこにお金も集まった。IT関連の需要も生まれ、IPOとともに多くの上場企業が生まれました。それが2000年のネットバブルを超えても進化していったのが2006年ぐらいまでで、リーマンショック前…、もしかしたらライブドアショックぐらいまで続いていたと思います。

そして現在、私が足元で感じている第三の波になります。これは昨日の講演で田中(良和 グリー代表取締役)さんも仰っていましたね。80年代前後生まれとなる20代もしくは30代前半の方々です。いわば「一度も良い目を見てきていない方々」で、マーケットや自分たちの現状に対してクールです。ただ、とてもタクティカルに自分たちの事業を捉えている。そんな若手起業家に、エンジェル、あるいは経営の経験を持つ方がアドバイザーとしてつく。タッグで起業というものを考えてアプローチしているタイプです。

この点についてはアメリカのインターネットベンチャーに似通ってきている。ほぼ20代の若い技術者に対して、いわゆるグレーヘアで経験値の高いシニアのアントレプレナーがつく。タッグで起業の成功確率を高めていくという手法です。“経営チーム”という観点からみると、今の日本はアメリカに15年ぐらい遅れた感じでその波が来つつあると思います。ネットバブルと言われていた時代に起業して成功された経営者の方々、もしくはマネージャーの方々と若手がタッグになって経営を新しく立ち上げていく。そういう波が今まさに来ているように感じます。

各務:今のお話を伺っていますと、少なくとも日本はアントレプレナーシップのベースというものは前に進んでいると。

仮屋薗:よく「日本人はアントレプレナーシップが弱い」と言われています。たしかに進化の量はまだ足りないかもしれません。ただ、質的な進化やマネジメントチームの組成パターンは明らかに前に進んでいる。これだけは実感しています。

各務:マイナーさん、この点について日米の比較論も絡めてお話し頂けますか。

クリエイティビティやアントレプレナーシップでアメリカにまったく負けていない(マイナー)

マイナー:昔からよく、「日本ではマイクロソフトやオラクルのような会社が生まれないよね」とか…、最近ですと「グーグルみたいな会社って生まれないよね」という話は聞きます。でも私はそれに反論していて、「楽天もソフトバンクもDeNAもあるじゃない」と。ヤフーなんてジャパンのほうが強い訳です。確かに、グーグルのようにとんでもなく大きくなった会社はないです。でも、よく考えてみると、当然ながらシリコンバレーだってすべてがグーグルみたいな会社ばかりではない。むしろグーグルのような例は本当に稀です。色々なファクターが運良く重なり合って、あそこまで大きくなった。実際、あちらにもどうしようもない会社はたくさんあって、お金を費やした末に潰れていく会社は多いです。ただ、日本にうまくいかなかった会社の情報は入ってこない。技術が開発し終わった頃、どこかに買われてしまって存在が消えてしまったとか、そういう例をなかなか耳にしない。結局、日本で知られるのは大成功したところばかりです。

あと、「日本人のクリエイティビティはアメリカ人より低い」とか「教育システムがクリエイティビティを潰しているのではないか」とか、そういう話もよく聞きます。でも、たとえばイノベーションの議論でパテントの数がよく話題になりますが、日本はだいたい年間20〜25万件です。アメリカは15〜16万。経済力が倍、人口が倍ということを考えたとき、仮にですがパテント数をひとつのクリエイティビティの指標として使うなら「日本人はアメリカ人の4倍クリエイティブだ」という言い方だって出来ます。

それともうひとつ。私がよく日本人に対して「自分たちで気付いていない」と言っていることがあります。それは“失われた10年”と表現される時期について。あの時期に日本から、現在も伸び続けているIT…、私は“ライフスタイルIT”と呼んでいますが、さまざまな最先端ITだって生み出されていきました。インターネットにアクセス出来る携帯、カーナビ、ゲーム機およびそれらの関連技術、デジカメ…、全部日本発です。残念ながら大手企業中心ですが。それでもつらい経済状況のなかで実は世界最先端のITをすべて生み出している。

「ではアントレプレナーは?」というと、仮屋薗さんが仰っていた通りです。数が多いか少ないかはなかなか言い切れませんが、世界に通用する立派なアントレプレナーがたくさんいます。イー・モバイル設立当初に2000億円もの資金を調達した千本(倖生 イー・モバイル代表取締役会長)さんのようなアントレプレナーは、恐らくシリコンバレーにもいません。それほどの人が日本にはいる。また、我々は投資するときにその人のパッションや信頼性を見ていますが、そういう意味でもアメリカに負けていない。自分のビジョンに対するパッションだって十分にある。基本的なクリエイティビティやアントレプレナーシップを含めて日本人は可能性の面でまったく負けていないと確信しています。「では違いは?」というと、これはマーケットのこともあるのでのちほど触れたいと思います。

日本のベンチャーシーンで語られない“都合の良い真実”(各務)

各務:ありがとうございます。今回のG1では“不都合な真実”というキーワードがよく出ていました。ただ、実は“都合の良い真実”も語られていない可能性があります。たとえば1971年に藤田田さんが銀座にマクドナルドの1号店を出しました。その時代から含めて日本で生まれた企業には一体どのようなものがあったか。こちらにいらっしゃる皆さまも入ると思いますが、たとえばTSUTAYAもそうですね。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)は(新聞報道によると)非上場のほうにいくのかもしれませんが、増田(宗昭 CCC代表取締役社長兼CEO)さんがTSUTAYAを大阪ではじめたその後にどうなったかという話はあまり知られていない。堀(義人 グロービス・グループ代表)さんはこれをグロービスのケースに書いています。本当にきりがないぐらい色々な会社がある。たとえば日清紡という会社の時価総額はおよそ1500億円です。田中社長のグリーは現在のところ少し下がってはいても、2500億から3500億円ですよ。この相場感についてマスコミを含めて我々が十分認識していないのではないかと。むしろネガティブに捉えてしまって「アントレプレナーがいない」という話になっている。そういったものは少し感じています。ここら辺はいかがでしょうか。

仮屋薗:不都合なことも都合の良いことも伝わっていないというのは、発信する側がきちんとやっていなかったということがあるかもしれません。アメリカにはいわゆるバーティカルメディア(一つの分野に特化したメディア)がすごくたくさんあって、とてもアクティブに発信しています。そういう意味ではメディアの問題もあるでしょう。

マイナー:そこに関連しますが、日米の大きな違いとしてアントレプレナーとその周辺まで含めたマーケティング力が比較的弱いなと感じるときはあります。

各務:穐田さん、日本が持っているポテンシャルとしてのアントレプレナーシップについてもう少し議論したいのですが、たとえばアントレプレナーとなる方々の人材交流という点ではいかがお考えですか?

