クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン社長 清水昇氏 「変化の時代の企業経営」(対談) 

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3〜5年先の「どうありたい」をファクトベースでつくってほしい

村尾:タイミングの見極めが大切ということを、理解はしていても実際にはなかなか実践出来ないということは、製薬に限らず、どこの業界でも往々にしてあるのではないかと思います。そのあたりを見極める力の肝はどこにあるのでしょうか。

清水:社内でも言っていますが、戦略を考える際には常に3〜5年先を見ておかなければなりません。そのうえで戦略的な目標や「どういう状態になっていたい」というイメージを持つのです。その目標やイメージの上に、毎年のステップを築きます。この一連の流れを戦略実行とするならば、戦略が毎年変わるはずがありません。スローガンは変わっても良いのです、しかし戦略が変わってはいけません。私の場合で言えば、欧米の先行指標と、医療環境が変わってきた日本の現状を見たうえで、今後3〜5年で何が起こるのかを見極めたビジョンをまずつくりました。

ビジョンを元に戦略的に考えて、「それならば何をやりましょう」というステップを築いていきます。逆に言うとステップをひとつずつ実現する先に、最終的なゴールがあるということです。今日お集まりの皆さんは特に経営や戦略に興味があり、自分のお金を使って、あるいは会社から選ばれて勉強している方だと思います。そういった皆さんは特に、ビジョンをファクトベースで構築していただきたいと思います。決して自分の思い込みで都合の良い机上の論理をつくらないようにしてください。ファクトを見て、精緻なシミュレーションを行い、そして将来像を描く。そのなかで「自分達は何で差別化出来るのか」という戦略を丁寧に描いていくことが重要だと思います。

村尾:ファクトベースというのは、顧客の声を聞く努力だったりするのではないでしょうか。顧客の話の本質やリアリティを捉えるために、清水さんご本人がかなり強く意識されていることは何でしょうか。

清水:そうですね。これは以前、私がマッキンゼー・アンド・カンパニーというコンサルティング会社にいたことが影響しています。マッキンゼーのコンサルタントがクライアントのもとへ行くと、そこには将来の経営幹部候補生のような方々が少なくとも10人ぐらい、多い時は50人ぐらい集まってきます。彼らはその企業におけるエリート部隊として10〜20年の業界経験がある。しかもコンサルタントは同業界の別企業を担当することはありませんから、毎回毎回、下手をすると3カ月ごとに違う業界のクライアントの元に行きます。その先々で3カ月のうちに相手が唸るような答えを出さないと、ビジネスとして続かないという厳しい世界です。

若いうちにコンサルタントで何かのプロジェクトに行きますと、まず「何だこの若造は」「この業界を何も知らないだろう」と思われるものです。そんな人間が会社の会長や社長にものを言うのに、単なる“想い”だけでしゃべったら、「お前には経験がないだろう」と、反論されて終わってしまいます。ですから常に心がけていたのは、「私が言っているのではありません。ファクトがそう言っているんです」と言うことでした。「御社はそういう風に思われているかもしれませんが、ファクトベースの市場はそのように捉えていません」と。社内でのデータは自分に都合良く出来ているもので、特に経営トップには良い話しか上がらないようになっていますから。

ですから、今もクライアントにアプローチする前に、我々のほうからファクトを押さえにいきます。実際のところ、この製薬メーカーはどう見られているのか、現場へ見に行くのです。すると「こんな間違いを犯している」ということがわかります。それを、良い情報しか耳にしていない経営トップに突きつけて、「事実はこうですから、こういうやり方に変えないとだめです。これが変革の要です」という風にやらなければいけないのです。

経営トップがどこにも行かず、部屋の中で「うーん」と瞑想をしていれば将来像が描けるなんていうことはまずありません。やはり最前線の現場で仕事をしている担当者やお客様に話を聞きながら、総合的に判断していく必要があります。もちろん大きい話も小さい話も混じっていますから、骨子になる重要な点をきちんと読み取って、そこから組み立てていくことが重要です。

