強いチーム? やる気のある従業員?スタジアムを満杯にするのは誰か 

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※2013/3/26にNumberWebに掲載された内容をGLOBIS知見録の読者向けに再掲載したものです。

3月。Jリーグに続き、プロ野球もいよいよ開幕する。春夏共に甲子園優勝投手となった阪神・藤浪や日ハム・大谷、巨人・菅野などルーキーの活躍も楽しみだ。

かつてに比べればテレビの地上波での野球中継は少なくなったが、スタジアムに足を運ぶ人はどうだろうか。昨年の入場者総数はセ・リーグで11,790,536人、パ・リーグ9,579,690人、1試合当たりそれぞれ27,293人、22,175人であった(一般社団法人日本野球機構ウェブサイト)。セ・リーグの1試合平均入場者数は、1992年の35,309人をピークに、その後多少の増減はあるものの2005年以降は30,000人を下回っている。(パ・リーグは過去20年間、20,000人から26,800人の間で推移している。)

読者の皆さんは、シーズンに何回ほど足を運んでいるだろうか。わざわざスタジアムに足を運ぶ場合、その理由は何だろうか。

特定のチーム・選手の活躍を直接観たい、応援したいという気持ちで向かう人もいるだろう。友人や家族と過ごす1つの選択肢としてスタジアムを選ぶ人もいるだろう。日常とは違うその空間自体を楽しむ人もいるだろう。

スタジアムに行こう、また行きたいと思うきっかけは、チームや選手への思い入れやチームの試合内容と共に、スタジアム体験そのものの満足度というのも大きな理由となっているのではないだろうか。

昨年のコラムで私のQVCマリンフィールドでの体験談を書いたが、試合後にファンサービスとして行なわれたフィールドウォーク中にスタッフの1人と言葉を交わした際、そのスタッフの明るさ、礼儀正しさが、スタッフ、そしてマリーンズ自体に対するさらなる好感をもたらしたことを今でも覚えている。もちろん試合の勝敗の影響がスタジアムの体験を左右することに疑いの余地はないが、それ以外の、例えば試合展開とは直接関係のないスタジアムイベントや、スタッフとの交流などもスタジアム体験に影響を与える。特に、スタジアム観戦の迫力やスタンドの一体感に価値を感じるタイプの観客にはなおさらである。

来場者を増やす従業員はどんな人なのか

では、よい顧客接点を持てる従業員とはどのような人なのか。1つには、自身の仕事に誇りを持ち満足している人が挙げられる。そのような従業員は、観客ともよい交流を持つ傾向にあり、その結果より多くの観客を満足させることができるからだ。

つまり「満足度の高い(やる気のある)従業員が集まる→よい顧客(観客)接点・サービスを生み出す→顧客(観客)満足・ロイヤルティが高まる→来場者数がさらに増える→経営状況がさらによくなる→その結果職場環境・報酬レベルがあがる→満足度の高い従業員→よい顧客(観客)接点・サービスを生み出す(続く)」というグッドサイクルが生じるのである。

従業員の満足度が高いと観客動員数も増える?

スポーツビジネスの本場アメリカに目を向けると、スポーツ業界で働く人を対象に実施された満足度調査の中で、ボストン・レッドソックス、ニューヨーク・ヤンキース、サンフランシスコ・ジャイアンツがMLBの中で最も働きたいチームに名を連ねている(Sports Business Journal/August 13-19,2011 Turnkey Search社との共同調査)。この3チームの観客動員数をみてみると、ヤンキースは昨年のMLBアメリカン・リーグの中でトップの3,542,406人を記録し、レッドソックスは2003年5月以来793試合連続のソールドアウトを更新している。そしてジャイアンツは、ヤンキースには及ばないものの300万人を超える入場者数をほこっている(MLB Press Release 10/04/2012)。

これらの調査はスポーツビジネス業界ですでに活躍する人々を対象にした調査なので、憧れだけではなく、やはり多面的にみて良い環境・条件なのであろう。鶏が先か卵が先かの議論もあろうかと思うが、多くのファンを抱えるチームにこそ創ることができる職場環境が、意識・志高い人を惹きつけ、その人たちがまた活躍するからこそより多くのファンを惹きつける。これらのチームはそのサイクルがうまく回っているとも考えられるのではないだろうか。

一般的に満足度の高い観客は、そのチームのロイヤルカスタマーになり、スタジアムへ足を運んでくれることも多い。

最下位パドレスはなぜチケット販売が好調なのか

そこでもう1つ顧客満足についての調査もここにご紹介しよう。

MLB各球団のシーズンチケットを電話購入する際のスタッフの対応などを調査した結果がある(Sports Business Journal/May 14-20, 2012 IntelliShop社が実施)。その調査で1位になったのはサンディエゴ・パドレス。実はパドレスの2011年の成績はナショナルリーグ西地区最下位と、振るわなかった。それにもかかわらず年間チケットの販売においてリピート購買率は70%。さらに3000シートものシーズンチケットが新たに購入されたという。驚異的な数字である。

パドレスのTom Garfinkel氏は、その年間チケットの販売の秘訣は「誰を雇い、責任者にするかにある」と語っており、チケットの販売と顧客満足、そしてその顧客満足を高めるための「従業員」の重要性について指摘している。

スタジアム体験満足(チケットを購入する際からスタジアム体験は始まっている)の高い人は「また来たい!」と思う。時には仲間を誘って再来場するであろう。しかも、自発的に再来訪してくれる顧客へのプロモーション費用はそれほどかかっていないので、球団にとって、ファンが何度もスタジアムに足を運んでくれることは経営にも大きなインパクトとなる。

一般的な企業においても、同じことが言えよう。従業員満足の向上が顧客満足を上げ、顧客満足の向上により、企業利益や企業価値が最大化し、その結果従業員満足がさらに向上するというサイクルを回し続けることが重要となる。

サービスプロフィットチェーンを回すことの重要性

このメカニズムは、ハーバード・ビジネススクールのJ.L.ヘスケット教授らによって「サービスプロフィットチェーン(SPC)」という形で提唱されているが、すでに日本における非製造業の割合が75%以上に達している中、このサイクルの重要性を噛みしめている読者も多いことと思う。

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出所:「サービス・プロフィット・チェーンの実践法」J・L・ヘスケット,T・O・ジョーンズ,G・W・ラブマン,W・アールサッサーJr.,L・A・シュレジンガー(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー '94年6-7月号)から一部抜粋

上記のメカニズムが、スポーツビジネスの現場でどのように動いているのかを追々解説していきたいと思っているが、読者の方々は今シーズンも観戦に出かけてみてほしい。試合を楽しみながら、ファンとともにスタジアム体験を創造しているそこで働く人たちに目を向けてみるのも面白いであろう。選手以外にも、生き生きと働いているスタッフに遭遇する機会もあるに違いない。その瞬間も含めて、大いに楽しんでもらいたい。

<今回のポイント>
◆満足度の高い顧客は、ロイヤルカスタマーになる可能性が高い
◆ロイヤルカスタマーは経営状況にもよいインパクトを与える
◆満足度の高い従業員との関わりは、顧客満足を高める要因の1つとなる
◆したがって、従業員満足にも目を向ける必要がある

 

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