変革の難所:自分はどうやって動けばいいの? 

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前回前々回と2回にわたって紹介した企業変革の難所「なぜ自分自身が変わる必要があるのか?」を克服すると、今度は「自分はどう動いたらいいのかわからない」という壁が待ち構えている。この壁を乗り越えるために有効な「社会的証明」について今回は考えてみたい。

ある教育サービス会社の場合

子供への対面での教育サービスを得意としてきた某社の企画部長D氏は、AI(人工知能)をはじめとするテクノロジーの進化によって、業界が大きく変わりつつあることに危機感を持っていた。しかし、自社の対面による人を介した教育ノウハウという強みを活かした新たな価値提供のあり方のイメージは、まだ持っていなかった。ましてや経営層はテクノロジーに疎いため、漠然とした脅威は感じているものの、どのように業界が変化していくのか議論しようとする意識すら低かった。

さて、このような状況下で、もしみなさんが企画部長D氏の立場ならどうするだろうか?

企業変革の難所4:自分はどう動いたらいいのか?

自分から変わる必要性も理解し、かつ自分から進んで行動したいと思ってもさらなる壁が立ちはだかる。それは、自分がどう行動したらよいかがわからない、という壁だ。

ここで威力を発揮するカチッサーのひとつが、「社会的証明」である。これは、人は他人の行動を指針とする傾向が強いという心理だ。

たとえば、一昔前にあった、単なるハード売りから顧客の課題解決を行うソリューション営業への転換を例に考えてみよう。それが具体的にどのようなプロセスを経てどのような付加価値が創造されるのか、多くの企業経営者もそこで働くメンバーもイメージがわかなかったはずだ。

そんなときに一番良いのは、会社内で新たな価値提供の営業の仕方で成果をあげた実例を共有することだ。それが組織内における説得力あるロールモデルとなり、みながそれを真似ようとする。これが社会的証明だ。

企業変革に必要な8つのプロセスを整理したコッターは、著書『ジョン・コッターの企業変革ノート』で早期の成功事例の必要性を説いているが、これはまさに社会的証明の有効性をいったものだ。

変革を推進していくために、小さくてもよいので早く成果を共有することが大事なのは、社会的証明を早く行わないと、ネガティブな情報の方が流通しやすく、「やはり変革は無理だ」と組織内に変革に対するあきらめムードが蔓延してしまいがちになるからだ(*1)。

類似性が「社会的証明」の効果を高める

「社会的証明」には以下の2つのパターンがある(*2)。

・まだ組織内の規範になっていないものを広めるには、新たな規範に適った成功事例(効果)を共有すること
・すでに規範になっているものをさらに強化するには、規範に反した失敗事例(悪影響)を共有すること

変革の文脈では前者が有効だろう。さらに「社会的証明」がより効く要因として、「自分に似ている(類似性ある)人がやっていることのほうがよりやりたく(真似したく)なる」ことが実証されている(*3)。

たとえば、組織の理念に共感できている人材が多い場合には、会社の理念を体現できている人材による新たな成功事例は、そうでない人材によるケースよりも組織へのプラスの波及効果が期待できるといえる。

他社の真似=横並び≠優位性構築のジレンマをいかに乗り越えるか

日本企業は自業界の他のプレイヤーの動きを真似る傾向があるとよく言われてきた。特に業界のリーダー企業の先進事例をベンチマークしてそれに追随するという動きだ。たとえば、バブル崩壊後、グロービスが市場を創造した経営者教育もそうだった。市場萌芽期は、経営者教育のやり方もわからないし、経営者向けの教育ゆえリスクをとりなくない。こんな心理が多くの企業に働く。しかし、業界をリードする企業がパイオニア的にチャレンジすると、全く似たようなデザインを他企業も次々と導入するようになる。これも組織レベルで「社会的証明」の原理が働いていると説明することができる例だ。

しかし、競争に勝つための優位性構築という観点からは、他社がやっていることの単なる追従では駄目だ。まず一歩踏み出すヒントにはなっても、それを自社の固有の文脈のなかで効果的なものにしていくには、PDCAを重ねて磨き上げていくしかない。「社会的証明」にはこうしたジレンマも内包しているということだ。

 

さて、冒頭のケースのC氏は、AIを活用した海外の先進事例とその自社ビジネスへの意味合い(応用の可能性や潜在的脅威)について、若手社員を公募で募り経営に提案させることを決めた。若手であれば、今起こっているテクノロジーの進化を脅威よりもチャンスや可能性としてとらえ、より革新的な発想と提案が期待できるのではないかと考えたからだ。

 

(*1)●Baumeister, R. F., Bratslavsky, E., Finkenauer, C., & Vohs, K. D. (2001). “Bad is stronger than good.” Review of General Psychology, 5(4), 323-370. doi: 10.1037//1089-2680.5.4.323
●Clen, Z., & Lurie, N.(2013). “Temporal contiguity and negativity bias in the impact of online word-of-mouth. “ Journal of Marketing Research, 50(4),463-476.

(*2)●Blanton, H., Stuart, A. E., & Van den Eijnden, R. J. J. M. (2001). “An introduction to deviance-regulation theory: The effect of behavioral norms on message framing.” Personality and Social Psychology Bulletin, 27(7), 848-858. Doi:10.1177/014616720127707
●Blanton, H., Van den Eijnden, R. J. J. M., Buunk, B. P., Gibbons, F. X., Gerrard, M., & Bakker, A. (2001). “Accentuate the negative: Social images in the prediction and promotion of condom use.” Journal of Applied Social Psychology, 31(2), 274-295. doi:10.1111/j.1559-1816.2001.tb00197.x

(*3)●Levine. M., Prosser, A., & Evans, D. (2005). “Identity and emergency intervention: How social group membership and inclusiveness of group boundaries shape helping behavior.” Personality and Social Psychology Bulletin, 31(4), 443-453
●アダム・グラント「GIVE & TAKE1「与える人」こそ成功する時代」三笠書房2014

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