A.T.カーニー 梅澤高明日本代表 「グローバル超競争と日本経済の復活」(対談) 

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日本は「人材開国」すべし

会場:先々週ぐらいに拝聴した三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長ご講演で、「今の日本は茹でガエル状態ではあるが、蛇が現れないと立ち上がらない」というお話がありました。国内企業にも外国人取締役がぽつぽつ出てきたという状況を伺うにつけ、器としての会社は残っても、経営層はみんな外国人という開国は近いのではないかという気もしています。

梅澤:たとえばガチガチのドメスティック企業が外国人役員によるショック療法を受けるとか、そういうことを日本人も早く経験したほうが良いですよね。それで日本人の中間層たちが皆やられてしまい、未来永劫、外国人が経営層になるほど、日本人はやわじゃない。私も昔は日産自動車にいたので分かるのですが、カルロス・ゴーン社長が来てからは、さまざまな人材の競争がありましたが、そこで生き延びた日本人は結構したたかになっていますよ。

吉田:たとえば中国の日本企業に対する投資や買収など、資本のグローバル化はかなりのスピードで迫ってきているように感じます。そのなかでどう個人がしたたかに生き延びていくか。

梅澤:そうですね。日本人が非日本企業に入っていっても十分戦えるぐらいになれば、日本企業に外国人が入ってきても良いではないですかということなんですよ。ちなみに日本企業を主語にして考えれば、どんどん入ってくる外国人と一緒にグローバル市場を開拓するような仕事をしていかないと、日本企業の勝ち目は薄いと思います。

吉田:ABInBevも経営陣がブラジル人になったことで社内のベルギー人が不幸になったかというと、そういう訳でもなかったのですよね。

梅澤:うーん…、そこは微妙でしょうね。やはり経営陣が乗っ取られたように見えるし、実は取締役会もブラジル勢に席巻されていますから。しかもベルギー本国の工場は一部閉鎖されています。そういう意味ではベルギー人も「我々のInterbrewが世界で25%のシェアを取っている」という誇りの反面、雇用などについて複雑な気持ちがあると思います。でも、こういう形になっていなければSABMillerにやられて、Interbrew自体がもうだめになっていたかもしれない訳です。結局、「どちら良いですか?」という話だと思います。

吉田:そういう意味では、そこでいかに自分なりの生き方や幸せといったものを定義していけるのかという命題も、グローバル化の時代になれば一人ひとりが突きつけられるという気がしますね。

梅澤:そうですね。もし今の日本でまだ開国すべきか否かが論点になっているとすれば…、たしかに移民まで含めれば論点になっていますが、論点設定からしてもう出遅れている。「どのようにして開国して果実をたくさん取るのか」という議論をするなら分かります。

会場:業界ごとにいまだ多くのプレイヤーがしのぎを削り合っている今の日本が、いわゆる日本連合を組んでグローバル競合に勝てるのでしょうか。今日は「国内を制した1〜2社がグローバル企業になっていく」というお話もありましたので、その辺のバランスについてお伺いしたいと思いました。

梅澤:もし時間的に余裕があれば、国内再編で勝ち残った強者同士で連合をつくり、世界での勝率を上げるべきだと思います。ただ、ここでお話ししているインフラ輸出は、これからの10年が一番のチャンスです。国内再編は普通にやっていれば5年かかりますが、その5年を無駄には出来ないと思うんですね。まずはチームジャパンをなるべく強い企業同士でつくり、世間の雰囲気的にも、業界の常識的にも、「この業界で生き残って軸になる会社はここだよね」という流れを先につくっていくのは有りかなと思っています。

恐らく経産省もそのように考えていると思います。だから総論では産業再編と言いつつ、具体的に「どことどこがくっつきなさい」という話は現状それ程出ていない。いずれにせよ、チームジャパンをどうするかという段階になればどこか1社が選ばれることになる。そのとき「この領域は東電を、この領域はJ-POWERを」という実績が重なれば、必然的にどこが軸になるのか明確になる。そんな動きが今後数年のうちに色々な領域で起こると思います。

吉田:たとえばコンソーシアムのような形で業界標準をつくっていく流れと、会社自体が2社ぐらいに減っていく状態では、主に何が違ってくるのでしょうか。

梅澤:ひとつは意思決定が早いということ。もうひとつは同業が集まってコンソーシアムを組んでもコスト競争力はそれほど上がらないですよね。会社が1社になってオペレーションを統合していけば、当然コスト削減の効果も大きくなりますし、資本力も上がりますから。

