財政に頼らない民間主導による交通インフラ投資を! 

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初稿執筆日:2014年3月7日
第二稿執筆日:2016年2月17日

 2012年に起きた中央自動車道笹子トンネル事故は記憶に新しい。日本の高速道路事故史上最大の9名の死者を出したこの事故の原因の一つは、設備の老朽化であった。笹子トンネルの開通は昭和52年だが、日本ではもっと昔の昭和30年代、東京オリンピックの頃に整備された首都高速等の道路インフラが多い。

 今後、建設後50年以上経過する施設の割合が非常に高くなっていき、それらのインフラの老朽化がさらに進む。国土交通省の調査によると、日本全国の道路橋で建設後50年以上経過する施設の割合は、2009年で8%であるのが、20年後には53%にまで急増する。

 いわば、日本のインフラが高齢期を迎えるわけで、インフラの更新ニーズはどんどん高まっていくのだ。

 道路は国家にとって基本的な社会インフラであり、そのインフラを維持・更新する必要があることは間違いない。しかし、今後どんどん増大していくインフラ整備・更新を、すべて税金で対応していたのでは、国家の財政破綻がさらに進んでしまう。

 道路に限らず、鉄道や公営バスなどの都市交通に関しても同様だ。税金による補助で成り立たせる社会インフラから、今後は「財政に頼らない交通インフラ」に基本的な考え方を変える必要があろう。

 一方で、維持管理・更新ニーズをとらえて、IT等の先端技術を社会インフラへ組み込んでいくことができれば、極めて合理的だ。先端技術の導入で道路インフラの安全性や効率性を向上させるとともに、新たな市場の創出にもつながる。

 100の行動国土交通編の第3回では、今後の道路・鉄道などの社会インフラの新たな考え方について提案する。

1. 高速道路会社は料金設定権や新規道路・インターチェンジの整備決定権を含めて完全民営化し、上場を目指せ!

先述のように、例えば首都高速は、建設後40年以上の部分が3割、30年以上は5割弱を占めており、損傷が発見されていても補修が追い付かない未補修箇所も、10万件程度あるという。こういった更新や修繕に必要な費用は、東日本、中日本、西日本のNEXCO3社の合計で約10兆円と見積もられている。このインフラ更新は、財政に頼るのではなく、高速道路の完全民営化によって財政負担なく進めるべきだ。

 有料道路については、欧米ではコンセッション方式での民間開放が進んでいる。コンセッション方式とは、施設の所有権を移転せずに、民間事業者に施設の事業運営に関する権利を長期間にわたって付与する方式だ。日本の高速道路も民営化されており、一見、コンセッション方式のようではある。たしかに、道路の保有は「官」である「独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構」、道路事業の運営は「民」の「高速道路会社(NEXCO)」となっている。しかし、実態は、高速道路会社の株主は国であって、官民連携ではなく官官連携だ。このため、民間事業者が経営判断権を持っているわけではなく、料金設定や道路新設、インターチェンジ新設などに関しても、民間事業者に決定権がない。

 そうではなく、道路運営会社を完全民営化し、料金設定権や新規道路の整備・インターチェンジの開設に関しても権限を与え、道路運営・整備を完全に民間開放すべきだ。そうすれば、道路会社は利益を得るために、利用者の満足度を高め、渋滞が発生せず、利用者が増えるような設備投資や料金設定を行うなど、利用者=国民の利益が最も高まる企業行動をとることになる。

 そのためには、現行の道路整備特別措置法が採用している「償還主義」と「(将来における)無料開放の原則(通行料金収入で道路建設費を償還した後は無料開放する原則)」などを法改正によって撤廃すること、国か地方自治体に限定されている道路管理者を民間事業者に開放することなどの制度改正が必要だ。

 2004年の高速道路民営化によって、サービスエリアなどに関しては明らかにユーザーの利便性が向上し、利用者増につながっている。高速道路会社を完全民営化させ、上場を目指すことで、サービスエリアだけではなく、柔軟な価格設定やインターチェンジの改廃など、有料道路全体に民営化の恩恵を行き渡らせることが可能になる。さらに、今後増大する維持更新も財政に頼ることなく進めることができる。政府には有料道路のコンセッション方式による完全民営化を是非とも進めてもらいたい。

2. 財政に頼らないリニア・新幹線ネットワークの構築を!