穐田:アメリカとの比較で言えば、移民の歴史もあって自由競争というものがそもそもあちらは出来ている。一方日本は島国で単一民族の歴史が何千年もあり、価値観が違うのかなというのが私の印象です。自由競争のなかで勝ち抜いて上にいくというアメリカの文化に対して、少し変わったことをすると叩かれる、あるいは「余計なことをするな」と言われる文化では比較しようがないというか、どちらが良いという訳でもないと私は思います。そのような背景からしてもアントレプレナーの人材交流はあまり進んでいないという印象です。

各務:企業文化の醸成という点を考えると、日本のお役所も政治家もメディアも、イノベーションというのは大企業からやって来ると思っている人が多いと思っています。だから「円高だ。為替だ」と一喜一憂する。しかし製造業は日本のGDPにおいて20%です。サービス産業は75%。70年代以降、日本の主だった上場会社の多くはサービスセクターでしたし、恐らくアメリカの主だった会社も恐らくはサービスセクターというか第三次産業に近いところにいたと思います。なにかこう…、私はものづくりで大企業主導のイノベーションといったようなものの考え方による呪縛が強過ぎるのではないかと感じていました。それ以外にロールモデルとしてもっと喧伝されて良い方々…、ここにおられる皆さまはまさにそうだと思いますが、もっと外で知られても良いはずなのに、そうなっていない。

テクノロジーとビジネスモデルのイノベーションを掛け合わせる(仮屋薗)

仮屋薗:イノベーションについて、私としてはそこに若干追加したいところがあります。釈迦に説法ですが、ドラッカーは「イノベーションは二つある」と言っていました。プロダクトのイノベーションとマネジメントのイノベーション。後者はビジネスモデルのイノベーションでもあると思います。私はインターネット企業のほとんどが、テクノロジーやプロダクトではなく、ビジネスモデルあるいはマネジメントのイノベーションだと思います。グーグルもそうです。ベースには検索エンジンのアルゴリズムがありますが、その上に乗っているものをレバレッジして広告モデルにしたというイノベーションだと思います。

マイナー:私はそこがグーグルのイノベーションではないと思います。よくご存知だと思いますが、そもそもあの広告モデルは当初、オーバーチュアが思いついたモデルです。グーグルにとって大きなプラスになったのは、すごく簡単なインターフェースと早い検索でヤフーからユーザーがどんどんグーグルに流れていったことです。そのユーザープールにオーバーチュアが思いついたイノベーションを加えたから、ものすごいビジネスが生まれた。ですからグーグルのイノベーションは…、マイクロソフトも同じですが、どれぐらい自ら開発し、その一方でどれぐらい他所から取ってきているか。そんな風に、どういったイノベーションでも既存のアイディアをどのように組み合わせ、どれぐらいのパワーで実行するかが結果に影響するのだと思います。

仮屋薗:そうですね。私としては何を言いたいかというと、テクノロジーとビジネスモデルのイノベーションを掛け合わせるというのが競争力に繋がるという点です。掛け算になっているということです。

日本でのイノベーションを考えてみると、昨日のセッションでも田中さんが仰っていた通りです。ケータイゲームのアイテム課金を規模化するというビジネスモデル。これはグリーが世界ではじめてつくったと言っていい。世界も注目しています。日本からビジネスモデルイノベーションはすでに生まれているわけです。あとはどうグローバライズするかというチャレンジが次の段階だと思います。

穐田:G1サミットのテーマとして、失われた20年をどうやって取り返すかというものがありますよね。そこで我々がリーダーとしてどのように自覚するのかということで言うと、特にイノベーションにこだわる必要もないのかなと。こちらのセッションにいらした方は全員がアントレプレナーですよね。ですからアントレプレナーと言われる人間がもっと増えたほうが早いのではないのかと私は思っています。ただ、「では何故アントレプレナーが出てこないの?」と言っても、こちらにいらっしゃる皆さまはなかなか分からないと思います。すでにご自身でやっている訳で、出来ている方からすれば、「どうして皆やらないの?」という印象をお持ちなのだと思いますし。

各務:イノベーションを蒸し返すつもりはないのですが、ことによると、産業の違いがあるかもしれません。ライフサイエンスの話などになってくるとかなり大学の世界に直結してきます。ただ、そこはかなりの工夫がないといけない。大きいリスクマネーが入ってこないと難しいという側面がある。アントレプレナーありきだとは思うのですが、特に大学では、看板としてはイノベーションを掲げざるを得ない。しかし研究者がアントレプレナーで大学の教員が社長になるなんてあり得ない。そういうところをどのように担いでいくか。やはり社会としての仕組みが重要になってくるのかなと思います。表看板はイノベーションで、そこにアントレプレナーがどう入ってくるかということになるのかもしれませんが。

それともうひとつ。これは皆さまにもご意見を伺いたいのですが、リスクマネーという話です。これが日米の比較でも結構大きいのではないかと思います。リスクマネーについてマイナーさんはどのようにお考えですか?

