経営のイノベーション、まだですか? 

知見録リポート
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2015年6月18日、「働き方のこれから」をテーマとするグーグルの企業向けイベント「Atmosphere Tokyo 2015」が開催された。グロービス・コーポレート・エデュケーション責任者、井上陽介は「イノベーションを生み出すヒトと組織を創るカギ」と題した基調講演を行った。日本企業のリーダーに向けて発した熱いメッセージをリポートする。

私はグロービスで、企業の人材育成、幹部育成を担うグロービス・コーポレート・エデュケーション部門の責任者をしている。トヨタ自動車、花王、JTBといった大手企業や、企業規模では100人前後の中堅企業、成長企業も担当している。そういった企業の経営者、人材育成の責任者の方、年間にすれば200名以上と膝詰めで良い人材と良い組織をいかに創るかについて議論しているのだが、ここ1~2年、多く出てくるキーワードが「イノベーション」である。

例えば、こんな声がある。

「大胆に変わってイノベーションを起こさないと先が無いことは分かっているが、社内から出てくる企画はどれも現状の延長線上に留まっている」(大手メーカー、人事部門責任者)

「我々はこれまでのビジネスモデルに合わせた働き方しか知らない。イノベーションを起こせる社員がいない」(大手広告代理店、経営企画責任者)

多くの日本企業から「イノベーション」というキーワードが発せられている。しかし、それを実現しようとした時に大きなハードルにぶつかる。

世界ではどうなっているか。これは米DDIという人事・人材育成のコンサルティング会社のリサーチ結果である。「リーダーに求められているけれども、最も欠けている能力は何か?」という問いに対して最も多い回答は、「クリエイティビティとイノベーションを育むスキル」だった。

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日本は悩んでいる。そして世界のリーダーも悩んでいる。これが、今我々が置かれている環境なのである。

ピーター・ドラッカーの言葉を引用したい。今から15年前、『プロフェッショナルの条件』という本の中で、こういった言葉を残している。

“eコマースが生んだ心理的な地理によって距離は消えた。もはや世界には一つの経済、一つの市場しかない。競争は、もはやローカルたりえない。境界はない。あらゆる企業がグローバル化しなければならない”

デジタルテクノロジーの進化はポジティブな変化である。一方で、業界、業種といった垣根がどんどん崩壊している。これはチャンスでもあり、ピンチでもある。ピンチをいかにチャンスに変えていくかという視点が大切だ。従来のやり方と発想では、世界にインパクトを及ぼすようなイノベーションを起こせない。日本企業のみならず、世界が抱えている課題である。

世界の経営思想家50人に選ばれる著名な経営学者、ゲイリー・ハメルという人物がいる。彼は、日本企業に対してこんな言葉を残している。

“日本企業は並はずれた職業倫理や熱心で継続的なカイゼンによって世界の頂点に経ってきたのですが、それが新しい時代に適応しなくなってきています。硬直したヒエラルキーや中央集権化、過剰管理などが競争力を脅かすものになっている。産業が大量生産や効率性を求めた時代ならばそれは有利に働いたでしょうが、時代は変わってきています。”

私はこれを読んだ時に、怒りにも近い気持ちを覚えた。しかし、少し冷静になって考えてみると、彼は本質的なことを言っている。イノベーションの在り方そのものが変化してきているなかで、日本企業の在り方そのものが時代に適応しなくなってきている。その現実を彼は真正面から指摘しているのだ。

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ここで、イノベーションというものを階層構造で見てみよう。下の2つは、「プロセス・イノベーション」と「プロダクト・イノベーション」。カイゼンというキーワードに代表されるようにQC活動、トヨタ生産方式といったプロセスを磨き続ける力というのは、メーカーのみならずサービス業も含めて、日本人が大いに強みを発揮する分野だと思う。そして、技術を開発してプロダクトを世に送り出すことで、これまでの日本企業は成長し続けられた。これが、これまでのパラダイムである。

だが、日本企業が成功を収めた市場の多くは成熟期を迎えており、ユーザーは製品だけでなくサービスも求めるようになっている。

分かりやすい例がある。ソニーがウオークマンを発売してプロダクト・イノベーションを実現した。そこに、アップルが参入し、アイポッド、アイフォン、そしてアイチューンズという製品とサービスの両者を活用しながらビジネスモデルを変えた。このような「ビジネスモデル・イノベーション」を起こすことが、日本企業とっての課題になっている。ビジネスモデル・イノベーションを起すためには、従来接点を持っている人たちだけでなく、サービスを開発できる外部の人たちと協力する必要がある。従来の行動を変えて、人に会い、様々な議論を重ねて、価値を創造していくという動き方が必要になってくる。

