東京をアジアNo.1の金融市場に!(1) 

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初稿執筆日:2013年8月23日
第二稿執筆日:2015年8月11日

2015年現在、日本には個人の金融資産が1708兆円、企業の内部留保が354兆円あるにも関わらず、、日本の金融・資本市場は国際的な強さを持っていない。その原因は、1500兆円の個人資産、企業の資金、年金基金、大学基金といった資金が、リスクマネーとなって投資に回っていないためだ。

「100の行動」金融編を書き下ろす前にまとめられた、安倍政権の日本再興戦略(2013年6月)では、金融・資本市場の活性化について「アジアの成長も取り込みつつ、証券市場の活性化や資産運用マーケットの強化を図ること等により、アジアNo.1の金融・資本市場の構築を目指す」と触れられたのみであった。しかし、その後、2013年11月に金融・資本市場活性化有識者会合を立ち上げ、同年12月に「金融・資本市場活性化に向けての提言」を取りまとめた。その後も金融市場強化の動きを続け、毎年6月に取りまとめられる日本再興戦略では、「金融・資本市場の活性化、公的・準公的資金の運用等」が戦略の柱の一つとして掲げられている。

しかし、2015年7月に公表された最新の日銀統計においては、家計部門の金融資産は1708兆円と過去最高となった一方で、高い貯蓄性向は継続されており、日本の「現金・預金」比率は相変わらず5割を超えている。さらに、日本企業の保有する現預金も241兆円と過去最高を更新している。政府には引き続き金融市場の強化を成長戦略の柱として進めてほしい。

国内の金融マーケットの強化に向けて、今、改めて東京をアジアNO.1の金融市場にするために取るべき政策を提言する。「もう手遅れだ」という声をよく聞くが、諦めてはいけない。今からでも巻き返すことが十分可能だと思っている。

まず、今回の「行動」において、個人金融資産を含め国内のあらゆる資金をリスクキャピタルに回すための政策について述べ、次回は、制度や仕組みについて提言を行うこととする。

1. 個人金融資産をリスクキャピタルに!

日本には1700兆円の個人金融資産がある。東京をアジアNo.1の金融市場にするためには、なんといってもこの1700兆円をリスクマネーに回すことだ。まずは、なぜ1700兆円が現預金に偏重し、動かずに眠っているのかを分析してみよう。

日本では被相続人(相続を受ける人)の平均年齢が67歳だという。被相続人が配偶者の場合もあるが、その被相続人が子供たちの場合でも、既に定年後の高齢者の方の場合が多い。つまり、マネーが高齢者の間で滞留しているのだ。

金融資産の60%超は、60歳以上が保有しているという統計データがある。1700兆円の個人金融資産のほとんどを、高齢者が保有しているのだ。

高齢者が資産を持つと、消費をせず、投資にも回らず、そのほとんどが銀行預金に偏っていく。銀行に資金が回ると、BIS規制により、リスク資産には多くの資本を積み増す必要があるので、自ずと貸出か、国債への投資に偏重することになる。ただ、最近では貸出が増えていないので、どんどん国債保有の比率が上昇している。

つまり、1500兆円の個人資産は、株式や不動産投資などのリスクキャピタルに向かわずに国債等の投資に向かっているのだ。従い、株式市場のリスクキャピタルの供給元は外国人投資家が占めることになり、市場での存在感が極めて大きいという日本の金融市場の構造が現れる。

このため、小口投資をしやすくするいくつかの政策を通して、この構造転換を実現するのが最初の課題である。

小口の個人投資促進の観点からも、2013年度税制改正においてNISA(小額投資非課税制度)が導入されたことは評価すべきだ。この制度は、英国の「Individual Savings Account(個人貯蓄口座)」制度の日本版ということでNISAと呼ばれているが、新規投資や上場株式から生じる所得への課税が、「NISA」を利用すると、最大500万円まで(毎年100万円×5年)、値上がり益や配当・分配金が非課税となる制度だ。

英国のISAは、1999年から始まり、英国の投信残高全体の18%程度がISA経由の投資となっている。「日本版ISA」の導入期間は来年から10年間とされているが、その恒久化や、非課税対象の拡大などで、少額個人投資家の投資をさらに促進すべきであろう。

2013年度税制改正において導入されたNISAは、政府や産業界の普及促進努力もあり、2015年3月末までの投資総額は4兆4110億円、口座開設数は879万口座まで拡大している。NISAについては、2016年からのジュニアNISAの導入、現行のNISAにおける年間投資上限額120万円への引上げといった制度改正も行われており、高く評価できる。

また国民の意識改革も必要であろう。現状では、銀行に預けることは、結局国債へと資金を回すことになるのだ。安定を求めて銀行に預けると、リスクキャピタルに資金は回らないので、日本経済への貢献は限定的となる。