なぜ日本のベンチャーはグローバル化出来ないのか(マイナー)

マイナー:日米のベンチャーで一番大きな違いはグローバル化出来ているかどうかというところになると思うのですが、その背景についてはよく議論になるところです。結局のところ、英語の問題、なかなか異なる文化を持った人に信頼して任せられないという社会の問題、「日本の国内市場が大きいからグローバル化なんていう面倒くさいことをやらなくてもいいじゃないか」というマインド…、そういうものがあると思います。

これは、ひとつにはファイナンスの違いがありますね。去年は非常に…、もしかしたらここ十数年で最低かもしれませんが、全体で1000億円にも満たない投資しか生まれなかった。一方、アメリカは年間でおよそ2兆円から3兆円のあいだです。もちろんどちらの規模が適切かというと議論のあるところです。アメリカのベンチャーはお金をすごく無駄にしている部分があるし、日本人は逆に少ないなかでどのように工夫してやっていくかということですから。

ただ、私としては、IPOが早過ぎるということに注目しはじめています。5〜6年前からそう考えるようになりました。何故かというと、色々なところを回って現在のベンチャーにおける課題を聞くと、「シードマネーが日本のベンチャーになかなか行っていないのではないか」という話が出ます。日本のベンチャーはその段階で投資を受けることが出来ていないのではないかと。でも、たとえばジャフコでも最近…、これは数年前ですが、紙に書いたプランでも2億円を出すとか、そういう例はありました。IPOもかなり出来ていた頃ですし、「IPO直前に投資させてください」という話も多かった。

ところが、ある程度事業が立ち上がって10億円なり20億円の売上が出てプロフィットも1億円ぐらい出るようになると、あるいは出そうな企業だと、もう証券会社が早い段階から「IPOの準備室をつくりましょう」と言い出す。少しプロフィットが出ると無理して成長ラインをつくってしまって、「早くIPOしろ」というプレッシャーがかかる。一時期はIPOがベンチャー経営者の誇りというか、「そのために会社をつくるのだ」という雰囲気も少しありました。IPOに関して社会的な意識やプレッシャーがすごく強かった。

結果として何が起きるか。たとえばそのぐらいの規模でIPOすると海外展開の準備をしたりします。数億円をかけて欧米やアジアで営業所をつくったりする。それで最初の商品はうまく廻ります。ただ、二つ目以降の商品ラインを開発するために数億円をかけて新たな開発に取り組もうと思っても難しくなります。やはり公開すれば増収増益という株主の期待に答えないといけないから。でも薄いプロフィットの構造で土台が出来ていないとやはり厳しい。楽天なんて売上が3000億円ぐらいになった去年、やっとバイドゥと組んで中国に展開していった訳です。そもそもベンチャーが2〜3億円を海外展開に投資しても誰も気が付きません。ものすごく大きくなるか、プロフィットが上がるまではやはり何も出来ないということになってくる。

一方でアメリカは事業が廻り出す頃、ベンチャーキャピタルから10億円とか20億円、拡張のためにキャピタルを貰う。もう一回赤字が出ても、そのあと「成長率がもっと上がるなら」ということで、廻っていた事業についてもう一度赤字を起こしてでもさらに伸びるための土台づくりをします。日本では、エクスパンション段階でプライベートマネーがベンチャーに入らない。その段階で10億円を調達しようと思うとIPOしないといけなくなる。IPOすれば増収増益のプレッシャーに答えないといけなくなる。そういうところが、実は金融もしくは資本という側面で一番目立つ違いだと思っています。結果として、IPOしてから何年経っても海外展開に取り組めないという部分にも絡んでいるのではないかなと思います。

各務:大学の視点で考えますと、大学の技術はかなりベーシックなものが多いです。ですから私はよく「谷深し山高し」と言っています。とにかく技術としての精度を高めて一気に大きな事業にするということなのですが、ここにベンチャーキャピタルが入ると、「売上を出せ。食い扶持を稼げ」ということになるケースはままあります。それでたとえば受託研究をはじめた挙句、エネルギーがそちらに行ってしまってコア技術の深堀りが出来なくなる。そうなるとそこそこの上場会社は出来るのですが、そこから先が難しくなります。

イノベーションの視点から考えると、これは大きな問題です。ですからファンドについては期間の問題なども出てくるようになります。それからベンチャーキャピタルのサイズの問題です。先ほどのようにあるところまで行ってから、さらにワンランクアップの投資と言ってももう出てこない。今の法律に従った組み合わせで言うと、一社に投資出来る額というのは決まっていますよね。全体のファンドのなかで何%と決まっている訳です。そうすると追加投資が出来ないということにもなってきます。今のマイナーさんの問題提起に対して、現状で日本のベンチャーキャピタルファンドは何らかのソリューションが出せるものなのでしょうか。

仮屋薗:私は先月、経済産業省のミッションで香港に行って海外の機関投資家向けにプレゼンテーションを行いました。日本に目を向けていただくということで行った訳です。するとそこで、「今、日本のベンチャーキャピタルは3重苦ではなくて4重苦だ」と言われました。

どういうことか。まず「そもそも日本って成熟国だよね」と。成長という観点で考えると「そもそも日本でVCなんて、ロジカルにおかしい」と。マクロで見てばっさり切られるのが一点目。次に、これはアメリカもそうですが、この10年間における日本のベンチャーキャピタルは世界的に見ればパフォーマンスが悪い。だからなかなかベットする気になれない。3点目は日本のベンチャーキャピタルとその業界は金融機関の子会社が多くて、やはりコンフリクトの問題もある。ストラクチャー的に少し投資しにくいということですね。これで三重苦。それに加えて、最近は為替です。円が高過ぎる。「今投資したら」と…、円建てでやる訳ですから。そんな風に四重苦なのでとても動けないということを言われました。海外はそういう状況です。これについてはたしかにその通りだと私も思いました。