国鉄は民営化されJR各社となってからだいぶ時間が経った。近年では成田エクスプレスや湘南新宿ラインといった新線の開通やSuicaなどの新技術・新サービスの登用など、私たち利用者の利便性を向上させるサービスが次々に登場している。現在、羽田と東京駅を結ぶ構想もある。これらは、民営化によるメリットであるといえよう。

 JR東日本、JR東海およびJR西日本については、独立行政法人・鉄道建設・運輸施設整備支援機構の保有株式の売却も完了し、完全民営化が実現している。しかしながら、昨今不祥事や事故が続いたJR北海道などは役員人事についても閣議了解が必要なことや、一部の経営に関して同機構からの資金援助を受ける状態が続いており、その他のJR各社は完全な民間企業とは言い難い。 

 日本列島の幹線鉄道ネットワークである新幹線に関しては、1964年に開通した東海道新幹線を皮切りに、山陽新幹線、東北新幹線(東京から盛岡まで)、上越新幹線と整備され、その後、いわゆる「整備新幹線」として、東北新幹線(盛岡・青森間の約180㎞・全開通済み)、九州新幹線鹿児島ルート(福岡・鹿児島間約260㎞・全開通済み)、北海道新幹線(青森・札幌間の約300㎞・函館まで2016年3月に開通予定)、北陸新幹線(東京・大阪間の約600㎞・一部が長野新幹線として先行開通し、2015年には金沢までが開通)、九州新幹線長崎ルート(福岡・長崎間の約120㎞)の整備・開通が進められてきた。この整備新幹線については、国が建設費の2/3、地方自治体が1/3を負担し、JRは受益の範囲を限度とした貸付料を開通後支払うスキームになっている。

 なお、整備新幹線のうち、北陸新幹線の敦賀・大阪間は未着工・未認可だ。国の財政余力が少なくなる中、建設の認可判断には、需要予測、投資回収可能性などを厳密に審査することが必要だろう。

 一方で、今年にも着工が予定されるリニアモーターカー(中央新幹線)は、東京から大阪までの440kmを1時間で結ぶ計画だが、この建設費はJR東海が全額負担する計画になっている。途中駅の建設に関しては地元自治体に負担を求める計画だが、独立採算で総額約10兆円の設備投資が可能とみるのは、それだけの投資効果が見込まれるからだ。

 リニアがすべて100%民間資金で実現することはとても好ましい。一案としては、JR北海道やJR四国等をそれぞれ、JR東日本やJR西日本に吸収合併させ、新幹線の整備も民間資金で100%行うことを検討してはどうであろうか。

 日本の鉄道インフラは民営化されてからも歴史が長い。財政に頼らない完全な独立採算による鉄道インフラの整備・維持を早期に実現すべきだ。

3. ITS・水素ステーションなど次世代自動車インフラを積極的に整備し、新たな市場の創造を!

近年、自動車分野ではイノベーションが起こりつつある。例えば自動運転だ。グーグルは2010年から自動車分野の開発に参入し「自動運転車」の開発を進めている。日産は2020年に自動運転車を発売する予定だが、グーグルは2017年の実用化を目指している。

 自動車運転を制御する人工知能をグーグルに握られて世界のデファクトスタンダードを取られてしまえば、日本産業の稼ぎ頭である自動車産業が、パソコンと同様の単なる箱もの作り産業に成り下がってしまう。

 日本にはロボット技術の蓄積もある。イノベーションの進む次世代自動車分野では先手を打って開発を進めてもらいたい。そのためには、自動車側だけでなく、道路やその他のインフラも含めた「ITS(高度道路交通システム) 」としてのインフラ整備を国家としても世界に先んじて進めるべきだ。

 カーナビやETCに留まらず、最先端のITや制御技術を利用して、車と道路との間で情報受発信を行ってネットワーク化し、交通事故・渋滞の解消、交通ネットワーク管理の最適化等を進めて欲しい。