私がMBAをとろうと思ったきっかけ

村尾:今日はグロービス学生の方も多いので、清水さんがMBAを取得された経緯などについてお伺いしてもよろしいでしょうか。

清水:私が最初に入った会社は、味の素ゼネラルフーヅ(AGF)でした。当時は味の素が50%、米国ゼネラルフーヅが50%出資している会社でした。そこではマーケティングの部署にいたのですが、当時は、四半期ごとにアメリカから担当者がやって来ては、「日本の事業状態はどうなっているのか」と聞いてきました。マーケティングや日本の流通についてはこちらもよく勉強していましたから、どんな議論になっても負けることはありませんでした。

ところが一点だけ負ける議論があり、それが財務でした。さすがにマーケティングのプロダクトマネージャーになったときには損益計算書ぐらいはわかるようになっていましたが、私はもともと理系ということもあり、キャッシュフローやROIなど、何のことだかよくわからない状態でした。それでアメリカの担当者と議論すると、「5年後に黒字になるんだから何が悪いのか」というこちらのプランに対して、「いや、ネット・プレゼント・バリュー(NPV:プロジェクトが生み出すキャッシュフローの現在価値の総和)がどうの」などと言われるわけです。「ネット・プレゼント・バリュー」なんて当時は聞いたこともなかったですし、「キャッシュフロー」の理解も怪しかった。私はそのたびに言われた用語をメモして、当時財務を担当していた同期にその意味を確認していました。そこで先方の話の意図を理解して、プランを書きなおし、改めて提出すると、また新しく知らない言葉でいろいろと指摘されるわけです。そして答えられないから改めて財務のところへ行く、その繰り返しでした。

そんなことをしているうちに、「俺はメッセンジャーボーイなのか」と思えてきて、プライドが許さなくなってきました。それであるとき、アメリカの担当者に「あなたはマーケティングの担当者なのに、どうして財務に詳しいのか」と聞いてみたところ、「私はハーバードのビジネススクールを出ているから」と言う。彼はビジネススクールが何たるかもよくわかっていなかった私に、「そんなに財務で負けるのが悔しいならば、あなたもアメリカのビジネススクールに行け」と言うのです。そこで「財務で一番強い学校はどこか」と聞いたところ、「ウォートンだ」と。それで結局彼らに推薦状を書いてもらい、後にウォートンに入って勉強することになりました。

AGFに留学制度はなかったのですが、私はもともと負けず嫌いの悔しがり屋ですから、私費留学しました。よくアメリカの大学や大学院は入るのが簡単で出るのが難しいという話を聞きますが、あれは大ウソです。入るときも死ぬほど苦しいのです(笑)。大学に入るよりもある意味でよほど大変でした。留学制度や支援制度がないわけですから、専門の予備校に通ったり、TOEFLを勉強したり、同時並行でエッセイを書いたり…。すべて自費で、数百万円は使いましたね。嫁さん帯同で行きましたからお金もかかりました。ただ、当時はちょうどバブルの頃で、私自身は株をちょうど良いタイミングで売り抜けたものですから(笑)、その設けたお金を全額勉強に投資しました。

組織の“天井”になって成長を止めるリーダーになるな

村尾:ありがとうございます。では私からは最後の質問として、今の時代にリーダーに求められる要件についてお伺いしたいと思います。さまざまなキャリアを積んでこられた清水さんから見て、リーダーにはどういったことが求められると思われますか。

清水:私はコンサルをやっていた時代から、良い企業も悪い企業もいろいろと見てきました。それでクインタイルズが悪い企業にならないように私自身も努めているわけですが、大切なのは、リーダーが組織の“天井”にならないことです。組織が成長しようとするとき、経営のトップや部門長が、ある意味で天井になってしまうことがあります。天井になるということは、その人をなかなか超えられないということです。その場合、もし目線の低い人がリーダーになってしまったら、いくらメンバーが良い提案をしても通らなくなります。燻(くすぶ)ってしまうんですよね。しかし戦略というのは食べ物と同じで旬があります。今のタイミングだからこそ生きる戦略を、上の人間がそのときはわからなかったとします。そこで2〜3年過ぎた頃、ようやく気付いて「さあやろうか」と言っても、旬が過ぎているか、他社がすでにやってしまっているかでもう遅いのです。

