オンライン教育でリーダーは育つか? 

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< 今回のポイント >
・ビジネスには正解がない。意思決定には「総合力」が必要
・「総合力」を鍛えるためには、MOOCよりもSPOC
・「学びについて学んでいく」課程を楽しもう!

前回までは、オンライン教育を考える上での3つのキーワードとして、「アダプティブ」「ゲーミフィケーション」「コミュニティ形成」ということをご紹介してきました。しかし、この3つを繰り返しさえすれ教育効果は高まるのかと言えば、当然ながら、そんなことはありません。

こういった新たな教育の手法論(How)は確かに注目されがちではありますが、私自身は、本当の論点は「どの能力を鍛えるか」、というWhatのところにあると思っています。

今回はそのWhatの話に触れつつ、もう1つのキーワードであるSPOC(Small Private Online Courses=小規模限定型オンラインコース)の話を深めていきます。

答えのない課題に向き合う力をどう育むか

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我々が考える問題や課題は、「正解があるもの」と「正解がないもの」に分けられます。算数などは正解がある典型的な領域でしょう。正解があり、そして正解に至るまでの正しい道のりがあります。したがって、もし正解に至らなければ、どこのプロセスに問題があったのかということが分解できるので、何を鍛えればいいのかも具体的になります。

例えば、一次方程式の正解率が上がらない場合、四則演算や等式の性質、少数・分数の概念などのいずれかの項目に立ち戻ってしっかりトレーニングすればいいのです。そのトレーニングには、今まで紹介したような手法論、つまり、モジュール化したコンテンツを適切に紹介し、ゲームやコミュニティ機能を活用してモチベーションを維持する反復学習の仕組みを用意すれば効果的でしょう。

しかし、課題には必ずしも正解があるものばかりではありません。特に我々がビジネス上で直面する多くの課題には普遍的な正解はありません。

・うちの組織はどの顧客をターゲットにすべきか?
・この業務はアウトソースすべきか? どのベンダーを使うべきか?
・我が社は何をビジョンとして掲げるべきか?

このようにビジネスパーソンが日々直面している課題には、予め決められた正解もなければ、こういうプロセスをたどれば必ず正解に至ることができるという方程式があるわけでもありません。

ビジネスは極めて複雑な因果関係の中に置かれています。1日前はうまくいった意思決定も1日経って環境が変わった瞬間にうまくいかなくなるということが日常的に起こります。ある事業で成功した手法も、置かれた環境が微妙に異なる事業では失敗要因になり得ます。厄介なことに、仮におかしな意思決定をしても、その後の実行段階でパフォーマンスを高められれば結果的に成功となる「結果オーライ」ということさえあります。つまり、ビジネスにおける意思決定、というのは、普遍的・汎用的な正解はなく、その時の環境次第の「ケースバイケース」でしかありません。

そして、このケースバイケースにおける最善解を導き出していくためには、「正しく環境を分析する力」「そこから新たな発見を見つける洞察力」「仲間と意見を戦わせて仮説を作り上げるディスカッション力」「最終的に右か左を決める決断力」・・・といったことの「高度な合わせ技」になります。

こういった合わせ技を習得するには、やはり擬似的な環境を作り上げて意思決定経験を積み重ね、「体得」していくしかありません。もしサッカー選手が「ここ一番の場面での判断力」を高めようとしたら、プレッシャーのかかる試合での試行錯誤を繰り返すしかないのと同じです。

SPOC: オンラインとオフラインの融合型

今までこのコラムで紹介してきたMOOCやe-Learningのようなオンライン教育の手法は、具体的な知識の習得や細分化しやすいスキル獲得には強みを発揮しますが、このような因果の複雑に絡み合った「合わせ技」「総合力」の習得においては限界があります。

昨今、こういった「総合力」を鍛えるのに適した手法が注目されています。それがSPOC(Small Private Online Course=少人数限定オンラインコース)という形式です。

SPOCとは、少人数の限られた空間の中で、意見交換を通じて学びを深めていく、というスタイルになります。AI(人工知能)を相手に反復を重ねるのではなく、既に録画されたコンテンツを一方通行で視聴するのでもありません。教室で行われる双方向で生身の議論をオンライン上に移植した、ある意味「オンラインとオフライン(通学型)の融合型」と言ってもいいでしょう。

グロービス経営大学院は2014年10月よりオンラインMBAというサービスを開始しましたが、我々が採用した手法はこのSPOCになります。

この手法は海外にも既に浸透しており、ビジネススクールにおいても、スペインのIEやカーネギーメロンTepper School、そしてハーバードビジネススクールにおいてもHBX LiveというサービスにおいてこのSPOC形式を部分的に取り入れています。

また第8話「MOOCは儲かるのか?」で触れたとおり、MOOCのプラットフォーム上でも、メンターを付け、人数を限定したプロジェクトワーク形式によって学びを深める手法を導入しています。これも実質的なSPOCと言えるでしょう。リーダーシップや意思決定力のような複雑な能力を鍛えるためには、MOOCよりもSPOCのスタイルが選ばれているのです。

ハーバード大学のロバート・ルー教授は、SPOCについてこのような言葉を述べています。

「MOOCはオンライン教育の初期段階の代表的存在であったが、もはやその時代は終わった。明らかになったことは、少人数グループと大規模グループでの学習効果は大きく異なるということだ。そしてSPOCのような小人数のクラスはしっかりした評価も可能になるので、クラス終了後の資格授与や認証もしやすくなる」

