まあいいかぁ -根拠無しの納得 

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問題です

以下のAさんの問題は何か。

Aさんはある日、街を歩いているときに、署名運動をしている人(Bさん)に呼びとめられた。正直、AさんはBさんの活動にはあまり興味を持っていなかったので、本来であれば、さっさと前を通り抜けたいと思っていた。

B: 「ぜひ書名いただけませんか。なぜなら、あなたの署名がぜひとも必要だからです」
A: 「(正直あまり興味ないんだけど)ああ、いいですよ」
B: 「どうもありがとうございました」

またある日、Aさんは定食屋のレジで順番待ちをしていた。そこに後からやってきたCさんがこう言った。

C: 「先に会計したいので、先にしてもらっていいですか」
A: 「ああ、いいですよ」
C: 「ありがとうございます」

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解答です

今回の落とし穴は、「根拠無しの納得」です。これは、「なぜなら」の後に続く説明に説得力がなくても、「なぜなら」と理由を説明されただけで条件反射的に納得して行動してしまうことを指します(必ずしも「なぜなら」という表現を使っていなくても、理由らしきことを述べていれば同じです)。正式な名称はないようなので、本コラムではこのように呼ぶことにします。

冒頭ケースのBさんの説明もCさんの説明もよく見ると説得力のある説明になっていないことがわかります。たとえばBさんの説明は、「なぜなら、あなたの署名がぜひとも必要だからです」とのことですが、これはトートロジー(同義反復)であり、結局何も説明していないのと同じです。

つまり、「あなたの助けが必要です。なぜならあなたの助けが必要だからです」のような説明と、言っていることは基本的に同じなのです。ちょっと理屈っぽい人なら、「なぜ私の署名が必要なの?」と聞き返すところかもしれませんが、Aさんはあっさり相手の言うことを聞いています。

Cさんの説明も同じです。「急に仕事に戻らなければいけなくなったので」や「家族が急病になったので急いでいるのです」ならともかく、レジで会計をするのは当たり前ですから、「先に会計をしたいので」は理由としてはかなり説得力の弱いものと言わざるをえません。しかし、ここでもAさんはあっさりと譲っています。

これと似たような現象が起こることは、さまざまな実験でも確認されています。その理由ですが、人間は、「なぜなら」という説明を聞くと納得感が高まるケースが多いことから、「なぜなら」以降の説明にそれほど説得力がなくても、「理由らしきこと」を説明されただけで、思わず納得してしまう傾向があるのです。

もっとも、この傾向は、(当然ではありますが)案件が重大なものになるほど弱くなることも知られています。「1億円の投資を許可してください。なぜなら1億円が必要だからです」では、さすがに人を説得することは難しいでしょう。

どのくらいの重要性のある案件から真剣に理由を検討するかは人それぞれですが、ある程度の重要性を持つ案件、あるいは、将来大きな意味を持つ事柄のきっかけとなりうる案件については、安易に条件反射で済ませるのではなく、しっかりその説明の妥当性に気を配りたいものです。特に後者は、相手に「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」を用いて付け入る隙を与えることになりますから要注意と言えるでしょう。

これを別の視点から見てみましょう。実は、「なぜなら」の説明をしっかりすることは、他者に対して敬意を払う姿勢を見せることにもつながります。「人は説明を求める動物」との言い慣わしもあります。部下などに対して、多少軽めの案件であっても、適当な説明で済ませるのではなく、納得感のある説明をすることは、彼らのモチベーションを高め、信頼を得る上で大きな武器となることも認識しておきたいものです。

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