その一方で海外の方から助言ももらいました。「日本のベンチャーキャピタルはやはり日本という国のなかで…、たとえば年金など国内で調達出来る環境をきちんと整えたほうが絶対に良いよ」というアドバイスです。たしかに年金をはじめとした日本のオルタナティブなバジェットというものがなかなか投資に廻らない。ましてや「ベンチャーなんて」という考えがある訳です。ではアメリカのベンチャーキャピタルにはどこから資金が来るのかというと、年金基金やエンドースメント。大学も同じですね。国の中長期的な競争力のことも考えると、最も長いスパンで見ることの出来るお金の使い道が、ベンチャーキャピタルです。お金の使い道について、もっと長い時間軸のなかで設計していくというとアプローチが必要なのかなと。そんな風にも思っています。

もうひとつだけ。私はベンチャーキャピタルをやっていますが、「実はベンチャーキャピタルなんてなくてもいいのではないか?」という議論はたしかにあるかもしれません。ただ、ベンチャーキャピタルがやらなければいけない役割があると思います。お金を介して人材やノウハウをスタートアップのベンチャーに入れること。今、第三世代のアントレプレナーとなる方々が出てきて、「ああ、いいな」と思うのは、そこに対して豊富な経験値を持った人が現れるということです。それだけの層がこの15年間で出来た。その人たちが何を持っているかというと、失敗と成功という両方の経験を持っている。20代の経営者にとって大事なのはこのポイントだと思います。そういった“資源”をお金と一緒に投入出来る機能は絶対になくてはいけない。

各務:ベンチャーキャピタルファンドにおけるそもそものソースというお話がありました。アメリカでは大学が持っている寄付の蓄積である基金(エンダウメント:endowment)ということですね。あとは年金基金。「その一部をリスクマネーにしませんか?」とピーター・ドラッガーがアメリカで提言した。1970年代だと思いますが、それでお金がぐるぐる廻っている。また、スタンフォード大学でグーグルが上場したときには1%ぐらいの株式を持っていました。そして、スタンフォード大学は基金から廻って戻ってきたものがトータルで400億円ある。この400億円をまた研究やスカラシップに使う訳です。こういったエコシステムが国全体と大学のあいだでぐるぐる廻っているというのが、アメリカで起きているイノベーションの構造なのかなと思いました。これは日本にない形です。こういったことを実現するにはどうすれば良いのかというお話があるのかなと思います。

仮屋薗:その代わり、スーパーエンジェルのような役割を持った人が今は出てきています。とりあえず私としては、今ここにいらっしゃる方が、個人としての経験を起業家に提供していけるのではないかと思います。

穐田:あまりベンチャーキャピタル業界やIPOの話ばかりしても会場の皆さんはつまらなくありませんか?これから出資を受ける、あるいは起業したいという人が相手なら良いと思いますが、フロアの方々にすればそういったことは分かっている訳ですし、せっかくですから私としては会場の皆さんから質問を聞いてみたいと思いますが、いかがでしょう。

各務:分かりました。では質問ということで、どなたかいらっしゃいますでしょうか。

資金はあるが、優秀な経営者がいない(穐田)

会場:日本にはアントレプレナーシップのカルチャーがあると思います。それからエコシステムも仮屋薗さんが仰っていた通り、一時に比べればはるかに充実しました。お金も経験値も持っている人がいるから、こっちもOKと。一方ファイナンスで言えば、アレン・マイナーさんが言われた通り日本は規模が小さくて、だいたい1000億円から、多いときでも2500億円ぐらいしか動いていない。

しかしそのなかでもこれだけ…、田中さんのところをはじめ色々な会社が出てきて、十分廻ってきたようにも思います。ではそのうえでイノベーションとしてあとは何を期待するのか。イノベーションがなかなか起こらないという声は沸々としてあります。しかし、そのイノベーションとは何であって、何が欲しいのかというのがまず定まらないと、「ではそのためには具体的に何をしましょう」というところまで行けないような気がします。お金や精神論ではなく、もっと具体的な何かがあるのではないかという思いをずっと持っています。私としてはある程度廻っているなという気持ちがあるのですが、結局のところ今のイノベーションが何なのか。そこをやはり知りたいと思います。

各務:ありがとうございます。ほかにはいかがでしょうか。

会場:アーリーステージにお金が入ってこないという状況についてはどのようにお考えでしょうか。こちらにおられる皆さまのように、それなりに資産を持っておられる方々もアーリーステージに出す人は少ないのではないかと思います。これは目利きがいないのか、税制が悪いのか、あるいはイノベーションで何かが足りないのか。

穐田:お金はあります。経営者が足りません。

会場(続き):経営者をどこかから連れて来るというのは難しいのでしょうか。

穐田:経営者だけは連れて来ることが出来ないです。育てなければいけない。ですから、日本にお金は十分あると思いますし、規制緩和も進んでいると思いますが、私としてはお金を預けても、きちんと健全に増やし、返すことの出来る経営者が少ないと思っています。

マイナー:実際、「この人なら」と思う経営者のところであればアーリーステージであってもお金は行きますよね。

会場:経営者は出てきつつあると思っていますが、その絶対数が足りないと感じています。昨日のセッションで武田薬品工業の長谷川閑史社長が、「日本人はリスクテイキングやリスクアセスメントが苦手である」と仰っていました。日本ではいわゆるリーダーとなる起業家の発生率はたしかに低いのだろうと思いますが、その代わり、リーダーを支える取締役クラスのビジネスマネージャーはすごく多いと思います。ですから、アントレプレナーの絶対数が足りないという点は、仕方がないからリサイクルをする。アメリカでもシリアルアントレプレナー(連続起業家)がどんどん出てきているということが現在の市場規模をつくっている。「こういう新しいところがあるから、そこに入って貰えないか」と、そんな触媒の役割を、私たちが果たすべきではないかと思います。そういう形で何らかの経験値を持つ経営者の方々に、またどんどん最前線に立っていただけるような機会をつくることが大事なのではないかと私は思いました。

マイナー:そこについてですが、恐らく穐田さんのようにIPOをした後にお辞めになって、そして次のことをやるというのはアメリカにも日本にもなかなかないケースですよね。個々のベンチャーキャピタルに関する議論でよく出てくるのが、「日本ではM&Aによるエグジットが非常に少ないね」という点です。それはベンチャーキャピタルから見たエグジットという意味でもありますが、シリアルアントレプレナーを生み出すためにとても大切な視点です。

良い会社に自分のつくった事業を売却出来るならば…、当然のことながらアントレプレナーは大企業の一部門長で働きたいとは考えません。グーグルに買われた会社でも、オラクルに買われた会社でも、その幹部のほとんどは、1〜2年の義務期間を終えたら次の会社を興しています。ですから経験豊富な人材の流動性を高めるという意味でも、日本ではもっとM&Aがアトラクティブなものであるというような文化をつくってくことがひとつの課題になるのではないかと私は考えています。

各務:それは大企業サイドの話ですか? それともアントレプレナーサイドのお話ですか?