私自身は、「MOOCの時代は終わった」とは思いませんが、MOOCがオンライン教育の議論の中心となるフェーズは間違いなく終わったと言えるでしょう。「何を鍛えるのか」(What)に合わせて、「どういうツールを使うべきなのか」(How)ということを真剣に議論する段階に移行したのではないかと思います。

グロービス・オンラインMBAのチャレンジ

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具体的に事例として、グロービスではSPOCをどのように運営しているのかをご紹介しましょう。

まず1クラス当たりの人数は30名前後という規模で運営しています。一般的なSPOCは小規模といえども百~数百名規模ですが(それでも数万~数百万人を対象とするMOOCよりは小規模)、グロービスでは全員で議論できるように、さらに人数を絞った形で行っています。全てのクラスは決められた時間(90分間)に全員がログインして行うライブ形式で行います。録画視聴は欠席者向けの補完サービスとして行っていますが、その時間にライブの議論に参加できなければ出席にはなりません。

90分間の設計スタンスは、「1人で完結できることは個人ベースで行う」、そして「集合した時間内には徹底的に議論を行う」ということを基本としています。

議論のフォーマットは、口頭ベースもあれば、テキストベースのチャットもあります。チャットの議論はオンライン特有の形式ですが、極めて効果的です。教室では1人が意見を言っている間、残り全員はそれを聞いているしかないのですが、チャットであれば全員が同時に意見表明することができます。講師はtwitterのタイムラインを見る感覚で、受講生全員のスタンスを理解することができます。もしその中で興味深い意見があれば、指名してより具体的な発言を求めることもできます。教室では埋もれてしまうような意見も、チャットによってすべて可視化できるわけです。

もう少し具体的に説明しましょう。

例えば、ある事業のリーダーとして市場参入の是非の意思決定を行う場面があったとします。受講生は、事前にやってきた予習に基づいて、チャットベースで意見を上げていきます。「私は参入します。なぜならば・・・」といったように。その中から講師が特徴的な意見をいくつかピックアップして、口頭ベースで詳細なプレゼンテーションをしてもらいます。そのプレゼンに対して他の受講生がチャットでフィードバックし、議論を深めていきます。

90分間息もつかせない速さで「問いかけ」→「意見表明」→「プレゼン」→「フィードバック」→「まとめ」というサイクルを回し続けます。このサイクルを回し続けることにより、緊張感のある環境下で意思決定することの「経験値」を高めることができるのです。

カニバリゼーションではなく「機会の拡大」

オンライン型のサービスを始めてから、「通学型の学習形式に取って代わっていくのではないか?」ということを聞かれることがあります。オフライン型(通学型)のサービスを持っている我々としては、始める前にそのような懸念も持っていましたが、蓋を開けてみるとそれは杞憂に過ぎませんでした。オフラインにはオフラインの良さがあります。そこには引き続き根強いニーズがあり、意義があるのです。

私が実感していることは、そのような「カニバリゼーションの脅威」ではなく、意欲はあるのに教育機会に恵まれなかった人への「機会拡大」という側面です。

例えば、海外転勤により学習の継続をあきらめざるを得なかった人、キャリアを向上させたいと思いがありつつも出産や介護などで家を離れられない人、出張続きで決まった曜日、決まった時間に通学することが難しい人・・・。こういった人に対する機会提供、すそ野の拡大の意味合いの方が圧倒的に大きいのです。

グロービスとしては、この側面を前向きに捉え、「オフラインとオンラインの相互乗り入れ」を制度的に担保しています。つまり、通学型で入学した人がオンラインのクラスを受講することも、逆にオンラインで入学した人が通学型のクラスを受講することも可能としました。こうした学び方の多様性を確保することは、すべて「教育機会の拡大」「利便性の向上」につながると考えています。

「カニバリゼーションを心配する前に、機会拡大の側面をどう伸ばしていくかを考える」

これが教育のオンライン化を考える大切な視点なのだと思います。

「学びについて学んでいく」過程を楽しもう

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さて、今まで11回の連載を通じて、オンラインを通じた教育のあり方の変化を辿ってきました。
一連のストーリーをお読みいただいた方にはお分かりだと思いますが、この変化はもはや必然であり、不可避の流れです。

変化そのものを疑ったり、オンラインによる学びには限界があるのではないかと過小評価したりするのではなく、「変化に対してどう向き合い、どう働きかけていくのか」ということが、教育に携わる者にとって重要な問いになってきます。「教育は、こうでなくてはならない」という凝り固まった考えで思考停止してしまうのではなく、絶えず好奇心を持って新しい教育について学んでいく姿勢こそが、教育関係者にとって何よりも大事なことだと思います。

edX設立時、ハーバード大学学長であるドリュー・ギルピン・ファウスト教授が述べた言葉を引用しましょう。

「このedXというサービスは、教育の機会をより多くの人に広げていくという意味合いを持つだけでなく、我々自身が“学びについて学んでいく”過程でもあるのです」

この“学びについて学んでいく”という言葉こそ、これからの教育を考える上での核心を突いているのではないでしょうか。私も教育業界の当事者として、これからも多くの変化に学びながら、新たな道を切り開いていきたいと思います。是非これからのオンライン教育の動きを皆さんも楽しみに見ていてください。

全11回のコラムを最後まで読んでいただいた方に、改めて御礼申し上げます。

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