能力主義の弊害、メンタルケアの大切さなど|為末大×丸山裕理【ダイバーシティニュース】

為末大さんのニュースピックアップ

1. IOCバッハ会長の「開催に向け我々は犠牲を」発言が炎上

僕も現役時代、細かいニュアンスを伝えきれない英語発言に関して細かい点をつつかれたりするのがとても苦しかった。だから今回の件も訳されたものに対し瞬間的に反応するのでなく、発言の背景を見たうえで判断したい。IOC会長ということで厳しい目があるように思う。「勝利のために‘Sacrifice(犠牲)’を」といった表現は選手もコーチもよく口にする。スポーツ界の強い表現と一般的な方々との感覚の違いが出てしまったのかもしれない。

2. NFLのDK・メトカーフ選手が陸上100mに挑戦して10秒37

今回は予選落ちしてしまったが、初挑戦でこのタイム。体の大きなアメフト選手という意味でもすごいと思う。一部では反感もあったようだけれど、今回のチャレンジには勇気が必要だったと思うし、「挑戦を受け入れてくれて感謝する」といった大会後のコメントも素晴らしかった。

3. 高齢者に心身の活力低下「フレイル(虚弱)」の懸念

コロナ禍で運動の機会とともに周囲とコミュニケーションする機会も減っている。どちらも健康には欠かせないが、前者については高齢者に限らず姿勢の問題に行き着くことが多い。姿勢やポジションを崩すことで転倒しやすくなったり、片方の膝に負担がかかって痛みやすくなったり。だから、まずは立った状態で姿勢を保てるようにすること。そのために大事なのは、お尻と腿の筋肉、それから体幹になる。

4. ワクチン接種の打ち手確保に「医師法」の壁

アメリカにいる友人はコストコでワクチンを接種した。あちらは薬剤師の方も打っている。さまざまな安全を確保したうえで物事を実行するのは日本の素晴らしいところだが、緊急事態でもルールや形式主義に縛られて「えいや」と踏み出せない点は課題だと思う。余ったワクチンを自治体等で打つことについてもメディアが問題視する必要はないのでは?と思う。

5. 誰もがなり得る適応障害 深田恭子さんが休養を発表

日本社会は今まで、単に落ち込んでいる状態も適応障害も「元気がない」でひと括りにしていた。そんななか、重要な配役であればなおさら休みにくいと思える俳優の方が病名を発表して休んだことは、社会的にも意義があると思う。アメリカにいたとき、「俺、ちょっと今‘depression(うつ)’かもしれない」と言って、選手が簡単にカウンセリングへ行くことに驚いたことがある。「まずはカウンセリングをしてみたうえで、うつじゃないと分かればそれはそれでいいじゃん」という考え方をしている。日本でもそうしたメンタルケアがもっと気軽になるといい。

【スペシャルトーク】テーマ:『能力主義が引き起こす社会の「分断」』

現在は会社経営や執筆活動で活躍する為末大さんに、能力主義の弊害や、能力主義が引き起こす社会の分断を乗り越える方法論についてお話を聞いた。

アメリカでは努力による能力主義が正義とされているが、成功に大きな影響をおよぼすのは環境であり、「現在のような格差が開くほど人の能力に差はないのではないか」と、マイケル・サンデルさんは新著『実力も運のうち 能力主義は正義か? 』で説いている。

僕もかつては「最も努力した人間が勝つ」と思っていた。でも、振り返ってみると僕自身はたとえば温かい家庭で自己肯定感を育める環境にいたりした一方、母子家庭でスポーツどころではない選手もいたわけだ。そういう人と0.01秒差の差が出たとして、それが努力の差なのか。そんなわけはない。持って生まれた身体能力も含めてさまざまな要因が影響するなか、最後のエッセンスとして努力がある。

現役最後の3年間で勝てなくなった僕に、「勝てないのは努力が足りないから」という、かつての自分の言葉が返ってきた。もちろん努力の要素もあるけれど、もう少し運の要素も見出すべきではないか。そのうえで惻隠の情というか、「明日は自分が敗者になるかも」との感覚を持つことが、社会の分断を起こさないためにも大切ではないかと思う。

そもそも能力とは何か。本来、人には多様な能力がある。そのなかで、私の場合は左回りのトラックに誰かが10個のハードルを置いたからオリンピックに出れた。それがなければ単に“ガードレールを飛び越えるのがうまい人”ぐらい。それが才能と呼ばれるためには、才能として発揮される条件が揃う必要があるのだと思う。

能力主義を乗り越えるために大事なのは価値観の多様性だと考えている。スポーツ競技が100m走しかないのなら足の速い順になるだけ。でも、1万種目あればもっと多様な軸になって、「結局は合っているか否か」という話になるのではないか。皆が多様なものを好きになっていろいろな軸が出てくれば、誰もが今以上に生きやすくなると思う。

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