<「東の食の実行会議」開催レポートII> 利益追求と社会貢献の狭間に、起業家たちが見つけた第3の道 

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利益か、社会貢献か?一見相反する2つの価値観を、軽やかに両立する経営者が増えている。社会起業家や地域プロデューサーといった仕事が普及し、若手ビジネスパーソンたちがNPOや地域振興に向かう。これまで政治やNPOの役割と思われてきた領域に、ビジネスの視点を入れることで、大きなインパクトが生まれつつある。社会問題を解決することこそが経営であり、社会貢献を通じて得られる経験やネットワークが経営資源となっていく。そこにあるのは「世界を変えていく」ビジョンとダイナミズムだ。

前号で紹介した「東の食の実行会議」仕掛け人であるオイシックスの高島宏平氏は「ビジネスと地域貢献」「ビジネスとNPO」の掛け合わせにこそ、大きなチャンスがあると話す。なぜ起業家が地域振興のプラットフォームづくりを目指すのか。

その理由は、2011年3月11日に遡る。

東日本大震災の直後、新入社員がアメリカに飛んだ

震災当日、オイシックス代表取締役の高島宏平は、東京・五反田のオフィスにいた。商談中、不意に建物がグラグラと揺れた。社内のテストキッチンに走り、火の元を確認し窓を開けた。フロアを回り、不安に駆られる社員たちに声をかけて回った。

震源は東北・三陸沖—。これは大変なことになると思った。「東北の生産者たちはどうしているのか」。いつもやり取りしている生産者たちの顔が次々と浮かぶ。しかし電話がつながらない。気持ちばかりがはやる。顧客や物流センターとの連絡、社員の安否確認に追われ、帰宅できない社員のために炊き出しを指揮しながら、テレビのチャンネルを回した。まんじりともできないままに夜が明けた。

翌3月12日、福島第一原子力発電所の爆発風景をニュースで見た。「これから東北が直面するのは、食の安全の問題だ」。そう直感した。

オイシックスの顧客の多くは、小さな子どもを持つ母親たちだ。「子どもに安心して食べさせられるものを」。そのニーズと向き合ってきた経験から、必要なのは正しい情報とデータを出すことだと考えた。ではどうするか。安全性を科学的に検証し、データで示すことだ。そうでなければ、根拠のない不安が、下手をすれば東北の食を潰しかねない。

放射線検査機器を手に入れよう。ニュースを見てから、わずか2時間後には社内会議で決定した。しかし国内で入手できたのは、中古の機器1台のみだった。すぐに世界中の在庫を調べさせた。新入社員だった山本は、当時の様子を振り返る。「会社から連絡があって、パスポートを持って今すぐ来て、と言われました。機器の在庫がわかり次第、世界中どこにでも飛んでもらうからと。結局アメリカで手に入れられそうということになり、すぐに飛びました。海外での交渉はおろか買付さえ初めての経験でしたが、何が何でも手に入れなければと思いました」。

社員たちが不眠不休で奔走した甲斐あって、震災からわずか1週間後の3月18日、自社検査体制が立ち上がった。対象全アイテムを検査し、検査結果を一覧化した表を、各家庭に発送する食材と共に梱包した。「検査済」の商品のみを出荷することを明記した。その成果がじわじわと広がり、コールセンターへの電話や、メールで届くお客様からの不安や戸惑いの声は徐々に減っていった。

「オイシックス1社でできることは、たかが知れている」

震災から1週間も経つと、つきあいのある東北の生産者たちからの声が次々と舞い込むようになった。自社の被害はもちろん、交通網が途絶えて販売チャネルを失った生産者。取引先が震災被害を受けた生産者。風評被害に戸惑う生産者。こんな時こそ、インターネットが役に立つはずだ。そう考え、オイシックスのWEBサイトで「東北被災地支援コーナー」を実施した。消費者の反応は良く、結果は上々だったが、1社で実現できる売上は限られていた。

「オイシックス1社でできることは、たかが知れている。東北全体に経済インパクトをもたらすには、流通・小売・飲食業界が一体にならなければ意味がない」。そう考えた高島は、首都圏を中心に46店舗の飲食店を展開するカフェ・カンパニーの楠本修二郎、伊藤忠商事を経て飲食ビジネスを経営する立花貴、ETIC.代表の宮城治男らに声をかけた。

「東の食に、日本の力を。東の食を、日本の力に。」をコンセプトに、2011年6月、一般社団法人東の食の会を立ち上げた。TABLE FOR TWO代表理事の小暮真久、後に経済産業省政務官を務める平将明らが発起人として参画し、マッキンゼーを休職して被災地で活動していた高橋大就が事務局代表に就任した。キリンやキユーピー、セブン&アイ・ホールディングスなど数十社が名を連ねた。

これまでのネットワークを武器に、東日本の生産者データベースをつくり、首都圏の流通・小売・飲食の経営者たちを回った。生産者たちと企業のマッチング、ブランディング支援、安心安全体制の支援、発信、政策提言を行動の中核に据えた。バイヤーと生産者を招いた定期的な商談会、企業訪問、商品開発サポート−−地道な活動が実を結び、いくつもの成功事例が生まれ始めた。一方で、被災地を訪れるたびにぶつかる壁があった。

たとえば同じ流通業で、同じ地域を支援しているのに、各社がバラバラの動きをしている。大企業が被災地支援に乗り出しても、数日のイベントで終わってしまい、雇用を生み出すこともなければ、地域に持続可能な成長をもたらすこともない。オール被災地で取り組むべき問題が、いつの間にか、地域や企業同士のセクショナリズムの問題に変質している。

東北に必要な経済インパクトを生み出すためには、まずプレイヤーが連携すること。情報を一元化し、連携する仕組をつくって、問題解決に向けてアクションすることではないか。そんな思いが日々、頭をよぎるようになった。

政治・企業・NPOの枠組みを本気で超えろ!

