メルカリ唐澤俊輔氏「MBAで学んだ組織と自分を大きく変革する方法」 

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MBAの真価は取得した学位ではなく、「社会の創造と変革」を目指した現場での活躍にある――。グロービス経営大学院では、合宿型勉強会「あすか会議」の場で年に1回、卒業生の努力・功績を顕彰するために「グロービス アルムナイ・アワード」を授与している(受賞式の様子はこちら)。2017年、「変革部門」で受賞した元・日本マクドナルド株式会社、現・株式会社メルカリの唐澤俊輔(グロービス経営大学院、2015年卒業)に、MBAの学びをどのように活かしたのか聞いた。(聞き手=橋田真弓子、文=滝啓輔)

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知見録:受賞おめでとうございます。受賞の感想は?

唐澤:ご連絡いただいたとき本当にありがたいなと思った。グロービスの講師の方々に対しても、同窓の仲間たちに対しても感謝の気持ちでいっぱい。今回の受賞の要因は、前職の日本マクドナルドにてターンアラウンドに貢献したこと。マクドナルドの仲間とみんなで一つになって変革を推進してきた。色々な方々から応援いただいて成し遂げられたことなので、やはり感謝の気持ちが一番だった。

「変革」という言葉は自分にとってすごく大事なもの。「創造と変革」はグロービスのキーワードだが、「創造」がスタートアップだとすると、受講生の8割近くは、中・大企業において「変革」を担う存在のはず。だから、卒業生は「変革」した実績をつくっていかないといけないし、それができる学校でなければいけないと思う。

その一環として「グロービス変革クラブ」というクラブを在学中に立ち上げた。卒業生、在校生あわせて1300人以上が参加していて、変革の実践者を外部から招いてお話を聞き、刺激を受けている。そのような「変革の旗」を掲げた人間として、結果を出せたのが嬉しい。

28歳で部長に抜擢も予期せぬ大失敗

知見録:まずはここまでの道のりを振り返ってほしい。

唐澤:社会人になるまで、いわゆる普通の大学生だった。みんなと同じように、サークルに入って、バイトをやって。ただ、今の原点になる出来事があったとすると、大学4年生のとき。仲間5〜6人でベンチャーを創業、「歯メール」というサービスを始めた。自分の歯並びを携帯で写真に撮って写メールすると、次の日、歯医者さんから写真をもとに電話カウンセリングが受けられる。メンバーの就職を機にやめてしまったが、テレビ番組に取り上げられるほど注目され、仕事の面白さを知った。

知見録:新卒ではマクドナルドを選ばれた。

唐澤:この選択は大きかった。まわりの学生が商社や銀行を選ぶ中、正直「なんでマックなの?」とよく不思議がられた。学生からすれば、外食産業にはお店のイメージしかないから、アルバイトがする仕事だと思われていたんだろうなと。

しかも、2005年入社だから、就職を決めた2004年、当時の会社は赤字だった。人事の人からこれから会社を変えていかないといけないと聞き、その一員になりたいと思って入った。毎日、毎日、呪文のように、「会社を変えたい」「会社を変えたい」って唱えながら仕事をしていた記憶がある。

知見録:ずっとマーケティングの部署にいらした。

唐澤:入社後、一貫してマーティング畑で、28歳のとき部長になった。部長職には40代、50代の人間しかいない会社だったので、話をいただいときはとても驚いた。「会社を変えたい」という想いは相変わらず強かった。重要な立場で成果を出したいと思ったが、実は一番大きなプロジェクトで大失敗をしてしまった。

記憶にある方もいるかもしれないが、店舗のカウンターのメニュー表を一時廃止した時期がある。当時、メニュー表を置いているのは世界で日本だけで、なくても注文できる方法を考えようと。テストもうまくいったので全国展開したが、お客様やメディアの反応は予期せぬものだった。メニューをなくすことでお客様を不便にしてでも早くさばきたい、効率主義、儲け主義だという、こちらの意図とは違うメッセージが広まってしまい、会社のブランドイメージに悪影響を与えてしまった。

