コマツ会長 坂根正弘氏 —日本経済への処方箋、アジアと共に繁栄せよ(中編) 

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弱みを改革せよ

2001年に私が社長になったとき、コマツの歴史上、初めて赤字に陥りますが、そのときキーワードを四つ掲げました。これも最初からキーワードを出したわけではありません。やりながら、あるところで考えてみた結果できたものです。

1.経営の見える化
2.成長とコストの分離
3.強みを磨き弱みを改革
4.大手術は1回で済ます

赤字に落ち込んだのは、我々にモノづくり競争力がなくなったからではない。それが当時の私の認識でした。製造コストで負けたわけではない。要するに、製造コストで負けてないのに他のコストで負けているなら、徹底して削除しようというのが当時の決心です。私が社長になったときに300社あった子会社を、2年間で110社減らしました。

「経営の見える化」を実行するにあたって、社員に対し、ベンチマーク企業の粗利率と一般管理・販間費比率を比較し、グラフにして示しました。キャタピラーと粗利率が同じで一般管理・販間費率がコマツの方がいつも6%高くて、コマツの方がいつも6%営業利益率が悪い。経営の見える化の良い例だが、やることは決まってくる、固定費を下げるしかない。

だから、固定費さえ下げたら利益が出てくるんだということを出発点にしました。では固定費を下げるためにどうするか。先程も述べた関連会社を統廃合して減らしました。製品も日本でしか売ってないものはもうやめました。早期退職という大手術も1回だけやりました。

一般管理・販間費率が、その後、私もここまで改善するとは、正直思わなかったんですが、キャタピラーと並びました。2001年から03年に、固定費を500億円下げたので、固定費の売上に対する比率は、当然のことながら一気に下がったわけです。24%が19%まで下がって、社内では、「これで行けるぞ」という雰囲気になっていきました。ここが構造改革の出発点となったということです。その後市場の拡大による売上増もあって15%レベルまで下がりました。

ダントツの強みを磨け

日本、コマツの強みはやはりモノ作りです。ここを徹底的に磨かなければならない。とにかく精進して、「ダントツ商品」をつくれと言いました。色々なことを社長が言い始めたら、みんな受け身になります。だから、「環境・安全・ITをキーワードにして、これだけは絶対に競合相手には負けるな」とだけ指示しました。

日本の問題を議論するときによく、「トヨタやコマツのような輸出企業ばかりに頼ってるからダメなんだ」という評論家が沢山いますが、実は、これが日本の強さなんですよ。この強さを維持したうえで、弱みを磨くというのなら分かりますが、強さの話を脇に置いて弱みの議論ばかりすると、国も会社も絶対に強くならないです。強さは何なのかということが、弱み以上に大事だということを申し上げたい。

コマツだけではなく、日本企業共通の強みの一つは、やはり何といっても「連携」ですね。社内外で連携を取ることを厭わない。連携を取ることで、技術が複合化すればするほど秀でたものが出来ます。ロボットが、まさしくそうです。ロボットというのは、機械技術、電気技術、油圧技術、制御技術が、組み合わさって動くわけですけれども、そうやって畑の違う人たちが連携を取り合うモノ作りは、日本はもの凄く強い。実は、建設機械もまさしく複合技術で、この分野で日本は強いです。それからサプライヤーとの連携。1円でも安いところから買うなんていう会社がありましたけれど、これでは日本の強さはまったく発揮できないと思います。

世界の動きが手に取るように分かるGPS機能

「ダントツ商品」は環境・安全・ITをキーワードにし、他社に絶対に負けない商品づくりを目指しています。コマツの建設機械はGPSを搭載し、世界中でどこにあるのか分かります。これが世界で約13万5000台が動いていています。例えばある車体番号の油圧ショベルを探すと、画面上でどこにあるかが出てきます。またエンジンが動いているか止まっているかもチェックできます。エンジンが動いていた時間のうち、何時間実際に作業していたかも分かります。さらに、エンジンの油圧や油温は正常だったかまで把握できるんです。盗難に遭ったケースでは、輸送中であっても、今どこの道をトレーラーに載って移動中かというところまで把握できます。

今では、世界中の機械が、前月比で平均稼働時間が増えたのか減ったのかが手元で分かります。

2004年4月に中国が、思い切った金融引き締めをやったことがありました。このときに、中国で販売した機械が次から次へと稼動がストップし、これは大変だというので、中国の工場の生産ラインを直ちに止めました。競合メーカーはGPSが付いていませんでしたから、稼働状況の把握が遅れ、その結果、在庫が増え、半年後には、当社と大きな差が開きました。

今回の金融危機では、去年の10月から機械は止まっていません。稼働時間が10%か20%落ちるだけで、みんな動いています。だからお金が止まっただけで、仕事が止まっている状況じゃないんですね。申し上げたいのは、このIT技術で、市場の動きまで手に取るようにわかるということです。

もちろんサービスにも活かされています。1日10時間エンジンが回っているが、実際に仕事をしたのは6時間だとすると、お客様に、仕事のないときはエンジンを止めるような使い方がいい、というようなリコメンドができます。

