大学経営改革~学長選挙の廃止、教授会の権限縮小、新陳代謝の促進を! 

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初稿執筆日:2013年12月6日
第二稿執筆日:2015年11月26日


 世界の中での日本の大学の凋落が止まらない。イギリスの「Times Higher Education(THE)」が毎年発表している「世界大学ランキング」の2015年版では、東京大学は43位(昨年23位)と大幅に順位を落とし、26位のシンガポール国立大、42位の北京大にも抜かれ、アジア首位の大学の座から陥落した。昨年59位だった京都大学も88位に大きく後退し、これまで上位200校に入っていた東京工業大学、大阪大学、東北大学は200位以内から姿を消してしまった。

 政府は、「世界大学ランキンクトップ100に10年で10校」という具体的な目標を掲げているが、今は世界中の大学が、グローバル化社会において熾烈な国際競争を行っている時代であり、「100位以内に入ろう」などという甘い目標では太刀打ちできない。

 世界中で、大学が知の創造、新産業の創造拠点として重要性が増している中で、質が高く競争力のある大学を国内に保持することは、国の浮沈に関わるほど重要な国益であるといっても過言ではない。「100位以内に入る」ではなく、日本ならではの分野、それぞれの大学ならではの分野で世界の1位とならなければならない。

 それにはまず、改革を実行できる体制にすることが必要だ。大学のガバナンスを改革し、学長がリーダーシップを取れる体制にする。そして、大学を競争にさらす。当然ながら資金も必要だ。その方策を提言したい。

1. 大学ガバナンス改革 学長・理事会の権限を強化し、学長選挙は廃止、教授会は役割の縮小を!

 日本の大学改革が進まない大きな理由は、大学のガバナンス構造の問題だ。大学のガバナンス改革に関しては以前から政策提言がなされており、国立大学や公立大学は平成16年の大学法人化の際に、学長の権限強化、学長選考会議の導入、教学と経営の分離などの改革が実行されたはずであるが、実態はほとんど変わっていない。

 現状では、大学内における教授会の力が極めて強いため、大学の組織のトップであるはずの学長がリーダーシップを発揮できる状況にはなっていない。

 まず、大学の最高意思決定機関であるはずの理事会は、大学からの議案(人事、予算等)を追認するだけの形骸化した機関となってしまっている。形式上、理事会は学長任命権を有するが、教員による学長選挙で選ばれた人間を追認するだけの場合がほとんどだ。教員の採用や人事に関しても、教授会の決定の追認となっており、実質的に大学経営の重要な権限のほとんどを教授会が掌握する構造になってしまっている。

 さらに、学長・学部長が教員による選挙で選ばれるという構造が、教授会の権限をより強固なものにし、大学の改革を遅らせている。学長は学長選挙によって選ばれるため、大学の経営者としてのスキルをもった経営人材が学長に就くことはまれだ。学長は次の学長選挙でマイナス要因にならないよう、教員の反対する改革には踏み込むことができなくなってしまう。

 一般の企業では社長をトップとした指揮命令系統が明確になっている。大学も企業と同様に組織であり、大学においても、学長をトップとした指揮命令系統を明確にする必要がある。

 日本の大学の競争力強化の第一歩である大学ガバナンス改革のために以下の提言をしたい。
 
(1)「学長の権限強化と理事会の経営・監督機能の強化」。大学の最高意思決定機関である理事会を実質的に機能させ、学長の選定と学長による大学経営の監督を担わせる。このために、弊害の大きい学長選挙を廃止し、理事会に実質的な学長任命権を付与する。その学長に大学における人事・予算権限を付与し、人事・予算に対する教授会の関与は排除する。学長に人事権を与えるため、学部長選挙は廃止する。

 こういった形で学長の権限を強化した上で、優秀な経営人材を外部から積極的に学長に登用するべきだ。また、理事会の経営・監督機能の強化のために、理事会を構成する理事にも企業経営の経験者等外部理事を取り入れるべきだ。

(2)「教授会の役割の縮小と明確化」。そもそも教授会の本来の役割は、大学における教育・研究上の重要事項に関して、学長や学部長が現場を担当する教授たちの意見を聴取する機会を提供することであり、その教授会が大学経営や人事にまで幅広く権限をもってしまっている現状はいびつだ。このため、教授会の役割は縮小させ、大学における人事・予算には権限を持たないことを明確にし、教育・研究に関する諮問機関としての役割に限定すべきだ。

 現状において教授会が大学における事実上の権限を多く保持しているのは、学校教育法93条において「大学には、重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない。」と規定される一方で、学長の選任やその他の重要な大学の意思決定に関しては法律上の明文規定がないことが原因だ。

 したがって、学長選挙の廃止や学長の権限強化、理事会による経営監督、教授会の役割などを法律で明文化すべきであろう。

2. 一般運営費交付金を廃止し、教育バウチャー制を導入することで、大学に競争原理を導入せよ!

