企業成長と組織開発 

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図体だけではなく、“内臓”や“骨格”の成長も必要

前回までは、マーケティングや経営戦略を構想するうえで有用なフレームワークを紹介してきました。しかし、どれだけ構想がしっかりしていても、組織としてそれを実行していくやり方が稚拙では、結局は競争に負けてしまいます。そこで今回は、戦略を実行していくための組織開発とマネジメントの重要性について、ケースを題材に考えていきます(機密保持のため業界の設定などは変えています)。

関東で展開するYAMADA-SHOP(仮名)はオーナーの山田氏が開業した携帯電話販売店のチェーンです。山田氏は開業前、ある通信会社で働いていましたが、いつしか独立を夢見るようになりました。山田氏は独立に先立ち、事業戦略、マーケティングなどの経営の基礎、特に「戦略的な思考」をしっかりと勉強することにしました。さまざまな経営書、特にマーケティング戦略に関する本をむさぼるように読み、また暇を見つけては経営セミナーなどにも出かけました。そして自分なりの事業計画を固め、資金を工面し、いよいよ独立に踏み切りました。

当初は自転車操業が続きましたが、徐々に商売は軌道に乗り始めました。ターゲット顧客を適切に設定した上で、他の販売店との違い(差別化ポイント)を明確に打ち出しました。また、お客様が求める商品・サービスを提供するための経営資源をうまく確保しました。開業から4年後には、店舗数は20店に増加しました。順風満帆に見えたYAMADA-SHOPですが、いくつかの問題が吹き出し始めていました。具体的には

・売上げは伸びているものの、利益がそれについてきていない(成長のための投資を割り引いても)
・作業に無駄やダブりが多い。それに伴い、従業員間や部署間で言い争いが起きている
・皆、忙しすぎて疲労している。目標もなく漫然と働いている
・経営者である山田氏が特に疲弊している

山田氏は取り扱いサービスを変えたり、リピーターのための特典をつけるなど、いろいろな対応策を打ってみましたが、決定的な効果はありません。山田氏は知人のつてをたどり、あるコンサルタントに相談を持ちかけてみました。そのコンサルタントは山田さんに次のような指摘をしました。「組織の規模に、『組織開発』のレベルが追いついていません。人間で言えば、筋肉や思考力だけは立派に大人なのに、体内の内臓機能や骨格、精神年齢はまだ子供のまま、という状態です」

図表1 組織開発ピラミッド

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成長の痛みを超え、次のステージに

コンサルタント氏の言う「組織開発」とはどのようなものでしょう?『アントレプレナーマネジメント・ブック』(グロービス・マネジメント・インシティテュート・訳、加藤隆哉・監修、ダイヤモンド社・刊)の著者であるE・フラムホルツとY・ランドルは、組織開発のレベルを図表1のようなピラミッドで表しており、(特に成長期の組織において)組織の規模や事業の複雑さに見合った「組織開発」が行われていない場合、上記のような「成長の痛み」に苦しみ、ついには破局に至るとしています。ここで注目したいのはピラミッドの上半分です。ある程度の規模に至った組織、特に急成長して規模だけはいち早く大きくなった組織にとってクリアすべき重要な要素をしています。

まず、下から4段階目の「オペレーション・システムの開発」とは、在庫・受注・発送・請求や経理の仕組み、基礎的な労務管理など、会社が「当たり前に運営される」ための「組織的な配管設備」を指します。起業家精神あふれる経営者にとってはやや退屈な領域(それゆえに後回しにされやすい領域)ではありますが、この部分がしっかりしていないと、従業員や顧客の不満が募り、収益性は大きく下がってしまいます。たとえば皆さんが消費者だったら、同じ会社から2度にわたって請求が来たり、発注したはずなのに忘れられていたり、請求額が単純ミスにより過大だったり・・・そんなことが頻繁に起こる会社とつきあいたいとは思わないでしょう。

下から5番目の「マネジメント・システムの開発」は、経営(マネジメント)というものが仕組みとして出来ているかを示すもので、会社が真の優良企業になれるか否か、言い換えれば「素人的、場当たり的な経営」にとどまるか、それとも「プロフェッショナルな洗練された経営」に移行できるかを決める分岐点です。具体的には、評価・報償の体系や仕組みを構築し、従業員のやる気を喚起すること、従業員の能力開発を行い「スキルが高く、なおかつ自立したマネジャー」を大量に育てること、戦略や人材にフィットした無駄のない組織の形を作ること、「計画による管理」「計画立案への参画による当事者意識の醸成」などがこれに含まれます。要は、「個人の能力を最大限に引き出せるような経営がなされているか」ということです。皆さんも自分の職場でまわりを見回してください。

図表2 マネジメントシステムの良し悪しを測る質問例

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図表2に掲げたような質問に対して「イエス」の数が多いほど、あなたの会社は危険な状態にあると言えるでしょう。

ピラミッドの一番上の「組織文化の管理」ですが、良い会社では、経営トップがこれを非常に強く意識し、良き企業文化(例:顧客満足を第一に考える、品質に拘る、リスクを見極め、必要であれば積極的にリスクをとる、など)を組織に根付かせようと苦心しているものです。具体的手段としては、評価報償システムと連動させたり(企業文化を体現している人を昇進させたり、やってほしいことをやったら給与を上げるなど)、経営トップが常に従業員にそれを語り続けるなどがあります。採用の段階で企業文化に会う人材を選ぶ等の方法もあります。

これらの「組織開発」が、組織の規模や事業の複雑性に見合ったレベルで進むようにすることも経営者の大事な仕事なのです。

先のケースに戻り、コンサルタント氏の山田さんへの提言を見てみましょう。「YAMADA-SHOPには骨太のマネジメントが必要という印象を受けます。山田さんには次の分野の書籍を読まれるか、然るべきセミナーに参加されることをお薦めします。1つは『管理会計・コントロール』の分野。予算管理、原価管理、損益計画、そして指標と連動しての評価報奨システムなどを学ぶことで、会社を利益体質にすることができます。2つ目は『オペレーション』の分野。戦略をいかに業務プロセスやオペレーションに落とし込むかを学びます。そして3つ目は『組織行動学・人的資源管理』の分野。人という経営資源の効果的な動かし方を学びます。これらは、マーケティングやファイナンスのような派手な分野ではありませんが、プロの経営には必要不可欠なものです」

山田さんはこれらの分野を勉強した上で、早速組織に業績測定・評価システムを導入し、「計画に基づいて動く組織」「利益を出せる事業」の確立を図りました。不採算サービスをカットし、売上以外の評価指標も導入しました。月次で主だった指標がモニタリングできるような会計ソフトも導入しました。また、業務オペレーションを徹底的に見直し、無駄を排除するとともに、ボトルネック(業務全体のスピードに最も効いてくるプロセス)の解消を行いました。さらに、ミーティング等で従業員に対して自分の考えを明確に伝えると同時に、マネジャー層に大幅に権限を委譲しました。また、「ミニ経営者」を育成すべく、自らが講師となって簡単な能力開発プログラムを導入しました。それから3年後。当初は苦労したものの、徐々にYAMADA-SHOPは「経営のプロが運営する組織」としての体裁を整えていきした。

今回のテーマは、特に若い読者の方にはなかなかピンとこない部分かも知れませんが、この部分の善し悪しは企業の収益性に本当に大きく影響するので、是非、興味を持っていただければと思います。

(本稿は、グロービス・オーガニゼーション・ラーニングが発行するメールマガジン「グロービスNews」の2003年9月22日号に掲載されたものを、加筆修正のうえ再掲したものです)。

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