世界に、「水」ビジネスで貢献を! 

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初稿:2014年4月11日
第二稿執筆日:2016年3月30日

「水は世界で最も価値がある資源だ」

 映画「007」第22作「慰めの報酬(2008年)」で、ジェームズ・ボンドと対決する秘密組織の幹部が語った言葉だ。

 映画では、秘密組織が南米ボリビアを舞台に水資源の独占による世界支配を目論む。世界支配のキーは、石油でも金でもなく、水だ。映画「007慰めの報酬」の放映は2008年。現代の世界の課題を先取りした内容と言えよう。今や世界では水資源の争奪戦が繰り広げられている。急速に発展を遂げる中国では、湖の消失、汚染が相次ぎ、過去50年で約1000ヵ所の湖が消失している。年間20もの湖が枯渇している計算だ。かつて「千湖之省」と称された湖北省では、現存する湖の面積は2439平方キロメートルと1950年代と比べてわずか34%の面積にまで減少している。

 ロシアでは、1960年代までは世界4位、琵琶湖の100倍の面積を誇ったアラル海が消えかけている。灌漑用水に大量の水を使用したため水量が減り続け、9割以上が干上がってしまっているのだ。

 日本も他人ごとではない。水資源を求める中国資本を中心に外資による日本の森林買収が急増しているのだ。林野庁の調査によると、「居住地が海外にある外国法人又は外国人と思われる者による森林買収」は平成18年から平成25年(2013年)で79件、980haにのぼり、平成26年(2014年)の森林買収は、13件173haだという(出典:林野庁「外国資本による森林買収に関する調査」)。世界の水需給が逼迫していく中、日本の緑あふれる山を買い、水源地を確保しようとする動きが活発化しているのかもしれない(一方、買収された森林から実際に水をとりだした実績は無い。水を採取し運搬するには膨大な投資が必要となるので、どこまで水源確保が目的かは特定できない点もある)。

 日本人は長らく、空気と水と安全はタダだと思ってきたが、今や水は世界で最も価値のある資源であり、大きなビジネスの対象なのだ。水資源事業への投資は世界的潮流となり、世界の大手水関連企業の過去20年間の株価は約30倍になっている。

 日本では、ここ数年、超党派の議員連盟などによって、国内の水資源の保全を図るための「水循環基本法」制定に向けた動きが浮き沈みしてきたが、2014年3月27日、ようやく水循環基本法が成立した。水資源の乱開発を防ぐため、政府に必要な法整備を求めるなどの内容だ。水と水を生み出す環境は国家的資源であり、今後世界の水獲得競争は激しさを増していく。日本も国策として「水」に取り組む必要がある。

1. 水資源の確保のためにも日本の林業の復活を!

 増大する世界の飲料水需要によって、安全な水への需要はどんどん高くなっている。日本の水は世界でも屈指の安全さとおいしさを誇るが、実は日本の水資源は決して豊かであるわけではなく、1人当たり換算の資源量では世界平均の約2分の1に過ぎない。

 このため、水源地としての森林を押さえておくことは極めて重要だ。森林は、雨水を涵養(かんよう)し、地下水として蓄える。雨水が森林にしみ込む間に、自然の力でろ過され、おいしい水となるのだ。当然ながら、森林がなければ、降った雨水は蓄えられることなく、土砂崩れや洪水を引き起こすこととなる。したがって、森林は水資源の源であり、基幹道路や発電所などと並ぶ、国の重要な公共インフラであるという認識を持たなければならない。

 我が国は、国土の67%に当たる2500万haの森林を維持しており、先進国の中でも高い森林率を誇る森林国である。森林面積のうち約4割に当たる1000万haは人工林であり、近年、その面積は横ばいで推移している。しかし、我が国では長引く林業低迷の結果、先に述べたように不当に安い値段で外資に森林が売られたり、植林が放棄されて荒れたまま放置されたりと十分に森林が守られていないのが実態だ。

 日本の森林の約7割を占める民有林は、森林法によって その管理に関する事項が規定されている。森林法では、水源の上流域にあたる森林を水源涵養保安林に指定して保全を図ることになっているが、この水源涵養保安林には、日本の森林の約45%に当たる1142万ヘクタールが指定されており、あまりに広大であるため、森林法上の他の保安林と比べて規制が緩いと言われる。

 森林法上、保安林の伐採は許可制であり、植林をしないと森林法違反として罰金が課される。保安林以外の普通林でも伐採は届出制で、無届け伐採には罰金が課される制度になっている。しかし、実態は、植林放棄地は全国で1万7000ヘクタールあるにもかかわらず、森林法の処罰事例はほとんどない。植林放棄は資金不足によるものもあるが、届出制度があること自体所有者が知らない事例や、自治体によるチェック機能の無さも指摘される。

 植林放棄の影響は、世界の水獲得競争がさらに激化した数十年後、現出してしまう可能性がある。水資源涵養機能の保持のために、広大すぎる水資源涵養保安林を再定義して明確化するとともに、重要な水資源林に関しては、植林に必要な強いインセンティブを与えるべきだ。

 一番良い方法は、植林に経済的価値を見いだせる日本の林業の復活だ。林業や機械の近代化、人手不足等の課題はあるが、政府は積極的に後押しすることに真剣に取り組むべきでしょう。

2. 水資源の輸出規制・地下水利用規制の創設を!

