iPhone(2)…モイセエフの憂鬱 

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北京オリンピックは、過去のオリンピックと比べても際立った大会だった。その開会式の壮大な演出は、おそらく世界の中で実現できるのは中国だけだと思う。また、この先語り継げられるであろう金メダルも多々あった。北島康介の100m平泳ぎ、女子ソフトボールの上野由岐子投手、そしてなんと言ってもウサイン・ボルト*1の100m、200m走。ボルトの金メダルは、今回のオリンピック選手の中でも彼が最高のアスリートであるという強烈な印象を残した。

302種目あるオリンピックの競技種目の中に、「近代五種競技」*2がある。1912年のストックホルム大会から続くオリンピック伝統の競技であり、射撃、フェンシング、水泳(200m自由形)、馬術、ランニング(3000m走)の5種目の競技を一日で行って、勝者を決める過酷な競技である。全く異なる5種の競技に対応するためには、瞬発力・持久力・集中力といった、およそアスリートに求められる全ての要素が求められ、並外れた才能と努力が必要である。まさに世界一のアスリートを決める競技であると言える。そして、今回の北京オリンピックでは、ロシアのアンドレイ・モイセエフ*3選手が、アテネに続いて金メダルの栄冠に輝いた。

ところが、である。皆さんの中にモイセエフ選手をご存じの方はいるだろうか*4。彼は、総合的アスリートしてはウサイン・ボルトよりも優れたアスリートである。5種目のどの一つをとっても、ウサイン・ボルトは歯も立たない。ウサイン・ボルトは、単に短距離が早いだけの選手である。スポーツの専門家から見れば、モイセエフのパフォーマンスは奇跡的である。でも、世界の人々はモイセエフでなく、ボルトを世界一のアスリートだと認識している。それはいったい何故だろうか?

もし、デジタルデバイスのオリンピックで「現代五種競技」があったら、iPhoneは確実に金メダルに輝くだろう。「携帯電話」部門でややは弱いにしても、それ以外の「ゲーム」「GPS」「電子手帳」「音楽プレーヤー」部門で他を圧倒し、総合的にはダントツのパフォーマンスを記録するだろう。それは、近代五種競技の金メダリストが総合的には世界最高のアスリートであるように、iPhoneが総合的には世界最高のデジタルデバイスであることを意味する。同時に、iPhoneは、デジタルデバイス界のモイセエフであるとも言える。

現実の能力と、人々の賞賛は必ずしも一致しない。もし、モイセエフが、自らの金メダルへの過小評価を憂いているとすれば、それは、iPhoneの憂いでもあるのではないか。北京オリンピックの閉会式を観ながら、そんなことを感じた。

 

*1 ジャマイカの陸上競技短距離選手。北京オリンピックは100m、200m、400mリレーの全てで世界新記録を樹立。200mでは、「向こう100年は破られない」とまで言われた、1996年アトランタオリンピックでのマイケル・ジョンソンの記録19秒32を破る、19秒30という驚異的な記録を残した。
*2 「近代五種」は、円盤投げ、やり投げ、幅跳び、競走、レスリングの古代五種の精神を現代に再現するという、まさにオリンピックの精神の象徴のような競技である。
*3 ロシアの近代五種選手。アテネオリンピック、北京オリンピックと二連覇を果たした。
*4 ちなみに、たまたま会ったロシア人にモイセエフのことを聞いたら、彼は知らなかった。

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