マイナー:両方で必要だと思います。

穐田:投資会社の事情で言うと、意外だと思われるかもしれませんが、一番格好良いと思われているのがアーリーステージへの投資です。企業の初期段階でお金を「ばん」と張る。すごく安いときに買って、それが何百倍とか何千倍になるという投資を皆がやりたがります。日本のベンチャーキャピタルの歴史は40年弱ですが、ずっとそういうことを目指してきました。しかし、その結果としては利回りがまったく回っていない。預かったお金を「格好が良いから」ということでアーリーステージに投資してきた。その結果として殆ど返ってきていないのが、今までの歴史です。ですからどちらが先かということで言えば、そういったアーリーステージでお金を預かってもきちんと返せるほど優秀な経営者がたくさんいないといけない。その面では質も量も足りないと私は思っています。ただし、時代を経た比較感で言うと、仮屋薗さんが仰っていたように以前よりも今の方が優秀な経営者がどんどん増えてきているとは感じます。

各務:そうすると、少しずつでもやはり日本は前に進んでいると。先ほどのエンジェルという側面もそうですし、ベンチャーキャピタル企業というものも、少しずつではありますが進んでいる。

穐田:アントレプレナーも投資家も少しずつではありますが確実に進歩していると思います。そして、課題に対する答えは皆、頭のなかでは出ていると思います。あとは現場にいて実際にやるべき人間が腹を決めて、行動あるのみです。もちろんそれを一人でやっても効果は限られるので、全体を巻き込みながらひとつのムーブメントを創るということです。評論家は必要ありません。

会場:いわゆるスーパーエンジェルと言われる、起業で大成功した人が、その資産の一部を次の世代の起業家に廻していくという構図のベースをもう少し広げていくべきだと思っています。ベンチャーキャピタルは結構ありますし、お金もかなり待機している。エグジットする市場もマザーズやジャスダックがある訳ですよね。かなり舞台は揃っていると感じます。しかも若い人たちで起業してみたいという人も、ライブドアショック直後は一時的に縮んでしまいましたが、またここに来てじわじわ増えていると思います。

ところがその第一歩が踏み出せない。ベンチャーキャピタルに投資のお願いに行くということは、基本的には会社をつくって多少のサービスを提供し、それをベンチャーキャピタルの人に見て貰える段階になっているということだと思います。しかしそこまでいくのにも数百万円…、場合によって数千万円がかかりますよね。そこでエンジェルの出番になるのかなと。自分のお金だから失敗しても恨みっこなしであるわけですし。ところがベンチャーキャピタルは人様のお金をお預かりして、それを膨らますことが至上目的ですから説明責任もある。「なんとなく勘で投資しました」では説明になりません。ところがそういうところから大化けする起業家も出る。ですからそこで、やはり本当の意味でリスクを取ることの出来るエンジェルマネーの拡大が日本で起こるべきだと思いました。

ではどうしたら良いか。たとえば現在は大学生が「何か起業したい」と思ってどんなに節約してもたとえば300万円ぐらいはかかってしまいますよね。そんなお金、普通の学生は持っている道理はありません。そこに対してどこかにひとつ窓口をつくって、「僕はこういうものがやりたいです」という話を聞けるようにする。それがエンジェルのサークルに伝わり、興味を持った誰かが「その学生に会ってみよう」となる。そんな仕組みを整備してはどうかと私は思いました。それをやっていらっしゃる方々ももちろんいると思うのですが、どうしても水面下になってしまっているというか、普通の人々に対して窓口がどこにあるかということもなかなか伝わっていないのが現状ではないかと思います。

会場:私の感覚としては、お金も人も揃ってきて、そして学生のほうでは明らかに起業する人間が増えていると感じます。明らかに。若い人はお金がなくてもTwitterで仲間を募って廻したりしていきますから。ですからそこでのイノベーションということに対して答えがまだ出ていないと思います。皆がどこまで何を目指しているのと。私は正直言って、すごく危機感を持っています。自分より下の世代のほうがよほど動いているし世界を見ているから。ですから資金の問題ではない。それでも「足りない」と言うのであれば、まさに昨日の田中さんから出たお話のように「ではどこで元気を出したら良いのですか?」ということになってしまいます。少なくとも僕の下の世代は元気を出しはじめているように私は感じます。しかしそのように感じていない方々…、もしかたしたら私たちより上の世代の方々が「お前ら元気出せよ」と言って自己満足になっているだけではないでしょうか。

会場:「イノベーションとは何なのか」という話になると思いますが、私は仮屋薗さんとベンチャー企業へ経営のプロを送り込むという仕事を長らくやっています。たしかにお金は足りているように感じます。ただ、人という意味で言うとステージごとに必要となる人材が異なってくるのではないかと思いました。たとえばもし「メガベンチャーをつくる」、あるいは「世界と互していく」といった話をするのであれば、そこの人材はもしかしたら少々足りないかもしれません。しかし一方で、ベンチャーのなかで人材のリサイクルはどんどん進んでいるし、シリアルアントレプレナーで経営のプロは増えている。そうなると、そこからもう一段成長していこうとするときには大企業からの流入…、大企業の人材が必ずしも最適解とは申しませんが、海外経験もあるような人材の流入が必要となるように感じられ、それがひとつの難しさになっているのかなと感じました。もちろんそのような人を巻き込もうということ自体は、私たち自身も積極的にやってはいるのですが。