 日本の大学をより質の高い教育が提供できる組織とし、国際的な競争力を向上させるためには、大学を競争にさらすことが必要である。そのためには、大学の顧客となる学生サイドからのアプローチが必要だ。そこで、現在、1.5兆円の大学への交付金の9割を占める一般運営交付金を廃止し、その資金をバウチャーとして学生に配布する制度を提案したい。

 広く知られているように、バウチャー制度は、利用目的を限定したクーポンを公的部門から家計に配布する制度だが、これを学校への授業料の支払いに限定した形で配布するのが教育バウチャー制度だ。諸外国では、アメリカやカナダの一部の州、イギリス、オランダ、スウェーデン、ニュージーランド、チリなどで、初等教育を対象として教育バウチャーが導入されている。

 大学などの高等教育に関しては、諸外国でも政府による奨学金や教育ローンといった形を取ることが多く、その寄付部分や利子補給部分がバウチャーの一種と言える。

 この教育バウチャー制度を日本の大学に導入し、大学に競争原理を持ち込むことで、日本の大学の競争力が上がるはずだ。その財源としては、大学への一般運営交付金を充てればよい。大学に税金を投入する代わりに、学生に奨学金を与える発想だ。

 現在、政府は、国立大学に運営費交付金として約1兆5000億円、私立大学に経常費補助金として約3200億円を投じている。この「国立大学法人運営費交付金」のうち9割は、「一般運営費交付金」といって人件費等の固定費にあてられるもので、複雑な計算式によって配分が決まるが、研究によると、ほぼ教員数や大学の規模によってその配布先が固定的に決まっていることか示されている。

 残りの約1割の「特別運営費交付金」等が各大学から申請のあった教育研究事業に基づいて文部科学省が事業を選定して支給する、いわゆる選択的な交付金だがその配分基準も曖昧だ。

 そこで、大学間の競争を促進するために、より質の高い教育を提供することで、多くの顧客=学生を集める経営努力を大学が行うよう、現在、1.5兆円の交付金の9割を占める一般運営交付金を廃止し、それをバウチャー(奨学金)として学生に配布する制度とするわけだ。

 そもそも、日本は、潤沢な運営交付金が国立大学に投入されるために、国立大学の学費が国際的に見て非常に低すぎるという問題がある。このために、低い国立大学の学費に引きずられて、私立大学の経営が圧迫されているのが現状だ。米国の大学の学費は、留学生の場合、州立でも年間100万-200万円、私立では300万-400万円が相場だが、日本の国立大学の場合、学費は文系で年間40万-50万円であり、国際的な相場観から見て極めて低いことが分かる。

 米国の大学には、高額な学費であるにも関わらず、良質な教育を求めて世界中から留学生が集まっている。つまり、学費が高くても教育の質が高ければ学生は集まるのだ。日本の大学も、一般運営交付金という無条件で国から交付される資金が無くなれば、顧客=学生を集めるために経営努力をせざるを得なくなるはずだ。

 つまり、大学は一般運営交付金が廃止されれば、そのままでは人件費等の固定費がまかなえなくなる。現状、国立大学の収入のうち、半分が交付金、半分が授業料と付属病院収入という構造だ。従って、交付金が廃止されれば、大学は授業料を大幅に引き上げることになる。すると、魅力的な授業を提供しなければ顧客=学生は集まってこないため、大学が市場価値を高めるための経営努力が促進されるという仕組みだ。

 一方で学生には、学費の補助として、例えば年間50万円のバウチャーを配布する。日本の大学生の数は300万人弱だから、単純計算で約1.5兆円となる計算だ。財源は一般運営交付金を廃止した予算でまかなえる。配布するバウチャーの金額は、短大、大学、大学院、理系文系等で、政府として伸ばしたい分野に傾斜配分して変えればよいだろう。

 なお、残り1割の特別運営交付金についても、曖昧な配分基準を改めて、国家としての成長戦略に基づいて、大学に求める人材育成機能を選定し、「グローバル化(外国人教員、外国人留学生、 外国語による授業などの比率)」「イノベーション強化(研究成果、産学連携の実績など)」といった戦略的な項目を策定し、その成果に基づいて配分するべきだ。

3. 大学の新陳代謝を促進せよ!

 産業界では、競争に勝ち残った企業だけが生き残り、非効率な企業は撤退するか吸収合併されるのが通常だ。大学も競争にさらされれば、その例外とはならない。日本の大学進学率は55.1%、少子化もあいまって、大学の収容力は91.7%と、志願者全員が大学に入学できる大学全入時代にほぼ達している。大学経営に競争原理を導入して国際的に通用する強い大学をつくる一方で、競争力のない大学の撤退、吸収合併がスムースに進み、大学の新陳代謝が進む仕組みを用意する必要がある。

 実際、この10年で大学の合従連衡は増加傾向にある。2002年の山梨大学への山梨医科大学の統合、筑波大学への図書館情報大学の統合を皮切りに、2003年には9つの地方国立大学の統合、2005年の首都大学東京など4つの公立大学の合併、2007年の大阪大学による大阪外国語大学の統合など、20件の統合・合併が進んでいる。

