仕事と生活、バランスか、ブレンドか 

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働く現場では、「ワーク・ライフ・バランス」に対する重要性の理解がずいぶん浸透してきたように思います。長い人生にあっては、ときに子育てや親の介護に時間が取られる時期もあります。また、普段の仕事と並行して、何か資格や学業に取り組んだり、趣味やボランティアに励んだりしたいときもあるでしょう。人生は、仕事だけに一方的に縛り付けられるものではありません。私たちは一個の人間としていろいろな側面をもって生きていきます。一職業人というだけでなく、一人の親、一人の子ども、一人の市民、一人の趣味人として活動していくために、この仕事と生活のバランスをとるという意識と実践は大切です。

ところが、仕事を生き生きと進める人の中からは「バランスじゃないんだよなあ。少なくとも自分はバランスを考えない」という声がよく出てきます。私自身も両者の「バランス」を取るというニュアンスでは働いていない一人です。

つまり、「ワーク・ライフ・バランス」は基本的には、仕事と生活を区分けし、互いの干渉を避けようとする姿勢のものです。そうして両者の均衡をうまく保っていく。ですからどちらかというと守りの形です。

それに対し、いわば攻めの形を私は「ワーク・ライフ・ブレンド」と呼んでいます。仕事と生活の区分けは曖昧で、仕事の中によりよい生活の発想を得、生活の中でよりより仕事の発想を得るという相互に創造的な影響を与えあう構図です。

両者の区分けが曖昧だからといって、よく言われる「ワーカホリック(仕事中毒症・仕事依存症)」とはまったく異なります。ワーカホリックは、自分が定めた目的ではなく、組織からの命令のもとに働かされてしまうという不健全な状態をいいます。自分には強い意志がなく、ズルズルと残業をし、ズルズルと疲れを引きずって生活を送ってしまう状態です。これは「ワーク・ライフ・メシー」(メシー:messy=ごちゃ混ぜ、乱雑)といったものです。

「ワーク・ライフ・ブレンド」は、みずから見出した目的・意味のもとに嬉々として仕事をし、生活をする。仕事のために生活を犠牲にするのでもなく、生活のために仕事が犠牲になるのでもない。生活も仕事もある共通の価値軸にもとづいて両方盛り上がる。そんな状態です。ですから彼らにとって「バランスを取る」という表現は感覚にマッチしないのです。彼らの意識を代弁するのが、米・コロンビア大学で哲学の教鞭を執るジョシュア・ハルバースタムの次の言葉です。

「バランスばかりにとらわれていると、われを忘れて何かに打ち込むという豊かな体験を逃してしまうことになりかねない。妥協は情熱の敵であり、意思決定の方法としては二流である。(中略)バランスが常に理想的であるとはいえないのである」。 ───『仕事と幸福、そして、人生について』の「ピカソは“バランス”を求めただろうか?」の節より

念のために加えておくと、ハルバースタムは「バランス」が悪いと言っているわけではありません。「バランス」を超えたところにさらに違う境地があると指摘しているのです。

そうした仕事と生活の関係状態を4つのタイプで分けてみたのが下図です。

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■ワーク・ライフ・バランス 
「仕事」も「生活」もきちんとやりたい。
両者を区分けし、調和させる。
自分が大事にしたい軸を持っている。
が、仕事に求める軸と、生活に求める軸はおそらく異なっている。

■ワーク・ライフ・ブレンド 
「仕事」も「生活」も区分けなく融和させて楽しんでいる。
両者が相互に活性化しあう。
自分が大事にしたい軸を持っていて、
その軸は仕事と生活を共通に貫ける太くて強いもの。

■ワーク・ライフ・スプリット 
「仕事」と「生活」を完全に分離する。
「仕事」は労役的なガマン。せめて「生活」で楽しいことを。

■ワーク・ライフ・メシー 
「仕事」と「生活」がなし崩し的に混ざり合い、
どちらも鈍く重い感じ。

これら4タイプの中で、基本形として大事にしたいのが「ワーク・ライフ・バランス」です。そしてもし、自分に何か大きな意味や価値を見出した仕事目標があって、家族もそれに共感し応援してくれるなら、その難事業に取り組む状態は必然的に「ワーク・ライフ・ブレンド」的なものに変わっていくのではないでしょうか。

要は、「ワーク・ライフ・バランス」といい、「ワーク・ライフ・ブレンド」といい、それが目的としてあるのではなく、自分がしっかりとした軸を持って、それをもとに仕事を回していくかどうか、生活を回していくかどうかという態度・意識の結果として、「バランス」や「ブレンド」、「スプリット」「メシー」の姿があるわけです。私たちが見つめなおしたい最も大事な観点は、内面に醸成する軸があるかないかです。

ですから、昨今の「ワーク・ライフ・バランス」論議で誤解があるのは、「ワーク・ライフ・バランス」型の働き方を実現すれば、仕事へのやりがいが出て、キャリアがひらけてくるといった効能主張です。会社が「ワーク・ライフ・バランス」を実現しやすいよう制度として後押しするというのは重要ですが、それは外側からの支援にすぎません。「ワーク・ライフ・バランス」の実現と、仕事にやりがいを見出せるか否かはまったく別の問題です。

仕事に対する自分の軸、生活に対する自分の軸。仕事と生活の関係性を決めるのは、あくまで自分の内側にあります。

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