出口治明・ライフネット生命保険社長「歴史観を育み、世界に変化を起こす礎とする」 

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変化というのは、今、このときからしか起こせない。そして、変化を起こすにはインプットを増やすしかない。なぜなら、いろいろなことをタテヨコに知らなければ、どんな発想も生まれないのだから——。

出口治明・ライフネット生命保険社長は、歴史を遡る時間のタテ軸と、地理的な拡がりを示すヨコ軸のインプットを掛け合わせた“タテヨコ思考”が自身の発想や価値観の源泉となっていると話す。「タテヨコに考えれば、ほとんどの事柄について正邪がすぐに理解できるようになる」、そして、「知れば知るほど世界はシンプルになっていく。いろいろな人が生きてきた事実を知れば知るほど、多様なものの見方ができるようになるし、結果として、自分自身の価値観も固まっていく」、と。

一方で、歴史を振り返れば、全ての人が、やりたいことを成し遂げてから死んでいったわけではなく、誰もが使命を見出す必要はない。皆で誰か何かの夢を分け合って持つことができれば、それはそれでいいのではないか、とも説く。「人間は皆いい加減な動物だという事実を直視して、同時に好奇心を絶やさないこと。人生はそれに尽きる。何かを知ることはそれだけでも本当に楽しいのだから」。

生きる目的を見出し、学びながら方法論を得て打ち込んでいく尊さと、目的を探しながらも、一日々々をいかに過ごすかに意識を馳せる尊さの双方を、「歴史観」というテーマを介在にして、語った。

歴史と地理から学ぶタテヨコ思考で世界を理解する

なぜ歴史観が必要か——。僕は人間の生き方というのは、世界経営計画のサブシステムでなければならないと思っています。つまり、今僕たちが生きているこの世界をどう認識して、それをどう変えたいと思うのか、そして、その中で自分が何をやりたい(分担したい)と思うのか、これに尽きる気がします。

人間がつくる社会は人間に似ている。人間がつくるのだから人間に似るのは当たり前のことです。ヘンリー・キッシンジャーは「人間はワインと同じ。気候の産物だ」と言っていました。つまり、自分の生まれた土地を愛し、先祖が立派であってほしいと思う動物だということです。それは愚かしいことかも知れませんが、それが現実の人間の姿。つまり、人間はそれほど賢い動物ではないのです。そうであれば、地理と歴史を勉強して自分の足で世界を歩いてみなければ、世界のことは分かりません。

タテ軸を時間軸、ヨコ軸を地理的な拡がりと考え、僕は「タテヨコ思考」と呼んでいますが、例えばタテ軸は昔の人の話を聴くこと。ただ、もう死んでしまった人とは会えませんので、本を読むしかない。ヨコ軸は単に知識を取得するだけではなく、自らの足で歩くこと。要するに百聞一見です。タテヨコに考えれば、ほとんどの事柄について、正邪が即時に理解できるようになります。例えば夫婦別姓法案。日本の伝統は夫婦別姓であることは、平安時代を見れば明らかです。また世界中の国で、法律婚の条件として同姓を強要している国は皆無に近いという事実があります。そういう事実を知れば、「夫婦別姓法案」を特別なものとして議論するおかしさが、すぐに見えてきます。

昔の人と話をすることは、すなわち本を読むことですから、僕は速読が大嫌いです。皆さんは人と話していて、自分を“速読”されたら腹が立つでしょう?(会場笑) だから、速読なんてあり得ないと思っています。古典は長い時間をかけてマーケットにおいて取捨選択され、残ってきたかけがえのないものです。だから恩師の言葉を借りますが、「古典を読んで分からなければ、自分がアホだと思え。新しい本を読んで分からなければ、書いている人がアホなので読む価値はない」と思ってください。

歴史から何を学ぶかといえば、「衣食足りて礼節を知る」ことと「人はパンのみにて生くるにあらず」ということが基本になります。ただし逆ではなくこの順番が決定的に重要です。人間は動物ですから第一に考えるのは、どうしたらご飯を食べていけるのかということ。それが常にベースにあります。衣食住が充足して初めて、礼節を知り、パンのみを求めなくなるのです。また人間はそんなに賢くないので、歴史を見ればすぐわかることですが、同じ失敗を何十回も繰り返しています。そういう意味では、歴史を知るということは、その失敗を自分で犯すリスクを減らすことにもつながると思います。