 森林法では民有林の売買に関する規制条項はなく、 所有者は自分の林地を自由に売買することが可能だ。そのうえ、地下水の揚水に関するルール整備が不十分なため、法律上は、所有者は所有する森林の地下にある地下水を自由に汲み上げることができることになってしまっている。

 日本は水道水源のうち約3割を地下水に依存していると言われるが、地下水の揚水に関しては、工業揚水法などで一部規制が設けられているものの、生活用水や農業用水の地下水の揚水は基本的に土地の所有者の自由になっている。地下水が涵養され、更新される平均期間は、1400年と言われる。今後水資源の獲得競争が激しくなる中で、森林の売買も自由で地下水の揚水も自由という野方図な水資源管理は改める必要がある。

 法整備が不十分のため、現在は企業などが自治体と協力して自主規制によって、水資源の管理をしている事例がある。たとえば、山梨県北杜市白州町は日本有数の原水提供地で、サントリーのウィスキーやコカ・コーラ系の白州ヘルス飲料(株)など大手5社の地下水取水口がある。各メーカーは自社取得の敷地で地下水を汲み上げているが、大量の取水は付近の地下水の枯渇や地盤沈下を誘発してしまうため、同地では、自主規制によって地元自治体と各社との申し合わせと地下水位の観察がなされている。

 こういった自主規制の事例を参考としつつ、地下水の利用に関して取得制限や公表義務等を行う法規制を整備すべきだ。

3. 上下水道の民間開放を徹底し、経営効率化と規模化を進めて日本版水メジャーを育成せよ!

 世界では、フランスのヴェオリア、スエズ、英国のテムズウォーターなど、水道設備の製造から上下水道の整備・運営まで一括して運営する水メジャーと呼ばれる多国籍企業が各国の水マーケットを席巻している。

 これは、フランスやイギリスで古くからコンセッション方式によって水道事業が民間開放されてきたために企業が育ち、確立させた技術・運営ノウハウを背景に国際展開を進め、世界的な水メジャーへと成長したものだ。

 この水メジャーを追随しているのが、韓国とシンガポールだ。

 前シンガポール首相のリー・クアンユーは1970年代から国策として水に取り組んできた。シンガポールの1人当たり水資源量は世界で下から4番目の346立方メートルという少なさだ。そのため、シンガポールは隣接するマレーシアのジョホール州から水を輸入していた。両国間の水供給協定は1961年に結ばれ、50年間有効な協定であったが、2011年以降の協定更新交渉においてマレーシア側は100倍の価格上昇を提案した。それを受け入れざるを得なかったシンガポールは、マレーシアからの水輸入以外のオプションに取り組み始めた。それが、海水淡水化事業・下水再利用水の製造への投資だった。こういった水資源開発政策によって得られた技術を背景に、シンガポールは水処理技術、水管理技術を世界に向けて輸出する政策を進めている。シンガポールの水企業は国内の水ビジネスで経験を積み、中国や中東、北アフリカにまで海水淡水化などの事業拡大を行ってきているのだ。

 韓国も2000年代に入り水に関わる高度技術の研究開発を政府主導で進め、水ビジネスの規模を倍増させ、世界10位以内の企業を2つ以上育成する方針を打ち出して政策を進めている。

 一方、日本の水道事業は主に公共が担当し、1億2000万人のマーケットに対して3兆2000億円の料金収入で運営されている。これは上水道のみの数字で、下水道の営業収益である約2兆円はこの別枠だ。単純比較はできないが、給水対象人口がほぼ同程度であるフランスのスエズ社の水道事業収入は1兆5000億円であり、日本は民営化されていないことによって約2倍の経費が投入されていると言うこともできる。

 2000年以降のPFI法施行以降、近年では日本でも水道事業の民間開放の事例が出てきつつある。広島県三次市、広島市と埼玉県の下水道処理場の運転・維持管理、福岡県牟田市と熊本県荒尾市の水道事業全般の運営権などだ。ちなみに、三次市以外の4自治体の事業を受託したのはフランスの水メジャー・ヴェオリアだ。

