ローマ帝国を滅亡に導いたアウトソーシング 

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ローマ帝国の盛衰は古今東西の歴史家を魅了してきました。日本では特に塩野七生さんの一連の書籍の愛読者も多いことでしょう。ローマ帝国の隆盛と滅亡の理由には様々な要因が絡んでいますが、今回は国の重要な機能に着目し、そのアウトソーシングが破滅的な結果を引き起こしたことを見ていきたいと思います。

なお、ローマ帝国は厳密に言えば東西に分かれたあと(395年)、東ローマ帝国は首都をコンスタンチノーブルに移し、15世紀まで続きましたが、本稿では主に東西分裂後すぐに滅亡(476年)に至った西ローマ帝国を念頭に置きながら議論を進めます。

さて、元々ローマ帝国は、ティべレ川河畔に興きた都市国家を源流とします。紀元前6世紀ごろには後のローマ帝国の祖先に当たる民族が治めるようになり、他の国家に先駆けて共和制の国家をつくり上げていきました。

その後、紀元前1世紀にはユリウス・カエサルが活躍し、版図を広げました。そして、カエサルの後継を巡って争って勝ったアウグストゥスが紀元前27年に皇帝となり、ローマ帝国が成立します。その最盛期は「五賢帝時代」と言われる2世紀とされます。

ローマ発展の最大の要因は、その強大な軍事力と政治・法律の力でした。バリューチェーンで書けば、図1のようになります。

図1.ローマのバリューチェーン

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この時代、国内産業の育成も大事でしたが、それ以上に重要だったのは、他の国を攻め、そこを属州として版図に組み込み、締め付けを行い、その属州から生まれる富をローマにもたらすことでした。ちなみに、前回のテーマであるキリスト教が生まれた時代、パレスチナ地方はローマの配下にありました。皇帝ネロが66年に軍を派遣し、何十万人とも言われるユダヤ人を殺害し、1つだけ城壁が残った(いわゆる「嘆きの壁」)というのは有名なエピソードです。

さて、この時代における帝国の重要な競争優位性を支えるものは、その軍事力でした。もともとティべレ川沿いの小さな都市国家であったローマがイタリア半島を統一したのも、その軍事力あってのことでした。

ローマ軍は極めて規律が高く、祖国のためとなれば元老院から平民に至るまで、戦士として戦う準備ができていました。この規律は、飴と鞭で裏付けられていました。逃亡しようとすれば厳しい罰が待っています。部隊のパフォーマンスが悪いと共同責任を取らせるという制度もありました。その一方で、戦功を上げた兵士には名誉が与えられ、様々な褒美も与えられました。こうしてモチベーションの高い、祖国愛に溢れた軍隊ができ上がり、ローマの競争優位性の源泉になったのです。

もう1つのローマの競争優位性は、その法治システムです。世界的にはまだまだ属人的な治世が行われている時代に、いち早く法律を整え、その法律を属州にも輸出することで、法による支配を実現しました。ちなみに、ローマ法はいまだに世界の法体系に大きな影響を残しています。

ローマは、派手な美術や文学といった文化をほとんど生み出しませんでした。形として作ったものも、道路や公共浴場といった実用的な建造物が主です。ひたすら現実的なのです。そして現実主義の究極が、強力な軍と法治システムだったのです。

では、そこまで隆盛を誇ったローマ帝国がなぜ滅亡したのでしょう。今風の言葉を使えば成功の復讐です。ローマはあまりにわが世の春を謳歌し過ぎました。緊張感や危機感の中で保たれていた軍の規律も徐々に緩みます。そして、軍の弱体化が加速したのが傭兵の活用でした。つまり、軍のアウトソーシングです。それほど頑張らなくても富を享受できるのですから、軍に好き好んで参加しようというローマ市民は少なくなります。

この流れを加速したのが212年のアントニヌス勅令です。これはローマ領内のすべての自由民がローマ市民権を有するとした勅令です。これにより、「属州民がローマ市民となるには退役を全うしなくてはならない」という制約が消えてしまいました。本来は、ローマ市民を増やすことで税収を増やしたい、あるいは、市民を増やすことで軍を強化したいという目的から出た勅令でしたが、結果として、全く逆の意図せざる結果をもたらしました。ますます傭兵に頼らざるを得なくなったのです。

ちなみに、このような勅令が出た背景には、ローマのもう1つの強みであった法治システムの退化という要素もありました。皇帝が親政強化を強めた結果、政治の属人性が進み始めたのです。

傭兵の活用で大失敗だったのは、傭兵を潜在的な敵である蛮族から採用したことです。ビジネス的に言えば競合にアウトソーシングしたようなものです。476年に西ローマ帝国を滅ぼしたオドアケルが西ローマ帝国の傭兵隊長だったというのは象徴的です。

ローマ帝国もある時期、これではいけないと気がついたはずですが、一度アウトソーシングした機能を取り返すのは至難の業です。モチベーションもスキルも既に失われ、帝国を維持するにはさらにアウトソーシングに頼らなくてはならないという悪循環に陥っていました。先述した政治の属人化が進むなど、悪循環が複層的に加速されたという点も解決を非常に難しいものにしていました。

こうしてローマ帝国は滅ぶべくして滅んでいきました。そして中世という長い長い停滞期が始まったのです。

さて、このケースから我々が学べることとして、以下を挙げたいと思います。

(1) 競争優位性の源泉をアウトソースすることは破滅を招く(潜在的競合へのアウトソースなど、もってのほか!)
(2) 悪循環は気がついてから止めることはできない。悪循環に陥る前にそれを避ける努力をすべき
(3) 自分たちの成功が永遠と思い始めた瞬間に没落が始まる

 

東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』(以上PHP研究所)、『利益志向』(束洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『グロービスMBAアカウンティング』『グロービスMBAマーケティング』『グロービスMBAクリティカル・シンキング』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA組織と人材マネジメント』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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