コマツ会長 坂根正弘氏 —上にあがるほど力が発揮できる人とは(後編) 

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言葉で部下を引っ張ることができるか

堀:坂根さん、本日は素晴らしいお話、有難うございます。明快なお話とグローバルな発想で、切り口が鋭いと感じました。ここには、リーダーになりたいという志を持った方々が集まっていますが、坂根さんの職歴のなかで、どのポイントでどういう能力が高まったのか。特に自分を大きく成長させたという経験があったら、教えてください。

坂根:入社当初私はブルドーザーの設計を担当しましたが、当時のブルドーザーの品質は今ほど良くなくて、しょっちゅうお客様から呼び出されて、クレームの対応をする。私は会社に入った頃から、人前で話をするのが好きだったので、お客様を何とか説得しようと努めました。お客様を説得するのは、結構コツが要るんです。あるお客様が、昼過ぎに電話してきたことがありました。私は大阪工場にいて、そのお客様は九州にいましたので、翌日行くのが普通ですが、当日、夜8時に訪ねたところ、お客様から声をかけていただき、一緒に食事をして帰ったことがあります。勿論、問題は、うまく解決しました。お客様の信頼は、こういったバッドニュースからでも得ることができることが分かり、とても大事だと感じました。

当時、各部門の業務内容を社長が診断する「社長診断」の際に、設計全体がどんな活動をしているかを示す資料作りを担当しました。設計全体を常に見ながら、プランを立て、実行して、それを反省して、再発対策をするという、PDCAサイクルを回す活動を、会社に入った2、3年目ぐらいから延々とやったため、思考パターンが身に付き、それが基本になっています。

大きな転換点は、全社の品質改善活動です。私は本社の社長室へと異動して、品質改善活動を説明する役員会に出る機会があったが、会議は、想像していたものとは異なり、「自分が思ったことを主張したり、それを実現することが、できる会社だな」と実感したのが、30歳の頃です。そのときに自信が湧いてきましたね。

堀:おそらくポジションごとに、異なるハードルがあるかと思います。また、30代で手応えを掴みながらも、いろんな試練があったでしょうが、そのなかでどのように自分自身を成長させたのか、お伺いしたいのですが。

坂根:社内では人材育成の前に、人材発掘があると思うんですね。従業員が連結で4万人もいるわけですから、「この人にこういう教育をしたら将来伸びてくれそうだ」と、見込むわけです。人は単純化していえば、2種類の人がいると思います。上に上がるほど大きい仕事をする人と、上に上がるほど力を発揮できない人の2種類です。

例えば、課長時代には凄くうまくやっていたけれど、部長にした途端にうまくいかないケースは、多々あります。課長時代には部下と一緒に酒を飲んだり、部下の家族事情をよく把握しています。そういうところが分からないと、課長は務まらないですよね。ところが、部長となると自分の直属の部下は課長しかいないから、課長に的確な指示を与えて引っ張っていかなければならない。

堀:上がれば上がるほど成長する人と、上がれば上がるほどダメになる人は、何が違うんですか。あるいはどうすれば、上がれば上がるほど、そこで能力を発揮できるようになるんですか。

坂根:結局、上に上がるほど、部下の範囲が広がっていくわけですよね。そうすると、何かメッセージで引っ張っていかなければならない。上に上がるほど、言葉で引っ張っていく必要が出てきます。ところがその言葉も、色々なことを言おうとすると、1カ月前に言ったことと、今言っていることが違ってくる。すると「あの人は発言する度に、言っていることが違う」となりますよね。それでは、人は引っ張れません。

だから私は社長在任中の6年間、同じことを言い続けました。それでも、次第にレベルアップして、内容が進化してきた。違うことも言いたいが、大事なことはこれだと思ったら、それを言い続ける。しかも、それで結果を出す。そうして初めて、部下たちは、「あの人の下で付いていけば大丈夫なんだ」と思ってくれる。そういう関係をつくり出すことで、リーダーシップを発揮でき、信頼関係が維持できるのだと思います。

米国、欧州は厳しい経済情勢続く

堀:有難うございます。先程のご講演のなかで、GPS搭載の建設機械の稼働率を把握しているということで、今回の世界金融危機があっても、稼働率は10%か20%しか下がってないとおっしゃっていましたが、今の景気をどのように見ていらっしゃいますか。

坂根:参考までに建設機械から見た状況をお話しします。日、米、欧とも、落ち続けています。まだまだ落ち続けます。中国、インド、インドネシアが戻ってきています。稼働率でいうと、特に中国は、10月から1月まで前年比50%ダウンで急落しましたが、2月から4月が、前年比15%ダウンぐらいまで戻りました。6月は10%以上アップしています。だから、中国は間違いなく戻ってきていますね。