もっと進化したものが無人ダンプトラックで、これはチリとオーストラリアで動いています。300tトラックに運転手が乗らず、無人で動いています。なぜ無人ダンプが必要かというと、海抜3000〜4000mのところに鉱山があるため、運転手を雇うと、その家族も一緒に来ますので、住居、病院、学校、等が必要になり、コストが重荷になります。また、鉱山では、1日中、走行することもあり、延々と単純作業ですから、転落事故を起こすリスクもあります。

ハイブリッドは中国でこそ売れる

今のようにCO2、環境問題がこれだけ厳しくなるとは、当時は思わなかったんですが、本当に環境だけで商売になるというような感じになってきています。当社は世界で初めて、ハイブリッドの建設機械を出しました。燃費が平均して25%ぐらい良くなります。日本で30台売り出して本格的に取り組んでいるんですけれども、これを私は中国でやろうと思います。日本より、むしろ中国の方が、ビジネスチャンスが大きいと踏んでいます。

よく中国はハイエンドではなくてローエンドだから、安い商品を出さないとダメだということが言われますが、商品によっては、そうでないものもあります。中国の人も、儲かるものが欲しいんですよ。このハイブリッドがいい例です。

20tクラスの油圧ショベルにかかるコストは、日本では圧倒的にオペレーターの人件費が大きいですが、中国では、稼働時間が日本の3倍近いので、燃料費の占める割合が高く、コストダウンを考える上で、燃料代に対する感覚というのは、我々が考える以上に意識が高い。私は、中国のほうが、ハイブリッド車を欲しがるのではないかと思っています。

グローバル企業が大切にすべきこと

日本企業の中で、よく「グローバル企業を目指そう」と目標を掲げると、無国籍企業を目指す会社があります。グローバル企業といえども、絶対に母国をベースとすべきで、コマツも日本に本社を置いて、日本人の社長が経営しています。

無国籍のグローバル企業だったら勝つわけがないです。米国には米国の良さを持ったグローバル企業があり、それが勝ち残っていて、彼らと同じ土俵で同じ論理で戦ったらやはり負けます。日本らしい強みを維持したグローバル企業でなくてはならない。

毎年夏に役員によるフリーディスカッションを実施していますが、2004年頃、日本にベースを置くグローバル企業が長期的にどういうテーマで取り組むべきかを議論した結果、四つのテーマになった。まず一つは、トップが現場から遊離しないことです。

二つ目は方針展開。トップダウンは絶対に大事であるが、ミドルの力が削がれたらダメです。ミドルから「社長、そうおっしゃいますけれども、こうではないですか」という話が返ってくる。その上で納得したものをミドルが下に伝える。そのようなミドルアップ、ミドルダウンがない会社はダメ。

三つ目は連携プレーです。そして、四つ目は人材育成です。この四つのテーマを未来永劫、コマツにいる限りは磨いていこうというのが結論である。これら四つは、日本共通のテーマではないかと思います。

「コマツでないと困る」度合いを高める

「企業価値」というのは、会社によって様々な定義がありますが、「社会とすべてのステークホルダーからの信頼度の総和」と定義しました。その後、「信頼度」をもう少し分かりやすくして、「コマツでないと困る度合いを高めること」としています。「社会とすべてのステークホルダー」を具体的にいうと、1お客様、2株主、3金融機関、4社員、5協力企業、6販売代理店等です。

社員や協力企業、販売店は、コマツと一体なので、コマツでないと困ります。株主は、コマツの業績が悪ければ、一時的に株で損するかもしれませんが、いつでも他に乗り換えられます。しかし株主は企業価値の大事な評価者です。コマツでは、社長がこのステークホルダーすべてに対して、徹底して自分自身で接っするように心がけている。

多分、他の会社がやっていないようなことがいくつかあります。決算を発表した翌日に、本社で1時間ほどかけて、色々な資料を使いながら、社員に、会社の状況や課題を説明します。社長在任中の6年間やり続けました。この社員ミーティングの模様をビデオ録画して、英語版もつくって全世界に向けてWeb配信しています。国内の工場には直接出向き、協力企業・代理店との会合も年2回行っています。株主懇談会も年2回、毎回場所を変え、全国各地の株主に対し、社長が出向いて話をしています。

ブランドマネジメントに関しては、化粧品などBtoCビジネスではブランドがすぐイメージできますが、我々のようなBtoB商品は難しく、「ブランドマネジメントとは何か、どうあるべきか」と色々と悩み、試行錯誤しました。結果、これも、「コマツでないと困る度合いを高めること」だという結論に行き着きました。先程お話ししたチリの無人ダンプトラックは、銅鉱山で稼動しているが、このユーザーは、コマツがなくてはならない存在になっている。お客様との関係において、最終的には、そこまで行かないと強いブランドとはいえないというのが、コマツの定義です。コマツでは、世界のお客様を7段階に分けています。レベル1はコマツを「付き合うに値しない」と捉えられているケース。例えば「かつて使っていて、酷い目に遭った。もう出入り禁止だ」というのが一番下です。一番上は、チリの銅鉱山のようなケースですね。もうコマツから離れられない。世界中のお客様を、レベル付けして、できるだけ上のランクに持っていこうという活動を展開しています。そのためにはお客様と本当のパートナーの関係を築くことです。