ですからリーダーに心がけてほしいのは、上になればなるほど、リーダー自身が天井になり得ると認識することです。天井の位置まで来たと思ったたらそこに留まらないでください。リーダー自らが常に勉強してさらに上を目指さないと、組織成長の壁になってしまうのです。

また、組織や人を動かそうとするとき、3〜5年後を見据えてビジョンやゴールを設定するだけで、途中に何の“絵”を描かなければ、部下にすぐギブアップ宣言されてしまいます。「いや、そんなに高い目標は絶対無理です」と。ですから高いビジョンを掲げて進んでいこうとするならば、その中間段階の戦略や過程を、トップ自身が袖まくりして、描いていかなければなりません。「俺はビジョンやゴールを描くのが得意だけれど、中間の戦略や過程はお前らがやれ」では、悲惨なリーダーですよ。そういうリーダーは往々にして自分では過程を描けないんですね。そうではなく、きちんと中間のステップも描けるのが真のリーダーなのです。

部下の仕事をうまく“やりにくく”するのがリーダ—の役目

清水:さらに付け加えると、途中の段階は描き過ぎても口出しし過ぎてもいけません。すべての解答を与えず、部下に考えさせる作業を忘れないでください。センス・オブ・オーナーシップ(当事者意識)の問題です。担当者には常に自分の問題であるという意識を持たせる必要があります。すべての戦略を見通せる人間はいませんから、大きな方向性は見えていても、実行に移せば100%予定外のことが出てきます。壁にぶち当たった時、微に入り細に穿つような解答をリーダー自らがすべて用意しておくと、部下は「あ、清水さんに言われた通りやればいいんだ」と考えるようになります。うまくいかなければ、「清水さんの言う通りにやったのに失敗したから、また清水さんに考えてもらおう」となってしまうのです。これでは、常にトップが現場の細かいところまで考えないと動かないような組織になってしまいます。ですから部下には考える力とセンス・オブ・オーナーシップを持たせることが大切です。

とはいえ、人はまったく見たこともないようなことはできませんから、ヒントを与える必要はあります。まずは大きな方向性を見せたうえで、「こういうところまでやろう」という話をします。それでもわからないときには大項目から中項目ぐらいまで、場合によっては小項目まで少しずつ降りていってヒントを増やしていきながら、「あとは考えてね」という風にするのです。

また、たとえ解答があったとしても自分からは言わないでください。私は、解答がわかっていてもあえてブレインストーミングをして皆から答えを言ってもらうように誘導しています。自分が考えている方向と80%ぐらい一致した答えが議論中に出てきたら、そこで自分の答えにすり替えるようにリフレーズすればよいのです。「○○さんの言ったことってこういうことですよね」と。そして「その考えは素晴らしいですね。これってもう少しうまくやるとどうなると思いますか?」といった感じで続けていくと、次第に、「自分たちが考えたことだからやり抜こう」というコミットメントがメンバー内に生まれてくるのです。そうなれば問題が起こったときも自分たちで創意工夫する気持ちが湧きます。それで一歩進む。そこで皆さんは次の目標を掲げる。人は「ここまで出来た」と思うと慢心してしまいますから、次の目標を出すことで「また頑張らなくては」という気持ちになれるものです。その繰り返しが“自分たちで考える組織”をつくり上げるのです。

こうなると上にいる人間はラクになりますね。「遊んでいても勝手にやってくれる」ということなって(笑)。ただその段階で、さらに経営トップは次の3〜5年を考えていなくてはなりません。組織や部下の先々を考え、ある意味“やりにくく”してあげるのです。だんだん出来るようにしながら、ほめながら、しかも部下が慢心しないよう、難しいことを言い続けないといけません。そのためにも自分自身がもっと天井を上げて、先を見る目を持たないとなりません。それが企業の継続的成長を生む力となるのです。

良い外資系企業を見分けるポイント

村尾:ありがとうございました。では会場からもご質問をお受けしたいと思います。皆さん、何かありますでしょうか。

会場:グローバルカンパニーにおける日本部門代表としてのセンス・オブ・オーナーシップについてお話を伺いたいと思っています。日本市場におけるセンス・オブ・オーナーシップはもちろんあると思うのですが、逆に御社には本国からの指示もあるのではないでしょうか。実は私自身、外資系に転職が決まっているのでその辺も含めてアドバイスいただけたらと思っています。

