自動車業界再編に見るM&A成功の法則 

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本格的なM&Aが定着敵対的買収も一般的に

M&Aの流れは、国内外ともに衰えることなく、いよいよ加速してきた感もある。三井住友フィナンシャルグループがUFJホールディングスに合併を持ちかけた2004年を端緒に、2005年のライブドア、楽天による放送会社の買収仕掛けを経て、最近では、王子製紙が北越製紙の敵対的TOB(株式公開買い付け)に乗り出すなど、いよいよ欧米的型の、本格的なM&Aが定着しつつある。

とりわけ敵対的買収については、1989年に米国の著名な投資家が小糸製作所の買収に動いた際には、「あれは、外国人だから考え得たこと」と例外視し、日本では基本的には起き得ないものと言われたが、今や、それも珍しいものではない。「日本は特殊で」とか「日本のカルチャーには合わない」と、のん気に構えていられる状況にないのは、明白だ。

そこで今回は、この「M&A」とは何なのか、本当に企業の成長を加速させるものなのかを、改めて皆さんと共に考察していきたい。

400万台クラブ説が自動車メーカーの規模化を加速

戦略コンサルティング大手のATカーニーが実施した調査によると、M&Aが最も盛んである米国においても、M&Aが成功する確率(企業価値が増大する確率)は全体の4割程度に過ぎないという。これは裏を返せば、全体の6割は、当初の期待に見合う成果を上げられずに終わる、とも取れる。

では、M&Aの成否を分けるのは何か。統合効果はある程度の年月を待たなければ見極められないため、今回は1998年5月、「独ダイムラー社が米ビッグスリーの一角を買収する」という衝撃的なニュースで幕を開けた、世界規模での自動車業界再編劇を例に検討する。

この再編劇が、それ以前に見られた合従連衡(例えば、英国では英国資本の量産メーカーの大半が姿を消すような大規模の再編もかつてあった)と異なるのは、これを加速させたのが「400万台クラブ」という表現に代表される、「自動車メーカーは、さらなる規模化を図らなければ、一部の特殊な企業を除き、生き残れない」という、まことしやかな説であった点に尽きる。

いわく、今後の安全管理、環境対策にかかる技術開発コスト増大や、価格競争の激化などを考え合わせると、最低400万台を生産・販売する規模がなければ、勝ち残りは難しい。従って、合併・統合による規模化が必要だ、云々。

この「400万台クラブ」説は、精緻に検証されることもないまま、各国のビジネス誌、新聞などで盛んに喧伝され、その結果として先に挙げたダイムラー・クライスラーという米欧をまたがる巨大企業が一瞬にして誕生。同社はさらに、三菱自動車にも資本参加するに至った。

これを契機に米・フォードが従来からのマツダに加え、「ボルボ」「ジャガー」「ランドローバー」などのプレミアムブランドを手中にした。世界シェアトップの米・GMも、この動きを静観はできず、従来からの資本提携先となる、いすずやスズキに加え、富士重工業をグループに向かえ入れると共に、伊・フィアット、スウェーデン・サーブという欧州企業もグループ化し、韓国・大宇も買収した。仏・ルノーが当時、瀕死の状態にあった日産自動車に出資した理由も、こうした流れから見れば、腑に落ちることと思う。

この時期、「400万台クラブ」に向けた規模化に加え、「高級ブランド」の買収も多く行われた。先に挙げた「ボルボ」「ジャガー」「ランドローバー」の例に加え、「ベントレー」「ドゥガッティ」「ランボルギーニ」は、独・フォルクスワーゲン・グループに。「アストンマーチン」は米・フォードに。「ロールスロイス」は独・BMWの手に渡った。ちなみに、「フェラーリ」「アルファロメオ」「マゼラッティ」は、伊・フィアットの子会社であるので、間接的にGM グループに入ったこととなる。

