なぜ地域にオープンイノベーションが必要なのか?――横浜市の挑戦

横浜市では2019年1月、林文子市長が「イノベーション都市・横浜」を宣言。イノベーションの推進に積極的にチャレンジしています。その背景には何があったのでしょうか。関内駅近くにオープンしたばかりのスタートアップ支援拠点「YOXO BOX(よくぞボックス)」で、横浜市経済局の立石健成長戦略推進部長にお話をうかがいました。(全2回)

関内をベンチャーの集積地に

難波:2019年1月に林市長が「イノベーション都市・横浜」宣言をされました。横浜市はなぜイノベーション推進を打ち出したのですか。

立石:一言でいうと、「このままではいけない」という危機感が発端です。横浜市の人口は2019年の373万人をピークに減少に転じる見込みです。人口が減少すれば経済活動が縮小し、当然ながら持続的な経済成長は見込めません。このため、今後「生産性の向上」と「次世代産業の育成」の2つを両輪として走らせる必要があるのです。

もう1つの懸念材料が、市内の99.6%を占める中小企業の皆さんが立たされている環境です。横浜市内には京浜臨海部を中心に中小製造業が約6000社あります。産業構造が大きく変わっていく中、大企業ならまだしも、中小企業は取り残されかねません。今のうちからオープンイノベーションで業種を超えて連携し、次世代産業を生み出していく必要があると考えました。そこで2018年からの中期4カ年計画の政策の1つに加えたのです。

難波:横浜市といえば、常に新しい風を取り込んでいるイメージですが、そのような大都市でも人口減少や産業構造の転換についての悩みがあるのですね。

立石:横浜市は幕末の開港以来、新しいものを貪欲に取り込みここまで発展してきました。もう一度、進取の精神に立ち返り、新たなムーブメントを起こしたいと考えています。

その拠点となるのが、再開発が着々と進むここ関内です。関内の中心部にある横浜市庁舎が2020年に移転します。跡地には地上30階、地下1階の高層ビルが建設予定で、企業や大学などが入居予定です。また庁舎の一部は保存され、星野リゾートがホテルとして活用することになっています。

このほか、横浜文化体育館敷地は横浜武道館に整備されますし、教育文化センター跡地に関東学院大学の新キャンパスが開校予定です。街が生まれ変わるのと同時に、イノベーションの拠点として新しいものがここからどんどん生まれていく、そんなイメージです。

難波:関内をベンチャーの集積地、かつ知の集積地としていくお考えなのですね。大学があり、古き港湾都市の街並みも残っている点が米国のボストンに似ているなと思ったのですが、どこかモデルとした都市はあるのですか。

立石:ボストンやニューヨーク、シリコンバレーなどいろいろな街を視察する中で、かえって横浜らしさというか、原点に立ち返った感じです。

すでにイノベーションが芽生えている

難波:「イノベーション都市・横浜」宣言をする以前から、様々なことに取り組まれているとか。

立石:2016年に「横浜ライフイノベーションプラットフォーム(LIP. 横浜)」と「IoTオープンイノベーションパートナーズ(I・TOP横浜)」の2つを立ち上げ、750を超える企業や団体が参加し、年間50以上のプロジェクトが誕生しています。

LIP. 横浜は、健康・医療分野のイノベーションを持続的に創出していくことを狙い、産学官金が連携して取り組むためのプラットフォームです。横浜市立大学や理化学研究所などの大学や研究機関などと連携し、さまざまなプロジェクトを生み出すと共に、中小・ベンチャー企業の製品化に向けた支援をしています。

LIP. 横浜発の製品の1つに、身につけたまま立ったり、座ったりできる椅子「archelis(アルケリス)」があります。医師や医療スタッフは手術中、長時間立ち姿勢を続けなければならず、足腰への負担が大きいという課題があります。そこで医工連携・産学連携の強みを活かし開発されたのがこの製品です。市内で金型製作を手掛ける株式会社ニットーが、医師やデザイナーなどの協力を得て、試行錯誤の末に完成させました。

難波:横浜市は製造業と大学をつなぐ役割を果たしているのですね。

立石:はい。もう一方のI・TOP横浜は、IoTビジネスを目指すプレイヤーの連携の場です。新ビジネスの創出や社会課題の解決、中小企業の生産性向上などをテーマとしています。

I・TOP横浜の取り組みの一環として、日産自動車とDeNAは共同開発中の無人運転車両を活用した新しい交通サービス「Easy Ride」を用いた実証実験を実施しています。また、NTTドコモなどと共同で、「AI運行バス」や「未来の家プロジェクト」の実証実験を始めています。

横浜市全域が国家戦略特区なので、検討している事業が規制緩和の対象であると認められれば、他のエリアではできない事業が実施できます。企業と一緒になって規制緩和の提案をさせていただきます。

人と人とがつながる場を提供する

難波:イノベーションとディスラプション、創造と破壊はセットで起きると言われますが、中小企業が次世代産業をつくっていくとしたときに、今ある中小企業が時間をかけて変わっていくのか、それとも新しい企業をどんどんつくっていくのでしょうか。

立石:両方あると思います。そこは行政が決められないでしょう。かつての自治体の政策は「この産業分野が今後成長する」「ここに補助金を出す」といった形が主流でしたが、技術革新のスピードが速く、今は予想もつかない時代となっています。

平成元年の世界時価総額企業ランキングを見ると、トップ10に日本企業が7社入っていました。しかし30年後、ランクインする企業は大きく様変わりしました。平成30年に上位を占めたのはGAFAなどの新興企業で、日本では唯一トヨタ自動車が30位代に入るのみです。

こんなふうに変わることを誰が想像したでしょうか。つまり、これから先の未来も行政がたやすく予測できるはずがありません。我々にできるのは場を提供して、利用してもらうことだと思っています。

難波:そこで試行錯誤してくださいと?

立石:多様な業種の方々を引き合わせる場でしょうか。YOXO BOXのオープンをきっかけに、横浜の街全体で、今まで交流のなかった人たちをどうつなげていくかに注力する必要があると思っています。

行政が今一番、課題を知っている

難波:一般に行政の施策は後手に回りがちと思われていますが、私は地方行政が今一番、現場の課題をよくご存知なのではと思います。

立石:横浜市は基礎自治体なので、市民に非常に近い。そこが横浜の強みの1つだと思っています。東京であれば、東京都と各区役所は別組織ですが、横浜市は区役所の職員も市の職員です。保健所など市民と直で接する窓口を持っているのでニーズがつかみやすく、実証実験もやりやすい。

例えば、市内の郊外部で高齢化が進み、スーパーも撤退して買い物難民が発生しているといった場合、企業から何か手助けになる提案があれば、区長や区役所などにつないで、自動運転など実証実験で何かやりましょうかといったことが素早く実現します。

難波:次世代産業を生み出していかないとまずいという危機感は、中小企業の方たちと共有しているのですか。

立石:もちろん共有しています。ただ、中小企業は月末の給料の支払いをどうするかなど、経営で精いっぱいで余裕がないところが正直あります。そこで例えば金沢区など、できるだけ中小企業の近い場所にも、今後イノベーションの拠点となる場を広げていく必要があると考えています。

(文=荻島央江)

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