清水:良い外資系、悪い外資系といろいろ見てきましたが、私の経験からお話しをすると、良い外資系というのは本当の意味でマルチ・ナショナルで、日本を本当の意味でパートナーとして扱っています。こういう企業ではグローバルな意思決定にも日本の代表者が行って参画しています。

私が以前にいたある会社では、日本部門の売上高は全世界の20数%で、利益は5割近くに達していました。さらに私が直接担当していた事業分野は世界で7割の利益を出していました。ところがあるとき本社を訪れる機会があって、行ってみるとこれからの製品開発プロジェクトに関する会議をするというのです。我々は事前にその会議について聞いていなかったのですが、とにかく私とアメリカ人のマーケティング・ディレクター二人で出席しました。そうしたらいきなり次の開発プロジェクトに関する優先順位を付けるという話になり、しかも挙手で決定しようとするのです。会議の出席者はアメリカから20人、ヨーロッパから6人、日本から2人。挙手といっても、私は1本しか手を上げられませんよね。グローバルで7割の利益を日本が出している事業でこのようなことが行われようとしていたのです。

この製品の今後の開発プロジェクトを決めるならば、当然日本で次にどういう製品が望まれているかというファクトを、たとえば日本のKOLの先生方にヒアリングするなりして捉えておかなければ我々は会議で挙手もできません。しかし当時のアメリカ部門は売上が一番少ないのに20人出席し、対して日本側が2人とはどういうことかと。ですから、「もっと早く我々にすべてのプロジェクトを公開し、日本のKOLの先生方にヒアリングするだけの時間的猶予を与えない限り、この会議は意味がない」と、そのときはぶち壊しましたね。本来私は非常に大人しい性格なのですが、そのときばかりはちょっと戦ってぶち壊しました。

良い外資系企業はそういう部分をきちんと尊重しているものです。そのうえで、「日本市場の特殊性や顧客の声は、本当にグローバル戦略へ反映して良いのか」と聞いてくるか、そこをよく見る必要があります。この意味では、常にグローバルな戦略会議などに日本の代表者が行っているかどうかも判断材料となります。また、日本支社の経営者が外国人という場合、その外国人が三流どころではなく、経営幹部になる可能性のある人間なのかどうかを見るべきです。国際経験を積ませるために日本に派遣されている幹部だとしたら、大正解です。そういう人たちにきちんと日本の事情を話せば、それをグローバル戦略に反映させることも出来るでしょう。逆に言うと皆さんが外資系企業に行く場合、そういう環境を自らつくりだす必要があります。日本の代表者が三流どころの人物であれば、本国とパイプをつくっていき、「日本市場は重要だから、やはり一流どころにやらせよう」という意識を工作するということです。

業界未経験者だからこそ常識を覆せることもある

会場:先程、MRの人数を2015年までに3000人にするというお話を伺いましたが、その人たちはどのように集めていくお考えなのでしょうか。私も製薬メーカーに勤めておりますが、MR全体の人数は伸び悩んでいるようですので、それを倍にするのはかなり障壁が高い気もしております。

清水:御社から採りたいと思います(笑)。というのは冗談ですが、我が社の年間採用人数はおよそ350人で、9割は製薬業界未経験者です。自動車のディーラーやマンション販売といった営業経験のある人たちを未経験MRとして採用しております。実は富士山の麓に、“アカデミー”と呼ぶ人里離れた脱走不可能な研修施設があるのですが、そこに未経験MRの人達が2カ月間閉じ込められます。一番近いコンビニまで歩いて30分。冬は雪が降るから凍死するんじゃないかということで、今のところ幸いにして脱走者はいません(笑)。もともと優秀な営業DNAを持っている方々ですから、あとは研修で医学的知識や製薬業界のノウハウを身に付けていただきます。そうするとMR未経験でも、2年間プロジェクトをこなせば一人前になります。早い人だとフィールドに出てすぐ、クライアントも驚くような大口の注文をとってきます。