ホモ・サピエンスと呼ばれる僕たちの祖先の登場は、およそ15万年前に遡ります。彼らはそれから、ビフテキを求めて生まれ故郷の東アフリカのサバンナを出て、世界中に散っていきました。いわゆるグレートジャーニーです。これは冗談ではなく、科学で裏付けられています。人類の展開と大型草食獣が激減する時期が各地でほぼ一致していますので、ビフテキを食べるために世界に散っていったということが、事実として証明されているのです。ところが1万2000年ぐらい前に突然変異が起こって、人類は突如、世界を支配したいと思うようになります。突然変異については異説もありますが、ドメスティケーションと呼ばれている現象です。例えば植物を支配するのが農耕であり、動物を支配するのが牧畜、金属を支配するのが治金、そして最後に自然界の摂理を支配したい、と考えて神を創り出す方向に向かっていくわけです。この時代から現在まで、人類は生物学的にはほとんど進化していないのですが、本当に変わっていないのかどうかを確かめようと思ったら、例えば『韓非子』と(アリストテレスの)『ニコマコス倫理学』をまず読んでみてください。そうすると人間の考えることは昔からほとんど一緒だということが、よく分かります。

それからヨコ軸について、ごく単純化すれば、人間は皆、一緒なので、何か求めるものがあるなら、世界の人がどうしているか、うまくいっている事例を探しにいけばいいのです。例えば、なぜ日本に観光客が大勢来ないのか。それを考えるには、まずスペインやフランスのような観光大国が何をやっているのかを虚心に見ればいい。とにかく、(ただ、「どうしたらいいのか」と悩んでいるのだとしたら)僕たちはあまりにも世界のことを知らなさすぎる。世界の人がどんなふうに工夫を重ねて生きているのか、それを、まず素直に学べばいいのです。

ほかにもおかしいことはいっぱいあります。例えば、日本は若者や女性のリーダーが皆無に近い。では先進国であるヨーロッパがどうしたかというと、税金を使ってこの問題を上手く解決しています。40歳未満の若者や女性の候補者がある一定割合以上いなければ、政党交付金を満額払わないという仕組みがあります。日本もそれを真似すれば、自民党も民主党も必死に若者や女性のリーダーを集めます。最初からうまくはいかないかもしれませんが、2度3度、選挙を繰り返すとその中から立派な若者や女性のリーダーが生まれてくるわけです。そういう単純な仕組みを学ぶに限ります。

物事を考えるとき、3つの大切なキーワードがあります。一つは整合性です。日本財団を創設した笹川良一さんがかつて、「人類一家みな兄弟」というテレビCMと、「戸締り用心火の用心」というテレビCMを同時に流していました。これを観た英国の友人に、「この人はおかしいと、なぜ誰も言わないんだ」と驚かれました。「人類みな兄弟だったら、戸締まりなどいらないではないか」と(会場笑)。きちんと議論をするにはこのような整合性がとても大切です。そして次は関係性です。僕は旅が大好きで、世界の町を1000カ所くらいは歩いているんですが、それを話すと「どこが一番いいですか」と質問されます。しかし答えられないのです。なぜなら例えば、僕が20歳のガールフレンドを連れていく町と、両親を連れていく町はまったく違うからです。すなわち関係性です。置かれた状況を勘案しなければ、まともな考えはでてこない。最後がトレードオフです。良いとこ取りはあり得ない。何かを選ぶということは何かを捨てるということですから、例えば長所を伸ばして短所を無くすようなことはこの世ではあり得ない。長所を伸ばせば短所も伸びてくる。短所を無くせば長所も無くなる。この整合性と関係性とトレードオフの3つが、議論をつきつめる時にはとても大切な気がします。

それから、皆さんには、このあとワークショップで議論をしていただきますが、もう一つ。議論する際に大事なのは、数字と事実とロジックだけで語るということを覚えてほしいですね。「僕はこれが好き」だとか、「これが日本の文化・伝統だ」とか、そういうあいまいな言葉を使ってしまったら、それ以上議論は進みません。だから一つ一つ、事実と数字を挙げて、それをロジカルにつないでいくことが極めて重要です。これは歴史を語る際に限らず、ビジネス全般においても言えることです。

リーダーとは夢を持ち、旅の仲間を目的地に引率する存在

皆さんは、ビジネスリーダーを志していらっしゃると思いますが、リーダーの条件とは、夢を持ち、旅の仲間を集め、そして、旅の目的地まで引率できることだと思います。『ロード・オブ・ザ・リング』と同じです。中でも大切なのは、夢を持つことで、それは、「何かしたい」という強い気持ちがなければ、動く方向すら定まらないからです。夢は、何も一人で持つ必要はない。人間は、そんなに万能ではないですし、仲間同士で分け合って持つことができれば、それはそれでいいのではないかと思います。