各務:ではここで問題提起をしてみますが、日本でつくって海外にも出ていく。この境目部分を乗り越えるようなベンチャーという観点ではいかがでしょう。

穐田:イノベーションの観点から考えて、世界的競争力をつけようとなると、それはアントレプレナーシップと少し違う議論になってくるように思います。アントレプレナーシップとは起業を含めて自分でなんとかしようとするものです。今のお話ですと…、たとえばグーグルになろうといったお話になると、言語のハンデもあり、国による支援の枠組みまで含む少し大きな話になると思います。ですから、日本の代表企業を世界に送り出せという話なのか、あるいは「もっとアントレプレナーを世の中に出していこうよ」という話なのか。実は、ここは似ているようで違うように思います。アントレプレナーを増やした延長線上に世界的競争力を議論するなら理解できます。ソニーやホンダも最初はアントレナーシップから始まっていますから。

アーリーステージの資金は本当に足りているのか?(会場)

会場:アーリーステージでのお金が足りているか否かというお話について確認させてください。これは明快に足りているということでよろしいのですか? 私があちこちで聞いていた限り、「足りていない」という声が多かったものですから、少し意外な感じがしておりました。

仮屋薗:私が現在直面しているタイミングで言うと、出し手が極端に少ないです。ですからこの1〜2年は足りていないと思います。ただしそこは逆に言うと、足りていないぶん経営者がきちんとと考えて安易なファンドレイズをしていないということだと思います。そういう意味では良い会社が育ってきつつある状況なのかなと思っています。それは環境とのバランスだと思います。

穐田:お金が必要だと言っている方々全員に提供されているかというと、提供されていません。投資する立場からすれば、「きちんと返ってきそうな人がどれだけいますか?」ということになります。投資したいけど、投資対象が少ない。恐らくはそれが投資側の意見です。起業する側は、必要に応じて自分のお金の範囲でやるとか、もしくは西川さんのようなエンジェル投資家にぶつかっていって出資して貰うといった人はいます。しかし先程例に出た300万円のお金を用意できない、あるいはその説得も出来ないというのであれば、「もう少し準備をしたほうが良いのではないですか?」というのが私の個人的な意見です。

各務:大学の立場になるとまた違った話になってしまうかもしれませんが、たとえばちょっとした発明が出たとします。これを大企業に使っていただくにしても、ベンチャーになるにも、まずはプロトタイプをつくらないといけません。これは平均すると500万円かかります。この段階についてはアメリカならシードファンドと呼ばれるもの、オックスフォードならインベンションキャピタルと呼ばれるものがありますよね。こういうものは日本にないです。もちろんJST(科学技術振興機構)やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と機関はこれに近い支援をしていますが、もっと自由度のある使いやすい資金提供が必要です。これはイノベーションに結びつけるものとしての大学から見ている限り足りていないです。圧倒的にないですね。

会場:少し話のステージを変えてしまい恐縮なのですが、昨日のセッションで冨山(和彦:経営共創基盤代表取締役CEO)さんが田中さんに「もうちょっと大きくなると叩かれるよ」と(会場笑)。そういった部分が私はかなり大きいような気がしています。たとえば三木谷(浩史 楽天代表取締役会長兼社長)さんも孫(正義 ソフトバンク代表取締役社長)さんも堀江(貴文)さんもテレビ局をやらせて貰えませんでした。とにかく日本ではベンチャーが…、たとえば三木谷さんのようにあれほど大きくて、しかも本当ならもっと大きくなっても良い方がどこかで頭を「がつん」とやられる。これをなんとかするというのをG1サミットのアジェンダにしても良いぐらいのものではないかと思っておりました。

ベンチャーに冷たい日本の“エスタブリッシュメント”(会場)

会場:今のご意見にまったく賛成です。エンジェルのお金も私は足りていると思います。2000〜3000万円出すという人はたくさんいる。最後のレイトステージで「50億出そう」とか、そういう人がいない。何故か。すべて繋がることだと思いますが、金利も低くてデフレで競争しないほうが良いという文化になってしまっているから。結局は出口となる上場マーケット自体が小さい。時価総額100億円以下の会社がおよそ2000社あります。馬鹿らしくて50億も投資して大きいベンチャーをつくろうという風になかなかなれないですよね。結局、小さいエグジットならいくらでも集まります。けれども、本当にグーグルのようになる会社がつくれるかというとなかなか難しいということではないでしょうか。グリーや楽天といった成功例もありますが、やはりそこも途中で非常に苦労したと思います。

大企業が資本市場でプレッシャーをもっと受けて、不採算部門などがもう存在出来ないようにする。そうすれば優秀な人たちがスピンアウトさせられます。上場市場もそんなマーケットにならない限り、大企業の人材も外には出てこないように思います。そういう人材とアントレプレナーがくっついたりして本当に骨太なベンチャーが出てくるのではないでしょうか。しかしそういう回転がないから、ごく一部の成功した人はいるけれども、皆が大企業に残ってしまう。この構図が最大の問題だと思います。

とにかくエスタブリッシュメントがベンチャーに対して冷たい。不動産などは典型的です。不動産はローンを借り入れることが出来ないと絶対に存在出来ない業種です。リーマンショックのときに何が起こったかというと、大手不動産の数社は当時の地価の7割を銀行から借りられた。一方で新興不動産はゼロでした。これが、現在の日本市場です。クレジットが与えられる企業とゼロになる企業という風に分かれてしまっています。そのハンディキャップを背負ってベンチャーの人はやらないといけないから、本当に大きくなるのが難しい。