政府や民間がバラバラの活動をしていても意味がない。震災から3年間、様々な企業やNPOが復興に向けた活動を行なってきた。しかし必ずしもそうした活動の足並みが揃っているとは言えない。

であれば、東北の食産業の復興に向けたプレイヤーたちのプラットフォームを立ち上げよう。食に関わるキープレイヤーが集結し、行動ありきで議論する場をつくろう。東の食の会の理事らと議論を重ね、「東の食の実行会議」の計画が具体化していった。2014年4月、復興庁から「新しい東北」先導モデル事業に選ばれた。

復興庁に対して高島は「事業受託したからといって民間に任せきりにするのではなく、一緒に参画してほしい」と訴えた。地域・政府・企業・NPOが一丸とならなければ、復興はない。そのプラットフォームをつくるのであれば、土台づくりからして、官民の枠組を越えて取り組まなければ意味がない。思い切って腹を割って、復興庁担当者らと議論を重ねた。

東の食の会の楠本、宮城、立花、高橋。そして震災後、いち早く石巻に拠点を立ち上げ、ECサイト「復興デパートメント」を通じて東の食を支援してきたYahoo!の川邊健太郎、被災地に復興コーディネーターを派遣するRCFの藤沢烈、ジャーナリストの津田大介らが、趣旨に共感してチームに参画した。かねてからつきあいのある生産者たちに声をかけると共に、ローソンの新浪会長、キリンの磯崎社長らに、一人ひとり要請して回った。

「東北復興がなければ、日本の未来はない」「短期的な支援ではなく、東北が本当の強みを取り戻すために、何が必要なんだろうか」——。月1回の定例ミーティングには、実行委員はもちろんのこと、小泉以下の復興庁担当者らも参加し、意見交換を重ねた。

そして2014年7月18日、開催初日を迎える。各界を代表する150名ものキーパーソンたちが会場を埋め尽くした(当日の開催レポートはこちらから)。最終日、参加者全員によるグループディスカッションでは、11のアクションプランの発表が行われた。誰といつまでにやるか、具体的かつ緻密なプランばかりだった。一過性のイベントで終わるのではなく、具体的かつ持続可能なアクションを生み出したい。そうでなければ意味がないという思いで、この半年あまり準備を重ねてきた。まずは思った以上の成功を収めることができた。「これからは、アクションの徹底的な実行に力を入れていく」と高島は語る。

「ビジネス×地域」「ビジネス×NPO」の革命的インパクトを信じて

これまでも高島は、途上国の子どもに給食を届ける「TABLE FOR TWO」や、東日本大震災の遺児たちを支援する「BEYOND Tomorrow」などのNPOを立ち上げ、運営に参画している。起業家である高島が、なぜ社会問題の解決に取り組むのか。

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「社会起業家という言葉があるが、経営者と社会起業家を区別することは、あまり意味がないと思う。なぜって、経営者も本来は、社会問題の解決をするのが仕事のはずだから」と前置きした上で、高島は「ビジネスパーソンがNPOの仕事に関わることによって、実現できるインパクトの大きさは、双方にとって計り知れないものがある」と語った。

「NPOの領域では、ビジネススキルが圧倒的に不足している。普段は会社勤めをしている人が、わずか数時間をNPOの活動に費やすことで、ものすごいインパクトが生まれるんです」。事業計画をつくる。資金を調達する。人的ネットワークをつないで事業を形にする。広報やデザインを手伝う。プログラミングする。交渉する。スキルはどんなものでもいい。やりがい、インパクト、そして大企業とは異なる混沌とした組織で「やり抜く」ことを通じて身につくアントレプレナーシップ——。それは、手伝う人間にとっても、大きな財産になる。

「米国ではTeach For AmericaというNPOが、GoogleやAppleといった並みいる企業を抑えて就職先人気ナンバーワンになっていますよね。学生たちを教育困難地域の学校の教師として赴任させるプログラムですが、修了者たちは困難の中でも結果を出す力、リーダーシップを身につけて企業に戻っていく。同じことなんじゃないでしょうか。社会貢献を通じて、違う世界に飛び込むことで、自分の持つ力の何が世界で通用するのかがわかる。自分の学び、成長にもなる。ビジネス×地域、ビジネス×NPO、ここには大きなチャンスがあると思っています」。

利益は最終目的ではない。しかし、利益を出せないモデルで社会を変えることはできない。ビジネスと地域振興、NPO、政治——。それぞれの取組が、境界を越えて連携していくことで、ダイナミックな社会変革が始動していく。「東の食の実行会議」は、そのプラットフォームづくりに向けて挑戦を続けていく。

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