それから僕は、エリートとリーダーは別のものだと思っています。リーダーは、サル山のボス猿です。エリートは、パブリックを考えられる人のこと。それは時間や空間を超えたものだと思っています。もう少し詳しく言いますと、リーダーはサル山のボス猿ですから、右に行くか左に行くかを決断する人です。左に行ったら全員が死んでしまうかもしれないので、大変です。エリートを分かりやすく説明すると、要はカエサルやアウグストゥスのように、戦いの際には最前線に立つ人です。公のために身命を厭わない人です。

エリートの1つの典型例が林則徐(りんそくじょ)です。林則徐は、アヘン戦争のときに西洋の文物を必死で学びました。天の時がなく戦いに敗れた後、林則徐は自分が収集した西洋の文献はアジアにとって貴重なものであることを十分に自覚していました。そこで、漢文に訳してほしいと友人に頼んだのです。友人の魏源(ぎげん)という学者が、これを漢訳して『海国図志』という本にまとめました。吉田松陰や佐久間象山が必死に学んだ本です。僕が林則徐がエリートだと思うのは、自分は負けてリベンジできないけれど、ここに集めたものは、いつかきっと誰かの役に立つという高い気概を持ち、翻訳を依頼したことです。これがエリートの典型的な姿だと思います。林則徐の遺志は時間と空間を超えて、日本という国で花開いたわけです。人間は私利私欲で動く動物です。その中にまれに私利私欲ではなく、公のことを考えることのできる人がいます。それを僕は、エリートと呼んでいます。

リーダーが、自分1人だけでは何もできないという例を1つお話ししましょう。クビライ(モンゴル帝国の第5代皇帝、フビライ・ハーンと表記されることも多い)は史上最も有能なリーダーの1人だと思います。こうした、すぐれたリーダーのことを僕はグランド・デザイナーと呼んでいます。ある社会を設計した人のことです。そのクビライすら、生涯、“魏徴(ぎちょう、唐の時代に中国史上最高の名君の一人に数えられる太宗に仕えた政治家。太宗への臆さぬ進言で知られ、そこから転じ、ここでは身を挺して直諫する側近の比喩として使っている)”を探し続けたのです。太宗と魏徴のやりとりが見て取れる『貞観政要』という帝王学の有名な教科書がありますが、これが今の世に伝えられているのは、クビライが大量に印刷したからです。クビライのような不世出のリーダーでも補佐役が必要だと考え、一生涯にわたって魏徴を探し続けたのです。

魏徴について、少し捕捉しますと、大唐世界帝国をつくった李淵(りえん)に建成(けんせい)という長男がいて皇太子になったわけですが、お父さんは皇太子に魏徴という一番賢い部下をつけたわけですね。魏徴は皇太子に毎日会って、「あなたの弟の世民(せいみん)は能力も野望も桁外れだから早く殺しなさい。そうしなければ、あなたが殺されますよ」と言い続けたのです。兄の李建成は決断力がないのでぐずぐずしているうちに、その言葉通り弟の李世民に殺されてしまったんですね。そして魏徴は犯罪人として、世民に呼び出されました。世民が「兄貴に俺を殺せと言い続けたのはお前か」と問うた時、魏徴は毅然として「はいそうです。あなたのお兄さんがもっと賢くてあなたを早く殺していれば、私はこうして罪人にならなくて済んだ」と答えたのです。それを聞いた世民は魏徴に「これ以降、片時も俺のそばを離れるな。そして俺の悪口を言い続けてくれ」と頼んだのです。この世民が名君、太宗となるわけです。

また、優れたリーダーは、幼少の頃に多様な世界を見ています。例えば、13世紀の傑出したリーダーの1人であるフェデリーコ2世。幼少時に両親を亡くした彼は、孤児として当時世界最大級の国際都市パレルモで一人で過ごしました。だからこそポリグロット(polyglot、数カ国語に通じている人のこと)として、アラビア語をも自由に話すことができた。また、信長と家康の違いは何か。信長は親にうとまれたので仕方なく町の中で暴れ回っていた。だからこそ、いろいろな世界を知ることができた。家康は家臣団に囲まれて大事に育てられたから、発想が貧しくなったのだと思います。

学べば学ぶほど世界はシンプルになっていく

自分でもビジネス書を書いているのにこう言うのはおかしいのですが、ビジネス書がなぜつまらないのかといえば、後出しじゃんけんだからです。成功した人が、こうして成功したと書いている。でも歴史は、勝者も敗者も等しく書かれるからこそ面白いのですね。

