その例えは適切? -不適切な比喩 

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問題です

以下のAさんの問題点は何か。

Aさんと、専業主婦である奥さんの会話。

Aさん: 「専業主婦というのは、企業に例えれば社内サービスを行うコーポレイト部門だと思う。外からお金を稼ぐわけではないが、家庭内の人間に対してはしっかりサービスを提供しなくてはならない。つまり、僕と子どものニーズを知り、満足度を最大化させるのが専業主婦の努めなんじゃないかな」

奥さん: 「はあ?」

Aさん: 「ところが最近は、料理は手を抜いているし、掃除もちょっといいかげんだと思うな。ちゃんと家族を満足させるように家事をしてほしいな」

奥さん: 「そんなにご不満なら、家事は誰かにお金払って頼んだら。会社だってそうしてるでしょう。プロにやってもらう方が、ずっと美味しいし、家もきれいになるわよ」

Aさん: 「おいおい、ちょっと待ってよ・・・」

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解答です

今回の落とし穴は、「不適切な比喩」です。比喩(例え)は、本来、人に何かを分かりやすく説明する際に、具体的なイメージを喚起することで大きな力を発揮するコミュニケーション技法ですが、不適切な比喩を持ってきてしまうと説得力を欠くことになります。また、思考(あるいは思考実験)をする際にも、抽象的な事柄を具体的に考える際によく比喩を用いますが、適切な例えを用いないと、誤った結論を導いてしまいます。

本ケースでは、Aさんは、専業主婦の仕事を企業のコーポレイト機能に例えています。シチュエーションによっては決してあり得ない比喩ではないのですが、奥さんにお願いしたり説得したりする際に用いる比喩として妥当かと言えば微妙です。

たとえば、ケースのパターン以外にも、以下のような反論が返ってきたら、Aさんは受け答えに窮するかもしれませんし、場合によってはケース同様、とんだ藪蛇になりかねません。

「経理や総務の人もお給料はもらっているわね。じゃあ、私にも労働に見合うお給料をちょうだい」

「じゃあ、会社と同じく、経費を引きしめなくちゃね。当然、あなたのお小遣いも経費削減で3割カットね」

「子どもの相手で忙しいのに。あなたにはパートナーに対する愛情ってものはないの!会社と家庭は違うでしょう!」

もう1つ不適切な比喩の例として、国の予算を考えてみましょう。国の予算を表現する際に、よく、家計に例えることがあります。たとえば、「すでに8600万円の借金がある家庭がある。それに対して収入は480万円で新規の借金が440万円。借金の利払いは210万円で、その他の支出が710万円」といった感じです(2011年度の予算を1000万分の1にした数字です)。

これは、日本の財政状況の不健全さを示す例としてよく用いられる例えですが、そもそも国の財政と家計を同じ土俵で比較してもいいものでしょうか。

違いには様々なものがあります。たとえば、一般の家計では、頑張って収入を増やそうとしてもそう簡単ではありません。しかし、国は(その中長期的影響はいったん措くとして)税制を変えることで収入をコントロールすることができます。あるいは、その気になれば、紙幣をどんどん刷らせることも不可能ではありません。これは一般の家計とは決定的に違います。

さらには、家計の借金は、通常、全く第三者への借金であり、その利払いが直接自分に還流することはありませんが、国債は、その利息を受け取るのは主に国内の銀行や企業などであり、その株主は日本の投資家が多くを占めます。つまり、貸し手と借り手がかなりかぶっているのです。多額の赤字国債はもちろん望ましいことではないのですが、日本のように、国債の消化を海外にそれほど依存していない国では、そのまま家計と比べるのは、時としてミスリーディングなのです。

なお、今回は主にモデルとして比喩に用いるのが妥当か、という観点で議論をしましたが、コミュニケーションにおける比喩の使用は、言葉の選択によっては相手の感情を害してしまいかねない、という要素もあります。まさに修辞法(レトリック)の世界です。大臣の「産む機械」発言や「暴力装置」発言は国会でも問題になりました。「『機械って言ってごめんなさいね』とその場で断っていた」、「ヴェーバーが使っていた正式な社会学用語だ」などと言ったところで、覆水盆に返らず、です。特に、リーダーとして高いポジションの人ほど、言葉は独り歩きしやすいので、注意したいところです。

不適切な比喩はそこかしこに広がっています。ぜひ、用いられている文脈なども強く意識した上で、「この比喩は不適切だ」、あるいは逆に「この比喩はうまいなあ」というものをいろいろ探してみてください。

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