会場:企業がグローバル展開をしていこうというとき、「海外進出をしたら自分の立場が追いやられるのではないか」とか、色々な危惧する役員も出てくると思います。場合によっては「あと数年生き延びることが出来たら良い」といった本音も出ます。また、グローバル展開に伴ってオフショアなどを行えば海外に仕事が流れ、国内の雇用不安に対して組合などから反発があがります。さまざまな反発が考えられるように思いますが、どのように合意形成を図っていくべきか、お考えをお聞かせいただけないでしょうか。

梅澤:そういった反発は、どれほど先進的に見える会社でも必ず出てくる類のものだと思います。その場合には選択の経緯、あるいは会社として起こり得るシナリオを明確に見せてあげることが大切なのかなと思いますね。客観的なシナリオから、打って出る戦略が持つリスクも見せる一方で、「何もしなければどうなるか」ということもきちんと見せる。「あなたが役員をやっているあと2年は潰れないでしょう。でも私が役員になるころには会社自体なくなっているかもしれないんです」という事実や現状をきちんと証明出来れば、モラトリアムな役員さんでもさすがに、「何もしなくても良い」と胸を張って言うことはなくなります。

会場:グローバル展開をする以前に、労働力の流動化をサポートする体制が日本企業には整っていないと思います。関連する法整備もまったく出来ておらず大いに問題だと思うのですが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

梅澤:労働力の流動化を国としてどのようにサポートするかというご質問ですね。

吉田:雇用の問題というのは昔からあって、今はどちらかというと雇用の流動化に対する逆風があって思いきった施策がとれない面もあると思います。一方で従業員を大事にするという日本企業の良さもたしかにある。そこでどのような処方箋があるかということですね。

梅澤:企業を主語にして「生き残らなければいけない」という命題を立てた瞬間、やはりある程度は国内の雇用流動化を受け入れざるを得ないようになると思います。特に製造業や、ある程度外需に依存している会社に関して言えばですが。先程のお話にも繋がると思いますが、企業単位で雇用を保証する時代ではもうないと思っています。グローバル競争の時代はそうじゃない。だとすれば、社会としてどのように再雇用を促進していくのかを考えて、職業教育やセーフティーネットを用意していくかが大事になるんだと思います。それを企業ばかりに押し付けるのは、ある意味社会全体の怠慢だと思いますので。

会場:中小企業はグローバル展開を目指すにもなかなか難しい側面が多いのではないかと思っています。たとえばグロービスへ勉強しに来ている人たちのなかには、自分で起業して社会を変えていきたいという人もかなり多いかと思いますが、グローバルに寡占化が進んでいく中で、中小企業などの小さな単位でどういったことを念頭に進んでいけば良いのでしょうか。

梅澤:比較的小さな規模でスタートアップした企業が、そこそこの成長率で大きくなり、自分も社員もハッピーに…、ということが日本国内で実現出来るのなら、それはそれでもちろん良いと思います。ただ、「小さな企業だからドメスティックでも仕方がない」という命題は、実は正しくないんですよね。たとえばドイツは中小企業がグローバル化していることで有名ですが、売上高で言えば100億ぐらいでも世界シェアは7割といった企業が結構あるんです。

別の話を申しあげましょう。5年前にシカゴでタクシーを拾ったとき、その運転手に、「お前は何の仕事をしているんだ」と聞かれたので経営コンサルタントだと答えたら、「俺のビジネスプランをコンサルテーションしてくれ」と(会場笑)。空港に着く40分のあいだ、ずっと彼に付き合わされました。彼は5年前にインドからアメリカに来て、タクシー運転手をやりながら親戚か何かのつてを使い、企業向けに通信機器のコンポーネントを売り込んでいたそうです。「ちなみに僕の製造拠点はインドのどこどこで、実は僕の別の親戚が中国に売り込もうとしている」と言うんですよ。タクシーの運転手で資本金ほぼゼロ、既存顧客ゼロ(会場笑)。リレーションがいくつかあるだけのインド人男性が、こういう発想でやっている訳です。だからとにかく日本人も、規模や条件のしがらみに閉じこもっていてはいけないと思います。

吉田:そういう意味では我々自身の発想をあまり閉じ込めないようにするのが、まず大事なことなのかなとも思いますね。

梅澤:本当に日本が最も市場機会の大きいマーケットだから、日本を本拠地にしたビジネスを考える…、これならいいんです。でも、もしかしたら中国のほうが5倍あるかもしれない訳ですから、一度は考えてみましょうと。「世界でやったほうが良くないか?」と。

吉田:大変よく分かりました。ありがとうございます。ではそろそろ時間も迫ってまいりましたので、この辺で終了にしたいと思います。本日は大変刺激的なお話をいただきまして本当にありがとうございました。最後に皆様、梅澤さんにもう一度大きな拍手をお願い致します。

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