たしかに気の毒ではあるけど -同情論証 

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問題です

以下のBさんの問題は何か。

A: 「さすがに今回はCさんのミスは庇いきれないな。前も数回同じことをしたし、会社に与える損害もかなり大きい」
B: 「まあ、たしかに同じようなミスをやる傾向はあるな」
A: 「いままでは何とか庇ってきたが、今回ばかりはきつく叱る程度では改善は見込めないと思うがどんなもんだろう」
B: 「うーん」
A: 「過去の別の例を見ても、今回は、正式に戒告処分にするのが妥当だと思う」
B: 「戒告か・・・。それだと未来永劫に記録として残るからなあ。そこまでやるのはかわいそうだよ。僕の方からもきつく言っておくから、戒告はなしにしよう。厳重口頭注意でどうだろうか」
A: 「・・・」

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解答です

今回の落とし穴は、「同情論証」です。英語では“appealtopity”もしくは“argumentumadmisericordiam”と言います。これは、ロジックそのものとは別の箇所で、同情や罪悪感に訴えかける論法です。現実にもよく用いられています。

冒頭のケースでは、Aさんは、「会社に与えた損害」「何回も同じことをしていること」「過去の別の人の例」などを根拠に、論理的に考えた上でCさんを戒告処分にしようとしています。一方、Bさんは、それらを認めた上で、そうした根拠に反論するのではなく、「かわいそうだから止めよう」と主張しています。典型的な同情論証と言えます。

一般に、人を説得する際に触れるべき琴線には、「利得」「規範」「感情」があります。利得に訴えかける論法は、最終的には、「だから、○○した方が得だ」という主張になります。投資の意思決定など、企業の財務状況に直接影響するような意思決定では最も標準的に用いられている論法です。

一方、規範に訴えかける論法は、「○○たるもの、△△するのが望ましい」という、価値観や大義に訴える論法です。「公務員たるもの、組織の都合ではなく、国民の利益を重視すべきだ」といった論法です。

通常は、利得に訴えかける論法と、規範に訴えかける論法は同時あるいは相乗的に用いられ、論理的に相手を説得する強力なツールとなります。

それに対して、同情論法に代表される、感情に訴えかける説得は、論理的な説得とは異なり、相手の情動に働きかけるものです。人間は論理以上に感情に左右される動物ですから、このタイプの説得は、時として非常に効果的ですし、頭から否定されるものではありません。

しかし、このやり方にあまり頼りすぎると、ビジネスリーダーとして必要な論理思考力が鈍ることになりかねません。事実、感情に訴えかける方法は、往々にして事実に立脚した結論を軽んじることがあります。

また、見方を変えると、「△が妥当か、□が妥当か」という議論の論点を、「かわいそうか、かわいそうではないか」「良心の呵責を感じるか、感じないか」というように論点をすり替えているということもできます。

「論理がすべてではない。人の感情を理解することも重要」という人もいます。それは全くその通りですが、だからと言って、論理をないがしろにしていいわけではありません。また、感情は往々にして波がありますから、あまりにそれによりかかって説得したりされたりするのも、安定性の面などからは考えものです。

相手の情動や感情を理解することは非常に重要ですが、何事もバランスです。一歩引いた視点から、自分の論理構成をチェックすることが、常に必要なのです。

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