アダプティブ・ラーニングという新たな戦い 

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< 今回のポイント >
●コンテンツの多様化は過熱状態で、差別化が難しい
●個人に最適化する「アダプティブ」の発想がカギ
●「すらら」や「Knewton」の試みが面白い

今まではMOOCという側面から教育界の変化について語ってきましたが、もちろん今後の教育界に影響を与えるのはMOOCだけではありません。

EdTech(Education×Technology)という言葉が認知され始めているように、この領域はベンチャーから大企業まで数多くのプレイヤーがひしめき合って戦っています。

そこで、今回はより幅広い観点から「教育×IT」領域の動きについて俯瞰してみたいと思います。

過熱状態にあるコンテンツの戦い

現状のオンライン上の教育コンテンツは、かなり熱い戦いになりつつあります。既にMOOCのような教育機関のコンテンツは大量に存在し、ログインすれば誰もが視聴できるようになっています。もちろん、まだ翻訳されていない英語コンテンツは多いのですが、例えばリクルートは2013年にUdacityと協業契約を締結し、日本語字幕版コンテンツの制作を推進しています。大量のMOOCコンテンツが日本語環境でも見られる状態になるのも時間の問題でしょう。

加えて、先日ベネッセとの提携で話題になったUdemyのような「個人が作成する教育コンテンツ」も充実していくことが想定されます。

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さらに、「企業発」からも、有料サービスへの誘導の一環という位置づけで、「マーケティングと教育の中間地点」のような無料コンテンツが今後も増えていくでしょう。

このように「教育機関」「個人」「企業」というそれぞれの立場からの教育コンテンツの充実化が進みつつある昨今、「いつでもどこでも好きなコンテンツを学習できる」という状況になっていくことは時代の必然かもしれません。

しかし、第6話「教育の新たな可能性が見えてきた!」でMOOCの課題を説明したとおり、「コンテンツそのものの勝負」には限界が見えています。雑多に広がるコンテンツから自分の必要なものを見極めて、自律的に学習できる「ごく少数の意欲的な人」や「教育機会に恵まれていない人たち」にとっては極めて素晴らしい環境かもしれません。他方で、それ以外の「大多数の一般的な人々」にとっては、単に「選択肢がやたらと増えただけ」でしかないのです。

基本的に人間の集中力はそう続くものではありません。特にオンライン学習というのは、物理的には「独学」なので、その集中力の欠如がより前面に出てきます。いざ学ぼう、と思っても、FacebookやLINEの通知が気になったり、はたまた周囲の動きに気を取られてあっちこっちをフラフラしてしまったり、という経験は誰にも少なからずあるのではないでしょうか。

ちなみに、このようなオンライン学習における人のフラフラした動き方を蝶にたとえて、「バタフライ・ディフェクト」と呼ぶそうです。

その前提に立ち、学習者をどうやってエンゲージ(引き込む、注意を引く)させていくかという「条件整備」こそが、コンテンツが充実してきた今、改めて問われています。

そして、その「条件整備」のキーワードとして把握しておきたいのは、「アダプティブ」「ゲーミフィケーション」「コミュニティ形成」という3つのキーワードです。

そのうち、今回は「アダプティブ」について考えていきましょう。

アダプティブ:個人に最適化した学習

最初のキーワードは、「アダプティブ」というものです。日常的には聞き慣れませんが、オンライン教育を語る上では必須のキーワードです。よく「アダプティブ・ラーニング」のように語られます。日本語に訳すと、「個人に最適化した学習」ということになります。

つまり、今までの学校教育によくあるような「クラス全員をまとめて、集団一斉・同時進行していく学習」の反意語として語られるもので、「それぞれの学び手に応じて適切な内容、適切なスピードで進める学習モデル」のことを指します。

学習過程で得られる大量のデータをベースにして、独自のアルゴリズムと組み合わせながら、個々の生徒に対して適切なコンテンツを提供していく、というモデルは様々な形で発展してきています。多くの資金がこの領域のベンチャー企業や大学研究費に流れ込んでいます。

この連載の読者にはお分かりかもしれませんが、第3話「MOOC前夜: カーンアカデミーの衝撃」でご紹介したカーンアカデミーにおいても、「本当のパワーの源泉は設問のソフトウェアにある」(サルマン・カーン氏)というように、受講者のレベルチェックの仕組みに多くの資金を投資しました。一人ひとり異なる受講者のレベルを見極めて、細分化された膨大なコンテンツの中から適切なものを選び出し推奨するということが、オンラインにおける継続学習の重要なポイントであると考えていたからです。

そのアダプティブ・ラーニングを理解する身近な例として、「すらら」を紹介しましょう。

すらら」とは、株式会社すららネットによる、小学校高学年から高校生を対象とした「対話型アニメーションe-Learning教材」です。

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「すらら」の優れたところは、生徒一人ひとりのドリルの理解度や正答率に応じて、学ぶべき単元や問題の難易度を調整し、その生徒に最適な問題を出題するシステムにあります。

勉強が苦手な生徒は、大概は「何が分からないかが分からない」という状況に陥ります。「すらら」は、独自のアルゴリズムを通じてその弱点を明確にするとともに、科目の内容を極限まで細かく分解・体系化したことにより、「学び直すべき単元」をコンテンツレベルで具体的に推奨することができます。その結果、その個人にとって最適化された問題を繰り返し解いていくことにより、通常の教室では落ちこぼれていく生徒であっても、一歩ずつ着実に弱点を克服していくことができるようになるわけです。

考えてみれば、優秀な塾の先生というのは、「個々の生徒の弱みを発見し、適切な課題のレベル設定を行う」という点で、「アナログベースのアダプティブ・ラーニング」だったわけです。そのような優秀な先生が持つ「暗黙のノウハウ」をテクノロジーの力を通じて再現性のある形で自動化した、というところにこのサービスの面白さがあります。

さて、ここで紹介した「すらら」はその一例ですが、「アダプティブ・ラーニング」の領域ではアメリカ発の「Knewton」など、大量のクオンツ専門家を抱えてアルゴリズムを開発するような強力なプレイヤーが現れています。この「アダプティブ」という領域については、これから近いうちに我々が実感できる形のサービス開発が加速してくるはずです。

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そして、この「アダプティブ」に対する開発が進み、各個人における特性が精緻になればなるほど、その結果として推奨されるコンテンツの方も、より細分化・体系化の必要性が高まり、提供方法も多様化していくでしょう。同じ科目を学ぶとしても、テキストベースで学ぶべきか、動画で学ぶべきか、はたまたチューターとの質疑応答によって深めていくべきか・・・。そんなことも含めた多様な学習モデルの開発が進んでいくことになると思います。

クラス一律提供だった学習モデルが「パーソナライズ」された学習モデルへというのが、オンライン化が進む教育においては必然のトレンドになっていくでしょう。

では、オンライン化によって、教育は完全に個人個人は孤立したものになっていくのでしょうか。必ずしもそうではありません。

次回はこの延長で、「ゲーミフィケーション」や「コミュニティ形成」というキーワードについて、深めていきたいと思います。

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