 一方、大阪では橋下市長が水道の民営化の方針を決めているものの、大阪府内のほかの42市町村が運営する大阪広域水道企業団と大阪市の水道局を事業統合する案が市議会の反対で頓挫するなど、水道事業の民営化は進んでいない自治体がほとんどだ。

 東京都水道局や横浜、名古屋といった技術力があり、品質管理面でも優秀で経営基盤も良好な自治体水道が民営化され、その自治体に縛られることなく、日本国内の他自治体の水道経営も自由に受託出来るようにして、彼らを日本水メジャーとして育てて海外進出させるのが一番早道であろう。その結果、株式公開でもできれば、国家財政に貢献することもできる。

 日本の水は世界でも最もおいしい水の一つだ。安全でおいしい水で、かつ利益も高い。国内のすべての水道事業を民間開放すれば、国内企業が大きく育ち、管理・運営能力、技術力を向上させ、水メジャーへと発展することが可能だ。シンガポールや韓国は国策として水産業の育成に取り組んでいる。日本でも、政府が全国の水道事業を民営化する方針を徹底し、日本版水メジャーを育てる意思をもって、経営効率化と規模化を進めるべきだ。

4. 国家戦略として海外マーケット獲得競争に参入せよ!

 海外における上下水道の整備、運営・管理は、今後も大きな需要が見込まれ、2025年には約80兆円規模の市場に成長する見通しだ。特に中国は、急速に拡大する都市の需要に水道事業が追いついておらず、今後益々ニーズは拡大していく。中国には既にフランス企業などが多く参入しているように外国企業が参入することに法規制上の制約はない。

 フランスでは、自国企業に有利な規格の国際標準化を実現するなど、国策として自国の水メジャーの世界の水道事業への参入を後押ししている。既に述べたようにシンガポールや韓国においても、自国の経験を生かしつつ、国策として世界展開を図る動きが加速している。

 日本では、国土交通省、厚生労働省、経済産業省によって上下水道など海外の水インフラプロジェクトに関して、官民による情報の共有・交換を行うための場として「海外水インフラPPP協議会」を設置されている。中東などにおける海水淡水化事業では、日本企業の進出も目立ってきてはいるが、日本企業が海外で得た事業額は極めて小さい(下記経産省調査参照)。

 上下水道事業の民間開放の徹底により国内市場において水メジャーを育成するのと同時平行で、海外での水事業市場を獲得するため、国家としての明確な戦略をたて、日本の得意とする技術を生かして企業間の連携をはかり、トップセールスも大いに活用して海外進出支援を徹底すべきだ。

5. 政府の水政策の司令塔「水循環政策本部」を確実に運営し、政策遂行を!

 日本の水に関する政策は各省庁がバラバラで縦割りになっているという点はよく指摘される。国土交通省は河川、ダム、下水道、厚生労働省は上水道、農水省は農業用水、経産省は工業用水、資源エネルギー庁は水力発電、環境省は水質汚濁の防止などなど、7つの省庁が揺るぎない縦割り行政を構築している。

 2014年に成立した水循環基本法では、首相をトップとする水循環政策本部を設置して水に関する政策を一元的に執行する体制とするとされている。これまで同じような「対策本部」がいくつも内閣官房に作られては、実質は各省庁からの出向の束に過ぎない事例が多くあった。水循環政策本部は、そうではなく、実質的に水政策を推進する体制にして欲しい。

 そのためには、政治、特に首相官邸のリーダーシップが不可欠だ。水政策は国家の安全保障の重要課題であり、世界の水資源獲得競争に日本が勝っていくことは成長戦略にも外交戦略にも適う。ぜひとも確実な一元体制を構築し、本稿で提言したような、「水資源の規制強化」「水資源確保のための地下水利用規制などの法整備」「水道事業の民営化の徹底」「海外マーケットの獲得」といった政策を実現してほしい。

 世界経済フォーラムでも「水」に関する議論は、必ずアジェンダに上がってくる。水が豊富にある日本だと、その議論を共感しながら聞くことはできないが、その重要性を認識する良い場になっている。

 東京都水道局は世界一規模が大きく、かつ、世界一品質管理に優れている水道企業体である。ここが、自治体の枠に縛られているのが大変残念である。そもそも、日本では「水」を金儲けの種にはしないという暗黙の文化がある。この文化を覆さないと、いくら「民営化」しても利益が出ず、長続きはしない。

 世界では、いわゆるウォーターバロンという水会社が、多数の途上国で庶民を苦しめていることを耳にする。日本の良質な水ビジネスを海外に進出させ、相手国の庶民にも喜ばれることができると、日本の外交上でも、世界にとても良い貢献ができると思う。

 水の分野でも、適切な司令塔を持ち、賢い規制の運用を行い、林業の復活、水道局の民営化、海外進出などにより、日本を利し、世界に貢献できる道が多く存在する。水の分野でも、行動が期待される。
 

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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