攻めるワンコインピザ、宅配ピザは生き残れるのか 

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筆者の地元の駅前に新しいビザ屋ができた。連日大賑わいのそのワケは、1枚350円(マルゲリータ・直径25cm)という超・低価格にある。一方、駅近の自宅マンションの郵便受け前に置かれた不要チラシ用ゴミ箱には宅配ピザのチラシが大量に捨てられていた。ピザ業界の価格破壊は進むのか。従来の宅配ピザ業者は耐えられるのか。

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劇的な価格破壊が進むピザ業界

日経MJの8月10日号の第一面に「ピザ 価格破壊」という記事が掲載されていた。まさに筆者の地元で起きているような新規参入の格安専門店が台頭してきて、1枚500円程度の価格で焼きたてを各地で提供するようになっているという。

日本の家庭でピザといえば宅配がスタンダードだったといえるだろう。日本初の宅配ピザは1985年に東京・恵比寿でスタートしたドミノ・ピザだというが、瞬く間に複数のチェーンが全国に拡大した。1枚のピザが2000円~4000円という高価格であったが、バブル景気(1986年~91年)の直前で消費者の財布のヒモも緩みがちであったことと、宅配の便利さ、また、日常的にピザに触れてそれを食する文化がなかったことから、来客時やイベント、ご褒美的な時に用いられるようになって、「まぁ、こんなもんだろう」と、価格的には受容された。

その後、長く続いた不景気の時代でも、利便性とイベント時に用いられるという特性から需要が絶えることはなかった。多くのチェーンが差別化を競ってPLC(プロダクト・ライフサイクル)的には成熟期に入り、差別化要因も「ピザの耳まで美味しい・耳にまでチーズ・ソーセージが入っている」と、「それ、もう本場のピザと別の食べ物だろう!」と突っ込みを入れたくなるほど、日本オリジナルな付随機能的進化を遂げ始めていた。

そんな中、「本格的な釜焼き・焼きたてピザがワンコインで食べられる!」と殴り込みをかけられたのだから、宅配ピザ業界はたまらない。しかも、ワンコイン勢は大手外食チェーンも参入を始めている。吉野家ホールディングズ傘下の企業が店舗展開を始め、イオンも全国の総合スーパー店内にピザ専門店を17年春までに100店オープンするという(同日経MJ記事より)。

バリューチェーン(VC)から見た宅配ピザ業界の反撃のマズさ

迎え撃つ宅配ピザ勢の打ち手は、筆者としてはあまりいただけない気がする。「2枚買えば1枚タダ」。ドミノ・ピザが打ち出した持ち帰り客に対する販促施策だ。「そんな、一気に2枚食べたい消費者は少ないだろう」と思ったが、記事によれば元々宅配ピザに割高感を持っていた消費者には好評だという。実質的に「1枚タダ」も値引きだが、問題なのは直接的な価格の値引きを行っているピザーラやピザハットだ。両社とも収益面で大きな影響が出ている。ピザハットの2015年3月期の営業損益は11億6400万円の赤字だという(同日経MJ記事)。

下図1・2で、宅配ピザとワンコインピザのバリューチェーンと収益構造を書いてみた。図1の宅配ピザの場合、多くのコストが宅配バイクなどの初期費用やスタッフ人件費に充てられていることがわかる。来店前提でないため、店舗立地を問わないので地代家賃は低く抑えられるが、その反面、定期的に注文を促すため、チラシのポスティングや折り込みなどの販促費がかかる。結果的に最終価格は高額にならざるを得ない。それでも支持されるためには、「宅配の利便性」をKSF(Key Success Factor=成功のカギ)として機能させるべく、顧客にアピールするしかない。

(図1)宅配ピザのコスト構造

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※日経MJの記事を参考にし、筆者推定と合わせて図式化

(図2)ワンコインピザのコスト構造

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※日経MJの記事を参考にし、筆者推定と合わせて図式化

それに対して、ワンコインピザの場合、来店型なので好立地が必要なことを除けば、かなり低コストを実現できていることがわかる。また、何より注目すべきは「調理」のプロセスにおいて、少人数のスタッフであっという間に焼き上がる釜を武器として、恐ろしい高回転を実現しており、そのため日販数も宅配の4~10倍となっている。販売数が多ければ、「規模の経済」や「経験効果」が働き、固定比率や変動費(スタッフの人件費含む)率も安く付くことになり、低価格でもペイする体質が強化される。そもそも、ワンコインピザのKSFは「低コスト・高回転」なので、低価格販売はお手の物である。それに対して、宅配ピザのKSFは「利便性」であるのに、持ち帰り客を増やして価格で応戦するということは、自社の強みをスポイルする無謀な戦い方であるといえるだろう。

KSFから生き残りの方策を考える

宅配ピザのKSFは「宅配の利便性」だ。そのことから考えれば、用いられる場所は自宅であり、街中の店内で食されるワンコインピザと本来、ガッツリ競合するものではないはずだ。競合するとしたら、筆者の地元のように、地元駅に店舗があり、予め「今夜はピザでも取ろうか」と決めていた時に、帰りがけにテイクアウトしてしまう、もしくはもう一度家族揃って駅前まで外出して外食するということになる。前者の「帰りがけにテイクアウト」は如何ともしがたいが、そんなに多くの駅前にまだワンコインピザの店舗が進出しているわけではない。また、後者の、わざわざ再度家から駅前に外出という手間を惜しまない人が多いとも思えない。

とすれば、宅配勢は筆者の住む駅近マンションのような、ワンコイン勢と商圏が被る住宅地からの注文は諦めるとして、あくまで本来の宅配の利便性が活きるエリアを対象とした商売に徹すれば良いのではないだろうか。そのための店舗再配置(FC店は難しい場合もあるが)は必要になるであろうが、基本はワンコイン勢と対決することではなく、「棲み分け」を図ることだといえるだろう。

最後に今後の宅配ピザが生き残りを「4Pの整合性」で考えてみよう。消費者のピザに対する価格感応性は、ワンコイン勢の存在で高まってしまったはずなのでPriceとしては、極端で急激な値引きは控えるべきである。ただしコスト低減に努め、価格を少しでも低減させて「利用しやすさ」を向上する必要はあるだろう。その上で本来のKSFを活かし、今のような「イベント的利用」というよりは、「今日は夕飯を作るのが間に合わない」などの「ちょっとした利用機会」に注文をしてもらえるようにし、Placeはあくまで宅配の利便性を提供するのがよいだろう。Productとしては、価格低減を考えると凝ったオリジナルメニューを開発することに注力するより、ベーシックな日常利用できるラインナップに勤め、Promotionは、反復利用者を優遇するようなFSP(Frequent Shopper Program:マイレージのようなポイントプログラム)を中心とした特典提供を実施するといったところではどうだろうか。

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