これはなぜか。たとえばあるメーカーについて先輩から引き継ぎを受けたとしますよね。そこで「あの病院は某メーカーの独壇場だから、長年攻めているけれど絶対に無理だ」というようなことを言われます。ところが未経験MRにはある意味業界の常識がありませんから、いくら言われても「ひょっとしたらチャンスがあるのではないか」と思って攻めたりする。する先生方から逆に「どうしてお前のところは今まで来なかったのか」と言われたりするわけです。その例では、実は数年前にメーカーのMRが出入り禁止になっていて、その言い訳をしていただけだったとわかりました。先入観を持たない我々のMRは、それこそ夜討ち朝駆け当たり前の世界で攻めていきますから、その結果として時に大ヒットも生まれるのです。

とはいっても2007年当時に私が入る直前は、MRはメーカーからよくオファーが来るため、非常に高い離職率でした。しかし今の離職率は外資メーカーと比べても遜色ありません。優秀な人たちが製薬メーカーには行かず、我が社に残るようになってきました。これは転換点と言えます。企業として成長していくための優秀なMRを内部でどんどんつくりだせるようになってきて、スペシャリティ分野でも優秀な人達で回せるようになった。その人達が会社に止まり、さらに非常に営業能力の高い人材がどんどん外からも入ってくるので、パフォーマンスもさらにあがります。これが、実は我が社における成長の源泉になっていると思います。

多彩なバックグラウンドを持つ人材がチームで結果を出す

会場:最後のお話で一点、細かい話ですがビジネスシステムのなかで「生産」が抜けているのではないかと思いました。その辺について、バーチャル・カンパニーの欧米における先行事例なども併せてお伺い出来ればと思っております。

清水:たしかにスライドで生産が抜けていました。失礼致しました(笑)。もちろん生産もビジネスシステムに入っています。実際、生産をアウトソーシングしているメーカーの事例は増えていますね。もともと製薬業界は「薬九層倍(くすりくそうばい:薬の値段は原価に比べて非常に高く、利益が多いこと)」と揶揄されるほど収益性の高い業界であり、原価も低かったため、生産コストが強く意識されたことはありませんでした。むしろ「品質でトラブルがあると大変だ」という意識が強く、自前でやるのが常識でした。ところが薬価改定で値段が下がり、ジェネリック品との競争が増加し、あらゆるフェーズで収益性を高める必要性が出てきました。すでに欧米ではインドなどを生産拠点にしています。労働コストの低いエリアでブランドジェネリックに注力するという戦略もあり、今後は生産部分のアウトソーシングも確実に進んでいくと思っています。

バーチャル・カンパニーの事例ですが、我々はそういったビジネスを既にヨーロッパやアメリカで展開しています。良い薬を持っているバイオベンチャーには、「創薬は得意だけれども他のことはやりたくない」という会社が多く、そうした企業はこれまで大手の製薬メーカーに権利を売り渡していました。しかしバイオベンチャーにとってライセンスアウトは本当に常に最良の選択なのでしょうか。通常は大手製薬メーカーに権利を売り渡すと、契約上最初の一時金と、売上に応じて発生する何%かのロイヤリティが入ってきます。そこで売り渡した先は、はじめは「たくさん売りますよ」と言うのですが、しばらくして自社で良い薬が開発出来るようになると、当然そちらに営業をシフトしていきます。すると、ロイヤリティ収入が途中から一気に下がります。権利を売り渡してしまっていると、メーカーに対して「もうちょっと売ってください」という程度の“お願い”しか出来ないので、コントロールが効かないのです。

このようなことが起こりうる中でも虎の子の良い薬をライセンスアウトするのが良いのか。それともクインタイルズのような包括的サービスを手掛ける企業に開発以外の部分を業務委託し、自社でコントロールするのがいいのか。その点を吟味したうえで我々のサービスが選ばれるケースはあります。「日本でもそういうことが出来るのか」という企業からのお問い合わせは随分増えていますね。

会場:お話のなかで何度か出てきたMSL(MedicalScienceLiaison:医学的、科学的見地からKOLDrとの情報コミュニケーションを通じて治療法や医薬品の適正使用を支援する人材)ですが、医者と上市前の関係を築くという意味では、理想の人材は医者ではないかという気もしています。御社の場合、医者がMSLになるケースはあるのでしょうか。また、MSLに求められる経験や能力についても教えていただきたいと思っています。併せて、MRの内製化というお話もありましたが、将来的にそのような経験を積んだ人たちがMSLになれる可能性はあるのでしょうか。