せっかく部長になって期待もしてもらっているのに、「会社を変える」なんて偉そうなこと掲げても、自分には少しもできていない。そんな焦燥感があった。それで、違う環境で自分を成長させたいと思ったが、マクドナルドにはまだ恩を返し切れてない。辞めたら逃げだからと、グロービスで勉強しようと思ったのが、MBAに通ったタイミングだ。

能力開発・ネットワーク・志

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知見録:そして、2013年にグロービス経営大学院に入学。

唐澤:もともと、2008年にグロービス・マネジメント・スクールで「クリティカル・シンキング」を受講していた。そのときの学びで5年間ぐらい自分が成長し続けられた感覚があり、実際に成果が上げられた手応えもあったので、印象に残っていた。だから、自分を成長させたいと思ったときに浮かんだのがグロービス。迷いはなかった。

当時の自分は「会社を変えたい」というわりに、どの方向を目指して変えていくかビジョンがなかった。結果を出したい、でも失敗はできない。そんな自分でつくったプレッシャーに苦しみ、ある種、上の人の顔色を見て仕事をしていたと思う。本当に自分がやりたかったことは、これだったのか。そんな迷いを払拭したい一心で、「志」を重視するグロービスを選んだ側面もある。

知見録:グロービスではどんな学びがあった?

唐澤:教育理念にある「能力開発」「ネットワーク」「志」、それらすべての面で恩恵を受けた。

「能力開発」で言えば、経営の枠組みを全部学んだのが大きい。グロービスを卒業した年、2015年の1月から日本マクドナルドの社長室長になった。前年の赤字からの黒字化を目指して着任した初日に食の安心安全に関わる問題報道が起こり波瀾の幕開けとなった。そうした逆境の中、社長室長として、財務、マーケティング、人事などの各部門の意思決定者と議論し、調整や交通整理も行う。組織の「ハブ」として動くのに、経営について一通り学んでいたのがよかった。

次に「ネットワーク」。社長室長になった1月は自分の誕生月だったが、クライシス対応でそれどころではなかった。そんな中で誕生日を迎えたその瞬間、Facebookの秘密のグループに呼ばれた。そこには100人ぐらいのグロービスの仲間がいて、みんながマクドナルドのハンバーガーを食べている写真など、応援のメッセージをアップしてくれていた。マクドナルドに対する世間の風当たりが一番強いときの話だ。もう、ボロボロ泣いた。そういう仲間を見つけられたことが大きな財産だし、そのおかげで頑張れた。

最後は「志」。自分はグロービスを卒業するとき、業績の苦しい会社を立て直して渡り歩くようなプロ経営者になりたいと心に決めた。だからこそ、10年間働いたマクドナルドを立て直せなかったら、絶対ほかの会社の立て直しなどできないと思って、全力で取り組めた。結局、2015年は赤字を出し切り、2016年1月からマーケティングに部長として戻り黒字化を達成。「能力開発」「ネットワーク」「志」、本当によくできているなぁと。

強みに立ち返ったポケモンGOとのコラボ

知見録:ポケモンGOとのコラボの経緯について教えてほしい。

唐澤:ポケモンGOと独占ローンチパートナーシップとなりポケモンGOがリリースされたのが2016年の7月。その年の3月から議論を始めて、5月に意思決定した。まだ世の中に認知されていないタイミングで意思決定できたのも、いま思えばグロービスの影響があった。

あすか会議などのカンファレンスで登壇者されるリーダーの方々が、率先してチャレンジしている姿が印象的だった。リスクあるところにしかリターンはないと、みな口々におっしゃっていた。もしポケモンGOが流行らなかったらというのは大きなリスク。しかし、ポケモンというブランドと新しい技術の組み合わせに可能性を感じていた。自分自身が会社を大きく方向転換したいと思っていたタイミングなので、迷わずリスクを取った。

知見録:会社をどのように変えたかったのか?