各務:昨日のセッションで長谷川さんは、新薬の6〜7割が基本的にベンチャーやアカデミアから出ていると仰っていました。現実にはM&Aのほうがオーガニックグロウスよりも大きいと。ですから、ベンチャー企業を大企業がどんどん買っていくということは起きないのでしょうか。そこでガバナンスのプレッシャーがもっとかかってくるとどうか。今のROE(自己資本利益率)2〜3%ではベンチャーを買うということにもならないと思います。そのプレッシャーがもっとかかればベンチャー企業と大企業のあいだの連携がM&Aを含めもって出てくるような気がします。

会場(続き):そうなって欲しいと思いますが、少なくとも大企業の不採算部門というのは今もずっと残ったままですよね。大企業の社外取締役に対する抵抗は本当にすごいですよ。以前、経産省の私的研究機関である企業価値研究会というところに入って本当にびっくりしたのですが、経団連の方を含めて社外取締役を受け入れることに関しては皆が大反対している。恐らく監査役はいい。人事権を持っていませんから、そこに入られても取締役会をクビにならない。でも、一生懸命長くやってきた取締役というポジションが、社外取締役が入ってきたらなくなってしまうかもしれないということに対する抵抗がものすごくあります。だから人もお金も部署も回転していかないというのが、日本の最大の問題であって、私としてはそこを回せばいいと思います。医薬品などはたしかに色々とM&Aをしていますが、買っているのは意外と欧米のベンチャーですよね。日本の市場のベンチャーに対しては意外と…、それが嫉妬によるものなの何かは分かりませんがなかなか認めない。外国の企業が持ってきたもののほうが良いと思う傾向があると、個人的には感じています。

各務:大学関連ベンチャー企業は、実のところ、最近大企業に買われているケースも出てきました。買収額は小さいですが。だから本当に良いのかどうかは分かりませんが、少なくとも私の知るベンチャー企業のオーナーはエグジットした会社で何倍かのキャピタルゲインを手に入れています。シリアルアントレプレナーの次の候補になっているかもしれません。そういうものもぼちぼちは出ているという感じがしてします。

会場:電力機器メーカーの経営をしている関係で、エネルギー関連ベンチャーにお金を出したことがあります。シリコンバレーにある太陽電池のベンチャーでした。そこではクライナー(・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズ:KPCB)のジョン・ドーアさんとも一緒にボードをやっていた時期がありました。その経験と自分の目で国内のベンチャーを見た経験から言いますと…、今日ここにいらしている方々は素晴らしい方々ばかりですが、日本のベンチャーキャピタルは質が一般には悪いと思っています。たとえば金融系のベンチャーキャピタルもかなりいて、日本のベンチャーに出たときの役員会の議論では、「いつ公開するか」と、もうこの話ばかり。ジョン・ドーアさんはいつ公開するのかと言ったことは一度もないです。皆、ベンチャーキャピタルですが製造業の出身者ですし。

何が言いたいかというと、日本の大企業はこういうところに人材を送り込まないといけないのではないかということです。そういう方々がベンチャーキャピタルに来てマネジメントをする。そうしないと、ハンズオン出来ないところばかりです。成功されてG1に来ている人は皆さまであるからこそきちんとそこも出来る訳ですが、日本の金融系ベンチャーキャピタルは私から見ていても、「これは…、ひどいな」という感じの会社があまりにも多いので。

あと、日本のベンチャーは20億か30億円で上場させますよね。そこでするっと株が上がって経営者も良くなりますが、また株価が落ちてしまうので機関投資家がつかない。それでひどい思いをしている。ですから、よくベンチャーで成功した経営者の方に色々とお話を伺うと、「いくつ上場させた」という話にはなるものの、「関与した会社の時価総額はいくらになった」という話は出ません。

それともうひとつ。私は3年前に自分でベンチャーをはじめました。この話をすると最初に言われるのが「あなたの会社のパテントは?」ということです。しかし大事なのはビジネスモデルですよね。結局、早くエグジットしたい人ばかりなのかなと感じます。ですからその文化を変えない限り、私はこの国でのイノベーションというのは少し難しいのではないかなと強く思っています。

各務:ありがとうございます。色々な視点からの議論がまだまだあるのだろうと思いますが、時間も迫ってきました。ですので、最後は我々ひとりひとりがアクションアイテムというか、アジェンダと言いますか、それを出していこうと思います。ちなみに先ほど穐田さんが仰っていた「経営者を教育する」という点ですが、アントレプレナーというのは教育するものなのでしょうか。あるいはそれが出来るものなのでしょうか。

穐田:経営のスキルは教育や経験で向上させることが出来ます。一方で、アントレプレナーシップとは生まれながらにして持ったエネルギーだと思います。つまり、「成長したい」とか「一番になりたい」というもので、これは他者がどうこう出来るものではないと思います。

会社を成長させていくためにはアントレナーシップに加え、3つの要素が必要になると思います。
一つは理論や事例を含めた経営学を学ぶ力。
二つ目は人を率いていくリーダーとして人を理解していくという力。
三つ目は場の存在。成功された方はほとんど、誰かしらきっかけになった出会いというか、師匠や友人がいます。そういう場を創らなければいけないと思っています。持って生まれたアントレプレナーシップは教育出来ないと思いますが、残りの三つに関しては外部からお手伝いすることは可能です。アントレプレナーを目指す方々に良い環境を提供できないと日本の経済はスピードアップしないし、経営者の質も量も向上しないと思います。アントレプレナーのための場や機会を創るということは、何より私たち自身が主体的にやっていかなければいけないことだと思います。

各務:ありがとうございます。それぞれ御三方にお願いしたいと思います。

シリコンバレーのインフラと日本の起業家をつなげる(マイナー)

マイナー:今日の議論で日本の金融系がおかしいとかお金が足りないとか、色々なお話がありました。ただ、私としては根本的なところから国内を良くしようとする能力が非常に高くなってきたと思っています。今日お話しているようなことを、皆が「当たり前じゃないか」と感じるぐらいの、今回のような場が出来るようになったこともそのひとつだと思います。ただ、たしかに問題があるところには早く解決策を施していかなければいけない。