清水:たしかに欧米では、メディカルドクターや薬学の博士号保持者がMSLを担当するケースが殆どです。特にアメリカではどちらかというと薬学の博士号保有者が中心となっています。我々日本の部隊には、今のところメディカルドクターはメンバーにおりません。

実際にMSLをやるうえで高度な医学知識は必須です。海外論文を読んで先生方に情報提供をしなければなりませんから、非常に高い理解力が求められます。同時にMSLはKOLとなる先生方とパイプをつくり、最終的には製品・治療を市場へ広げていきますから、病診連携(地域内の診療所と精密な検査・治療を行う総合病院が連携を取り合うこと)や病病連携(病院同士が急性期病院、慢性期病院、療養型病院などの機能により連携を取り合い、病状に応じた医療を行うこと)、あるいは講演会の企画といった領域でも力を発揮する必要があります。そうなると日本ではコミュニケーションスキルがより重視されますので、優秀なMRが中心となります。

他人にボロボロに言われる経験をしたほうがいい

会場:「トップ自身が天井にならないよう常に勉強しないといけない」というお話にとても感銘を受けました。清水さんご自身が自分を客観的に見られたとき、なぜ自分にそれを出来るのかお聞かせください。

清水:恐らく擦り込みではないかと思います。地獄の訓練を受けた名残りといいますか(笑)、コンサルティング・ファームは本当に恐ろしい世界でしたから。たとえば3カ月マッキンゼーのようなコンサルティングを使いますと、クライアント企業は億単位の金を払う必要が出てきます。それでも現場に入るのは場合によっては3〜4人です。別にその3〜4人が支払われた金額をすべて給料としていただくわけではありませんが、クライアントからすると、この3〜4人に一日あたり何十万円も払っている、という感覚です。

ですからすぐに「あんたはバリューを出しているの?」と言われます。はじめのうちは「業界のことも何も知らないくせに何を提案出来るのか」という冷たい視線を受けます。その状況下で1カ月目から、先方がギャフンというほどの、業界に20年以上いるレベルの知識を習得して、物を言えるようにならないと勝負にならないのです。ファクトを集め、すぐに「これってこういうことじゃないのか」と理解し分析していかなければなりません。もともと目線が良い人たちの意見を聞いておき、そのなかで重要な話とどうでもよい話を仕分けながら仮説をつくっていく。それをやらない限り、向こうは我々の存在価値を認めてくれないのです。「高い金を払っているんだから、俺たちにやらせるんじゃなくて、これぐらいの作業はしてよ」という状況になってしまうと、もうプロジェクトとして無茶苦茶になってしまいます。だから常にプレッシャーと向き合っていました。これが一つ目の背景です。

二つ目として、コンサルティングにいたときは内部でもすさまじいプレッシャーがありました。私は10年程の社会人経験を積んでからマッキンゼーに入ったのですが、当初は「マーケティング領域や食品・飲料業界ではそれなりに実績を上げていた」「戦略は任せてくれ」というプライドを持っていました。それで一丁前の顔をして分析結果を出すと、あっという間に「清水さん、何が言いたいんですか?」「このファクトから考えて、どうしてこんな結論になるんですか」「論理が飛躍しています」とか、もう徹底的に言われました。挙句の果てにはマネージャーから、「清水さん、脳みそにシワがあるんでしょ。シワをもうちょっと伸ばして考えましょう」とか、だんだん人格破壊されるんじゃないかというようなことまで言われました(笑)。

そういう状況が続くと、自分で考えなくてはいけないというプレッシャーが常に働くようになります。マッキンゼーではさまざまなコンサルティング関連の著書を出しており、そのなかで分析のフレームワークに関する話も書かれています。でも、ああいう本を読んでコンサルタントになれるかというと、無理です。なぜなら自分で考えていないから。他人がつくったフレームワークの縦軸横軸は簡単そうに見えますが、ああいうものを自分で考え出そうとすると死に物狂いにならないとできないのです。