世界で一番ビジネス書が読まれている国は日本です。(ベストセラーとなった『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』を指して)女子高生までがピーター・ドラッカーを読んでいる(会場笑)。しかしそれだけ読んでいるのに、なぜこの20年間、経済がこんなに停滞しているのか。それは、人が言っていることをそのままやっても、うまくいくはずがないからです。経営とは、人と違うことを考えることです。競争力のベースもそこにあります。

ここに面白いデータがあります。新聞や雑誌に書かれていることが正しいと思う人の割合は、日本が72%、英国は12%です。どちらがまともですか? 自分の腑に落ちないことが書いてあったら、間違ったことが書いてあると思うのが普通の人間です。共産国家の中国ですら58%なのに。この72%という数字と、一部で報道されている、官房機密費がメディアに渡っていたとのことは、どこかで符号しますよね。ここで申し上げたいことは、自分の頭で(数字と事実とロジックで)考えて行動することが、いかに大切かということ。人がなんと言おうと、自分の頭で考えて行動することを身につけていただければと思います。

変化というのは、今、このときからしか起こせないのです。「覆水盆に返らず」で、いくら悔やんでも過去は戻らないのです。人間には未来しかないのです。そして、変化を起こすためには、一番簡単なことですが、とにかくインプットを増やすことに尽きます。インプットが少なければ、人とはちがうことなど考えられるはずがない。いろいろなことをタテヨコに知らなければ、どんな発想も生まれないのです。とにかく本を読み、人に会い、いろいろなところに行ってみること。

インプットすること、何かを学ぶことについて、ファッションデザイナーのココ・シャネルが、こんなことを言っていました。 「世界は毎日、単純になっていく。なぜなら、私ほどの無学で馬鹿な女でも、一日に一つぐらいは学ぶことができるから」そして「一つ学べば、その分だけ世界は、明確になる」と。歴史を知ることでも同じことが言えると思います。知れば知るほど世界はシンプルになっていく。いろいろな人が生きてきた事実を知れば知るほど、多様なものの見方ができるようになるし、結果として、自分自身の価値観も固まってくるような気がします。ちょうど人間の体が、いろいろなものを食べると健康になるように肉ばかり食べていて健康になる人はいない。いろいろな国のいろいろな歴史を勉強するということは、食わず嫌いをなくせば体が健康になることとよく似ています。それが健全な価値観の確立につながるのではないかと思います。

インプットは、どうやってするかというと、水泳するときに、息を吐くと呼吸が自然にできますね。吐くということは、自分のお腹の中を空っぽにするということです。だから、自分を空っぽにすれば、いろいろなものが入ってくるわけです。常識を捨ててゼロベースで考えることです。

日本人の英語力は、TOEFLによればアジアで下から2番目です。こういうことを言うと、「学生に意欲がないから勉強をしない」「先生が悪い、文科省が悪い」なんて話にすぐなりますが、全く間違った認識です。学生の勉学に対するモチベーションは、良い会社に入りたい、というところにあるのです。これは古今東西共通です。そうであれば、経団連の会長が記者会見をしてTOEFLのスコアが100点以上なければ経団連に入っている企業は一切面談をしない、と言えばそれで済むのです。そうすれば皆、必死に勉強するはずです。人間は怠け者で、本来楽をしたい動物です。であれば、どんな仕組みでこの社会を動かしていけば良いのか。そういう発想こそが必要なのです。

世の中を変えるのは、怠け者である人間の意識に頼るのではなく仕組みを作ることに尽きます。様々な目的に対応する小さな仕組みを、世の中のあちらこちらに作っていくことだと思います。僕がなぜライフネット生命を設立したかというと、日本の一番の問題は若い世代が貧しいことにあると気がついたからです。これが少子化の一番の原因です。人が減って栄えた前例はどこにもありません。では、この問題を、どう解消しようかと考えたときに、「だったら、インターネットを使って生命保険料を半分にして、安心して子作りに励んでほしい」と思ったのが、2年前の起業のきっかけとなりました。ライフネットはインターネットの中にしか店がない、ニッセイは全国に2000ものリアルの店を持っている。だから保険料を半分にできるのです。これも仕組みの一つです。

何かを知ることは、それだけでも本当に楽しい

会場:数字と事実とロジックだけで議論することが大切だ、というお話について伺います。歴史を5000年のスパンで見たり、世界中、至る所を訪れたいという視野を持つと、数字も事実も無限大になります。自分の解釈では、仮説検証を繰り返すべきだという教えをその裏側にお持ちなのかと感じましたが、いかがでしょうか。