 私立大学においても、2002年の大阪国際大学による大阪国際女子大学の吸収合併以降、2008年の慶応大学による共立薬科大学の合併、2011年の上智大学による聖母大学の合併など、6件の合併事例がみられる。このうち、共立薬科大学の事例では、学生数減少や病院を持たない薬科大学であること等の経営上の問題から、ブランド大学との経営統合による経営改善を狙って同校から慶應へ合併を打診した事例でもある。また、東北文化学園大学や萩国際大学など、民事再生手続きを適用された大学もある。

 ただでさえ、大学全入時代で大学の経営環境が厳しさを増すわけであり、大学の新陳代謝を進め、不採算部門・大学を撤退させ、大学経営の大規模化を進めて経営合理化をはかるための大学の統合・合併促進は重要だ。限られた人的・物的資源を競争力の高い大学に集中させて国際競争力の強化につなげるのだ。

 大学の統合・合併を促進するには、インセンティブの付与が1つの考え方だろう。平成の市町村合併では、合併した市町村に合併特別交付金が付与された。そういった仕組みも取り入れて、大学の統合・合併を進めるべきであろう。

4. 教員・研究者・職員の給与に年俸制の導入を!

 現在の国立大学の教員の給与は横並びの公務員型である。画一的な給与では優秀な人材が集まりにくいし、内部で競争が生まれてこないのも当然といえる。

 年俸制のもとでは、プロ野球球団と同じで、優秀な人材を集めれば集めるほど人件費総額は高くなる。人件費が高騰しても、大学の市場価値が高まり、学生が多く集まることで結果としてペイすればよい。

 したがって、大学教員・研究者に関しては公務員型の給与体系をやめ、業績評価を給与に反映する年俸制を導入すべきだ。優秀な人材には、外部から獲得する研究資金等からも報酬が得られる混合給与制も導入すべきであろう。

5. 大学基金の積極運用で財務基盤を強化せよ!

 グローバルな競争に日本の大学が打ち勝つためには、資金が必要だ。アメリカの大学では巨額の大学基金が運用されている。その規模は、ハーバードで304億ドル(約3兆円)、イェールで193億ドル(1.9兆円)、スタンフォードやプリンストンで170億ドル(1.7兆円)とアメリカの金融市場の一大プレーヤーとして存在しているほどだ。 

 各大学とも、金融界の第一線で活躍するファンドマネージャーを採用し、新興国株式やプライベートエクイティ、不動産などへの積極投資を行っている。その結果、例えばイェール大学では大学収入の約3分の1が大学基金の運用収益によって賄われている。

 一方で、日本の大学基金は貧弱だ。東京大学の大学基金の総額は279億円であり、慶応大学でも438億円に過ぎない。日本の大学基金については正確な統計はないが、各大学の財務諸表から推計して、運用可能な資産は国立大学で最大1兆1600億円とアメリカの1大学の規模にもおよばず、約600校ある私立大学でも最大9兆円程度にしかならないはずだ。(各大学バランスシートの「流動資産」と「その他固定資産」の合計値の総額より推計。)

 さらに、その運用に関しても、文科省の通達によって、各大学の内規で安全性の高い債券や預金による運用に制限する縛りをかけられているのが現状だ。

 以前の「行動」でも述べたとおり、学校法人グロービス経営大学院は、最大半分までの資金をベンチャー・キャピタルにて運用できることを内規で認めている。日本の各大学においても、基金の拡充を図るとともに、専門性の高い運用担当者を入れて積極的な運用を行い、財務基盤を強固にするべきであろう。

6. 民間が大規模な資金を大学に投資し、回収できる仕組みの構築を!

 日本の大学は、世界で100位以内を目指すのではなく、日本の大学ならではの分野で世界のトップを目指すべきだと冒頭に述べた。それには、莫大な投資が必要であり、大学における基金の運用だけでなく、民間が大学に大規模な資金を「投資」できるようにする仕組みをつくるべきだ。

 世界的にみても、企業の研究開発部門が相対的に縮小傾向であることもあって、研究開発や新産業創造機能としての大学の役割は高まってきている。仕組みさえあれば、民間から大学に資金を投資として投入し、それを将来リターンとして回収することは可能なはずだ。

 現状では、日本の大学は研究開発費の多くを国からの交付金に依存している。このために、税金をもらって、毎年使い切るだけという構造になってしまう。そうではなく、新たな知、新技術、新産業の創造に力点をおいて、大学を「場」として産学が集い、大規模な研究投資ができる体制を整備する。大学は人材を供給し、民間が資金を投資という形で供給することで、大学における研究に民間からもっと大規模に資金を投入することを可能にするメカニズムにするのだ。

 世界での競争に勝ち残るには、そういった資金を活用して古いモデルのままの日本の大学のインフラへも再投資を行い、情報技術を大胆に使った教育や研究など、最先端の環境を整えることが必要だ。

 これらの「行動」は、経済同友会の教育委員会での議論、さらにはBS-TBSで放映されたニッポン未来会議―第9回 学力世界No.1を取り戻せ!ニッポンの教育でも議論されてきた。

 まさに、「ニッポンの未来を決めるのは、あなたたちだ―!」である。

 

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