中国が戻ってきたというのは大きくて、米国がいくら元気でも、中近東やアフリカはそんなに元気にならない。中国が成長するから、中近東やロシア、オーストラリア、アフリカなどが元気になるわけです。ただ、それで先進国を引っ張っていけるかというとこれは難しい。米国は消費国ですから、可処分所得が増えて資産価格が増えてこないと、消費は戻らないでしょう。失業率はまだまだ高くなっていくと思うんです。住宅価格は2001年を100とすると、06年に200までいったのが、今は約130まで落ちたレベルで、01年のレベルまで落ちてない。だから、来年の中頃に向かってまだまだ価格は落ちていくと思うので、米国経済は悲観的に見ています。

オバマ大統領は“YesWeCan!”と言いましたが、予算が確実に実行されるのは、予算の新年度である10月以降です。だから、この年末から、米国が少しずつ戻ってくると期待しています。多分米国が良くなると、日本は半年遅れぐらいで良くなります。最後に経済が悪くなったヨーロッパが一番厳しいですね。ヨーロッパはこれから2年ぐらい、本当に苦しい時代が続くと思います。

全国一律の成長戦略では日本は浮上しない

堀:日本の政治や中央官庁についても言及されていましたけれども、政治を良くするために民間の立場から何ができるのか、財界のトップの坂根さんから伺いたいと思います。

坂根:今の日本の国全体の行政を一言でいうと、中央集権ですよね。米国は地方分権が確立したなかで中央がありますが、日本は圧倒的な中央集権です。その中央集権のなかで、二大政党を目指そうとしているわけですよね。すると中央で議論することが、もの凄く多い。そして中央で議論すれば、必ず一律主義になります。先程私は成長とコストを分けて、いかにみんなが知恵を出す仕組みをつくり上げるかが、企業の勝負のポイントだという風に言いました。それを当てはめると、中央官庁は、たしかに成長するための様々な知恵を出しているかもしれませんが、それは全国一律主義の成長戦略です。また、コストよりも、予算の消化を意識しがちだと思います。

それでは地方はどうか。地方は金と権限がないから、文句ばかり言うだけ。背に腹は替えられないので、予算は確保には努力します。だけど、成長を目指す余力がないため、地方自治体の長(知事)は、やむを得ず、とにかく文句を言うしかない。だから、私は中央官庁と地方が、成長とコストをはっきりと分けて、それぞれに知恵を出させるような仕組みをつくるべきだと思います。地方分権とか道州制がだいぶ前から叫ばれていますが、待ったなしでやってもらいたい。そのためにはまずは先程の石川県の例のように各地方が知恵出しの競争をすべきです。

私は今年の3月21日、首相官邸で開かれた経済危機克服のための有識者会議に呼ばれました。そこで私が何を言ったか。5兆円を都道府県単位に分けて、中央からは一切紐付きにしないお金として、1県あたり1000億円を渡す。この1000億円を各都道府県が、「アジア・環境・安全・農業」をキーワードに使えるようにする。ただし、自分の県で考えず、周辺の県にも相談する。コストは固定費と現場コストを分けたうえで、極力固定費を削減しなさいという指示だけ与える。

各都道府県に1000億円をどう使うかコンペをして、例えば石川県はこういうことをやりたいと公表する。隣の富山県はこういうふうに使うと公表する。全都道府県に情報開示させて、どの県が一番真面目に考えているかを自ずとわかるようにすれば、自分の県でお粗末なばら撒きをしていたなら、県民が批判しますよね。そういうことをこのチャンスにやったらどうですかという提案をしました。

仮に民主党が政権を獲ったとしたって、こんな中央集権の国で、二大政党なんか成り立たないじゃないですか。しかも、みんな小選挙区を気にするんですよ。ちょっと支持率が落ちたら、気にすることは自分の選挙ばかり。こういう中で、二大政党なんて長続きしない。中央集権なら圧倒的に、まあ中国ほどとは言いませんが、強い政権が必要。そうでなければ、地方主権を早く実現させるしかない。そのためには、紐付きじゃない金を各都道府県に与えて、それぞれ公選で選ばれたトップの知事に競争させる。お粗末なアイデアしか出さない知事は、地元の有権者から批判を浴びる。そういう仕組みをつくるべきだと、私は思っています。

堀:仕事をしながら学んでいる将来のリーダーに向けて、最後に一言いただければと思います。

坂根:国や地方と同じで、トップがしっかりと方向を示して、どれだけ多くの人に知恵出しをする環境をつくれるか、その勝負じゃないでしょうか。前向きに何かをやろうという人からしか知恵は出てきません。今日集まってこられた方々というのは、「自分を成長させよう」とか、あるいは自分が関わっている仕事もしくは会社を「何とかしよう」という思いで来られている人だと思います。それぞれの立場で社内を動かす力はあると思いますし、もしそうでなくても、自分がそのポジションに就いたときのために、力を蓄えてほしいと思います。

