なぜか重要に思えてくる… -希少性の罠 

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問題です

以下のAさんの考え方の問題は何か。

舞台は主に稀覯(きこう)本を扱う古書店。顧客のAさんと店主Bさんの会話。

Aさん: 「この本、ずいぶん珍しいね」
Bさん: 「さすがにAさん、お目が高い。今日の朝入荷したばかりなんですよ」
Aさん: 「寡作で知られるこの作者の初版で、しかもサイン入りか」
Bさん: 「そうなんですよ。何しろ、初版は数十部しかないと言われていますから。しかも、そのほとんどは戦争で焼けてしまった。現存しているのは、たぶん世界中探しても数冊でしょう」
Aさん: 「これって、まだ出てくる可能性はあるの?」
Bさん: 「まあ、全くないとは言いませんが、限りなくゼロに近いでしょうね。しかも、この作者の直筆サイン入りなんて、この商売長くやっていて見たことないですから。超掘り出し物なのは間違いないですよ」
Aさん: 「いくらになる?」
Bさん: 「Aさんとは長い付き合いだ。そこのところも考えて、勉強して20万円でどうです?」
Aさん: 「20万かあ。もう一声何とかならない?」
Bさん: 「いくらAさんとは言え、これ以上下げたらこちらも商売になりませんから…。世界に1冊しかないということも考えてくださいよ」
Aさん: 「…うーん。そう言われると弱いな。とは言え20万はなあ…。19万でどう。これ以上は言わないから」
Bさん: 「Aさんにはかなわないな。じゃあ、19万で手を打ちましょう。その代わり、次は値切りなしですよ」

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解答です

今回の落とし穴は、「希少性の罠」です。これは、稀なもの、手に入りにくいものについては、本来のレベルよりも欲求を高めてしまい、多くのお金を払ってしまったり、不要なものを手に入れようとしてしまうという落とし穴です。

「希少である」ということに、過度の付加価値を見出してしまうわけです。「初回限定」や「個数に限りあり」はそうした心理を活用したマーケティング手法であり、実際に多用されています。

今回のケースでは、買い手は、世界に1冊しかない稀覯本の魅力に抗しきれず、19万円という、1冊の書籍に対する値段としてはかなりの高額を払うことになってしまいました。今回のようなケースであれば、本人さえ納得すればいい、という考え方もありでしょうが、Aさんがあとで後悔をする可能性は否定できません。

実際のビジネスシーンで希少性の罠に気をつけなくてはならないのは、それが演出された「偽の」希少性である場合です。ケースの例でいえば、Bさんが嘘をついて(たとえば同じような本が他にも何冊も流通している)、希少ではないものを希少と偽るような場合です。

今回のケースは、長年の顔なじみであり、しかも今後とも関係を維持したいという状況なので、そうした可能性はかなり小さいでしょう。しかし、初対面の商談相手や、その後の関係維持があまり求められないような商談などでは、特に気をつける必要があります。

やや悪質なやり方としてよく知られている方法は、まだ十分な数が残っているにもかかわらず、「この在庫で最後。今買わないと損ですよ」と言って購買を促すものです。さらに悪質になると、「今日だけ、○○も特別におまけとして付けますよ」とダメ押しをします。もちろん、そのおまけは明日以降も普通に付けられるでしょう。

エステサロンなどの営業で、「今日はたまたま、有名な△△先生が来られています。めったにない機会ですから、△△先生のサービスを受けられてみませんか?」といったトークも同様です。おそらく、△△先生はそれなりの頻度で各店を巡回していることでしょう。

ウェディング業界の殺し文句である「一生に1回のことですから」も、多分に希少性の罠を活用しています。モノやサービスそのものは普通でも、人生にめったにない機会であることを強調して、高い値付けの根拠を納得させようとしているのです。

では、こうした希少性の罠から逃れるためにはどうすれないいのでしょうか?1つは疑ってみること。老練な交渉者になると、「本当に最後なの?どうせまだたくさんあるんでしょう?」などとカマをかけ、相手の反応を見たりします。

すぐに判断を下すのではなく、一呼吸おいた上で、一歩引いた視点から「本当に希少性にそんな価値があるの?」「今日、買わなかったからといって、ずっと買えないものなの?」と冷静に状況を分析することも有効です。往々にして、希少性の罠に落ちているときは、気分がハイになっていて、冷静な判断能力が失われていることが多いからです。

もちろん、実際にその希少性が本物で、迷っている間にそれを手に入れ損ねる可能性は常にあります。しかし、冷静さを欠いて高値づかみをするよりは、冷静に状況を見る方が、長い目で見てより大きなリターンをもたらす可能性を高めるのです。

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