何気なく銀行に預けるのではなく、意識して不動産を買うなり、公開株式や未公開企業へのエンジェル投資、さらには投資信託やREITに回すなど、経済的な乗数がより高いリスクキャピタルへと資金を回すことが、今求められている。一人ひとりの「行動」が、日本の金融市場の体質改善に寄与するのである。

歴史的に見ていくと、資産家になった人々のほとんどが、金融資産のキャピタルゲインによってであることがわかる。報酬のみで資産家になった人は少ない。得た報酬をいかに運用するかによって、個人資産の増大が決定づけられるし、日本経済への貢献度合いも高くなるのである。面倒臭がらずに、投資への意識を高めたいものだ。

2. 企業の内部留保をリスクキャピタルに!

個人金融資産とともに注目すべきは、企業に眠っている資金だ。内部留保は現在、354兆円まで膨らんでいることが指摘されている。

日本銀行が公表した資金循環統計によると、日本の企業(民間非金融法人)が保有する現金・預金残高は、2015年7月の最新統計で241兆円とさらに拡大しつづけている。これは極めて大きな問題だ。企業が現預金を保有しているにも関わらず、バブル期の財テクの反省からか、ほとんど投資に回らないという現状がある。

この姿勢を変えるために、企業版エンジェル税制を含めて、企業保有金融資産のリスクキャピタル化も積極的に進めるべきであろう。一方、株主側も、企業保有の金融資産のチェックを十分に行うべきであろう。

ちなみにグロービスでは、半分以上の余剰資金は、次の成長を生み出すベンチャー・キャピタルへ投資している。積極的なリスクキャピタルへの資金配分が求められている。

3. 年金基金、大学基金の運用改善を!【一歩前進】

欧米のリスクキャピタルの資金の出元は、よく知られているように年金基金が極めて大きい。一方で、日本には、世界最大の年金運用機関「年金積立金管理運用独立行政法人」(GPIF)があるにも関わらず、ベンチャー投資は行われておらず、ほとんどが国債で運用されている。近年、GPIFの運用に関して、株式への投資比率を増やす動きがあったが、さらに進んで、専門性の高い運用担当者を海外からヘッドハントしてGPIFの運用を担わせ、年金基金をリスクマネーに回すべきだ。

欧米の年金では、資産の最大20~25%を「代替投資」と呼ばれるカテゴリーに回すことが頻繁に行われている。「代替投資」とは、不動産、インフラ投資、プライベート・エクイティ、ヘッジファンド、ベンチャー・キャピタル等のファンドへの投資だ。一方、日本の年金基金によるこの代替投資への投資額は、極めて限定的なのが今の実情である。

同様に日本の大学基金についても、駒沢大学や慶応義塾大学のデリバティブ投資における損失があったことに起因して、文部科学省が「原則元本保証での投資を行うべき」という通達が出された。

その結果、現在は各大学の内規によって安全性の高い債券や預金による運用に制限する縛りをかけられているのが現状だ。例えば東京大学では、総額279億円の大学基金が、国債、地方債、社債、定期預金等によってのみ運用されている。これらの資金に関しても、専門性の高い運用担当者を入れてリスクマネーに回すことは可能だ。

政府が音頭をとってガイドラインを作成し、大学基金をリスクキャピタルに回すべきだ。学校法人グロービス経営大学院は、最大半分までの資金をベンチャー・キャピタルにて運用できることを内規で認めている。この「行動」を書きながら思いついたのだが、可能ならば、コミットメント額が基金の総額を超えない範囲であれば、過半数をリスクキャピタルに振り分けることを義務化すると言う内規に変更することも検討してみたい。まさに「行動」あるのみだ。

年金基金の運用改革については、一定の成果が出始めている。政府はGPIFについて、2014年10月に基本ポートフォリオの見直しを実施するとともに、それに合わせて、ガバナンス会議の設置やコンプライアンス・オフィサーの任命等を行った。さらに2015年4月から始まる新たな中期目標期間の開始にあわせ、GPIFの役員に年金積立金の管理および運用の業務を担当する理事を追加し、民間から専門家を呼び入れた。

加えてGPIF、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合連合会、 日本私立学校振興・共済事業団は共同して、2015年3月に「基本ポートフォリオ」を定めるに当たって参酌すべき積立金の資産構成目標(モデルポートフォリオ)を定めて、10月から適用することを公表している。

以上、金融分野の最初の「行動」では、国内のあらゆる資金をリスクキャピタルに回すための政策について提言した。1700兆円の金融資産、過去最高の241兆円の企業現預金、そして132.7兆円の年金基金、推計10兆円の大学基金といった国内の金融資産を投資に回すことで金融市場が活性化し、日本経済そのものの成長につながっていくのだ。次回は、東京をアジアNo.1の金融市場にするための制度や仕組みについて提言をしたい。

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