人材育成こそが要

今後の課題のまず第1が、人材育成です。コマツも従来から人材育成に力を入れてきたのですが、どちらかといえば日本人中心だったので、グローバルでの人材育成はまだこれからです。海外留学制度というのを始めたのが1970年で、毎年7〜10人を海外に送り込み、言葉を覚え、人のネットワークも作れということで出しています。

一方、マネジメント能力がわかるのは、人を使ったことのある部長や課長クラスです。そこで、30代半ばの課長クラスと40代初めの部長クラスを選抜主義で教育をしようといって、1996年より、ビジネスリーダー研修を始め、今これの海外展開を実施しています。

また、コマツの強みとして、役員の中に海外駐在経験者が多い事も挙げられます。それから生産技術者の多くも海外駐在経験を持っている。人事部門の多くが駐在経験を持っていることも特長です。これは、海外の会社の人事部長はローカルな人だが、それにアシスタントとして日本人の人事担当者をつけていたからです。我々の人事管理とローカルの考え方がぜんぜん違うので、その調整を行うという役割を担っていました。

将来コマツグループで成長してほしいと思うキーパーソンを先にリストアップし、そのリストアップしたキーパーソンをバリューチェーン改革72のプロジェクトテーマに振り当てて、全世界の販売店まで含めて、研究、開発、生産、販売、サービスまでの全工程に関する課題研究をさせている。TQM、コマツウェイ、ブランドマネジメントの手法も使いながら教育を展開しています。

日本はアジアと共に栄えよ

成長を目指す上での課題は、アジアとの共存共栄である。アジアとの共存共栄なくして日本の成長はない。500兆円まで来たこの国がさらに成長するためには、海外とのつながりの視点なくしては考えられないと思う。

お見せした日本地図は逆に書いてあるが、韓国、中国にとって沖縄、台湾のロケーションがいかに大事かがわかる。この二つがなかったら太平洋側はオープンになる。したがってこの位置がいかに大事かということは、この地図を見るとわかるが、この地図で私が言いたいことは安全保障上の問題ではなく、日本海側がアジア向けの流通ルート上、いかに大事かということです。

コマツはもともと石川県でスタートした会社ですが、今や石川県比率は30%しかない。結局、石川県では、神戸港、東京港、横浜港に運ぶのに不便だから、神戸に近い大阪に工場を造り、東京に近い栃木、茨城に工場を造ってきました。2年前、将来金沢港から釜山港につないでくれとの思いで、金沢港に工場を造りました。そして今回、小松工場という発祥の地の工場をここに移転集約すると発表しました。これは私にとってはシナリオ通りで、金沢港に大型船が着くようになれば出せると考えた。去年の11月、実際にに金沢港に大型船が着くようになりました。

日本海側が発展することは言うは易しで大変だと思うが、可能性は充分ある。だから、こういうことを探りながら地方の活性化を目指していかないと、道州制とか地方分権など、うまくいかないと思う。まずは地方が知恵を出すことが大事である。

現場で工事費として使ったお金と、たくさんある旧道路公団や事務所の人件費など固定費で使っているお金がいくらなのかが分からない。私が総理大臣なら、その資料を作って見せろと迫ります。予算を絞るのなら工事費を絞る前に、この固定費を絞るべきだからです。そこを分けてないから、予算を絞ると工事費を絞ります。道路にかかわっている人は自分の職を失うようなことはしないから、固定費は減らない。それがいま日本で起こっている道路問題です。すべて現場に予算カットのしわ寄せがいっている。そして、日本の強さは何なのかを見極め、その強みを磨く。それから大手術をやるなら、とにかく1回で済ませること。こういうキーワードを、日本の国としても、考えてほしいと思います。

本日のまとめです。
1.国も企業も改革の基本は、成長とコストを区分して推進すること
2.コストは固定費と変動費に分けて、変動費に手をつけるぐらいなら、思い切って固定費を減らすべき
3.日本の成長はグローバル、特にアジアと共に、健全に栄える

中国と健全に栄えるということはとても重要です。中国が本当に健全に栄えるためには、日本の力が必要です。だからアジアと共に健全に栄えるという視点にしか、日本の成長はない。アジアから観光客に来てもらう。例えば私が育った島根県の出雲大社は、縁結びの神様です。日本ですら縁結びの神社だと知らない若い人がいっぱいいるから、まず、そこを改善したうえで、中国や韓国に縁結びの神様だと宣伝したら観光客を呼び込めるチャンスがあると思います。農業だってまだまだチャンスはあります。中国でもお金持ちになった人は、子供に食べさせるものは、絶対に安全なものを買いたいと思っている人がいっぱいいます。日本の食料は安全だというイメージが定着しているわけですから、このブランドを生かさない手はない。是非こういう視点で、成長を目指してほしいと思います。

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