出口:その通りです。誰もタテヨコすべてを勉強できるわけがありません。確かに全く興味のないものを読んでも仕方がありません。興味のあるところから始めればいいのですが、ただ、食わず嫌いはやめていただきたいと思っています。僕自身も生きている間に3000くらいの世界の町を歩きたいと考えていましたが、62歳になってまだ1200くらいです。おそらく目標を達成できないでしょう。ただ限界を考えても仕方がない。まず今日から何をやるか、明日からどうするか。できることをやることが一番大事だし、長続きするのではないでしょうか。

会場:歴史を知り歴史観を養うことによって先人の轍を踏まないというお話がありました。その通りだと思いつつ腹に落ちないところもあります。企業が企業の倒産例から学ぶ、とかいうことは、容易に具体的なイメージができるのですが、歴史を踏まえて、どのようなビジネスの判断をされているのでしょうか。

出口:例えば、オイルショックのせいで、東欧圏は崩壊したのです。要するにオイルショックの前は、東ドイツやチェコの製造業と、西ドイツやフランスの製造業の生産性はほとんど同じでした。ところが、ソ連はこんなにオイルの値段が上がったら衛星国がかわいそうだということでオイルの値段をあまり上げなかったのです。これが結果的には、東ヨーロッパの崩壊につながったわけです。競争が本当に大切だということがよく分かるでしょう。マーケットでモノの値段が上がったときに、それを人為的にコントロールしたらこれほどの差が付くんだということが、この事例一つで明らかになります。現在の世界商品は、原油です。その前の世界商品は実はお茶なんです。飲み物や食べ物がいかに大事かということを考えれば、日本の将来は明るくなります。要するに水や食べもの、一次産業に一部依存すればよい。でもいくら説明しても腹に落ちないものは、腹に落ちるまでやらないとダメなので、そうなるまで勉強してください。

会場:現場に行って外を見て歩くことが大切だということに関して、私は先週、中東に初めて行きました。そこで中東の人たちの生き様を目の当たりにして、初めてイスラムの考えが分かりました。行かないと分からないということを実感しました。

出口:百聞は一見にしかずです。それも裏通りの方が面白い。どの店でも玄関はきれいですが、裏を見ないと実態は分からないですよね。僕はだいたい、どの町に行っても、裏通りや市場や本屋に行きます。何を食べ、何を読んでいるのかが知りたいからです。中国には僕は毎年行っていますが、道端にボーっと立って若い女性を見ています。中国が大丈夫だと思うのは、若い女性が年々可愛らしくなるし、服装がきれいになっていくことです。人間という動物は、若い女性しか赤ちゃんを産めないので、世界共通で若い女性に貢ぐのです。聖母マリアの語源を知っていますか? マリアの語源はアラム語のミリアムです。ミリアムというのは、太った女性=きれいな女性を意味します。昔はご飯が十分食べられなかったので、裕福な有力者がきれいな女性を見つけるといっぱいご飯を食べさせてあげるよ、と、口説いたのです。だから太るのです。また中国の本屋に行くことがあれば、毛沢東選集やマルクス・レーニンの本を探してみてください。ほとんど読まれていないことがよくわかります。

会場:父として子に対して歴史観を教えるにあたって、出口さんのご家庭での教育の指針を教えてください。

出口:意識したことはありません。上の子は普通の職業に就いて子供もできたので、まあこれでいいのかなと。人間は生きたいように生きるしかないわけで、理想的な父親像や母親像はないと思うのです。こう育てればいい子になる方法が仮にあるとしても、その通りに育てれば、全ての子がいい子になるとは限りません。これもチャレンジです。自分がやりたいように育てていく中で、子供もそれなりに育っていくと。

出口:最後に・・・。若い人と議論をしていると、自分のやりたいことが見つからない、自分が何に向いているかわからないという質問を、よくいただきます。歴史を見れば実はほとんどの人が、やりたいことが見つからないまま死んでいくのです。そう考えれば、焦る必要はまったくありません。ずっとやりたいことを探していく人生で、それはそれでいいのではないでしょうか。

ただ大切なことは、生きるためには何がしかのスキルが必要だから、「石の上にも3年」という言葉があるように、いま就いている仕事がつまらなくても、目をつぶって3年は一所懸命やってみることです。そうしなければ、基本的なスキルは身につかないですよね。だから、やりたいことが分かっている人は、それに向けてどんどん転職すればいいと思いますが、分からない人はともかく、今の仕事が向いていないかもしれないけれども、まずは一所懸命やってみる。それが一番いい人生のスタイルだと思います。

全ての人が、やりたいことを成し遂げてから死んでいくのではない、ということが分かれば、少しは気が楽になります。人間は皆いい加減な動物だという事実を直視して、同時に好奇心を絶やさないこと。人生はそれに尽きると思います。何かを知ることは、それだけでも本当に楽しいものです。

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