顧客維持型マーケティングを考える 

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良い顧客像は時代と共に変遷する

あなたが考える「良い顧客」とはどのような顧客でしょうか。大口の注文をくれる客、値切らないで買ってくれる客、期日を守って支払いをしてくれる客、商品やサービスの品質や価値を正当に評価してくれる客、定期的に注文をくれる客、当社の商品やサービスを愛用してくれている客……。いろいろなパターンが考えられると思います。

マーケティングにおける「良い顧客」とは、自社の活動に見合った(あるいはそれ以上の)利益をもたらしてくれる顧客を意味しますが、実は顧客に対する考え方は時代とともに変わってきました。

たとえば高度成長期には、多くの企業がより多くの新規顧客を獲得することを目指しました。経済が右肩上がりの環境においては、顧客が増えて市場が拡大すれば、それだけ売上げや利益の増加につながったからです。しかしその後、多くの産業が成熟期に達すると、新規顧客を獲得すること以上に、既存顧客を維持し良好な関係を保つことが重視されるようになりました。一つには、競争が激しく、新規顧客の獲得は以前よりも難しくなり、たとえ獲得できても思うように売上げや利益の拡大につながらなくなったからです。特に新規顧客を獲得するためには、多くのコストやマーケティング努力が必要です。それに比べると、既存顧客に働きかけ、購買頻度や購買量を増やしてもらうために投資するほうが経営効率や収益性の面で有利だと考えるようになったのです。

実際にサービス産業を対象とした幾つかの研究で、新規顧客を開拓することよりも既存顧客を維持することのほうが効率的で高収益につながることが実証されています。たとえば、アメリカのライクヘルドとサッサーという学者は、顧客離脱率を5%減少させることにより、あるクレジットカード会社の平均顧客価値が125%向上したと発表しています(『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス』1991年12-1月号参照)。こうした結果が出た理由として、広告宣伝費や販売促進費用などの新規顧客の開拓にかかるコストが不要だということが考えられます。

ほかにも、顧客との関係が長くなるほど、(1)既存顧客は商品やサービスに対する理解を深めているため、顧客対応に必要な営業コストが低くなる、(2)関連購買などにより顧客一人あたりの購買量が増える、(3)顧客は少し価格が高くても馴染みの商品やサービスを購買する傾向があり、高い価格を許容するようになる、(4)口コミによって他の顧客に紹介してくれる、といった効果が指摘されています。

図1 顧客維持による収益性への影響

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スイッチング・コストを上げ、顧客の生涯価値を高める

例えば、固定電話やブロードバンド、携帯電話といった通信事業主にとって、顧客維持は重要でしょうか。古い例となりますが、ここでは、2001年に始まった「マイライン」、「マイラインプラス」を引いて考えてみましょう。同サービス導入時には、一人でも多くの顧客を獲得するためにと固定電話各社が激しい顧客争奪戦を展開しました。

このように各社が、ある種、一列に並んでスタート地点に立ち、いっせいに顧客獲得競争に乗り出すことは、きわめて稀なことです。しかも、固定電話サービスのように品質での差別化が難しいものとなると、価格が重要な訴求ポイントとなります。そのため、電話をかける距離や時間帯、通話時間などによって、さまざまな割引サービスが登場し、どの電話会社のサービスが本当に安いのかまったくわからない状況となりました。その結果、広告合戦はもとより、「きれいにし隊」のように電話と直接関係のない部分で少しでも差別化しようとする試みもとられるようになりました。このことからも、顧客獲得には多大なマーケティング努力が必要だということを、実感としてご理解いただけると思います。

マイライン、マイラインプラスの狙いの根幹は、顧客を確保し維持することにあります。つまり、スイッチング・コストを高めて(他社の製品やサービスに換えにくくして)、顧客と長期的な関係を築くことで、その顧客の生涯価値を高めようというわけです。スイッチング・コストの低いサービスでは通常、顧客維持のためにさまざまな取り組みが必要になります。たとえば、航空会社のマイレージ制度や小売店のポイントカードなどのようなポイント制度、ゴルフなどの会員制方式のように、多頻度あるいは高額購買によって顧客がより多くの恩恵を受ける仕組みを用意するやり方があります。また、顧客情報を用いて、誕生や入学、結婚、転勤など節目需要に応じて商品を提案したり、買い替え時期に案内を出したり、以前販売した商品と関連のある商品を提案・提供する方法もあります。さらに、ブランド・イメージを植え付けたり、コミュニティーなどの場を用意したりすることで、その製品やサービスへの愛着を深めようとするやり方もあります。

こうした顧客維持のための取り組みが必要かどうかは、スイッチング・コストの高さによりけりですが、電話サービスの場合はどうでしょうか?マイラインの場合、登録料という金銭的な面と、変更手続きの煩雑さなど利便性の面からみると、スイッチング・コストは高いように思えます。おそらく一度登録したら、そう簡単に登録会社を変更しない消費者は多いでしょう。しかし、顧客維持の努力は全く必要がないとは言いきれません。思うように顧客を確保できなかった会社は、新サービスや価格攻勢などで挽回を狙ってくるでしょう。実際、各社共にブロードバンドインターネットや携帯電話サービスなどと絡め、トータルの通信料を低減させるなど、スイッチのための手間やコストをかけても十分に元が取れると訴求しています。

CRMで顧客ニーズに即応する

一度引きつけた顧客との良好な関係を維持することで、長期にわたって一人の人間から最大限の収益を得ることを目的としたマーケティング活動を「顧客維持型のマーケティング」と呼びます。最近耳にすることの多いCRM(カスタマー・リレーション・マネジメント)も同じ発想に基づいています。CRMでは、コールセンターや顧客データベース、営業支援などにおいて情報システムを有効に活用することにより、長期間にわたって顧客と良好な関係を築くことを目指しています。顧客と最適な関係を築き、忠誠心の高いロイヤル・カスタマーを生み出すことができれば、顧客ニーズの吸い上げや顧客を巻き込んだ製品開発などのマーケティング活動も可能になるからです。

顧客維持型マーケティングは、どの商品でも有効というわけではなく、商品特性や流通形態、競争環境などとの相性をよく考える必要があります。特に、一般消費者が相手で、商品単価が安く、流通業者を通すような最寄品(たとえば、トイレットペーパーなど)の場合、メーカーの立場で顧客維持型マーケティングを行うことはコストがかさむばかりで収益性悪化の原因にもなりかねません。

一方、サービスの占める割合が大きい商品ほど、顧客と接する機会が増えるため、企業は顧客との関係維持について気を配る必要があります。それから、既存顧客が大切な場合でも、新規顧客を創造する活動が一切不要というわけではありません。新規顧客の獲得と既存顧客の維持という活動に対して、企業はバランスよく投資することが求められています。

図2 顧客維持型マーケティング

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以上、2回にわたって「顧客」を中心考えてきました。自分の会社で、顧客をどのようにとらえ、どう対応をしているか、とくに顧客維持の方策などについて考えてみる一つの機会にしていただければと思います

次回は、人的資源管理のフレームワークを紹介します。

(本稿は、グロービス・オーガニゼーション・ラーニングが発行するメールマガジン「グロービスNews」の2003年8月27日号に掲載されたものを、加筆修正のうえ再掲したものです)。

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