骨太企業 苦難が鍛える 

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(2013年12月3日付け日経産業新聞の記事「VB経営AtoZ」を再掲載したものです)

起業家の志 あってこそ

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社会が抱えている課題を解決したいという「志(こころざし)」に燃えた起業家が増えている。1990年代末以降、2度のベンチャーブームと現在を比較した時、最も顕著な違いが、「なぜ、起業するのか」というマインドの部分だと私は感じている。

ベンチャーキャピタリストが投資判断の際に最も重視する点に「創業者の器」がある。もちろん、市場機会、事業計画、経営陣などを網羅的に見るが、「社長の視座の高さが会社を決める」というのは過去17年間で得た経験則だ。創業の志、経営陣の覚悟が、ベンチャーに集まる人材と組織文化を左右し、その結果、どこまで成長できるのかというシナリオ、そして到達点までも決めてしまう。

では、志ある起業家はどのように生まれるのか。ベンチャー業界では「不況期に出現したベンチャーは大成する可能性が高い」とも言われている。苦しい市場環境のもと、何のために創業するのか、何を実現したいのか、「起業の使命」をとことん突き詰めて考えなければ企業の存続もままならないからだ。環境が起業家の意識を研ぎ澄まし、試練が組織を鍛えるのだ。

私にとっての原体験は、ワークスアプリケーションズだ。グロービスでベンチャーキャピタル(VC)事業を設立した直後の97年、山一証券破綻に端を発した貸し剥がし不況の真っただ中だった。ワークスAPは、100社のVCに出資を断られた末に、我々のところにやって来た。事業計画書には、日本のソフトウェア産業を強くすることで日本企業の競争力を高めたいという確固たる使命感と、創業者3人の覚悟が込められていた。これまで100社以上に投資し、その100倍以上の事業計画書を見てきたが、その言葉の力強さは格段であり、以来、私の手本にもなっている。

だがVCのほとんどは、たった数人でスタートしたベンチャーが大企業に勝てるはずがないと高をくくっていた。我々は、「勝機あり」と見て投資を実行した。ワークスAPはその後、経営戦略、人材の採用・育成など様々な分野で独自のアプローチをし、独SAPや米オラクルなどと競争できる日本企業に成長した。

90年代末以降、2度のベンチャーブームでは、成功した起業家が社会やメディアからロックスターのように扱われ、それに夢抱く若者も数多くいた。ところがライブドア事件と、その後のリーマン・ショックで日本の起業文化は一気に冷え込んだように思われる。

そして、東日本大震災。あの不幸で衝撃的な自然災害は「眠れる日本の起業家たち」を目覚めさせた。「自分は社会のために、今、何をなすべきなのか」ということを根本的に考え直すきっかけとなった。

今年は今までのところ、オイシックス、オークファン、フォトクリエイトの3社の上場を支援することができた。これらベンチャーに共通しているのも、志を高く持ち、リーマン・ショック以降の景気低迷期を乗り切ってきた点だ。経営者は30代にして10年以上の経営経験を持つベテランであり、各社とも明確な社会的使命を掲げている。

苦難を突破してこそ企業は強くなる。それは規模の大小、操業年の長短を問わない。ただ、日本では、志高く起業した若者たちが次々に芽吹き、長く厳しい冬を耐えた骨太ベンチャーが花開く、そのような季節を迎えているように思う。

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