コンサルティングをやっていた頃は、「こういう分析をしてください」「こういうインタビューをしてください」といった話を毎週月曜日、クライアントのプロジェクト・メンバーにお願いしていました。それはすべて我々から投げないといけません。ですから月曜日の朝はかなり緊張が走りましたね。土日のあいだ…、土曜はたいがい出勤していましたが、そのあいだにどういう分析してもらおうか、フレームワークを考えなければいけませんでした。ブランクチャート(縦軸横軸を書いた分析チャートやイメージ図で、まだデータや情報が入っていないもの)をつくって月曜に渡すのです。よほど深みのある仮説を出さない限り「これ○○に載っていましたよ」などと馬鹿にされてしまいます。ですから土日はブランクチャートを100枚ぐらい書いたりしていたのですが、コンサルになりたての頃は本当に悲惨でした。土日の2日間、テーブルに座って「うーん」と唸っていただけで、出来たチャートは僅か3枚とか、それぐらい大変でした。コンサルの仕事というのはそのぐらい考える修練を要求するんですね。そういう意味では、今でも上を目指そうと思えるのはこの地獄の訓練の賜物と思っています。

ですから皆さんも、厳しい上司や社外の共同プロジェクトなど臨場感のある現場で、「お前の考え方は甘いよ」とボロボロに言われる経験をされると非常に良いと思います。特にグロービスのような場でディスカッションしながら「自分はいかに考え方が浅かったのか」といった体験をされると、さらにレベルが上がると思います。

大きすぎる「衣」を着て頑張っていると、自然と体が大きくなる

村尾:ありがとうございます。今のお話につながるかとは思いますが、最後に一つ、どうやったら清水さんのようになることができるのか。そのあたりを踏まえて皆さんにメッセージをいただけないでしょうか。

清水:まず、社内でも言っていますが、キャリアとは与えられるものではありません。自分でつくっていくものです。それからもう一つ、大きい衣を着て仕事をしてください。これはどういうことか。たとえば製薬業界のMRが、「私は一介のMRでマネージャーではありませんから、そんな難しいことは出来ません」と言ってしまったら、これは今後もう大した成長もないでしょう。一介のMRだろうが何だろうが、常に上の仕事を注意して見るべきです。「上の方では戦略をつくっているらしいけれども、戦略ってどんなものなのだろう」と。そして他の部署と情報交換しながら、良い戦略とはどういったものなのかを考える習慣をつけることです。それを続けていると企画力などが身に付いて、「こいつは面白いな」と、上から気にかけてもらえるようになります。そして、いつかチャンスが転がり込んでくるんですね。

それから、社内の組織変革プロジェクトなど、さまざまなプロジェクトに率先して手を挙げて参加してみてください。今の仕事も大変だとは思いますが、誰の人生にも何回か頑張りどころというものがあります。そういうものに巡り合ったら乗り越えるために、時には何もかも犠牲にする覚悟を持ってください。そうしているうちに自分の実力が上がり、当初は大き過ぎる衣にも体が合っていくようになるものです。

「私は常務と仲が良いから常務に引っ張ってもらおう」なんて甘い発想では成功しません。その会社にいる限りは途中までうまくいくかもしれませんが、たとえばそこで会社が合併されてしまったら、実力が伴っていない限りは、それより上には行けなくなるでしょう。他力本願はやめましょう。自分自身の実力を自ら率先して高めていくこと。「将来こういう姿になりたい。だったら、今はここが弱いから、ここをまず潰してしまおう。次はここが得意だから伸ばしていこう」という気持ちを持つことが大切です。そしてチャンスが来たら手を挙げ、キャリアをデザインしていってください。

人生には、予定外のことがいろいろと起こります。私など、ボストン・サイエンティフィック・ジャパンを辞めて日本ガイダントへ入ったのに、まさかガイダントがボストンに買収されるとは思いませんでしたから(笑)。長く時間が経てばそういうことも多々ありますが、常に「自分はどういう方向で動くんだ」ということを自分の中で意識してデザインしながらキャリアを追求していけば、必ず成功につながると信じて、頑張っていただきたいと思います。

村尾:今日は本当に素晴らしいお話をありがとうございました。皆様、最後に大きな拍手をお願い致します(会場拍手)。

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