そう思って3年前からはじめているのが、シリコンバレーとの付き合い方を逆に変えるという点です。今までは大手企業によるシーズファインディングという付き合い方でした。向こうのファンドにお金を入れてKPCBのジョン・ドーアと付き合うとか、そういったことはしていました。そのベクトルを逆向きにするということです。

シリコンバレーなら世界一流のチームをつくることが出来ます。ベンチャーキャピタルの力とシリコンバレーの磁石力を利用しようということですね。本当にグローバルな企業をつくるために利用するしかない。皆が色々と中国に動きはじめていますが、世界中でテック産業に関心のある人たちは…、中国で何が生まれているかも少しは見ていますが、やはりシリコンバレーのほうを早い段階で見ています。マーケティングという観点でも世界中の技術イノベーションに興味のある人たちがウォッチしている。ですからそこでの戦いが最も厳しいぶん、お金も最も流れています。人材についても同じ。これを利用しようじゃないかということです。それが日本の起業家レベルをあげてビジネスのポテンシャルもあげる。日本版グーグルやフェイスブックをつくるならシリコンバレーのシステムを利用するしか近道はないと思っています。そして今度はそれを経験したスーパーエンジェルやスーパー起業家がまた日本に戻って、日本も少しずつ、これまでのフェーズと同じようにさら良くなっていくと思います。

私たちは現在、シリコンバレーに若い起業家を呼んで、「どういう風に自分の事業を紹介するか」というコンテストをやっています。そこで日本のチームは2回優勝しています。だから内容は良い。プレゼンテーションだってコーチングすれば出来る。シリコンバレーとしても興味がある。そういうことを私は確認出来ていますから、あとは本当に、皆さんもそういうことを考えてみたらいかがでしょうかということですね。そんな流れのなかで1社でも2社でも成功モデルをつくることが出来たら、少しずつ面白いことになるのではないかなと。そんなことを考えながらこの3年ぐらいはやっています。ですからこれからも、サンブリッジにおけるひとつのキー事業として「シリコンバレーを利用する」ということを続けたいと思っています。

アントレプレナーとして成功した人がもっと格好良くならないといけない(穐田)

穐田:今回、自分自身がG1に来て話をしている背景として、成功した人とみなされています。ここは個人で何十億も何百億もの資産を保有している方が多数来る場所です。嫌な言い方ですが、僕もお金を持っています。おかげさまで上場させていただきましたから。ただ、先ほど会場からもご指摘を頂戴しましたが、世間からは「あいつ…、失敗しないかな」という目で絶対に見られていると思います。この会場にいる方々は全員同じです(会場笑)。「あんな贅沢なところに行って、お金をたくさん持っていて」と。僕はそれを自覚しているつもりです。皆さんも思われていますよ、 大丈夫ですか?(会場笑)

それは何故か。仕方がないと僕は思います。世間には苦しい生活の方だっている訳です。それで実際にお金をたくさん持って、芸能人と合コンをして、大きな家を建てて、良い暮らしをして…、ですからたくさんの人が色々とバッシングされてきましたよね。今回のG1の参加者の中でも近い将来必ず、間違いなくやられるでしょう。何らかの形で。「それが国にとって良いことですか?」 と言えば絶対良いことではないとは思います。でも、だからといって、「皆で寄り添って守り合いましょう」だけではないと思います。僕は成金ですから、成金は成金なりに世の中の役に立たなければいけないと。

僕はまず成金としての社会貢献を宣言しますので、皆さんもしませんか?
実際、アントレプレナーとしてある程度成功した人がもっと格好良くならないといけないと思いますよ。別に自分のためだけにお金を使うのではなく。それが巡り巡った結果としてアントレプレナーに憧れる人が増えるかもしれませんし。「マスコミがいけないのだ」だけではなくて、僕ら自身がいけないと思います。「振る舞いが悪いよ。下品すぎるよ」と…、まあ、それは僕のことなのですが(会場笑)。

各務:ありがとうございます。ではもう数分ですのでそれぞれ何をアクションとするか、御三方それぞれお願い出来ますでしょうか。

マイナー:はい。日本の現状に関する情報が少し古くなってきている気がしています。ですから秋から家族を連れて戻ってくる予定です。ただし、せっかくつくっているシリコンバレーでのプレゼンスも拡張し続けたい。ですから先ほどの「シリコンバレーを利用しよう」という活動を、今度は日本サイドからやり続けていくつもりです。

仮屋薗:私は冒頭でお話した通りです。ジェネレーションが異なる起業家の方々などを出来るだけ繋いでいく触媒として…、とにかく繋ぎまくるということをベンチャーキャピタルの仕事を通じてやっていきたいと思います。

穐田:はい、成金として頑張ります(会場笑)。社会貢献していきたいと思います(会場拍手)。

各務:ありがとうございます。ちなみに私としては、東大でつくるかどうかは別として全寮制の学校をつくりたいと思っています。そこで2〜3カ月、日常空間のなかでも、「あなたたちが日本をつくってください」と言えるような学校をつくりたいと思っていますね。総長には話しているのですが実現出来るかどうかはまだわかりません。ですから、そこに共鳴していただいたら皆さまともぜひご一緒したいということがまず一点。

それから細かいところでもうひとつ。先ほどお話しした発明のところに付随して、「実装したものを持って来い」と言われてしまうというか…、プロトタイプを持っていかないと投資出来ないのが大企業の実情です。ですからそれを工面しようということで、ある証券会社と連携してファンドをつくろうと思っています。とにかく先立つもの(資金)をつくっていないことには難しいので。他人様のせいにするのではなく自分のアクションとして精一杯やるしかないのだと思っています。

今日は本当にありがとうございました。以上をもちまして本セッションを終わりたいと思います。御三方にどうぞ盛大な拍手をお願い致します(会場拍手)。

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