ここぞという時に誠意を尽くせ

会場:構造改革のキーワードで、大手術は1回だけとおっしゃいましたが、なぜ1回だけにしなければならないのか。

坂根:人間の体でも、大手術をして助かるものなら、1回ですべてをやらないと、身体が持たないじゃないですか。それと同じことを言っているんです。そのためには、大手術をしたら会社は再生できるんだという、確信が持てなければならないですよね。日本で収益が上げられずに苦しんでいる多くの会社は、本当はそこを詰めていけば、確信が持てるはずなんですよ。ところが、手術が細切れになるんですね。なぜそうなるのか。担当役員に任せ切りにしているからです。担当役員に任せても、大胆なリストラが出来るわけがない。それこそ社長が責任を持って判断して、指示するしかないんです。

会場:坂根さんには人間力を感じるのですが、人間力を高めるために、どのようなことを心掛けているのか、教えていただければと思います。

坂根:課長ぐらいのときは、自分が部下にどう見られているか、だいたい想像がついたんですけれども、部長やその上になって、ましてや社長になると、部下がどう見ているのか、本当に分からない。これが一番不安です。本音を聞いたことがありません。だから、自分の人間力っていうのは実際のところよく分からないです。

ただ、私は色紙に何かを書く機会があると、前は「知行合一」という言葉を書いていましたが、今は「誠」という字にしています。「誠」というのは、言うを成すじゃないですか。言ったことを実行する有言実行で、人から信頼を得られるわけですよね。悪い話は悪い話で正直に告白して、「ああ、あの人には隠していることがない」と思っていただけると、信頼関係が築ける。私も結構いい加減な男ですけれども、ここぞという時には、誠意を尽くします。

会場:現在の厳しい経済環境のなかで、坂根会長はコマツ社内で、どういった製品開発をしていくべきだとお考えでしょうか。

坂根:新商品というのは、例えばある商品をモデルチェンジする場合、モデルチェンジの企画書をつくってまず評価する。それでOKとなったら試作車をつくる。その後、性能試験をして、また評価する。さらに耐久試験をして、また評価して、量産に入ります。

評価をするときに、よくプロダウト・アウトはダメで、マーケット・インを重視するよう指導されますよね。しかし、マーケット・インといっても、試作車をお客様に見せるわけにはいかないから、営業を代弁者にするじゃないですか。すると営業は何て言うか。たいてい「競合メーカーにここが負けてる、あそこが負けてる」という話ばかりする。そうして出来上がった商品がどんな商品になるかというと、競合メーカーより少しずついい商品になり、たいていコストが少し高い。だから私は社長になってから、「先に営業部門と合意して、負けていいところを決めろ。その代わり、環境・安全・ITでは絶対に負けるな」と言っていました。先ほどご紹介したGPSを搭載した商品を「KOMTRAX」と呼ぶんですけれども、これは「ダントツ商品」です。かつてのように、ハードウェアだけで勝負する時代は終わりましたよね。それではあっという間に追随されるわけですから、GPSを搭載した機械稼働管理システムで、サービスの領域に入っています。ハード+ソフト、これがいよいよIT技術で実現できるようになってきています。

会場:トップダウンは必須で、ミドルアップとミドルダウンも不可欠だというお話がありましたが、ミドルが自由闊達に動き回るためのポイントをお聞かせください。

坂根:ミドルというのは課長クラスと思っていただければいいです。トップダウンが強烈であれば、どうしてもミドルは受け身になります。指示待ちになるので、社長としてここは一番気を使うところです。「ダントツ商品を作る」、「環境・安全・ITをキーワードにする」という基本方針があります。まず営業と犠牲にしていいところを先に決めて、コスト改善を10%して、その10%の余力を使ってダントツ化するように指示します。ここまでは言っていい。しかしこれより詳細を言ってしまうと、多分ミドルは指示待ちになると思います。このあんばいは、なかなか難しいところです。

会場:コマツは世界中に子会社を持っていますが、各国の人たちからさまざまな意見が出されるかと思いますが、そういう人たちに対してどういったリーダーシップを発揮されているんでしょうか。

坂根:海外のほうのトップの教育が5、6年前から始まっています。それは、先程お話ししました社内ビジネススクールよりも、かなり上のレベルのもので、海外のトップを集めて教育をしています。

過去に遡ると、15年ぐらい前まで海外の会社のトップは、ほとんどコマツの役員が現地に行って、社長を務めていました。その後、ローカルの人材がトップに就くように変わりましたが、例えば米国などではなかなか人材がいないので、外部からスカウトしていきなりトップに据えました。しかし、ほとんど成功しませんでした。その失敗を踏まえて、部長クラス、本部長クラスで外部から入れて、様子を見てから社長に就いてもらうようにしました。外部からのスカウト人材がうまくいかないのは、価値感の共有ができていないことにあると考え、これがコマツウェイの作成、そして普及につながっています。

もう一つの特色は、米国のCOO(最高執行責任者)は日本人、CEO(最高経営責任者)は米国人というコンビで経営しています。中国は、社長はコマツに勤めて20年の中国人です。ヨーロッパのトップも長いです。そして、コマツの考え方をよく理解しています。10年20年の計画で進めていかないと、トップマネジメントのローカライズはできません。

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