こうした結果、巨大グループは、さらに巨大になり、2002年には、おおかたの自動車メーカーが、いずれかの大手自動車企業の傘下に入ることとなった。

この際、どことも組まず、「400万台クラブ」と一線を画したのは、大手の中では独BMWと本田技研工業、だけである。またトヨタ自動車は、日野自動車、ダイハツを子会社化してグループ内強化を図ったものの、外部買収には出なかった。韓国・現代は起亜を子会社化した。

安全、環境に係る開発費増大の危機感が高級ブランドを動かす

ここで、「M&A」とは何なのか、という冒頭の問いに戻って整理しよう。企業買収の狙いは(買収する側から見て)一般に、二つに大別できる。

一つは、「時間を買う」狙い。例えば、新たな販売地域に打って出る場合、ゼロから流通システムや顧客基盤を構築するには、相応の時間、費用がかかる。新規事業分野への進出や既存ブランドの取得も同様だ。これらを確立するための時間を節約するために、既に必要な機能や価値を持つ企業を買収するわけだ。

先の自動車業界再編の例で言えば、「アストンマーチン」「ロールスロイス」といった「高級ブランドの買収」は、この「時間を買う」に相当する。高級車市場は、販売台数の拡大は期待できないものの、メーカーにとっては収益性が高く、魅力がある。しかし、世界的な高級ブランドとして認知を得るまでには、(米国におけるトヨタ自動車「レクサス」など一部の特異な例を除いては)長い時間を要する。これを短期間で手中にするには、買収が最も手っ取り早いのである。この場合、生産コストの低減などへの期待はほとんどないと言っていい。BMWなどは、「ロースルロイス」の販売権だけを買い、工場すら持たない状態でもよし、とした。

企業買収の狙いのもう一つは、「(規模化による)コスト削減」である。研究開発費や、原材料の購買コスト、生産コストを、スケールメリットにより相対的に低減させることを目指すものだ。市場シェア拡大による利益増大、価格支配権の獲得なども、規模化によって得られる効果という意味合いでは、この戦略の派生と言える。
「400万台クラブ」の狙いは、まさにこのコスト削減および、利益増大、市場シェア獲得にあった。コスト削減についてはとりわけ、「400万台」の算出根拠の一つでもあった、「今後、さらなる増大が想定される、安全管理、環境対策にかかる技術開発コストの(規模化による)吸収」が眼目となった。

顧客の安全志向は益々高まり、また、世界的な動向として国からは企業に対する環境負荷低減の施策が求められ(課され)ている。しかし、これらに対応にするためには、企業規模の大小を問わず莫大な研究開発費が必要となる。例えば、車体の安全性を担保する衝突試験にかかるコスト。或いは、代替エネルギーの開発コスト。これらは、生産台数・販売台数の多寡にかかわらず、同等にのしかかる。即ち、生産台数・販売台数の少ない企業ほど、これらコスト負担を受け止めきれず、引いては衰退していく。これが業界再編を加速させる論拠の一つとなった。

買収される側、とりわけ、有力なブランドを持つ中小規模の自動車メーカーから見た場合、「購買コスト、生産コストの削減」だけでは、大手に"身売り"するほどの魅力にはならない。大手と比べ、多少、購買コスト、生産コストが高くとも、利益率の高さによってこれらは充分に吸収できるからである。しかし、安全、環境にかかる開発費は違う。ある程度の生産・販売規模がなければ吸収しきれず、かといって対応しなければ、顧客は離れる。主力ブランドがこの時期、大手に次々と買収されていった背景には、こうした危機感があったのである。

400万台クラブ説に落とし穴合従連衡は成功せず

さて、この「400万台クラブ」説に端を発した業界再編の成否に話を戻そう。事の成否はこの場合、再編の結果として、各社の生産・販売台数が飛躍的に伸びたか、また、それによって利益が拡大したか、によって一義的には評価できる。