 また、次世代自動車インフラとしては、水素自動車のための水素ステーションの整備も課題だ。トヨタは、1回の水素注入で650キロメートル走行可能な水素自動車(燃料電池車)を2015年に発売予定だったが、予告した2015年を前倒しして2014年12月に、世界初の量産型燃料電池車「MIRAI(ミライ)」を発売した。このミライの販売価格は723万円だが、国の補助が最大202万円、都道府県の補助が関東圏だと101万円で、実質購入価格は420万円程度となる。予想を超えるオーダーで、今購入しても納車は3年待ちになるという。

 しかし、水素ステーションの普及なくしては、水素自動車の利用普及は難しい。道路インフラの更新ニーズが本格化するタイミングをとらえて、ITSや水素ステーションなど次世代のインフラの整備を積極的に進めるべきだ。それによって、自動車産業の産業競争力の強化、新産業の創出、渋滞の解消や省エネ化などの利便性向上といった社会利益の実現が可能となるはずだ。

4. 路線バスの民営化を徹底せよ!

地域の路線バスは、昭和40年代から輸送人員の減少が長く続き、衰退産業の典型と見られてきた。実際、多くの公営バスが赤字を税金で補填しているのが実態だ。しかし、高齢化と自動車普及の飽和、環境問題の重要性の向上で地方におけるバスの役割は変わってきている。

 実際、株式会社経営共創基盤は、傘下の、みちのりホールディングスを通じて、地方の路線バス会社を次々に買収、再生させている。福島交通、茨城交通、岩手県北バス、関東自動車、会津バスなどを買収し、事業を拡大させているのだ。

 その他にも、埼玉のイーグルバスも、他社路線バスを買収して事業を拡大している。

 これらの事例に共通するのは、経営改革だ。住民へのアンケートの実施によるバス停の位置やダイヤの合理化、GPSやIT活用による路線バス運営の見える化、幹線路線は大型バス・支線は小型バスでつなぐハブ&スポーク方式や住民からのニーズでバスを発着させるデマンドバスの導入など、経営改革次第で衰退産業と見られがちな路線バス産業でも収益を上げ、地域住民の移動権を維持することは可能なのだ。

 したがって、地域の路線バスに関しても、公営バスの民営化の徹底、民間路線バス会社の補助金依存からの脱却を進め、民営化のメリットを日本全国に広く行き渡らせ、高齢化社会における地域住民の移動手段・移動権は、税金投入ではなく、民営化による経営改革で確保すべきだ。

5. 建設・運輸産業の成長はアジア市場にあり。道路・鉄道・都市交通インフラの海外展開を進めよ!

これまで述べてきたように、道路、鉄道、バス・地下鉄などの都市交通といった交通インフラは、民営化を徹底し上場を目指すことが必要だ。また、ITSなど次世代道路システムの積極整備によって、関連のインフラ企業の成長を促すことも合わせて必要となる。

 そうして競争力をつけた日本の建設・運輸産業は、日本国内だけでなく、むしろ海外のインフラ需要を積極的に狙っていくことができる。言うまでもなく、新興国におけるインフラ需要は旺盛で、アジア開発銀行によればアジアだけで10年間で約8兆ドルのインフラ整備ニーズが発生するという。国内市場で実績をあげている欧米企業や韓国、中国企業は積極的に新興国市場への参画を進めている。日本企業もこのマーケットを獲得していくべきだ。

 このため、日本国内においては、増大するインフラ更新ニーズに対して、財政に頼らない形での民間経営によるインフラ更新・整備を道路、鉄道、バス、地下鉄などの分野で進めていき、それによって国内の建設・運輸産業の経営力、技術力、国際競争力を高めることが重要だ。ITSや水素自動車などの次世代インフラでは他国に先駆けて国家として早期に開発・実用化することで、国際標準を取っていく。

 同時に、近年日本でもだいぶ活用されるようになった政治トップによるトップセールスを引き続き協力に進め、TPPも早期に締結することが必要だろう。相手国への技術協力の強化、巨額の海外インフラ整備における民間企業のリスク軽減のためのファンドの整備なども合わせて進めたい。

 日本の交通インフラには、大いなる可能性がある。JRの民営化の成功を基にさらなる再編を進め、NEXCOの上場を視野に入れて欲しい。ITSや水素ステーション、さらにはバス・タクシー等様々な分野でのイノベーションを期待したい。そして、海外にそのイノベーションを輸出する発想を持ってほしい。

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