唐澤:マーケティングに戻って、一貫して「強みに立ち返ろう」と言ってきた。これもグロービスで学んだことだ。人間、状況がよくないときは弱みに目が行く。ここがよくないから直さなきゃと一生懸命改善しようとするが、それでは変革は起こせない。

マクドナルドの強みは、やはり「元気で楽しく」いること。食の安心・安全を揺るがすようなことが続き、「真面目」ムードが続いたが、いつまでもそれを引きずっていてもいけない。だから、元気で、楽しく、やんちゃなことをやろうと。そのわかりやすい例がポケモンGOとのコラボだ。もし失敗しても、「失敗しちゃったね、でも次行こうぜ」と言える、そんな失敗を肯定してあげられるカルチャーもつくりたかった。

知見録:プロジェクトの進め方で工夫したことは。

唐澤:あえて大きなプロジェクトチームをつくらなかった。通常だったら、関連する部署の人を集めてチームをつくるが、どうしてもみんなが「できない理由」を言いがちで、新しいチャレンジがしづらくなる。たとえば財務の人間は収益性についてシビアに見るだろうし、オペレーションの人間は現場の混乱を心配するだろう。だから、自分主導で、CMOやCEOに直接提案して実施を決めた。こうしたイノベーションを起こす上での要諦や心構えも、あすか会議や変革クラブの登壇者の方々から学んだことだ。

知見録:なぜ退職したのか?

唐澤:ポケモンGOのプロジェクトもやりきり、2016年に黒字化も果たせた。あと、自分がすべきことは人材育成だけだと感じていた。自分の下のマネージャーを後継者へと育てることが2017年の目標だったが、そのめどもつき、2017年の過去最高益も見えた。すると、人の育成よりも、自分自身をまた成長させたいという思いが強くなった。慣れ親しんだ環境から飛び出て修行したいと、会社にわがままを言わせてもらって退職した。

メルカリで起きている「成長痛」

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知見録:新天地にメルカリを選んだきっかけは。

唐澤:グロービス時代の同窓から「どうしても会わせたい人がいる」と連絡が来た。それがメルカリ社長の小泉文明だった。小泉から会社のビジョンや展望を聞いて、本当に可能性のある会社だなと思ったし、社長室をつくるから一緒にやろうと誘われ、小泉と一緒にチャレンジしてみたいなと。

メルカリを選んだのは、マクドナルドと真逆の世界だという環境も大きかった。リアルのお店があるビジネスから、オンラインのビジネス。外資系から日本の会社。大企業からスタートアップ。自分を真逆のほうに振って、色々なことをもう一度、イチから修行したかった。それが最も自分の成長の幅を広げると思った。

知見録:メルカリに入社し、これまでどんな仕事を。

唐澤:入社後、自身のミッションを定めるため、最初の1カ月はマネージャー以上の約50人全員と1on1ミーティングをして、経営課題と思われることを自分なりにまとめ、経営陣に提案した。なら、自分でそれをやってほしいと。やりたいと提案したことが自分の仕事になりうるというのは素晴らしい会社だなと。それからは、社長室として、経営会議での意思決定をその背景含め現場に伝えたり、逆に現場の課題を吸い上げて経営陣にも共有したりという、組織の「ハブ」としての機能を担わせてもらってきた。

この4月からは、執行役員 VP of People & Cultureという立場になったので、人事・総務・労務といったいわゆるヒト系の領域と、コーポレート全体をサポートするコーポレートエンジニアリングチームに責任を持たせてもらっている。また、社長室長も兼務し、引き続き経営陣のサポートも行っている。

知見録:マクドナルドのときとは何が異なるか?

唐澤:ビジネスのフェーズがまったく違うので、抱えている課題の性質が全く違う。マクドナルドのときはターンアラウンドのフェーズ。今ある強みを残しながら変えるべきところは変えていく。一方、メルカリは成長ど真ん中にあるフェーズ。規模がどんどん大きくなり、社員も増えている分、育成が追いついてないとか、経営陣の声が届きにくくなっているとか、「成長に伴う成長痛」のような課題があり、これからやることが沢山ある。

メルカリ流の大胆な人事制度

知見録:やはり人事に関しての課題が多いのか?