早速、2000年と2005年の数字を比べて検証してみよう。

まずは、2000年の販売台数(世界自動車調査月報)を見ると、米・GMグループの1381万台がダントツで、以下、米・フォードグループの802万台、米独ダイムラー・クライスラーグループの614万台、トヨタ自動車グループの562万台、独・フォルクスワーゲン・グループの489万台、仏日ルノー/日産グループの476万台と続く。(グループ会社リストは下記※欄を参照)

これら6グループのみが「400万台クラブ」メンバーで、本田技研工業は250万台、独・BMWに至ってはわずか73万台であった。

これが2005年にどのように変化したか。

GMグループは最大手ではあるものの、2000年の数字を大幅に下回り、880万台に落ち込んでいる。2位はトヨタ自動車グループの781万台。以下、フォードグループ775万台、ルノー/日産グループ575万台、フォルクスワーゲン・グループ503万台、ダイムラー・クライスラー466万台となっている。

つまり、これらの数字を見る限りでは400万台クラブメンバーでこの5年間で10%以上成長したのは、トヨタ自動車とルノー/日産自動車のみであり、大規模な買収を仕掛けた2000年の再編劇の主役ともいえるGMはじめフォード、ダイムラー・クライスラーは軒並み落ち込んでいる。他方、再編劇とは一線を画してきた上記2社は本田技研工業331万台、BMWグループ129万台とそれぞれ32%、76%の高成長を示している。

利益で見ても、GM、フォードは周知のとおり、大幅な赤字に陥っており、ダイムラー・クライスラーも、クライスラー部門ではなく、あのメルセデスベンツ部門が赤字であるという。

ダイムラークライスラーは、統合直後はクライスラーの不振が続き、ダイムラーからの資金供与が続いたが昨今は、クライスラーは復活したものの、今度は大本のダイムラーの業績不振が伝えられているのだ。

両社が揃って業績を上げることはないまま、株主価値の大幅な下げは進み、統合直後には920億ユーロにもなった時価総額は、2003年には買収前のダイムラー1社の価値476億ユーロにも満たない300億ユーロにまで落ち込んでしまった。現在はリストラ効果で500億ユーロレベルまで復活してはいるものの、投資家はこの世紀の大合併を全く評価していないといえよう。

自動車は典型的な規模型ビジネスであり、「大きいことは良いことだ」の代表例といわれたのになぜだろうか。規模を生かして、コスト削減し、そこから産み出されるキャッシュで、さらに強力なR&D投資を行い、世界的な地位を磐石にする、という戦略は間違っていたのであろうか。

「400万台クラブ」説の落とし穴はどこにあったのか。次回は、その真因に迫ることとする。

 

※自動車企業グループ一覧
2000年
GMグループ:GM(欧州、豪州GM含む)、スズキ、スバル、いすず、サーブ、フィアット
フォードグループ:フォード(欧州含む)、マツダ、ボルボ、ランドローバー、ジャガー、アストンマーチン
ダイムラー・クライスラーグループ:クライスラー、メルセデス、スマート、三菱
トヨタグループ:トヨタ、ダイハツ、日野
フォルクスワーゲン・グループ:VW、アウディ、セアト、シュコダ、ベントレー、ランボルギーニ
ルノー/日産グループ:ルノー、日産、ルノーサムソン、日産ディーゼル、ダチア
2005年
GMグループ:GM(欧州、豪州GM含む)、サーブ、GM大宇
フォードグループ:フォード(欧州含む)、マツダ、ボルボ、ランドローバー、ジャガー、アストンマーチン
ダイムラー・クライスラーグループ:クライスラー、メルセデス、スマート、三菱
トヨタグループ:トヨタ、ダイハツ、日野
フォルクスワーゲン・グループ:VW、アウディ、セアト、シュコダ、ベントレー、ランボルギーニ
ルノー/日産グループ:ルノー、日産、ルノーサムソン、日産ディーゼル、ダチア
現代グループ
BMWグループ:BMW、ミニ、ロールスロイス

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