そして、4つ目のキーワードは「マネジメント・イノベーション」である。日本企業は大量生産・大量販売に適合した経営と組織を作ってきた。それに合わせて、人の行動と文化が生み出されている。経営の在り方、組織の在り方、企業の文化、人の行動をイノベーションしない限り、ビジネスモデル・イノベーションは実現できない。

ゲイリー・ハメルはこれら4つのイノベーションのうち難易度が高いのはより上位の概念だと言っている。上位の概念のイノベーションを実現できれば、他社はなかなか実現できないので長期の競争優位性が実現できる。ビジネスモデル・イノベーションを実現するためには経営の在り方そのもののイノベーションを起こさなければならない。

では、そのカギは何か。3つのキーワードを提示したい。「スピード」「オープン」「ダイバーシティ」である。

スピードという観点についてGEの事例を紹介したい。GEでは「ファストワークス」という改革に取り組んでいる。ジェフリー・イメルトCEOを中心とする大プロジェクトだ。問題意識は、「GEは世界に30万の社員を擁する大企業だけれども、ベンチャーのようにスピーディーに動くことはできないか?」である。そして「リーンスタートアップ」というスピーディーにベンチャーやサービスを立ち上げていくための新たな手法だ。GEでは経営陣を始め、社員数百人がこのプログラムを受けている。世界で300を超えるプロジェクトが登録されていて、ファストワークスの手法を使ってイノベーションを起こそうとしている。社員30万人の世界企業がベンチャーのような速さで動こうとしているのだ。我々日本企業も負けていられない。

もう1つの事例は、ソフトバンクの「アカデミア」。孫正義さんの後継者を育成する場として知られるが、社内の人だけでなく、社外からも人を集めている。皆さんの会社で後継者を選ぶ時に社外にも開いて人を集めているところはあるだろうか。この「オープン」さがソフトバンクの力強さになっている。

実際、ソフトバンクのロボット事業が加速したきっかけとなったのは社外から参画した1人のエンジニアだった。外部からの異質な意見を受け入れる度量を持ち、「ダイバーシティ」を維持できる文化を作っていることが、ソフトバンクの組織としての強みになっている。

「スピード」「オープン」「ダイバーシティ」という3つのキーワードに加えて、もう1つ提示したいものがある。それは「志(こころざし)」である。皆さんには、青臭くて、日本的に聞こえるかもしれないが、ヒトと組織を変えるためにはとても大切な要素だ。

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例えばグーグルには、「世界の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」という「使命」がある。この使命に共鳴し、多くの社員が参画したのだし、多くのデベロッパー、多くのビジネス・パートナーが一緒にイノベーションを起こそうと動いた。もし、グーグルが「金儲けのためにやっている」と言っていたら、その瞬間に多くの人が白けてしまい、参画しなかっただろう。

グロービスは1992年に創業した。渋谷の小さな貸し教室で20人の生徒に経営学の基礎を教えたのが始まりだ。23年経って、日本最大のビジネススクールになり、1000社を超える企業の幹部育成を担い、国内で最大のベンチャーキャピタルを運営するまでになっている。なぜ、我々がここまで成長できたのか。それは、明確で強い志があったからだ。アジアNo. 1のビジネススクールを作りたい、アジアNo. 1のベンチャーキャピタルを作りたい、そしてビジネスの創造と変革を促してイノベーションを実現したい――。我々が掲げる志を多くの方々に応援、後援していただき、今に至っている。目標は高いので、まだまだチャレンジを続けなければならないが、この志を今も胸に留めながら行動している。再び、ゲイリー・ハメルの言葉を引用する。

“富の最大化というお題目は、働く人の心を揺り動かすだけの力を持たず、熱意を十分に引き出すことはできない。このような理由から新時代のマネジメントは、世の中から重要で高尚だと認められる目標を立て、その達成を目指さなくてはいけない。”

お伝えしたいことは、ビジネスモデル・イノベーションという視点を持つということ、それを実現するためにはマネジメントそのもののイノベーションを起こさなければならないこと、そのカギは「スピード」「オープン」「ダイバーシティ」「志」という4つのキーワードであるということ――である。

最後に、こんな問いかけをしてみたい。

皆さんの会社では、社員の皆さんが働く、その方法自体を新しくするための努力ができているだろうか。

― 戦略実行のスピードは遅くないか?
― GEのようにもっと加速することはできないだろうか?
― 社員を内にこもらせ過ぎていないか?
― 皆さん自身も外に出て様々なことを学んでいるだろうか?
― 部門や会社の垣根を越え、多様な人材からの異質な意見を受け入れているだろうか?
― 社員の熱意を引き出し、周囲から共感を得られるような志を示しているだろうか?

こんな観点から皆さんの会社を見つめ直してほしい。そして、新しい時代のイノベーションを実現できる組織を作っていただきたい。

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>>関連リンク:グロービス・コーポレート・エデュケーション

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