唐澤:会社は人が中心だからこそ、やはり人に関する課題は常に出てくる。今年ちょうど新しい人事制度を人事のメンバー中心にリリースしたところで、全て内製でイチから議論して設計した。幸い、社内には優秀なエンジニアばかりなので、人事評価システムや人事DBなどを短期間で全て内製で構築した。

メルカリは、「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be Professional(プロフェッショナルであれ)」の3つのバリューを大切にしている。それを踏まえて、人事制度もつくった。社員の評価はいわゆる「OKR(目標と主な結果)」と、この3つのバリューにそって行動をしているかを基準としている。

そもそも、この人事制度自体も「Go Bold」な仕組みを取り入れていて、それが「絶対評価」だ。昇給幅の原資を決めないことにしたので、理論的には無制限に昇給できる。限られた原資の中で相対評価をしてしまうと、仮にみんなを昇給させたくても、誰かの昇給幅を上げたら、誰かの昇給幅を下げたりするような調整が必要になる。それでは正しい評価とは言えない。現在のその人の評価に対し、適切に報酬を提示するべきだと考えている。

知見録:マネジメントをする側は大変そうだ。

唐澤:公正な評価をするためには、組織として全体で目線を揃える必要がある。評価が各マネージャーの好みに左右されてはならない。だから、部門ごとのマネージャー陣と、その上の役員とが集まって、その役員のグループに所属する社員全員の評価が妥当かどうか検討する「キャリブレーション会議」というものを実施している。丸二日間かけて実施するグループもあり負荷はかかるが、人材は何よりも重要なので、必要なコストだと認識している。最終的には、全従業員の評価を経営陣とレビューして合意している。

目指すは世界でベンチマークされる会社

知見録:メルカリが今後目指す先は?

唐澤:Googleとか、Facebookのように、みんなにベンチマークされる企業になりたい。たとえば、Googleが人事制度を変えたら、真似をする会社が多い。それだけ注目されている。メルカリも、みんなにメルカリみたいな会社になりたいと言ってもらえるような会社にしていきたい。

知見録:自身は、メルカリの中でどういう役割を担いたい?

唐澤:メルカリをグローバルで闘える日本のトップ企業にしたい。それに貢献できることであれば、なんでもやろうと思っている。そのためには人。これはメルカリに限ったことではないけれど、会社・組織というものは間違いなく人がつくっている。だから人が何よりも大事で。自分は、一人ひとりがイキイキと主体的に働き、自ら成長し続ける組織を創りたいと思っている。個人の成長が組織の成長となり、会社を成長させるので、働く一人ひとりがやりがいを持って成長し続けていることは何よりも重要。

今は、人事まわりの組織を担当しているので、メルカリにマッチした人材の採用を更に加速させつつも、人事制度や人事システムという基盤を元に、人材育成を強化し、人がもっともっと成長できる会社にしていきたいと思っている。

加えて重要なのは、カルチャー。メルカリは、性善説で組織を創ると決めていて。ルールなんてなくても、皆が自分で考えて自分で決めたことなら、その意思決定はきっと正しいものだと信じている。経営陣がメンバーを信じるから、メンバーも経営陣を信じる。こういうサイクルが回っている会社は本当に強いと思うし、メルカリならそれが可能だと思う。そんな素晴らしいメンバーと毎日一緒に働けることが楽しくて仕方がない。

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グロービス アルムナイ・アワード2017 「変革部門」受賞理由

唐澤俊輔氏は、大学卒業後、日本マクドナルド株式会社に入社。マーケティング本部や社長室などマクドナルドの中枢にて活躍。2015年、業績不振により同社が過去最大の赤字を計上する中、社長室長として社長の右腕となり、経営者と現場の間に入り、クライシスの対応、ターンアラウンドのプランニング、組織風土改革といった、全社の変革を推進。2016年からはマーケティング部長として、顧客の信頼と売上の回復に邁進し、魅力的な新商品キャンペーンやポケモンGOとのコラボレーションなどヒット企画を次々と提案、実行してきた。同社は2016年以降、既存店売上高で前年比二桁増を17ヶ月連続で記録。2016年度には3年ぶりの黒字化も実現。志を持ち、プロフェッショナルとして活動する姿は高い評価を得ている。(※アルムナイ・アワード受賞後、唐澤氏は株式会社メルカリへ転職)

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